ローゼン日記

ようやくローザミスティカが完成した。
さて、これをどうするか。
長年の研究の成果で不老不死となった私だが、やはり連れ添ってくれる伴侶が欲しい。
生身の人間の女はいけない。必ず不老不死にできるとは限らない。
そもそも私に連れ添ってくれる女がいるかどうか。
既に異端者として、常に疑惑の目を向けられている私に寄って来る変わり者は望めまい。

そうだ。人形ではどうだろうか?精巧な少女の人形を作り、ローザミスティカの力で命を吹き込み
一から育て上げるのだ。そして私に従順な究極の美少女にするのだ。
自分に従順な伴侶を自らの手で作り上げる。これこそ究極の男のロマンではないか。
うむ。これならいけそうだ。早速とりかかるとしよう。

数日後…

できた。できたぞ。究極の美少女となる人形が。我ながら良い出来だ。
最高傑作といっていい出来栄えだ。
弟子の槐くんも驚いていたな。
そうだろうとも。人形とはこのように作るものなのだよ。
では、早速ローザミスティカを融合させてみよう。
上手く入るかな?よし、そうだ、入ったぞ。
おぉっ。おおぉっ。動き出したぞ。
よし、よし、その調子だ。
そら、目を開いてごらん。
私が見えるか?私はローゼン。お前を作った、お前の…父親だ。
そうだ。お前の父親だ。お父様と呼びなさい。
さて、お前の名前だが…。
そうだな、水銀鐙、水銀鐙にしよう。このローゼンの名前から取って、
ローゼンメイデン第一ドール水銀鐙と名乗りなさい。
「水…銀…鐙…」
そうだ。名前が言えたな。よし立ってごらん。
そう、力を入れて、そう、そうだ。立てたな。
「お…父…様…」
そう。私がお前のお父様だ。よし、いいぞ。
ん?なんだこの光は?
「お、お、お…父…様…っ」
ああああぁ!なんということだ。腹部が粉々に砕けてしまった。
むぅっ。力尽きたか。何ということだ。ローザミスティカの力に耐えられなかったか。
おおぉ。水銀鐙。可哀想に。せっかくこの世に生まれたというのに。
待っていろ。必ず甦らせてやるからな。なぁに父さんに不可能はない。絶対にお前を復活させてやるぞ。

更に数日後

ダメだ。何度やってもダメだ。ローザミスティカに耐えられないのか。
一体どうすれば…。
ん?何だ槐君。ふむ、ローザミスティカを割ってはどうかと。
なるほど。その発想は無かったな。力が強すぎるなら小さくすればよいと。ふむ。一理ある。
しかしそもそも割れるのかどうか?


数時間後

なんと。こんなに簡単に割れてしまうとは…。きれいに7つに割れたぞ。
大小の違いはあるが。よし早速これを試してみよう。
…いや待てよ。いきなり水銀鐙に試すのは酷だな。何度復活させては死なせたことか。
必ず成功する確証を得てから再生してやりたいものだ。
よし、もう一体作ろう。いやどうせだからあと6体作ろう。


数ヵ月後。

ふぅ。出来たぞ。まずは1体。腹部も崩壊しないな。よし。
螺子を巻くぞ。
なんだい槐君。何故螺子を巻くかって?
ああ、これはローザミスティカの力にリミッターをかけるためなんだよ。
いきなり暴走しないように、螺子を媒介にローザミスティカの力が伝わるようにしたんだ。
さぁ。起きてごらん。私がお前のお父様だよ。
「お…父…様…」
名前は…、そうだな。楽器演奏の特技を持たせたから、金糸雀にしよう。
「金…糸…雀…」
そうだ。さぁ。立ってごらん。
ん。すぐ立てたな。そうだろうとも。バランスがとり易いように水銀鐙より小さくしてみたんだ。
さぁいろいろ教育してやらねば…。忙しくなるぞ。

数日後

金糸雀は無事誕生できたようだ。しかし、なんでこんな口調になってしまったのか。
それに、ちょっと外観以外も幼すぎる。水銀鐙の妹分みたいなものだから、これはこれで良しとするか。
あっ。これこれ!そこの人形に触ってはいけない。
これが誰だって?これはお前のお姉さんにあたる、ローゼンメイデン第1ドール水銀鐙だよ。
まだ作りかけだし、魂を吹き込んでいないんだ。今はただの作りかけの人形なんだ。

数日後

槐君の言うことももっともだ。私が育てたのでは私同様に社会性の無い娘になってしまう。
ここはひとつ涙を飲んで旅をさせるか。東洋の島国の諺に、可愛い子には旅させよと言うしな。
しかし、このままでは野蛮な人間たちに壊されてしまうかもしれない。闘える力も与えておいたほうがいいか。
よし、別の用途で使うつもりだった人工精霊をつけてやろう。いろいろ世間の偵察をさせていたから
私や槐君よりも世間知はあるかもしれぬ。彼らをお守り役につけよう。
そして、いざという時に闘う力も与えよう。
ローザミスティカだけでは、力に限界があるな。
よし、無尽蔵にある無意識の海の力を使ってみようか。
しかし、あれは人を媒介しないと難しいな。
そうだ人形の持ち主の力を借りるか。どうやって力を借りるか…。
人工精霊を通して契約を結ばせる?ふむ。槐君はたまに言いことを言うね。
それだよ。契約を結ばせて、無意識の海へのチャンネルを開かせよう。

数日後

よし、セットOKだ。人工精霊は…。よしピチカート。お前が行きなさい。
金糸雀が困らないようしっかりサポートしてやってくれ。
魔法の鞄も手配しておいたから。
では行って来なさい。しっかり修行してくるのだぞ。そしていつか父の元に返ってきておくれ。
私はいつもお前のことを思っているよ。

行ってしまった。私にもこんな時に流す涙があったとはな。
思えば初めて本当の意味で父親になったのではないか?


数日後

ああ、槐君か。3体目は作らないのかって?
なかなか構想がまとまらなくてね。
君ならどういうものを作る?
…双子?ふーむ。それは面白いな。
せっかくだから正確を正反対にしてみようか。ついでに外観も正反対にしてみようか。

翌日

姉の方は髪の長いお姫様のような娘にしよう。妹の方は…。
よし、逆にジャンヌダルクのように少年のような外観にしようか。
しかし、双子の姉妹を外観を変えて作るとはいえ、ベースは全く同じなわけだからな。
製作中に間違えないように何か目印をつけておこうか。
ボーイッシュな妹はふたなりにするか?
痛っ痛っ。槐君止め給え。冗談だ冗談。
とりあえず、髪を付ける前でも区別できるように瞳をオッドアイにして、左右を変えておこうか。

数ヵ月後

出来たぞ。前回の反省を踏まえて、水銀鐙に近い大きさにしてみた。
数少ない理解者である仕立職人のルドルフに頼んだ甲斐があったな。
どうだこの豪奢な衣装。なんと愛らしい。
名前は、姉のほうを翠星石、妹のほうを蒼星石にしたよ。
上手くいくかどうかは分からないが、知り合いの魔術師から夢の話についてレクチャーを受けたから
夢に出入りできるようにしてみたよ。無意識の海と夢は密接な関係があるからな。
いろいろと自分なりの理論を試してみたいのもあってな。
君、実験台になってくれんかね?なぁに実験台と言ってもただ、寝て夢を見てもらうだけだよ。
…ダメなの?あっそう。そうか、無理だよなぁ。
(断られても、寝たら絶対実験してやるよ)
さぁ螺子を巻いてみよう。
目覚めたかね?初めまして、我が娘たち。私が君たちを作った、君たちのお父様だよ。


数週間後

双子の姉妹を連れて夢に潜入したのがあっさりバレて、槐君は口を利いてくれなくなった。
まぁ夢の中に私が双子と一緒に現れたのだからバレるわな。
知り合いの自称心理学者の協力を得て、精神病を夢で治療するという名目で
何人かの被験者で双子の力を試させてもらった。
心に栄養を与える翠星石と、悪しき心を刈る蒼星石。
使い方を誤れば、恐るべき武器になってしまうことも分かった。
それはそうと、理性的な蒼星石はともかくとして、翠星石に性格に問題点を発見。
ちょっと引っ込み思案で人見知りの性格になったのだが、それはそれで少女らしいかと放っていたら
私が席を外したときに槐君に凄まじい毒舌で罵詈雑言を浴びせているのを知ってしまった。
私にバレてからの翠星石の縮みようは可愛らしくも合ったが、この口の悪さを放置するわけにもいくまい。
金糸雀同様、そろそろ外で修行してもらう必要がある。
と、その前に、もうすぐ5体目が完成するのだ。新しい妹と対面してからでもいいかな。

数日後

水銀鐙、金糸雀、翠星石、蒼星石と作ってきて手順が出来上がっていたせいか、
5体目はスムーズに製作できた。
双子の姉妹に少し少女らしさが足りないのを感じていたので5体目は少し小さめにした。
髪の色は、仕立屋ルドルフの傑作で真っ赤なドレスが手に入ったので、赤の映える金髪に。
この服、ルドルフの孫娘にやるつもりだったらしいが、娘にあっさり断られたのだと。これだから女は。
着せてみたら思わず溜息が出たよ。傍で見ていた槐君も見とれていたね。
実に、美しい、美しい娘になった。今までで一番の出来ではないか?
槐君がやたら気に入っているのが気になるが。
おいおいこらこら。何故君が螺子を持っているのか。螺子を巻くのは私だ。君は引っ込んでいなさい。
悔しかったらお前もローゼンメイデンに匹敵する人形を作ってみなさい。
あれ?何故荷物をまとめているんだい?何?出て行く?あーそーかい。出て行くがいい。
職人はいつか独立しなければならないんだ。独立したければ独立すればいいさ。

あいつも私ほどではないものの、不老不死の秘法を施している。
いつかまた会うことになるだろう。さ、寂しくなんかないぞ。
あー気分を害した。螺子を巻くのは明日にしよう。


翌日

おーい槐君……ってもう出て行ったんだっけ。
しかし困ったな。良く考えたら身の回りの世話は全て彼に任せていたから、今日からは自分でやらなければいけないんだな。
あー資金集めやら、掃除洗濯、炊事、大変だなぁ。
さて。気を取り直して5番目の子の螺子を巻こうか。そういえば名前を決めてないな。
うーん。真っ赤な衣装とローゼンにかけて、真紅にしよう。よし、おまえは真紅。
さ、巻くぞ。目覚めたかな?
やぁ初めまして。私が君のお父様だ。君の名前は真紅だ。
お、いきなりここまで歩くのは凄いぞ。さすがは最高傑作。よしよしここまでおいで。
あ、目を開いた。おぉぉぉ。微笑んだよ。こ、これは……。萌え〜〜〜。げふんげふん。
うん可愛いぞ。さぁお父さんとあっち行こうか。
ん?何か落ちた音がしたような。気のせいかな?あとで見ておこう。

翌々日

なんだか外へ出るのが苦痛だ。槐君が居なくなってから自分で外に出なくてはいけないが、いろいろと煩わしい事が多くて嫌だ。
良く考えてみたら彼のおかげでこの町に居れたんだな。今とても住み心地が悪い。
気分的に人形作りどころではない。また他の街に引っ越としようか。
やれやれ、槐君が居なくなってからまだ3日も経っていないのにもう根を上げるとは。つくづく私は社会の中に生きるのが苦手だな。

気分が優れないので、翠星石、蒼星石、真紅を旅に出させ、私もこの街を出てしばらく休むことにした。
3人とも順番に、スィドリーム、レンピカ、ホーリェの人工精霊たちを割り当てた。
あぁそうだ。水銀鐙は持って行かなきゃ。彼女だけは何とか完成させないと。
あれ?水銀鐙が居ないぞ?あれ?
どこに行ったんだ?いや、ローザミスティカなしには動けないか。誰かが持って行った?
まさか、槐が?これは彼に確認しなくてはな。
ってあいつもどこに行ったんだったか。
あ、ああ、あれ?ここに掛けておいた人形用衣装も無いじゃないか。ルドルフが余興で作ったものの、教会から睨まれるかもしれないと
始末をこちらに投げてきた奴。長女らしい、大人の雰囲気を漂らせたいい服だったのに。
槐君〜。困った奴だな君も〜。
待ってろよ!


―――――――――――――――――――――――――
槐君を追いかけて、とっ捕まえて、白状させようと思ったものの…。
表を歩くのは、今の私には非常に苦痛だ。周囲の視線に耐えられない。
しかし、このままでは住む所もままならない。
さて、どうしたものか。

数週間後

やれやれ。乞食と間違われてしまったぞ。無理も無い。
今の私の格好を見れば、まるで落ちぶれた貴族だ。しかもここ1ヶ月ほど体も洗っていない。
食べ物も最後にまともなものを食べたのはいつだったか。
不老不死の体とはいえ、食べなければ弱ってしまう。
仕方ない。あまり頼りたくなかったが、古い知り合いの魔術師の家に行ってみようか。

数日後

ごめん。主は居られぬか?
あぁ。私だ。ローゼンだよ。本当だよ。信じてくれよ。そんな目で見ないでくれよ。
どうしたら信じてくれる?あっ、そうだ。
ほら、ローザミスティカもここに。
同じ賢者の石を作り上げた仲間じゃないか。
やっと信じてくれたか、我が友よ。
え?臭い?表で体を洗って来い?分かった分かった。洗ってくるよ。ついでに服も貰えんかね。

井戸端で水浴び後

あーさっぱりした。髭も剃ったし、あ、この香水使っていいかね。
ありがとう。やっと普段の自分に戻れたよ。
ん?用事はなんだったのかって?そりゃ新しい服を貰いに来たんだよ。
痛っ!痛っ!冗談だ。待てっ!電撃だけは止めてくれ。
…ふぅ、君はすぐ突っ込みで電撃を入れてくるからかなわん。

あぁ、本当の理由だが、実は弟子に逃げられてね。実生活で物理的にも精神的にも困っているのだよ。
今まではローザミスティカの精製に夢中だったから他の事なんて全く気にならなかったんだがね。
時代も進んできたというか…、人が増えてきたからかな?
日ごろ無関心なくせに、触れて欲しくないところで高い関心を示すんだな、周りの人間が。
おい、笑わないでくれ。君だってこんな山奥に篭っているじゃないか。
おまえもそうすればいいって?職人はいろいろと物が入用でね。人がいるところの方が便利なんだよ。
それに少数だが相手になってくれる職人たちもいる。
彼らを頼れないかって?職人の技術に関しては通じるものがあって交流するがね。
他の事では彼らの世話にはなりたくないよ。借りは作りたくないんだ。そこまで踏み込みたくないというか。
彼らは寿命を持っている。…別れが辛くなるじゃないか。
君は私と同じで不老不死の者だからな。こうして頼って来やすかったんだよ。
話は戻るが、つまり、その、煩わしい人間関係が無くて安心して研究に打ち込めて、
かつ有能な職人たちにもすぐ会える様なそんな場所はないだろうかってね。
あと、逃げた弟子が私の大事な物を持ち出したらしくてね。彼を追いかけたいので力を貸して欲しいんだ。
ひとつはすぐ解決?君の研究を住み込みで手伝え?私の研究の時間が無いじゃないか。週に2〜3日でいい?2〜3日もか…。
仕方ない。次が見つかるまで居候させてもらおうか。でも職人たちに会いに行くにはどうしたらいいんだ。
鏡を使え?あ!あぁっ!そうか。nのフィールドを通れっていうんだな。
なるほど。そういう使い道もあるなぁ。よしそれで行こう。
で、弟子を追いかける件は?有能な人物(?)を紹介してやるだって?なんだその笑みは。
一体誰なんだその人物って。


翌日

まさか紹介してくれた人物がこんな大物だったなんて…。不老不死の体を得て、生きること2000年余り。
時の権力者なぞ、私には取るに足らない存在で全く怖くなかったのだが…。しかしそれは人間界での話。
相手が異界の住人なら話は別。ましてやこんな最上級の存在ともなれば…。
こうして話をしていること自体が奇跡だ。下らない冗談を言って怒らせないようにしなければ。
彼の魔力を持ってすれば、私の不老不死の力なぞ簡単に取り消してしまえるだろう。恐ろしい、恐ろしい。
彼は「ラプラスの魔」と名乗った。しかし、私は彼の本当の名前を知っている。
魔術師、錬金術師なら知らぬものはいないであろう。古き神々に使える恐るべき存在、ニャルラトテップ。
今目の前にいる彼はウサギの頭を持つタキシード姿の男だが。彼に決まった姿は無い。

話してみた印象からすると、なかなか気さくな方のようだ。とにかく退屈しているらしい。
弟子のことを相談したら、お安い御用と探してくれた。と、言っても空間にいきなり穴を空け、その向こうで人形制作
にかかっている槐君を映し出してくれたのだが。
さっそく穴に飛び込んで彼を問い詰めてみた。
いきなり私が飛び出してきて驚いていた槐君だったが、水銀鐙のことを問い詰めたら何のことか判らないという素振りだった。
こっそり嘘を見破るアイテムを使ったのだが、本当に知らないようだ。はて?それでは誰が一体?

穴に戻ると、ラプラス君がニヤニヤ笑いながら待っていた。あ、ラプラス君なんて呼んでいるのは彼がそう呼べと言ったからだ。
私のやってきたことに興味を抱いたようだ。是非、話に混ぜて欲しいという申し出を受けた。
力が強大すぎて怖いが、話してみた印象では、彼は無粋なことを嫌う傾向があるようだ。やたら自分の力を誇示する性格ではないらしい。
付き合い方次第では強力な味方になるかもしれない。不老不死の身としても、この協力は受けたほうが良さそうだ。


―――――――――――――――――――――――――
魔術師の家に住込んで早3ヶ月。気の合う友人との共同生活もなかなかいいものだ。
凡人達に囲まれての生活は、鬱陶しいことだらけであったが、不老不死同士なら
気兼ねすることなど何も無い。
槐君との生活と違って私がこき使われているのがアレなんだが。
始めの頃こそ、自分の研究とは関係ないことで手伝わされて苦痛だったが、まったく収穫の無かったわけでもない。
少しばかりだが、私のも魔術が使えるようになった。今まで人工精霊達を頼ってのドールズの観察だったのが、
魔法の門のおかげでいつでもここにいながら様子を見ることが出来る。大変便利だ。
もう少し高次の魔術になれば、双方向性の門になる。もう少し魔術というものも追求してみるか。
魔術以外では、ラプラス君と知り合いになれたのが良かった。
始めの頃こそおっかなびっくり、どぎまぎしながら話をしていたのだが、話してみると本当に面白い人物だ。
彼から聞く旧世界の神々の話は非常に興味深く、面白い。彼の話の中に私の探求するもののヒントが隠されているかもしれない。
彼はこちらから質問しても、真正面からは答えてくれない。しかし意味深なヒントのようなものを教えてくれる。
それが私の好奇心を刺激する。楽しい。

そういえば、アリスの件である。もともとはローザミスティカを使って私の永遠の伴侶、完璧な美少女を作り上げることが目的だったのだが、
現状を鑑みるに、当初の予定から随分脱線してしまったように思う。
7体作ろうとした事だって、強すぎるローザミスティカの力を低減するためにローザミスティカを7つに割ったことから派生した処置なのだ。
実は真紅を完成させた時に、水銀燈よりも約1.5倍の大きさの人形を作れば理屈のうえではローザミスティカに耐えられそうな人形を
作れそうだと分かった。ただ、その時の私にはすでに5体作ったドールズへの愛着も湧いていたので、
今更ローザミスティカを回収し、改めて大型の人形を作る気は無かった。
そんな迷いをラプラス君と魔術師に明かしたところ、最後にもう一度7体のボディーと7つの破片を融合して、
1人のアリスを誕生させればいいのではないかという意見を得た。
ラプラス君が言うには、すべからく生きとし生けるものというのは、懸命に生きている姿が最も美しく、力強いのだそうだ。
ふーむ、なるほど。
世界を旅させ、淑女としての修行をさせるだけでなく、互いを競わせて最後には一つに戻してアリスとする、か。
その方が、より究極の美少女に近づけるかもしれない。無垢であるという点をクリアできなくなるリスクもあるが。
試してみる価値はありそうだ。早速残り3体の完成を急ごう。そうなると水銀燈の居場所も早く突き止めねば。
本当にどこに行ってしまったのだろうか、あの娘は。
ラプラス君にもお願いしたが、感知できなかったのでnのフィールドに迷い込んでしまったのではないかということだった。
特別に許しを貰ってアカシックレコードで過去を閲覧させてもらったが、まさかあの娘がローザミスティカ無しで自我に目覚め、
あの未完成の身体で私を探しに旅立ってしまっていたとは…。
なんと健気な愛娘。胸が痛む。すぐに修復してやれなかったのが悔やまれる。
うまく現世に飛び込んでくれないものだろうか。そうすればすぐに見つけられるというのに。






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