きゃああああああああ!
突然2階から翠星石のけたたましい悲鳴が聞こえた。
「どうした!?」ジュンが体当たりでもするように扉を開けると部屋の中央で翠星石が酷く怯えている。
「一体何なんだ!何があった」
「奴です!奴がこの小汚い部屋に現れやがったのですぅ!」
「奴・・・、まさか・・・!」そういって真紅があとずさった。奴。この一言で正体を理解したようだった。
「奴?奴ってまさか・・・水銀燈か?」ジュンの問いかけに真紅はゆっくり首を横に振った。その目には恐怖の色が浮かんでいる。
「あの子よりももっと、ずっとおぞましい怪物よ・・・。」
「古より生き延びてきた魔物ですぅ。あんな恐ろしい生き物は他にいないですぅ。」
「そんな恐ろしい奴なのか?その・・・奴ってのは。」
「ええ・・・悪魔みたいな生き物よ。私達がお父様に作られるずっと前から存在していた・・・悪魔。」
悪魔・・・。ジュンはそっと呟いた。「けどそんなものがどうして僕の部屋に?」
「ジュン、これはあなたの責任よ!あなたが始末なさい。」そう言って別の部屋に避難させるのだろうか。
棚のくんくんグッズを手際よく纏め始めた。鞄よりそっちのが先かよ、ジュンの呟きは半ばでかき消された。
「いやあああああああ!」「きゃああああああああ!」
部屋がするどい悲鳴に満たされる。棚の隙間から「奴」がその姿を現した。
全身を漆黒に覆われ、黒光りする背中はさながら装甲を纏っている様だ。
足には太く逞しい棘を生やし、垂直の壁を難なく駆け上がってゆく。
        そうゴキブリだ。
その突進力たるや大の大人ですら蹴散らし、例え頭を叩き潰そうがもう1つの脳で生き続ける生命力は
何者も比類しえないだろう。なにせその昔繁栄を誇っていた巨大な恐竜達に襲い掛かった試練をも耐え抜いたのだ。
と、8cmはあろうかという巨大なゴキブリが突如としてジュンに時速3600mで突進してきた。
「うわあああああ!」ジュンは叫びながら必死の形相でドアを閉めた。真紅と翠星石を残して・・・。
              END






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