真紅は水銀燈に猛攻を受け、大切なドレスをボロボロにされてしまった。 
皆の協力を得て、真紅自身は何とか助かる事が出来たが、真紅が今まで着ていた 
赤いドレスは水銀燈の黒い羽によって、新調した方が早いと思える程にまで切り刻まれてしまった。 

「お父様から頂いた大切なドレスをボロボロにされてしまった・・・。私は不恰好だわ・・・、ジャンクだわ・・・。」 
今はジュンの部屋のタンスの中にあった赤いシャツを代わりに着ていたが、真紅のショックは大きく、 
一人鞄の中に閉じこもって泣きじゃくっていた。仕方の無い事である。真紅は自身を包んでいた 
真紅のドレスと共に数百年近い時を過ごして来たのである。当然相当な愛着もあっただろう。 
それが突然失われてしまう。これは自分自身の体の一部が失われるに等しいショックだった。 
「流石に見てられないよな・・・。」 
真紅の閉じこもった鞄を見つめながら、ジュンは呟くと共に机の中から一つの裁縫箱を取り出した。 

泣き疲れていつの間にか眠ってしまった真紅が目を覚ました時、既に朝になっていた。 
そして鞄から外に出た時、真紅の目に最初に飛び込んで来たのは机によりかかって眠るジュンの姿だった。 
「ただでさえ私が水銀燈に大切なドレスをボロボロにされて悲しんでる時に 
そんな行儀の悪い事が出来るなんて・・・良いご身分ね・・・ジュン!」 
悲しみと怒りが混じりあい、冷静な判断が出来なくなっていた真紅はそんな何と言う事も無い事でも 
怒り出し、ジュンの頬に平手打ちをしようと手を振り上げた。が、直後に真紅の手が止まった。 
「それは・・・。」 
真紅が見た物、それはジュンの机の上に置かれた赤いドレスだった。と、その時に丁度ジュンも目を覚ました。 
「何だ・・・真紅起きてたのか・・・。」 
「ジュン・・・これは一体何?」 
「何って・・・お前用の新しいドレスだよ。何時までもそんな格好はまずいしな。」 
「・・・。」 
ジュンは真紅の為に新しく作ったドレスを広げて真紅に見せた。デザイン等は本来の真紅のドレスとは 
異なっていたが、真紅のカラーリングと言う点は共通していたし、その完成度もプロでも通用出来る程の 
物だった。 
「僕なりのアレンジとかしてみたんだけど、ダメかな?ほら、漫画やTVでよくあるだろ? 
ヒーローとかがパワーアップした時に服装とかも若干変わったりするじゃないか。あれ見たいな感じでさ・・・。」 
「ダメなのだわ。」 
「!?」 
単刀直入すぎる真紅の返答に眠気眼だったジュンの目は大きく見開いた。 
「確かにジュンが作った物だから良く出来ているのだわ。でも、私はお父様が作った薔薇乙女・・・。 
だから・・・そんな物は着られないのだわ。」 
「そんな事言うなよ。こっちだってせっかく徹夜して作ったんだぞ・・・。」 
真紅の厳しい返答にジュンも怒りそうになった。だが、結局怒らなかった。真紅は口では 
ジュンの作ったドレスを拒否していても、今直ぐに着てみたいと言う顔をしていたからである。 
これが雛苺や金糸雀みたいなタイプならあっさり着ていたのだろうが、真紅は薔薇乙女の中でも 
プライドが高い。例え内心興味があっても、それを着てしまうのは何かに負けてしまう気がしたのだろう。 
何より前述した彼女のプライドが許さないはずである。そして真紅は、ジュンに対して 
申し訳ないと言った顔をしながら部屋を出て一階に下りていった。その間も、ジュンの作った 
ドレスを何度もチラチラと見つめていた。本当は着たくてしょうがなかったのである。 
「全く素直じゃないな・・・。分かったよ。ここに置いとくから着たくなったらいつでも着ていいからな。」 

それから真紅は一階でテレビを見ていたのだが、やはり内心葛藤していた。 
「ジュンの作ってくれたドレスは真紅にとっても素晴らしく、是非着て見たい」と言う気持ちと 
「お父様が作った薔薇乙女第五ドールとしてのプライド」がそれぞれぶつかり合い、落ち着いて 
テレビを視聴する事もままならなかった。だが、ここで意外な物が真紅に決断のきっかけを作る事となる。 
それは真紅が何気無くテレビをつけた時にやっていたロボットアニメだった。 
普段なら馬鹿馬鹿しいと直ぐにチャンネルを変える所であるが、今は何故かそれを見入っていた。 
その中に主役のロボットが敵に破壊されてしまうが、修理ではなく新開発の部品を使う事で 
パワーアップして復活すると言う内容のシーンがあった。また、コマーシャルの際にも 
他の番組に関連したCMで色々な部品を組み替えて自分だけのキャラクターを作るといった 
玩具のCMや、いわゆる着せ替え人形のCMなどがあった。 
それに無意識の内に影響されてしまったのだろうか。いつの間にかに真紅の中に 
「例え傷付いても、壊されても、新しい部品で補修すれば良いじゃない。壊れたままにしておくより 
遥かにマシだろうから。だから、やっぱりあのドレスを着てもいいかもしれない。」 
と言う気持ちが芽生えていた。 

それから真紅はジュンの部屋にいた。ジュンは部屋にはいなかった。トイレだろうか。 
だが、真紅にとっては都合が良かった。先程ジュンの真心を突っぱねてしまっただけに 
今更になってその服を着させてくださいと頼むのは真紅にとっても申し訳なかった。 
だが、今はジュンの姿は無い。故に安心して着る事が出来た。 
「流石はジュンの作ってくれたドレス・・・お父様のには負けるけど・・・良い出来だわ・・・。」 
ジュンの作った新しいドレスを着た真紅は鏡の前でクルリを一回転していた。 
そのドレスは現代人であるジュンの感性によって割りと現代的な部分があり、 
真紅がそれまで着ていたドレスとはまた異なる特色を持ったドレスであったが、 
真紅との親和性も含め、これはこれで中々素敵なドレスであった。と、その時だった。 
「やっぱり何だかんだで着てるじゃないか。」 
「ジュン!」 
突然ドアが開いてジュンが部屋の中に入って来た。それには真紅も思わず後ずさりする。 
「ジュン!謀ったわね!」 
「何言ってるんだよ。そっちだってまんざらでも無い顔してるくせに。」 
口では否定しようとしていても新しいドレスに対する喜びは完全に隠せなかった。 
「そうなのだわ!あんな赤いシャツを着続けるよりかはマシなのだわ!」 
「げっコイツ開き直りやがった!」 
どう言い訳しても言い繕えないと判断した真紅は結局開き直ってしまった。 
「そんな事よりジュン!お茶を淹れてきて頂戴!」 
「何だ?やっぱ恥かしいか?ってうわっ!」 
口答えしたジュンに対してお約束のツインテール攻撃。幸い回避できたジュンだが、 
仕方なくお茶を淹れてくる事にした。そしてドアを閉じる時に真紅がかすかにこう言った様な気がした。 
「次はもっと・・・水銀燈も嫉妬するような素敵なドレスを作りなさい・・・。」 

数日後、真紅は水銀燈と対峙していた。ジュンが作った新しいドレスで心機一転して 
水銀燈に対してリベンジしようと言う魂胆である。 
「あ〜らぁ、真紅そのドレスどうしちゃったのぉ?」 
「ジュンが新しく作ってくれたドレスなのだわ。」 
「どうしようもないお馬鹿さんねぇ。お父様から頂いたドレスじゃないとアリスにはなれないのよぉ。」 
「何とでも言うがいいわ。私はジュンとの絆によって誕生したこの新しいドレスでアリスを目指すのだわ。」 
両者はにらみ合う。一触即発の事態。そしてアリスゲームが始まる・・・と思われた時だった。 
水銀燈がある事を思い出した。 
「そういえばあんた、時間のネジを巻き戻して壊れた物も元に戻せなかったっけぇ?」 
「あ・・・そ・・・そういえば・・・。」 
「忘れてたのね・・・。」 
それから、双方共に気まずい表情で硬直する。 
せっかく盛り上がったムードが水銀燈の余計な一言によって一気に台無しになってしまった。 
                     おわり 

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