ついにジュンが復学する日がやって来た。朝早く、久し振りの学生服に身を包んだジュンが
玄関に立ち、ドアノブを掴んでドアを開こうとしたが・・・
「どうしたの?ジュン・・・。」
「体が動かないんだ・・・なぜか・・・。」
ジュンはドアノブを捻る事が出来なかった。まだジュンの心の中に外の世界や
彼が引きこもりになった原因を作った人々などに対する恐怖心が残っていたのだろう。
本人は学校に行こうとしていても、その深層に残った恐怖心がジュンの動きを止めていたのだった。
「まったく・・・最後までだらしの無い下僕ね。」
珍しく玄関までジュンを見送りに来ていた真紅が呆れた表情でジュンに近寄って来た。
「ジュン、こっちに来なさい。元気の出るおまじないをしてあげるのだわ。」
「元気の出るおまじない?お前まさかまた変な力を使ったりするんじゃ無いだろうな?」
ジュンは自分の薬指にはめられた契約の指輪を真紅に見せた。
ジュンは分かっていた。真紅が不思議な力を使う時はマスターであるジュン自身の体力が使われる事を。
「そんな事されてしまったら元気になる所か逆に疲れてしまうんだぞ。」
「そのような事はしないわ・・・。」
そう言うと真紅はジュンの両頬に己の両手を優しく添えた。そして・・・
「んん!!?」
ジュンの目が大きく見開き、飛び出しそうになった。
真紅がジュンの唇にキスをしていたのだ。軽く唇が触れ合うような生易しい物ではない。
二人の唇同士が強く密着しあうと言う深いものだった。
「んー!んー!」
ジュンはもがいた。確かに真紅がジュンに抱っこするように言ってくる事は良くあったが、
キスされる事など初めての事だった。何より相手は人形である。
この事がジュンにとって衝撃的な物であった事は想像に難くない。
しかし、真紅は離さなかった。ジュンの頬に手を添えていた両手も徐々に力が入り、
唇を強く密着させ続けていたのである。その間およそ10秒間。
「んわぁぁぁぁ!いい加減にしろぉぉぉ!」
ジュンは錯乱する余り、真紅をまるで捨てるように放った。尻餅を付いて倒れる真紅。
「痛いじゃないの。仕方の無い下僕ね。」
「何が元気の出るおまじないだ!!ふざけるんじゃないぞ!!」
ジュンは顔を真っ赤にさせながら真紅に対し怒鳴り散らすと、まるでドアを
引き千切らんかのような勢いで開き、そのまま学校へ向けて走り去っていった。
「ほら、元気が出たでしょ?」
物凄い勢いで学校へ向けて駆けていくジュンの背中を見詰めながら真紅はかすかに微笑んだ。
おわり