ある日真紅とジュンが喧嘩した。真紅がうっかりジュンが大切にしていた通販グッズを 
壊してしまった事が原因だった。 
「なんて事してくれたんだお前は!これ結構気に入ってたんだぞ!」 
「お黙りなさい!誰に口を聞いていると言うの!?それにそんな大切な物を 
こんな所において置くジュンが悪いのではなくて!?」 
「何だとぉ!?」 
もしこれで真紅が素直に謝っていれば大した事にはならなかったのかもしれない。 
しかし、プライドの高い真紅が下僕であるジュンに頭を下げる事など出来るはずがない。 
その為に二人の仲が険悪な物となってしまっていた。そんな時に騒ぎを聞きつけた 
翠星石と雛苺が部屋に入って来たのだった。 
「一体何がどうしたですぅ?」 
「翠星石に雛苺!二人とも聞いて頂戴。実はジュンが・・・。」 
真紅はそれまでのいきさつを二人に話した。翠星石と雛苺なら自分の気持ちを 
分かってくれて、自分の味方になってくれるだろう。真紅はそう信じていたが・・・ 
「それは真紅が悪いですぅ。」 
「そうなのよ。」 
「え!?」 
予想外の返事に真紅は驚愕した。予想外だったのはジュンにとっても同様だったらしく、 
そちらも思わず目を丸くしてしまっていた。 
「何故!?何故なの!?ジュンは私の下僕のくせに反抗したと言うのに・・・。」 
「だって元々は真紅がジュンが大切にしてた物を壊したからですぅ。そりゃそんな 
大切な物を壊されるような場所に置きやがる様なジュンも悪いと言えますけどぉ、 
法律的観点から考えた場合、やっぱり悪いのは直接ジュンの物を壊した真紅ですぅ。 
真紅はジュンに頭を下げて謝るべきですぅ。」 
「そうなのよ。」 
「あ・・・頭を下げる!?馬鹿言わないで!下僕にそんな事出来るわけないじゃない!」 
「何を言うですか?主と言えども己の非は素直に認める潔さは必要ですぅ。 
ただ威張っているだけでは下僕も付いて来やがらねぇですよ。」 
どんな風の吹き回しなのか、ジュンの味方をする翠星石にジュンは黙り込むばかりだったが、 
真紅にとっては忌々しい事この上無かった。 
「見損なったわ!もう貴女達は姉妹でも何でもない!ジュンももう下僕なんかじゃないのだわ!」 
怒った真紅は涙目になりながら己の鞄を掴んでドアの外に出た。 
「ちょっと待て!何処へ行くんだ!?」 
「何処でも良いでしょう!?」 
家の外に出るなり真紅はそのままいずこへと走り去ってしまった。 
「待てよ真紅!」 
こればかりはジュンも大人気ないと思えてきたのか、真紅の後を追おうとした。 
しかし、それを翠星石が強引に引っ張って止めた。 
「追ってはダメですぅ!」 
「何するんだ!?真紅が出て行ってしまったんだぞ!?」 
「今回の事は真紅が悪いですよ。なのにジュンの方が追ってしまってどうするですぅ!?」 
「しかしな・・・。」 
「しかしじゃないですぅ!真紅もいい加減学ぶべきですぅ。ただ威張っていれば 
いいだけじゃない。人の上に立つ者も人の上に立つ者なりの責任と言う物がある事を・・・。」 

真紅は公園の土管の中で泣き崩れていた。 
「もうあんな分からず屋は姉妹や下僕でも何でも無いのだわ・・・もう・・・もう・・・。」 
下僕に反抗され、信じていた姉妹にも裏切られた。もう誰も信じられない。 
自分の非をどうしても認められない真紅はそう考えるしかなかった。 
そうして泣き続けたが、その時丁度日が暮れ始めていた。 
「もうこんな時間なのね・・・。」 
土管から真紅はゆっくりと外を覗いた。すると親に連れられて家に帰る子供の姿が見られた。 
それを見ていると、真紅も家に帰りたくなって来た。しかし、喧嘩して家を飛び出したのだ。 
今更帰る事など出来るだろうか・・・。これが雛苺や翠星石ならあっさり泣いて謝る事も出来るだろう。 
しかし、プライドの高い真紅にはそんな事が出来ようはずがない。 

「どうせジュンの方から探しに来るに決まってるのだわ。ジュンがどうしてもって謝るなら 
帰ってあげない事も・・・ない・・・の・・・だわ・・・。」 
口では強がっていたが、その口調には何処か何時もの自信が感じられなかった。 
そして何時まで待ってもジュンが探しに繰るような気配は見られない。 
「ジュン・・・何をしていると言うの?私はここなのだわ・・・。」 
真紅は小声で何度もそう独り言を言うが、来る事は無かった。そしてすっかり夜になってしまっていた。 
「あ・・・今日はくんくんがある日だったのだわ。でも、今日はくんくんの活躍は 
見れないわね。残念だわ・・・。」 
真紅は土管の中でうつ伏せになって寝転び、昼間の事を振り返った。 
「確かに私は・・・大人気なかったのかもしれない・・・。」 

「真紅ちゃんまだ帰ってこないの?」 
「うん・・・。」 
ジュン達はもう夕飯を食べ終え、食器も片付けられてしまっていたが、 
テーブルには真紅の分だけが寂しく残されていた。 
そしてジュンは真紅に対する怒りの念が失せてしまった事もあり、真紅を探しに行こうとした。 
「翠星石の奴は行くなと言ったけど知るもんか。僕は真紅を探しに行ってくる!」 
「待つですよ。」 
翠星石がジュンの前に立ち塞がった。 
「止めても無駄だからな。僕は行くぞ。」 
「その前に庭の中に紛れ込んだ野良猫を追っ払いやがれですぅ。」 
「はぁ?野良猫?それが庭の中に入って来たくらいどうって事無いだろ?」 
が、次の瞬間翠星石はジュンの脛を蹴っ飛ばし、思わずジュンは脛を押さえて痛がっていた。 
「良いから行くですぅ!庭に行って野良猫を追っ払うですよ!」 
「わ・・・わかった!分かったから行くよ!」 
ジュンは庭に通じる窓のある部屋へ向かった。が、庭を見渡しても野良猫の姿など見られなかった。 
「おいおい。猫なんて何処にもいないじゃないかって・・・。」 
その時、庭の隅に人影が見えた。暗い為良く分からないがシルエットで分かる。真紅である。 
「今更どの面下げて帰ってきたんだ?」 
確かに今のジュンはもう真紅に対する怒りの念は失せてしまっている。 
しかし、翠星石に言われた事を思い出し、表面上だけでもまだ怒っている様に見せる事にしていた。 
だがこれはジュンにとって失敗だったのでは?とも思い始めていた。プライドの高い真紅の性格から 
考えて、また喧嘩になる事は目に見えていたからであるが・・・ 
「ごめんなさい・・・。」 
「え・・・?」 
ジュンは唖然とした。真紅がジュンに対し頭を下げている。それは真に信じられない光景だった。 
「ごめんなさい・・・大切なものを壊してしまってごめんなさい・・・ジュン・・・。」 
形だけではない。その顔は泣き崩れ、真紅はジュンに頭を下げて謝っていた。 
「真紅・・・おかえり・・・。」 
ジュンは微笑みながら真紅を抱き上げた。すると後ろから翠星石が現れた。 
「ほらぁ!真紅もやれば出来るですぅ!」 
そう言って翠星石が真紅に一本のビデオカセットを渡す。 
「ほら!今日の分のくんくん録画しておいたですぅ。ありがたく受け取れですぅ!」 

雨降って地固まる。こうして桜田家に平穏が戻った。 
                   おしまい 

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