果てしなく続く廃墟・・・こんこんと降り続ける雪・・・水銀燈は自らのnのフィールドを当ても無く彷徨っていた。

本来なら彼女も眠りに就いている様な時間であったが今夜はどことなく落ち着かず眠りに就く事ができずにいた。

そこでぼんやりと過去の記憶に浸りながら空中を漂っていたのだが平穏は招かれざる客によって唐突に破られた。

彼女の前方の空間が三日月形に裂け、その中からタキシードを着込んだウサギとも人間ともつかない者が優雅な身のこなしで躍り出てきたのだ。

「!?・・・またあなたなの?懲りないわねぇ。さっさと消えなさい、目障りよ。」いつもの様に突き放した態度を取ったのだが

ラプラスは思いもかけないことを言った。「落ち着いてください黒い天使様、それよりも今夜は月が美しい・・・。ここは月見酒としゃれ込んでは如何でしょう?」

「私を馬鹿にしていわけ?月なんてものはここには無いわ。そもそもそんな見え透いた罠にこの私が引っかかる訳がないじゃない。それとその言い方は・・・」水銀燈は最後まで言い終える事ができなかった。

ラプラスが持つ勇壮な装飾の瓶、正確にはその中の透明な液体に目を奪われてしまったのだ。

「ご安心を天使様、私が直接アリスゲームに関わるような事はございません。それともそんな事が1度でもおありにあったでしょうか?」

自分のした事をいけしゃあしゃあと誤魔化し、黒い天使様等という自分を完全にバカにした呼び方を2度もした事にも気づかず、水銀燈の口から出てきたのはむしろ叱責とはまったく逆の言葉だった。

「そ、それは甲斐の秘酒「信玄」!なぜあなたがそれを!?」驚愕と不信、それに歓喜が混じった表情をしたまま凍りついてしまった。

しかしさすがは水銀燈だけあって回復は早かった。ローゼンメイデンの第1ドールであるという自負は常に彼女に影響を与えていたのだ。

「ふん、お馬鹿さぁん。私がそんなものに興味があるとでも思ったの?たかがウサギの分際で生意気な口を利かないことね。」だがしかし、

その相手を射抜く様な鋭い目はラプラスの歪んだ目ではなく、瓶に巻かれた和紙に描いてある戦国武将の目だけを見据えていた。

「ふっふっふ、人は皆役者、世界は舞台だというではありませんか。ここはnのフィールド。人がその本性をさらけ出す、舞台の袖幕の内側。何も遠慮する事は無いのです。」

そう言うといつの間にかその手には虎の絵が掘り込まれた盃があり、それになみなみと酒を注いだ。そして水銀燈が喉を鳴らし見守る中でぐいと盃を傾ける。堪らず水銀燈は叫ぶ様に言った。

「待ちなさい!誰が飲まないなんて言ったの?」その声には普段相手を小馬鹿にするような猫なで声をする余裕も失っていた。言ってからしまったと気付いた時には遅かった。

ラプラスの歪んだ目が更に歪められる。「ふっふっふ、そうこなくては」

              ───完───






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