水銀燈には腹部が無かった。ローゼンは彼女の腹部を作らなかったのである。
水銀燈がそれに劣等感を感じないはずはない。そして劣等感はローゼンに対する愛を強め、
いつしか他の姉妹に対する憎しみにも繋がっていたのだが、あまりにも溜まりすぎたストレスが
爆発し、とうとう開き直ってしまった。
「そうよぉ! 私は腹無しドール! つまりあんた達の言う所のジャンクなのよぉ!
笑うなら笑いなさぁい! むしろそっちの方がスッキリするわぁ! アハハハハ!!」
しかし姉妹達は笑えなかった。それは水銀燈を余計に腹立たしくさせてしまう。
「何故笑わないのよぉ! 私に哀れんでるのぉ!? それが腹が立つって言うのよぉ!
どうせ顔じゃ哀れんでる様に見えても心の中では笑ってるんでしょぉ!? それなら正直に笑えば良いでしょぉ!?」
「ごめんなさい・・・笑えないわ・・・。」
「だからそうやって謝るのが気に入らないってのよぉ!」
「ごめんなさい・・・今まで黙っていたけど・・・私も・・・。」
そう言うと真紅は突然右腕の袖を捲り上げ、己の右腕を水銀燈に見せた。
「え? 真紅・・・これは・・・。」
水銀燈の見た真紅の右腕は明らかにローゼンメイデンのそれでは無かった。
一応はきちんとした右腕ではあるのだが、明らかに別のドールの規格である。
そして肩の部分にも異なる規格のドール部品同士を連結させる為に改造された跡があった。
「貴女にお腹が無かったように・・・お父様は私の右腕を作らなかったわ。
でもそんな事が皆に知られたら私はジャンクになってしまう。それが怖かったの。
だからこうやって無理矢理別のドールの腕をくっ付けてごまかしていたのだわ。
今まで黙っていてごめんなさい・・・。」
真紅は頭を下げて謝った。しかし、今度は翠星石が前に出た。
「翠星石だって謝らないといけないですぅ! これを見やがれですぅ!」
翠星石が己の足まで隠れた長いカートをめくり上げると、なんとそこには
ドールどころの騒ぎではない。左脚だけがまるでガンダムを連想させる様な機械製の義足となっていたのだ。
「お父様は翠星石の片脚を作らなかったですぅ。だからしょうがなく・・・。」
「翠星石だけじゃないよ。僕は右足が無かったんだよ。」
蒼星石は逆に右足が機械製の義足となっていた。それだけじゃなく、他の姉妹にもどこかが
あえて作られておらず、そこを他の規格の部品でごまかしており、結局真に五体満足と言えた
ドールは擬似ローゼンメイデンの薔薇水晶だけだった。
「だから・・・私達はみんなどこかに欠陥を抱えているのよ。水銀燈貴女だけじゃないのよ。」
「私こそごめんなさぁい! そんな事も知らずに酷い事して・・・ごめんなさぁい!」
水銀燈は自分が情けなかった。腹が無いだけでグレていた自分が・・・
そして姉妹達はそれぞれ抱き合う。完璧じゃなくても良いじゃないか。ジャンクでも良いじゃないか。
誰しも欠点はあるのだから。ジャンクでも壊れた子でも皆ジャンクなら怖くない。

余談だが、抱き合って笑いあうドールズの姿を見た薔薇水晶がちょっと羨ましがったのは秘密だ。

                      おわり


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「ごめんなさい・・・皆ごめんなさぁい!」
「私こそ・・・私こそごめんなさぁい!」
姉妹全員で抱き合い、精一杯泣き、そして笑い合った後水銀燈が皆に言った。
「所であんた達が使ってる代用部品って何処で手に入れたのぉ? それで私もお腹が欲しいわぁ。」
「え・・・?」
その時の姉妹達は誰もがまるで教えたくないと言っている様な・・・そんな顔をしていた。
「どうしたのぉ? 早く教えて頂戴・・・。」
「あら・・・すっかりこんな時間じゃない。くんくんが始まっちゃうじゃない。」
「ヒナうにゅ〜が食べたいの〜。」
「翠星石は平気ですけどぉ・・・ジュンの奴が心配しやがるから帰ってやるですぅ!」
「おじいさんとおばあさんのお夕飯の手伝いをしなきゃ。」
「みっちゃんが心配してるかしら〜。」
そう言って姉妹達は去って行く。
「ちょっと! 皆どうしたのぉ!? ねぇ!? 一体どうしたって言うのよぉ! 私だってお腹ほしいのよぉ!!」
涙目となった水銀燈は去って行く真紅の肩を死に物狂いで捕まえて問うが、真紅は冷ややかな目でこう言った。
「離して頂戴。くんくんが始まってしまうわ。」
「・・・!!」

こうして水銀燈が一人残された。他の姉妹も自分と同じ欠損を抱えていたと言う事を知り
何処か安心したのもつかの間、他の姉妹達が欠損部分を補う為に使っていた部品を
どうやって手に入れたのか、それはどうあっても教えてくれなかった。
これは水銀燈に対する過去に酷い目にあった恨みから来る嫌がらせなのか・・・
はたまた自分の力で見つけなさいと言う意味が込められているのか・・・そのどちらなのかは分からないが
水銀燈は結局腹無しのまま一人残されてしまった。
「何でよぉ! 私だってあんた達みたいにごまかしでも良いからお腹欲しいのに・・・なんでよぉ!!」
                       終劇






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