nのフィールドに異変が起きた。我々の世界と表裏一体の関係にあると言っても過言ではない
nのフィールドに何かがあれば我々の世界に及ぼす影響は計り知れない。
その異変の調査及び阻止の為に真紅達ローゼンメイデンのドールズはnのフィールドへ飛んだ。

「こ・・・これは・・・。」
nのフィールドに到着した真紅・翠星石・金糸雀の三人は愕然とした。
なんと言う事か世界樹に巨大な機械のバケモノが取り付き、食い破ろうとしていたのである。
「ななな何ですかあれはぁ! まるでジュンが持ってた映画に出てくるカラクリのバケモノみたいですぅ!」
「とりあえず・・・あれが異変の原因のようね・・・。」
「でもあんな大きな物どうやればいいのかしら〜。」
機械のバケモノのサイズは数百メートルは下らなかった。ほぼ無限に近い世界樹に比べれば
遥かに小さい方ではあるが、それでも薔薇乙女達にとっては途方にくれる程巨大であった。
と、三人が呆然と機械のバケモノを眺めていた時、突如バケモノから何か小さい物が
飛び出し、三人へ向けて飛んで来たのである。
全身を金属の装甲で覆った3メートルはあろうかと言う金属人形。
これはもはやドールと言うよりロボットと呼んだ方が良い代物だった。
そして数十体にも及ぶ金属人形軍団が真紅達三人の正面30メートルの位置に降り立つ。
「お前等一体何者ですぅ!?」
「何故世界樹にあんな事をするかしら〜?」
「でも何故こんな物が突然nのフィールドに・・・。」
その時金属人形軍団が一斉に道を開けた。すると明けられた道から一体のドールが現れた。
それは金属人形軍団と比べるとかなり小さい。むしろ真紅達薔薇乙女と同じ大きさだった。
『皆さんお久し振りです・・・。』
「え!?」
「お・・・お前は!?」
「まさか・・・薔薇水晶かしら!?」
薔薇水晶。ローゼンの弟子である槐が作ったローゼンメイデンのイミテイションである。
水晶を操る圧倒的な強さで真紅達を苦しめ、アリスまで後一歩と言う所まで迫るも、
真紅達6つのローザミスティカから来る不可に耐えられず自壊し、槐共々行方不明となったはずであったが・・・
「貴女確か壊れて無くなったんじゃ・・・。」
『しかし、私はこうして蘇った。ビグローゼの高度な科学力によっていっそうパワーアップして・・・。』
「ビグローゼ?」
「まさかあの世界樹に食いついてる馬鹿でかいカラクリのバケモノの事かしら〜!?」
目の前にいる薔薇水晶は皆の知っている薔薇水晶では無かった。
全身を鋼鉄で覆った・・・いや、鋼鉄そのもので作られた”鋼鉄薔薇水晶”とも言うべき代物となっていた。
「そんな鉄の塊になってまで復活して・・・一体何が目的なの!?」
『それは・・・復讐・・・。』


鋼鉄薔薇水晶が手を正面に翳した時、金属人形軍団が一斉に真紅達に襲い掛かった。
それを各個迎撃する為に三方向に散るドールズ。だが、鋼鉄人形を覆う金属のボディーは
余りにも固かった。
「かかか固いですぅ!!」
「痛いかしら〜!」
翠星石と金糸雀が攻撃しても逆に弾かれるどころか此方の方が痛い。何と言う堅さだろう。
そして真紅は鋼鉄薔薇水晶と相対していた。
「復讐が目的なら何故あのように世界樹を食い破ろうとするの!? 直接私達を攻撃すれば良いのに・・・。」
『貴女達に復讐する事が目的ではない・・・。目的はnのフィールドで離れ離れになったお父様の敵・・・。』
「貴女のお父様と言うと槐・・・。その敵というと・・・まさかお父様!?」
鋼鉄薔薇水晶の目的はローゼンだった。
『貴女達ごとき眼中にはない。私はお父様の敵を倒してお父様の作ったドール、すなわち私こそが
アリスに・・・いや、アリスを超えた存在になる・・・。』
「じゃあ何故世界樹にあんな事をするというの!?」
『ビグローゼが動く為には力が必要。だから世界樹から力を吸い上げている・・・。』
「そ・・・そんな事はさせないのだわ!」
真紅が跳んだ。しかし、鋼鉄薔薇水晶に容易く弾き飛ばされてしまう。
「壊れたって知らないわ!」
遠くに吹っ飛ばされるもむしろそれで助走距離を稼いだ真紅は忽ち距離をつめ、鋼鉄薔薇水晶に
絆パンチを打ち込んだ。直後、金属が砕ける甲高い音と共に鋼鉄薔薇水晶の左腕が吹き飛んだ。が・・・
なんと左腕の吹き飛んだ鋼鉄薔薇水晶の左肩からコードが延び、左手を形作ると共に
金属の装甲で覆われた。すなわち再生したのだ。
「え!? 嘘・・・。」
『私の弱点はビグローゼのメインコンピューターによってすぐに補強され修復される・・・。
貴女が死に物狂いで私を倒した所で・・・私は何度でも蘇る・・・さらに強くなって・・・。
つまり貴女は永遠に私を倒せない。』
「粉みじんになってもそんな事が言えるというの!?」
『やれるものならやってみなさい!』
今度は鋼鉄薔薇水晶の拳が真紅の腹部にめり込んだ。続いて首を掴み、締め上げた。
「うがぁぁぁぁ!」
『どうしたの? さっきの勢いは何処へ行ったの? これで終わり・・・。』
そのまま鋼鉄薔薇水晶が真紅の首を握り潰そうとした時だった。突如漆黒の羽が彼女の背中に突き刺さった。
『ん?』
鋼鉄薔薇水晶が後ろを向くと、そこにはローゼンメイデン第一ドール水銀燈の姿があった。
「す・・・水銀燈!」
「勘違いしないで頂戴。別にお馬鹿さんなあんたを助けに来たわけじゃないのよぉ・・・。
私はただお父様の命を狙う者を許せないだけよぉ!」
『脆弱なドールが何人いても同じ・・・。まとめてジャンクにしてあげる・・・。』
「ジャンクにするのはこっちよぉ! 後悔しないでぇ!」
水銀燈は鋼鉄薔薇水晶に向けて跳んだ。が、あっさり殴り飛ばされてしまった。


「水銀燈!」
「まだまだぁ!」
直ぐに戻ってくる水銀燈だが、鋼鉄薔薇水晶にあっさり押さえ込まれてしまった。
続いて脚を圧し折ろうとするが、それを真紅が止める。
しかし、その後鋼鉄薔薇水晶の怪光線によって二人まとめて吹き飛ばされてしまった。
なんと言う威力。もう二人は息も絶え絶えとなっていた。
「な・・・なんてバケモノなのぉ・・・。こっちは体力が落ちてきてると言うのに平然としてる・・・。」
「動ける? 水銀燈・・・。」
「気安く声を掛けないでぇ!」
「このまま行けば私達は確実に殺されるわ。もう後が無い・・・全力で二人同時にかかれば・・・。」
「わ・・・私に指図しないでぇ!」
「そ・・・その意気だわ・・・。くるわ! いいわね! 全力よ!!」
「わ・・・私に指図しないでぇぇ!!」
二人に目掛けて迫ってくる鋼鉄薔薇水晶に向けて二人は物凄い勢いで跳んだ。
そして二人による同時攻撃は鋼鉄薔薇水晶の鋼鉄の身体を突き破った。
だが、鋼鉄薔薇水晶には再生能力がある。忽ち破壊された断面からコードが伸び、
再生が開始されるが・・・
「させないわ!」
『うっ!?』
「消えてなくなりなさぁい!」
その再生面に真紅の薔薇の花弁と水銀燈の漆黒の羽が襲い掛かった。
再生が未完了の部分に負荷がかかり、鋼鉄薔薇水晶はたちまち自壊して行った・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」
「殆どの体力を使い切っちゃったわ・・・。」
もう二人ともに体力は限界に達しており、その場に倒れこんだ。が・・・
「!!?」
二人の目の前に倒したはずの鋼鉄薔薇水晶がいた。しかも一人だけではない。
二人・・・三人・・・十人・・・いや、もはや数百人にも及ぶ鋼鉄薔薇水晶が二人を取り囲んでいた。
「やっとこさ倒したと言うのに・・・。」
「ど・・・どうなっているのぉ・・・?」
『貴女達が倒した薔薇水晶も全てビグローゼの偉大な科学力が生み出したもの・・・。
これだけの鋼鉄薔薇水晶を敵に回して戦える力が貴女達に残っているかしら・・・。フフフフフ・・・。』
「はは・・・やっぱりやるしかないのだわ・・・。」
「め・・・目眩がするわぁ・・・。」
数百人の鋼鉄薔薇水晶軍団が一斉に二人に襲い掛かってきた。
「くるわ! うおおおおおおお!」
「お馬鹿さぁぁぁぁぁぁん!!」
残り少ない体力を振り絞って立ち向かう二人であるが、数百体の鋼鉄薔薇水晶軍団に敵うはずも無かった。


―――――――――――――――――――――――――
「こ・・・ここは・・・。」
二人は周囲を鋼鉄の壁で覆われた広大な部屋の中で全身にコードの様な物が接続される形で釣らされていた。
『フフフ・・・ビグローゼへようこそ・・・。』
「薔薇水晶・・・何処?」
『貴女達の目の前にいるのが私・・・。』
二人の目の前にいたのは頭だけになった薔薇水晶がビグローゼの機械と融合したおぞましい姿だった。
この薔薇水晶こそが本体で、彼女がここから鋼鉄薔薇水晶や金属人形達を操っている事を想像するに難くなかった。
『その昔・・・現実世界からnのフィールドに落ち込んだ物が漂う空間に一枚のコンピューターチップがあった・・・。
それはその自らの能力で長い時間を掛け増殖していった・・・。それはnのフィールドのあらゆる物を取り込み、
その力を吸収する事で成長していった・・・。今は数百メートルにも及ぶ巨大マシン要塞がこのビグローゼ・・・。
そしてnのフィールドでお父様とはぐれ、ただただnのフィールドを漂うだけと思われた私が運良く
ビグローゼに流れ着き、メインコンピューターと融合してコアとなってビグローゼを支配した・・・。
既に殆ど残っていなかった身体は鋼鉄薔薇水晶として再生せた・・・。』
「わ・・・私達をどうするつもり!?」
『ただの木偶人形に永遠の命を与えるローザミスティカが生み出す無限の力・・・それを全て貰う・・・。』
「何ですってぇ!? うぁ!!」
その時だった。二人の全身に接続されたコードから二人の体内の力が吸い上げられていった。
恐ろしいまでの力がコードを通して吸い上げられ、ビグローゼの動力源として変換されていく。
「うああああああ!!」
『フフフ・・・いいわ・・・もっと吸い取りなさい。これからは鋼鉄薔薇乙女を何万人と持つ事も出来るのよ・・・。』
なおも二人の力が吸い上げられ、二人の絶叫が広大な部屋中に響き渡った。
「ああああああああ!!」
『フフフフ・・・いいわ・・・力がみなぎる・・・。』
そして一通り二人の力を吸い上げた後、二人は死んだように動かなくなった。
『吸いきったようね・・・。ローザミスティカの力がこれほどとはね・・・。
これ以上吸い続けるとこっちが危ない所だったわ・・・。』
が・・・まだ二人は死んではいなかった。それどころかさらに力がコードを通してビグローゼへ流れ始めたのだ。
既に許容量が限界に来ていたビグローゼはその負荷に耐えられず爆発を起こしてしまう。
『何!? どうしたと言うの!? まだ力が残っていると言うの!?』
一体この力はどこから来るのか・・・二人の身体から恐ろしい程の力が流れていき、ビグローゼが悲鳴を上げる。
『やめて! 回路は閉じたはずよ! やめてぇ! 何故流れてくるの!? と・・・とにかくコードを引き抜かないと・・・。』
慌ててコードを抜こうとするも、なんと二人は逆にコードを掴み、力を放出続けたではないか。
『やめてぇぇぇぇ!! オーバーヒートする!! 限界よぉぉぉ!! やめてぇぇぇぇ!!』

その頃、金属人形軍団の猛攻に満身創痍になった翠星石と金糸雀は取り囲まれていた。
「も・・・もうだめですぅ・・・ジュン・・・助けてですぅ・・・。」
「みっちゃん帰ってこれなくてごめんかしら〜・・・。」
が、しかし、金属人形達は襲ってこなかった。それどころか一斉に機能を停止し、崩れ落ちたのだ。
数百体の鋼鉄薔薇水晶軍団共々に・・・
「え? これはどういう事ですぅ?」
「あ! あれを見るかしら〜!」
金糸雀が指差した先は次々と爆発を起こしていくビグローゼの姿があった。


『く・・・制御が利かない・・・ビグローゼが崩れていく・・・。ローザミスティカの力がこれ程までに
凄まじいものだったなんて・・・。』
「私達の力を甘く見たのがまちがいだった様ね・・・。こ・・・これで・・・あ・・・あともう一息なのだわ・・・。」
真紅は最後の力を振り絞って立ち上がった。
『フフフ・・・。そのさまでよくほざけるわね・・・。』
「貴女こそそんな頭しか無い格好でどうなるというの!? もう鉄で出来た薔薇水晶は
助けに来てはくれないのだわ!」
『フン・・・私自身の力はそれ程落ちてはいない・・・。ビグローゼは後ほどゆっくり直せば良い・・・。
今の貴女ごときこれで十分・・・。』
「もう二度と悪さ出来ない様にするしかないようね・・・。」
真紅は右手を翳し、残った力の全てを込めて一枚の真紅に輝く薔薇の花弁を作り出した。
それに対し薔薇水晶は彼方此方からコードを伸ばし、己の身体を形作っていった。
まさにコードの塊。もはやイミテイションとは言え薔薇乙女第七ドールを名乗った
薔薇水晶の面影は無く、幾多のコードや配線の絡み合う醜いバケモノとなっていたのだった。
『むかつくジャンクめ!!』
薔薇水晶はコードを真紅の全身に巻きつけ締め上げた。
「うあああああああ!!」
『貴女にこの私を倒す事は不可能なのよ!』
「ぐ・・・無理と分かっていても・・・やらなきゃならない時だってあるのだわぁぁぁ!!」
その時だった。一枚の漆黒の羽が真紅を締め上げるコードを切り裂いたのは・・・
『何!? 水銀燈・・・貴女ぁぁぁ!!』
「私達に出来ない事なんてぇ・・・無いのよぉ・・・。」
そう言い残し、水銀燈は倒れた。そして真紅に薔薇水晶を攻撃する隙を作ったのである。
「薔薇水晶!! これで・・・最後なのだわぁぁぁぁぁ!!」
真紅の投げた真紅に輝く一枚の薔薇の花弁が薔薇水晶の胸部、コードが幾重にも絡まった中に
かすかに見える僅かな隙間の中に吸い込まれていった。
『う・・・。うわああああああああ!!』
薔薇水晶の胸の中で大爆発を起こした薔薇の花弁は忽ちの内に薔薇水晶を吹き飛ばした。
僅かに残ったドールとしての身体ともどもに・・・。今度の今度こそ薔薇水晶の最期だった。
そして、支配者を失ったビグローゼも完全に崩壊していった・・・。

「真紅真紅! しっかりするですぅ!」
「あ・・・二人とも・・・。」
「目を覚ましたかしら〜!」
真紅が目を覚ますと、そこには翠星石と金糸雀がいた。だが、水銀燈の姿は無かった。
「あら? そう言えば水銀燈は・・・?」
「水銀燈の奴ならさっさとどっかに消えたですぅ。」
「そう・・・。でも今度だけは水銀燈のおかげで助かったわ・・・。あの子の力が無かったら・・・勝てなかったわ・・・。」

水銀燈はnのフィールドを飛んでいた。そして彼女の掌には一枚のコンピューターチップがあった。
「お馬鹿さぁん・・・。」
掌のコンピューターチップを握り潰すと、水銀燈はnのフィールドの彼方へ飛んでいった。
                    おわり






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