僕は今、草笛さんと新しいドレスを作る仕事をしている 昔から裁縫は得意だったから、人よりはうまく出来ているという自負はある 現にこんな僕が作ったドレスでも原価の数倍で買ってくれる人はいる いや!?別に適当で作ってる訳では無いよ 一針、一針毎に着てくれる人や…人形に心を込めて作ってるつもりではいる でも…正直、昔裁縫した時の心の高揚感は感じない 原因は分かってる あの人形達がいないからだ 真紅や雛苺や翠星石に似合うドレスを考て、作るだけの自分がはがゆい… 僕は奴隷でも下僕でもいい… 大切な人形に自分の作ったドレスを着てもらうきもちを味わいたい… 草笛さんは金糸雀にそれをしてもらった事が何回でもあるそうだ でも、草笛さんは何回着てもらっても気持ちの嬉しさは変わらないと僕に何回も聞かせてくれた… でも…、その後は決まって悲しそうな顔をする… 今はそれが出来ない現実に心が締め付けられる思いのようだった ふと草笛さんの部屋を見回すと、紅い服や緑の服やピンクの服をきた人形もいる 多分、それを着せ替えてるのが一番昔の思いでに浸れるのだろう… 僕も永遠に思いでに浸り続けたい気持ちで胸がいっぱいになる時がある… でも真紅たちはそれを許してくれないだろう 「生きることは戦うことでしょ?」 そんな言葉が頭の中で反濁していく… 「チビ人間は樹もチビチビですぅ」 昔よりは今の方が大きくなっているだろ? お前がいなくても一人で頑張ったもんな 「ジュン〜大好きぃ!」 あの時は何で僕なんてダメダメ人間が好きなんだよって思っていたよ でも今の僕はダメ人間くらいにはなっただろ? いつ帰ってきても昔よりはまともな自分を見せられるよ ……だからさ… 一瞬でもいいから帰ってきてくれよ… もう一度楽しく暮らしたいよ… ジュンはいくら泣いても涙が止らなかった泣けば泣くほど自分の思いの強さの証明になるような気がしていた… 窓からくる風が、涙が乾いた頬をヒヤリとするころ、泣いてだるくなったジュンは眠っていた ――――――――――――――――――――――――― 玄関がなったので僕は眠い目を擦りながらドアを開けた するとそこには…今まで求めていた3体の人形がいた… 「ただいま」 「ただいまですぅ!」 「ただいまなの〜♪」 僕は驚き慌てて喜んでしまった… だがジュンは気を取り直して考えた 僕はいつも通りでいなきゃいけない… こいつらの帰るべき場所として、変化をしてはいけない だから僕はこいつらが帰ってきたら必ず言うと決めていた言葉を言った… 「お帰り、晩飯は花丸ハンバーグでいいか?」 みんなは嬉しそうな顔をした 「やった〜なの!花丸ハンバーグ♪花丸ハンバーグ♪」 「チビ人間が作れるですかぁ?」 翠星石は当たりまえの疑問をなげかけてきた 「当たり前だろ!ずっと花丸ハンバーグとスコーンと苺大福を三日三晩作ってたべていたんだから!」 「ウッ!?それは体に悪そうですぅ…」 真紅はそんな僕をみながら口を開いた 「今まで戦かったのね…」 ジュンはまじめな顔になって言った 「ああ…戦ったよ!」 真紅はそんなジュンを見て嬉しかった 昔とは変わったジュンが頼もしく見えた でもジュンはここにいるべき人間ではないのが悲しい… 「そう、頑張ったわね…なら今すぐさっきのところに言ってもう一度寝なさい」 「!!真紅!?何言ってるですかぁ?」 「そうなの〜!そうなの〜!せっかくジュンが来たのに〜!」 僕が来た?逆じゃないのか? 「翠星石、何でジュンがここに来たと思う?」 「それはもちろん寝たからですぅ」 「ここは遠い所よ?寝たくらいで来れると思う?」 「あっ!?真紅…そういう事なのですかぁ…」 「そうよ」 こいつらは何を言ってるんだ?全く検討がつかない… 「どういう事だ?」 「分かんないの〜」 雛苺と一緒に今の状況を聞いた 「あなたはまだ戦わなきゃいけないって事よ」 「チビ人間はここにいちゃいけないってことですぅ…」 「なんでだよ!?」 翠星石にそんな事を言われるなんて… 「黙れです!翠星石も今が一番良いです!でも無理なんですっ!」 言いながら翠星石は大粒の…涙を流していた 僕は何か悪い事をしたのか? 何となくバツが悪くなり顔を翠星石から背けると真紅が雛苺に説明をしているのが目にはいった すると雛苺までも悲しい顔をした 「ジュンは戻らなきゃダメなの〜」 どこに?ここが僕の場所だろ? そんな当たりまえの事を考えていると、雛苺の苺轍につかまれた そして、そのままさっき寝ていた場所まで運ばれてしまった… 「どうしてだよ?僕が何をしたっていうんだ!」 翠星石はスィドリームを出すとジュンを眠らせる用意をした 「何でだよ!何でだ・よ・〜…」 ジュンに強力な睡魔が襲ってきた 最後に真紅達から何か言われた気がする 「また会えるわ、戦っていれば」 「もうお前はただのチビじゃないですぅ、かっこよくて甲斐性があるチビ人間ですぅ…」 「ジュン〜大好きなの〜…」 僕はいつもの場所で目を覚ました 回りを見るといつも通りだった ――蒼い人形が鋏を出しているという事以外は… 「お前は、蒼星石!?」 「せっかく夢と現実を切って上げていい夢を見せてあげたのに…」 蒼星石は残念な顔をしながら言った 「やっぱ悲しい顔をしてるジュンくんを切るのはいやだなぁ」 そういいながら鋏を戻した 「お前の目的はなんだ?」 「僕の?姉妹のマスターになった人間を殺す事だよ」 「どうしてだよ!?」 「アリスが決まった今、人形の記憶を持ってる人を生かしとくのは不都合が多いからさ」 「お前はそれでいいのかよ…」 「それが…お父様の望みなら僕は従うだけだよ…」 蒼星石は哀しそうにそう言うと、夜の空を飛んでいった… あとに残された僕は夢から覚めても夢にいる感じがして呆然としていた… 翌朝、草笛さんの死体が家から見つかった… 昨日の夜僕が説明した時から想像はついていた 「かくかくしかじかで…こういう訳だから気をつけて下さい…」 「いいなぁ〜、ジュンくんは」 草笛さんの言ってる意味が分らなかった… 「僕の何がいいんです?」 「私ならそんな事になったら石にかじりついても起きないわよ」 「それが私の本望だもん」 やっぱり草笛さんはそういう人だな、なぜだか分らないが僕にはそれを否定する感情は全く起きなかった… 「分かりました…」 「ごめんね、ジュンジュン…」 「いや、いいんですよ、僕も気持ちは分りますから」 僕がそう言うと草笛さんは悲しい声で 「おやすみなさい…」と言って受話器を切った 昨日の夜の事を思い出した… 今ごろ覚めない夢の中で草笛さんは金糸雀を着せ替えているだろう… 草笛さんは死ね瞬間まで幸せそうな顔だったに違いないだろうな… きっと僕がうらやましくなるくらい… ……でも草笛さんがその道を選んだなら僕は違う道を選ばなくてはいけなくなったという事だ 蒼星石を倒して、ローザミスティを取り返すという道を… それで真紅達が直るかは僕には分からない… でも夢の中の真紅の言葉を信じて僕は前に進んでいきたい… 「生きる事は戦うことでしょう?」 やっとその言葉の意味が分かった気がする 僕は戦い続けるよ 蒼星石や自分自身と… だから安心していてくれよ… 数年後… 僕はあれからこれをずっと作り続けた… そして今日はそれが完成した日だ 「お前はなんだ?」 「はい…お父様…私は(スイコウバイ)翠紅苺…そしてあなたの幸せなお人形です…」