響く様な甲高い音が、白く凍り付いた風景の中に木霊する。
一面の雪景色。ダイヤモンドダストが辺りを漂う幻想的な眺めの中で、クラウドは一人、薪用の木を切り出していた。
氷点下まで下がった冷気が肌の表面積を縮ませ、大きく息を吸えば咽や肺の辺りまで凍り付く様。
時折、腕の動きと共に僅かにずれたマフラーを顔の半分まで引き上げつつ、クラウドはただひたすらに単調な作業を続ける。滲んだ汗がアクリルのセーターを濡らし、気持ちが悪い。
定期的な木を打つ音の中、その音は異質に響いた。
突如として背後から発生した、柔らかな雪を踏みしめる軽快な足音。
見渡す限りの雪原で、3歩分しか聞こえなかった、それ。
「クラウド」
たった今、そこに現れた姿にクラウドはゆっくりと振り返った。
風景を黒く切り取った様な、その見慣れた姿。疑いの欠片もなく、微笑んだ表情。人懐っこい笑い声として発生した白い息が、ゆっくりと拡散していく。
ザックス・フェア。
随分昔に失った人。
無防備に近づいてこようとする彼に、クラウドは斧を構えた。
表情一つ動かさずにそんな行動を取ったクラウドに、ザックスは困惑した表情を浮かべて足を止めた。
「な、なんだよ」
クラウドがふざけているとでも思ったのか……いや、そう思いたいのか、ザックスの声は中途半端に軽い。
しばらく沈黙した後、クラウドは諦めた様に構えを解き、切り終わった直後の切り株に腰掛けた。
「またお前か」
分厚い防水の手袋を脱ぎ、クラウドは疲れた様に目頭の辺りを擦った。
「またってなんだよ」
困惑した様にザックスが尋ねる。近くの木に寄りかかった彼は、腕を組んで真面目に訝しげな表情でクラウドを見た。しかし、ザックスが取るこんなポーズはあくまでポーズであり、本当に深刻に考えている時にはしないことをクラウドは知っていた。
「お前で五人目」
「なにが」
「ジェノバの劣悪コピー。酷い出来だな」
真意を測る様に目を細めたザックスを、クラウドは表情を読ませない瞳で見上げる。
「さて問題。ここはどこでしょう」
「どこって……」
ザックスは左右にちらりと目を配ってから、へらっと笑って答えた。
「俺とお前の部屋に決まってんだろ、クラウド」
そう答えるザックスは、実際によく着ていた濃い色のタンクトップにジャージのズボン。雪に隠れて見えないが、きっと足下は裸足だろう。
あまりにも不自然。
ザックスの答えに、クラウドは珍しく声を上げて笑った。悲しみや諦めなどのマイナス要素を含んだ物ではない、ただ純粋に面白いから上がった笑い声。
憮然と、何だよ、何で笑うんだよ、と突っかかるザックスを無視して、笑い転げること数分。
相手に不審を抱かせる様な出現の仕方。
時間と場所の不把握。
不自然な格好。
不完全な記憶。
それらを指摘して行くにつれて、ザックスの顔色は面白い様に青くなった。
本当に認識していなかったらしく、急に寒い寒いと騒ぎ出すザックスをクラウドは覚めた目で見つめる。
「本当にダメダメコピーだな」
「そう言うなよ。俺の所為じゃないって」
ザックスは少しでも寒さを和らげようとしているのか、切り株の上で足を踏みならす。
「ま、いいか。劣悪コピーは俺もだし」
そう呟くと、クラウドは立ち上がり、荷物をまとめだした。荷物を背負い、切り出した木の根本を抱えると歩き出す。
その身長の何倍もある木を軽々と引きずる姿を、ザックスは目を丸くして見ていた。
「お前、よく見りゃでかくなったな」
「手伝えよ」
歩き出した彼の後ろ姿を戸惑いながら見ていたザックスに声を掛けると、振り返りもせずに足を進める。
アイシクルロッジから大空洞への道の途中にある、小さな山小屋。
手直しして使っているというその小屋は古いながらもしっかりした作りで、クラウドが作ったといういくつかの歪な家具とともに暖かな雰囲気を作っていた。
クラウドの私物といえる物は殆どなく、定期的に買い出しに行くらしい食料と、数冊の本。
一体何をして暮らしているんだと思う様な家だが、クラウドはそんなに暇をもてあますこともないらしい。
「3番目のコピーはさ、俺が後ろ向いただけでモンスター化してさ」
まるで世間話の様に淡々と話すクラウドに、ザックスは苦笑した。
どうやら自分の存在が不自然な物であるということは既に割り切ったらしく、クラウドの服を借りて人心地付いたザックスは手慣れた様に簡易コンロでコーヒーなど用意している。
「なあ、あんた何でここに来たんだ?」
コトリとコーヒーカップを置き、クラウドは何でも無いことの一つの様に尋ねた。
「何でって……」
少し考える様子を見せた物の、ザックスはすぐに『思い出す』ことを諦めたらしい。
「知らねぇよ。気が付いたらここにいた。多分、いつも通り部屋に帰ったつもりだったんじゃねーかな」
色々な事を聞いてみた結果、ザックスの記憶は不安定に途切れていた。例えば命を落とす原因となったニブルヘイムの事件は知らなかったし、日常の細々とした記憶も抜けている事があった。
「俺の予想では、リユニオンしに来たんじゃないかと思うけど。何か思ったり感じたりしないのか?」
ジェノバ本体を倒したため、元のジェノバの細胞はほとんど死滅してしまったのだろう。今残っているのは奇跡的に違う場所にいた僅かな残りだけ。核といえる組織が無く、逆に言えば全ての細胞が核になることが出来るジェノバにすれば不幸なことだと言えるのではないか。中途半端に残された能力で、僅かな細胞達は半永久的な時を苦しまねばならない。
だが、それもそろそろ尽きてきたらしい。感じられる気配と照合して予測すると、擬態したジェノバが来るのもこれで最後。さすがに何千年ものうちに力は弱まり、死滅の時が近づいている様だ。
つまり、最後のチャンスに賭けたのではないかとクラウドは踏んでいた。
だが。
「りゆにおん?なんだそれ」
それすら知らないのかとクラウドは溜息をついた。が、確かに目の前のザックスには闘争本能というか、殺気も何も感じない。ただ、そこに現れた、それだけ。
「あんたにジェノバの事聞いても、分かんないよな」
「じぇのば?」
再び溜息をついたクラウドに、ザックスは「ごめーんねー」とおどけてみせる。
それからクラウドは今までの経過を他人事の様に話し、ザックスは他人事の様に聞いた。過去に起こってしまったことは今更どうこう言っても仕方のないことだし、口を出すべき事でもない。
セフィロスの事。
神羅の事。
メテオの事。
まるで映画や小説の中の様な出来事の様に、淡々と紡がれる言葉。
ジェノバ。セフィロスを狂わせ、自分が命を落とすこととなった一連の事件。それを聞いても記憶がないザックスには実感も何もない。
話し終わった後、クラウドは疲れたと言って暖炉の前のカーペットに横たわり、ザックスが構っても動こうとしなかった。
雪が降り出したらしい。
ザックスは窓辺に張り付いて、紺色の空から浮かび上がる様に降る雪を眺めている。
山小屋からは高くそびえた山々や大空洞の入り口、そして麓まで続く急な斜面まで一望できる。まるで大海に浮かんだ小さな小舟の様な小屋は広大な風景に比べてあまりにも頼りなく、今にも白に掻き消されてしまいそうだ。
雪を見るのにも飽きたのか、小屋の中を行ったり来たりしていたザックスが大慌てで戻って来たのに気が付き、クラウドは緩慢に視線を上げた。
ザックスの手には見慣れたバスターソードが握られている。
「なあ、これ、何でお前が持ってる訳?」
クラウドは再び目を瞑り、その言葉を無視する。それに気が付いているのだろうが、ザックスは言葉を続けた。
「ありがとな、これ使っててくれたんだろ?」
クラウドの近くに忠犬の様にしゃがみ込み、ニコニコと嬉しそうにバスターソードをいじっている。そんな、自分の感情に忠実に動くところも変わっていない。
小さな音をたてて燃えていた薪が崩れた。クラウドは手を伸ばし、新しい薪を火掻き棒で器用に積み上げた。炎がゆっくりと新しい木を舐め、端から赤い光で浸食していく。
光を受けた指先が立体的なシルエットを描き、既視感をおこす。
しばらく静かにそれを見ていたクラウドだったが、思い出した様にぽつりと呟いた。
「俺はさ」
火掻き棒を置くと、クラウドは暖炉の前に胡座を描いた。
「ジェノバに聞きたいことがあったんだ」
ザックスもその隣に座り込み、静かにクラウドの言葉を待つ。
「俺が聞いたジェノバの話は、セトラから聞いた話だから一方的なものだろ。普通、争いが起こった時は両方、それなりの理由があると思うんだ。別に、セトラ側の意見を疑うつもりじゃないけど、ここまで関わったんなら真相が知りたいなって。ジェノバはこの星のエネルギーを奪おうとして、セトラはそれを命をかけて止めたらしいけど、生き物が食べるために他の生き物を殺すのは自然の摂理だろ。ジェノバからしたら、生きるために仕方なかったんじゃないかな、多分」
ザックスも茶化すことなく、静かに聞き入っている。
「今更聞いたところで、どうなる物でもないんだけど。故郷に帰ることも出来ず、星に帰ることも出来ず、宇宙の小さい星の一つに縛られて、異端扱いされて虐げられて、大昔から孤独に眠ってたなんて……なんか、な」
そういって立てた膝の間に顔を埋めてしまったクラウド。
暖炉の火が彼の輪郭を頼りなげに揺らす。
「そっか」
それだけ言うと、ザックスは軽くクラウドの肩を叩いた。
雪に濡れて勢いをなくし、肩に垂れた黒髪が薪と同じ色を映している。
「そういや、お前ずっとここでジェノバが来るの待ってたのか?」
「ああ」
「何で」
「俺が最後なんだ、ジェノバ細胞持ってるヤツ。ジェノバの巣ってのかな……細胞が集まってたのがさ、大空洞だったから。リユニオンのために俺の所に来るだろう事は分かってたし、遠路はるばる来て貰うの待ってなくても、近くで待機してればいいだろ?」
「あのなあ……」
ザックスは呆れた声を上げる。
「お前、もーちっと自分のために生きろよ。んな効率だの何だの考えてさ、こんな所で一人寂しくいることないだろ?もっとこう……人生楽しめ!楽しんだ者勝ちなんだぞ?!」
一人拳を振り上げるザックスを表情の読めない目で眺め、クラウドぽつりと訊いた。
「俺さ、何歳に見える?」
「何だよ、いきなり。……さっきの話から考えると、20歳位に見えるけど25歳位か?」
「あれさ、実はかなり昔の話なんだよな。もう、数百年。ジェノバ細胞の力で、俺も歳とらなくなったみたいなんだ」
「不老不死ってヤツ?」
「いや、多分怪我で死ぬことはあると思う。不老だけだろうな」
「へぇー。便利だな」
無邪気なザックスの意見にやや目を細めて、それから吐き出す様に呟かれた言葉。
「俺はもう、思う存分自分のために生きた。もう知ってる人は誰もいない。……ジェノバが最後といえば最後だ」
そういって疲れた様に肩を落とすクラウドの頭を、ザックスは無言でがしがしと撫でた。
気を取り直す様にザックスは伸びをすると、手を伸ばして戸棚からクッキーを持ち出す。
疲れてる時は甘い物だ、これでも食いたまえ、と差し出されたそれを、元々俺のだろ、とクラウドは引ったくる様に取って抱え込んでしまった。
「そうだ、何であんたなんだよ。擬態するにしても、エアリスとかセフィロスだったらもっと詳しく知ってただろ?ジェノバのことも、セトラのことも。もしかしたら全部分かったかも知れないのにさ」
思い出した様に顔を上げ、不満げにクラウドは睨み付けた。
セトラの末裔であったエアリス、ライフストリームからあらゆる知識を取り入れたセフィロス。完全ではなくても、何か新しい情報が貰えた可能性はあった。
「いや、俺に聞かれても知らねえし。ってか、なになに、さっきの話にも出てきたけど、エアリスって彼女―?進化したなー、お前」
「バカかあんた。進化じゃなくて進歩だろ。変身するのかよ。しかもエアリスのこと覚えてないし」
「え、俺も知ってる娘?」
必死に思い出そうと眉をしかめるザックスに、クラウドは吹き出した。
「変わってないな、あんた」
「そうそう変われるもんじゃないだろ。人格ってのは一回形成されると……」
「いや、無理に難しいこと言わなくていいよ」
そうやって止めると、ザックスは大げさに肩を落とす。
「それにしても、五回連続ザックスってのはスロットでスリーセブン当てるくらいすごいよな」
「ははは、それだけお前が会いたがってたんだろー?このこのー」
肘でつついてやると、嫌そうに眉をしかめる。
だが、否定されると思ってザックスが軽く投げた言葉を、意外にもクラウドは真面目な顔で受け取った。
「あんたさ、本当に覚えてない訳?」
「なにを」
魔晄が入って蒼く底光りする瞳。昔の頬の丸さなどが削ぎ落とされた輪郭の中でも、大きな瞳は変わっていない。暖炉の灯りだけの薄暗い中で、何か得体の知れない生き物の様に光りを放っている。
「……相思相愛」
「えええええ?!は?!え?!何、付き合ってたって事?!」
文字通り、ザックスは飛び上がった。ええ、マジかよ、嘘だろ、と騒ぎながら酷く動揺するザックスを一通り観察した後、クラウドはあっさりと否定の言葉を吐いた。
「騙されるなよ、簡単に。あんた、それでよくソルジャーやってたな」
「……お前、なんか性格ブラックになってない?」
「元々ですよ」
拗ねた様な茶化す様な節を付けて体を左右に揺らすクラウドに、お前イジワルになった、とザックスは文句を言う。
が、本当に冗談なのだろうか。元々そう言う冗談は嫌いなヤツだったし、それを考えると本当だったのか?と思ってしまうが、もし本当だったらもっと真剣に言うだろうし。
ザックスは罠にでもはまった熊の様に堂々巡りの疑心暗鬼迷路から抜け出せなくなってしまった。
「なんだよ、普通に流せよ」
うっとおしいな、とクラウドは一蹴する。
「いや、だって付き合ってたのに忘れたとかって……もしそうだったら最悪じゃん?」
「あーそーだな最悪―」
興味なさげに返された答えに、ザックスは勢いよく反応した。
「え?やっぱ本当?」
「そう思うわけ?」
「うーん……本気で分かんねえ」
「嫌悪感とかは」
「特に感じねえな。自分でもビックリだけど」
よどみなく出てきた答えに、若干クラウドが驚いた顔をする。
「たらし。節操なし」
「はは」
「ジェノバ細胞に惹かれてるだけじゃないのか?」
「いや、そうじゃないだろ」
「そうじゃないのかよ」
「……さあな」
ザックスは素早くクッキーの袋を取り上げると、5、6枚一度に掴み取った。
「……なあ、俺って、なんなんだろうな」
「……さあ。ここに来たって事は、リユニオンしかないだろ。そのために擬態して現れた。違うか?」
「分かんねえんだよ、本当に。何も」
そう言って大きく溜息を吐くと、ザックスはがしがしと頭を掻いた。
「なあ、あんたは本当に『ここにいる』のか?」
「いるだろ、目の前に」
「いや、そうじゃなくて……ジェノバは、相手の記憶に合わせて擬態して、行動して、気を抜いたところで襲いかかるんだ。あんたが今、そうやって行動してるのは、本当にあんたがやってることなのか?それとも、俺がイメージするザックスを見せているだけなのか?」
「……ゴメン、難しくてよく分かんないんですけど」
「つまり……あんたはもしかしたら、俺が『ザックスならこうするだろうな』って無意識に思ってるのを読んで、都合良く見せてるだけなんじゃないかってこと。……ただ単に頭の中の一人芝居見せられてるんじゃないかって……」
ジェノバの能力。自分と、ザックスの状況をきちんと理解したいのに絶対的に情報が足りない。断片的な情報と、現状から推測するのには限界があって、真実までたどり着けない。たどり着く時間がない。そして、そこに本当に真実があるのかすら、確かではない。
「な、俺はさ、自分のことザックスだと思ってるんだけど」
「……」
「でも、お前の話だとジェノバなんだよな。それが分かってるのに、俺の意識は消えない訳よ。話聞いて、自分でもジェノバだろうなって思ってんのに。なんでだろーなあ」
「もう元の姿に戻るエネルギーも残ってないのかもな」
「寿命が近いって事?」
「多分」
「そっか」
二人同時に溜息が出た。が、それは落胆ではなく、一区切りの合図の様な物。
「なあ、ジェノバのこと、怨んではねえのか?仲間が殺されたんだろ?」
「それは……まあ、憎くないかと言われれば憎いに決まってるし、到底許せるもんじゃないけど」
肩をすくめてみせる。
「もう一度戦ったしな。これ以上追い打ち掛けることもないだろ、向こうから攻撃でもされない限り。あ、今仕返ししたら文字通り『死人にむち打つ』になるか」
「ぎゃっ!そうか、ジェノバイコール俺か!」
何もしていないのに痛がる真似をして床を転がるザックスに、クラウドも笑いながら殴る真似をしてみる。
そういえば、動作一つ一つもそうだ。歩き方、返事のタイミング、思考回路。
不完全ではあるが、ある意味一番オリジナルに近いかも知れない。
流石に全部ザックス言う事は出来なかったが、他のコピーは酷い物だった。
確かに、最初のコピーには完全に騙されて酷く動揺したものだったが、気を抜くとすぐに襲いかかって来た。しかし、ジェノバ本体やセフィロスまで倒したクラウドに敵うはずもない。
その他にも、最初からモンスターに融合していた物や、姿は似ている物の行動が支離滅裂な物もいた。
時折ザックスがふざけたり茶化したりする、昔通りのタイミング。それは切羽詰まった様な空気を替えるためであって、本気でやっているわけではない。昔もよく、セフィロスの前でこういう事をやっていた気がする。本能的に、勘でこういう事が出来るのだから、実は頭の切れるヤツなのではないかと思うが、ギャップの所為でそう見えるのかも知れない。
そう言うことまで考えると、ジェノバはそんなに深いところまでコピーできるのか不思議であり、ある意味得体の知れない恐ろしさを感じたりする。
ということは、逆に。
「ジェノバってのは……もっと単純な生き物なのかもな。複雑な思考回路を持たずに、反射と本能のみで生きる、原始的な。だってそうだろ、新しい星に行くたびに、そこの生物の行動や思考回路まで理解して罠を仕掛けるなんて、効率が悪すぎる」
「つまり……根本的な所だけ操って、ある程度は個々の個体に最良の手を考えさせる、と?」
「分かってんじゃん」
クラウドが笑うと、ザックスも眉を上げてニヤリと笑う。
「で、蒸し返す様で悪いけど。結局……俺は、何なんだ?」
真面目な事を言う時、カチリと一瞬瞳が光る様な気がするところまで昔と同じで。
「オリジナルじゃないけど……ザックスなんだろ」
気が付けば、クラウドはそう答えていた。
目の前の存在が何なのか。考えたってきっと正解が見つかることはないから、逆に考えなくても良いのかも知れない。ただ自分の感覚を信用すれば、それが正解の様に思える。
「そっか。何かそれ聞いてスッキリした」
とても裏があるとは思えない程に無邪気な笑い。
「で、もうすぐクラウド君の長い戦いも終わりを迎えるんだろ?感動のフィナーレ、だな」
そして、お疲れ様、長かったな、よく頑張ったなと呟いてクラウドの頭を勢いよく撫でた。
「主人公も同時に死ぬだろうけどな。生きてるの、ジェノバ細胞の所為だし」
そうか、それなら、とザックスが呟く。
「もしリユニオンするとどうなるんだ?」
「多分、俺は死ぬ。一気に老化して、干からびて」
「干からびて?」
「いや、それはただの予想だけど。こう……さらさらーっと砂になって消え去るんじゃないかな」
クラウドが風に流される様に動いて見せたのを、ザックスは笑う。
「いや、泥かもしんねえ。べちゃって」
対抗して潰れたカエルの様に前に倒れると、クラウドも吹き出した。
「嫌な死に方だな」
「でもジェノバの寿命は近いんだろ?」
「だから、吸収しようがしまいが変わらないんじゃないかな。むしろ、リユニオンするエネルギーすら残ってないかも」
「ホント、何しに現れたんだろうな、ジェノバ」
自分のことなのに、他人事の様に言うザックス。一人ボケツッコミかよ、とクラウドはタイミング良くつっこむ。
それから、思いついた様に付け足して。
「一人で消えるのが寂しかったのかもな」
「なら、残りの時間は一緒に過ごすか」
「だな。一人でいてもつまんないだろうし」
ニヤリと笑ったザックスと、クラウドは拳を打ち合わせてみる。昔と同じように、一分の狂いもなくぴったりのタイミングでぶつかる二つの拳。
長い時を一人で過ごしたのは、クラウドも一緒。
ふと『同病相哀れむ』で、気まぐれに始めたことだったけれど。
ジェノバの化身になったザックスと最後の時を過ごすのも楽しいかも知れない。
きっと翠の目を持つ彼女も、面白いねと笑ってくれる気がする。
「さて、大親友の俺様が盛大にお疲れパーティーでも開いてやるかー!」
「……大親友、か」
斜め横を見て寂しげに呟いてみたクラウドに、ザックスは過剰反応する。
「え……?!さっきの話って、やっぱり本当だったのか?!」
「さーあね。思い出してみろよ」
「教えろよー」
「残り時間、ゆっくり考えろ」
外は吹雪いてきたが、明日の朝には収まっているだろう。
そうしたら、どうしようか。残り少なくなった薪を二人で作るのも良いし、麓までザックスの防寒具も買いに行かなければならないだろう。
明日が来るのが楽しみなのも、久しぶりのこと。
残りの時間がどれくらいなのかは分からないけど、その時も一緒にいてくれる人がいるのなら。
End
2005.9.10
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