〜バレンタインデー〜 

「バレンタイン♪バレンタイン♪ジュンにチョコをつくるのよ〜♪」 
雛苺がウキウキしながら、のりに作り方を教えてもらっている。 
その横では、同じように翠星石と蒼星石が型にチョコレートを流し込んでいた。 
「ほら見るですぅ。これであとは冷ませばいいだけですぅ」 
「うん、楽しみだね」 
2人は冷蔵庫に作ったチョコレートを入れた。 
「まったく、この私が作ってあげるのだから感謝するのだわ」 
何と、あの真紅までもが、このチョコレート作りに参加している。 
そう今日は2月14日―バレンタインデーである。 
ジュンにチョコレートを贈るため、朝から真剣に作っているのだった。 

最初にこの件を提案したのは、のりだった。 
「ねぇ〜みんな〜、明日、ジュン君にみんなでチョコレートを贈りたいんだけど」 
「何でですぅ?何で私たちからジュンにチョコレートを贈んなきゃなんねぇですぅ」 
「明日ね〜、バレンタインデーだからみんなでジュン君にあげたいのよ〜」 
ちょっと不満顔の翠星石にのりが説明する。だが、その説明に反論するかのように 
今度は真紅が発言する。 
「バレンタインデーは、大事な人にプレゼントを贈る日なのだわ。ならば、私たちが 
ジュンに贈るのではなく、ジュンが私たちに贈るべきなのだわ」 
心外だ!と言わんばかりの真紅。彼女の言っていることは欧米風のバレンタインデー 
である。あくまで真紅はヨーロッパスタイルを貫くつもりのようだ。 
「でも〜真紅ちゃん。ここは日本だから。『郷に入りては郷に従え』って言うでしょ」 
そうやって笑いかけるのりに、元気な賛同者が現れた。 
「うわ〜いいの〜♪ヒナ、チョコ作って、ジュンにあげるの♪」 
「ありがとうヒナちゃん」 
「うん!」 
のりは心から嬉しそうに雛苺にお礼を言った。こうなると真紅と翠星石も断り辛くなる。 
「ねぇ真紅ちゃん、翠星石ちゃん。お願い。ねっ」 
真紅と翠星石は顔を見合わせると、仕方ないといった風情で承諾した。 

材料は前日にのりが買い込んだので、買い物の必要はなかった。 
チョコレートを作るための容器や道具を集めて作業に取り掛かる。 
途中から蒼星石も参加して作業にも熱が入った。 
「あらあら、真紅ちゃん。これじゃパウダーが多すぎるわ」 
「パウダーの分際で、私に逆らうなんて!!!」 
別に逆らってはいないのだが、思うようにいかないことに真紅はかなり御立腹だ。 
「イヒヒヒ、チビ人間め。この翠星石特製のチョコを食べて嬉しさと幸せで 
悶え死ぬがいいですぅ」 
「殺してどうするの」 
こちらはこちらでノロケているのか殺る気なのかの翠星石とそれにツッコむ蒼星石である。 
「チョコ♪チョコ♪チョコ♪ヒナがおいしく作るのよ〜♪」 
雛苺はウキウキしながら楽しくチョコ作り、ジュンだけでなく巴の分も作っていた。 
こうしてドタバタとしながら、チョコレートは完成したのだった。 

2階であいもかわらず、ネット通販をしていたジュンはそれにも飽きてようやく1階に 
下りてきた。チョコレートの甘い匂いがジュンを包んでいく。 
「なあ、何やってんだよ」 
リビングに入ってきたジュンに雛苺が抱きついてくる。 
「ジュ〜ン!ジュ〜ン!」 
「うわ、な、何だよ」 
「これね、ヒナがジュンのために作ったの♪」 
雛苺から貰ったのはちょっと形のイビツなチョコレート。だが、ジュンのために 
一生懸命に作ったことが見てとれる心のこもったものだった。 
「これを、僕に?」 
「うん!ヒナがね。ジュンが元気が出るようにって作ったの♪」 
「あ、ありがとう」 
不器用にお礼を言うジュン。そこに今度は翠星石と蒼星石がチョコを持ってきた。 
「こ、こ、これくれてやるですぅ!じっくり味わって、翠星石のありがたみを 
思い知るがいいですぅ!」 
「あ、あのな〜・・・」 
お礼を言っていいやらなにやらで少し呆れるジュン。今度は蒼星石がチョコを手渡す。 
「あのジュン君、これ食べて」 
「あ、ああ、ありがとう」 
お互いに照れ臭いのか、ジュンも蒼星石も伏し目がちになっている。それでも思いは 
十分に伝わっていた。 

続いてはのりである。 
「はいジュン君、どうぞ〜」 
「あ、ありがとう。でもよく考えたら毎年もらってんだよな〜」 
「そうだけど、初めてだよね。こうやって普通に手渡しできるのって」 
確かにそうだった。去年はただ部屋の前に置かれていただけだったのだから。 
のりにとってはこうしてジュンに手渡すことができるのが何よりも嬉しいことだった。 
そして最後に真打ち登場である。 
「さあジュン、跪いてありがたく受け取りなさい。私が丹精込めて作った 
究極かつ至高のチョコレートなのだわ」 
ありがたく受け取りはするが跪くまではしないジュンは、真紅の作った究極かつ至高の 
チョコレートをまじまじと見つめる。 
「なあ、これまさか・・・」 
「もちろん、私特製のくんくんチョコレートなのだわ」 
さすがは真紅。どこまでもくんくん、何事にもくんくんである。 
「・・・あ、ありがとう」 
少し素で引いてはいるが、ジュンは真紅にもお礼を言った。 
5つのチョコレートを抱えたジュンを見てのりはとてもうれしそうだった。 
「真紅ちゃん、ヒナちゃん、翠星石ちゃんに蒼星石ちゃん。どうもありがとう」 
「うん!ジュンだ〜い好き!!」 
「仕方ねぇから、作っただけですぅ。自惚れるなですぅ」 
「どういたしまして」 
「お礼は来月、10倍にして返してもらうわ。それとジュン紅茶を淹れて頂戴」 
こうしてバレンタインデーは成功のうちに終わったのだった。 

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