「じゃあ行って来るよ。」
「行ってらっしゃいなのー!」
とある休日、出かける為にドアの外に出るジュンを雛苺が見送っていた。
色々あってジュンはヒキコモリを克服し、さらに猛勉強のかいあって学業面でも皆に追い付く事が出来た。
確かに復学直後は他の者に色々言われたりと、またヒキコモリに逆戻りしそうになった事もあった。
だが、実際にはそうならなかった。ジュン自身の頑張りも確かにあるのだが、巴がジュンを支えた事も
また大きく、そして何時しか二人は本格的に付き合うようになっていた。この日もジュンは巴と
映画を見に行く約束をしていたのであるが、それを快く思わない者がいた。
「キィィィィ!!チビ人間なんかに彼女なんて46億年早いですぅ!!
チビ人間は一生翠星石に仕えていれば良いですぅ!!」
ジュンの家に居候している薔薇乙女第3ドール翠星石、彼女こそその筆頭であり、まるで子供の様に
駄々をこねて部屋中を騒ぎまわっていた。
「悔しいです悔しいですぅ!!あんなチビ女なんかよりも翠星石の方が一億倍も可愛いですぅ!!」
「アハハ、翠星石まるで子供みたいなのー。」
「チビ苺なんかに言われたくないですぅ!!」
第6ドール雛苺に馬鹿にされた翠星石は真剣に怒っていたが、雛苺は相変わらず笑っていた。
「雛苺!!お前だって悔しくないですかぁ!!」
「えー?雛はジュンも巴も大好きだから二人が仲良くするのは嬉しいのー。」
「・・・。」
翠星石は無言で肩を落とす。
「お子様なチビ苺なんかに聞いたのが間違いだったですぅ・・・。」
「まったく・・・、どっちがお子様なのか分かった物ではないわね。」
「真紅!?」
今度は第5ドール真紅が翠星石にキツイ一言を言い放った。
「真紅!!そうですぅ!!真紅ですぅ!!真紅なら私の気持ちがわかるですよねぇ!!
あんなチビ女なんかにジュンを取られて悔しいですよねぇ!!
ジュンを下僕として使っている真紅ならばと翠星石はジュンに詰め寄るが、真紅は無情だった。
「いいこと?翠星石・・・。私達は歳を取らないドールだけど、ジュンや巴は人間。
だから二人とも歳を取っていくのだわ。そして歳を取るからこその考え方の変化もあるでしょう。
こうして二人が本格的に付き合うようになったのもまさにそれなのだわ。それに、
仮にこのまま二人が大人になって結婚するような事があったとしても、ジュンが私の下僕である事は
変わらない。いや、むしろ下僕がもう一人増えて得なのだわ。そして子供が生まれたら、その子も
私が直々に下僕にしてあげるのだわ。」
「真紅の薄情者ぉ!!もういいですぅ!!一人で何とかしてやるですぅ!!」
大粒の涙を飛び散らしながら翠星石はその場から走り去った。しかし、真紅と雛苺は呆れた顔をしていた。
「まったく、翠星石も何だかんだ言ってまだまだ子供ね・・・。雛苺の方よっぽどしっかりしてるのだわ。」
「雛、真紅に褒められちゃったー。」
雛苺は少し嬉しそうな顔をしていたが、その後で真紅が立ち上がって部屋を出た。
「真紅どうしたの?」
「ジュンの部屋でお昼寝でもするから、静かにして欲しいのだわ。」
「うんわかったー。雛一階でテレビ見てるー。」
そうして真紅は階段を上っていった。
ジュンの部屋に入り、ドアを閉めた真紅は部屋の電気も点けずに寝転がった。しかも自分の鞄ではなく
ジュンのベッドにである。そして、真紅の目には大粒の涙が浮かんでいた。
「どうして・・・どうして涙が出てくると言うの・・・。今までにも様々な人間との出会いと別れを
経験して来たと言うのに、何故ジュンにだけ涙が出てくると言うの・・・。」
表面的には無頓着な態度を取っていた真紅だが、心の奥底では彼女もまた悲しんでいた。
そして翠星石と違って外に発散させない分、その悲しみは翠星石とは比較にならない物だったのである。
「何故涙が出てくるの・・・。ジュンは人間で、私はドールなのよ・・・。だからいつかは別れが来るのだわ。
それは今までにも既に何度も経験している事・・・。なのに・・・何故ジュンがこんなにまで愛しいの・・・。」
真紅もジュンの事を愛していた。だが、翠星石と違い彼女は物事の分別が分かるドールである。
いや、むしろそれが分かるからこそ余計に葛藤していたのかもしれない。
「私達はドールで、ジュン達は人間。」
「ジュンの精神的成長は私にとっても嬉しい事。」
「でもジュンが他の女の所に行ってしまうのは悔しい。」
「けど流石に翠星石みたいに子供みたいに騒ぐ事は出来ない。」
など、様々な気持ちが真紅の心の中でぶつかり合っていた。
「ジュン・・・生涯真紅の下僕でいてくれるのよね・・・。私を置いてどこかに行ったりはしないのよね・・・。」
真紅はジュンのベッドにうつ伏せになったままそう何度も問いかけていた。だが、部屋には真紅以外の
誰もいない。真紅の目からは涙がますます溢れてきていた。いくらクールに振舞っていても
彼女もまた以前ジュンにこっそり打ち明けた通りに怖がりな少女なのである。
そんな時だった。ジュンのパソコンのディスプレイから水銀燈が現れたのは。
「あ〜らどうしたの?お馬鹿さぁん。」
「そうなのだわ・・・私はドールであるにも関わらず身の程知らずな考えを持ったお馬鹿さんなのだわ・・・。」
「ええ!?」
真紅の普通では無い言動に水銀燈は唖然とした。普段なら水銀燈が少し煽れば、真紅は怒って
突っかかってくるはずである。だが、今は違う。もう水銀燈に突っかかっていく気にさえならない程
いじけてしまっていたのだ。それには流石の水銀燈も心配になった。
「ちょっと!どうしたのよぉ真紅!何で・・・何でそんないじけてるのよぉ!」
水銀燈は真紅の体を揺さぶるが、真紅はベッドに蹲ったまま動かなかった。
「私は水銀燈の言う通りのお馬鹿さんなのだわ・・・。」
「あっさり肯定しちゃこっちが困るのよぉ!いつもの強気の真紅に戻って私をジャンクとか罵ってみなさいよぉ!」
「・・・。」
ついに真紅はそのまま黙り込んでしまった。そしてかすかに真紅が泣いているのが水銀燈の耳に入った。
「泣いているのねぇ・・・。一体何があったと言うのぉ?」
水銀燈は心配そうな顔で真紅の背を摩った。水銀燈らしくない行動。だが、こんな真紅の姿は
水銀燈にとっても面白くなかった。相手を馬鹿にする行動一つをとっても、その相手が必死に
それを否定しようとする姿が水銀燈にとって面白いから良いのであって、あっさりそれを受け入れて
しまったのでは全く面白い物ではなかった。ましてや今の真紅の精神状態では仮にローザミスティカを
奪ったとしても、水銀燈の方に悪影響が出てしまうかもしれない。だから水銀燈としても
一刻も早く何時もの真紅に戻って欲しかった。
「実は・・・。」
真紅は目に涙を浮かばせながら話した。何故自分が泣いているのかを・・・
「あ〜らそんな事なのぉ!馬鹿みたい!」
話を聞くなり水銀燈は笑いながら立ち上がった。
「ならその巴って子を殺せば良いって事じゃなぁい。簡単な事よぉ。それに、この国の警察力じゃ
nのフィールドなんてわかりっこないしぃ。完全犯罪も可能よぉ。」
「それはダメなのだわ。」
立ち去ろうとした水銀燈を真紅が涙目で呼び止めた。
「何でよぉ。アンタはその巴って子が目障りなんでしょぉ?」
「確かに貴女ならこの国の警察の基準から見た場合の完全犯罪も可能なのだわ・・・。もっとも、
くんくんには敵わないでしょうけど・・・。でも、私はジュンの幸せのお人形。そして巴が
死ねばジュンは悲しむのだわ。だからそんな事はやってはいけないのだわ。」
「じゃあ・・・貴女はどうするの?」
「・・・。」
水銀燈は真紅を睨みながら問うが、真紅は黙り込んだ。と、その直後だった。水銀燈が
真紅の首元のリボンを掴み挙げると真紅の頬に平手打ちを放ったのだった。
「まったくうっとおしい!!私が知ってる真紅は確かにお馬鹿さんだけどこんな腑抜けじゃないのよぉ!!
ホラホラ!!悔しかったらいつもの強気の真紅に戻って私をジャンク呼ばわりしてみなさぁい!!」
水銀燈は真紅の頬に何発も平手打ちを放つ。それは次第に水銀燈の手さえ赤くはれ上がる程だった。
水銀燈も真剣なのである。真剣だからこそこのような事が出来るのである。そしてその直後だった。
今度は真紅の右拳が水銀燈の左頬に叩き込まれていた。
「あんまり馬鹿にしないで欲しいのだわ・・・。私だって・・・私だってやってやるのだわ・・・。」
その時の真紅の顔は先程までの腑抜けた顔ではない。真剣に物事に打ち込む顔になっていた。
「そう・・・それで良いのよ・・・。これでもう心配はいらないわねぇ。そしてこの問題が解決したら・・・
その時は私が貴女のローザミスティカを奪ってあげる。」
「なら私だって貴女の顔面をもう一度殴って、さらに羽を全てむしりとってやるのだわ。」
「そして戦って戦って疲弊した所を私が乱入して貴女達の体を頂く漁夫の利作戦・・・。」
「え!?」
どさくさに紛れていつの間にか雪華綺晶までジュンの部屋にいた。だが、二人に見付かるなり
彼女はさっさと帰っていった。
「・・・。」
「ハア・・・。じゃ・・・帰るわねぇ・・・。」
雪華綺晶一人のせいでせっかく盛り上がっていたムードが台無しになってしまった。
「実は・・・。」
真紅は目に涙を浮かばせながら話した。何故自分が泣いているのかを・・・
「あ〜らそんな事なのぉ!馬鹿みたい!」
話を聞くなり水銀燈は笑いながら立ち上がった。
「ならその巴って子を殺せば良いって事じゃなぁい。簡単な事よぉ。それに、この国の警察力じゃ
nのフィールドなんてわかりっこないしぃ。完全犯罪も可能よぉ。」
「それはダメなのだわ。」
立ち去ろうとした水銀燈を真紅が涙目で呼び止めた。
「何でよぉ。アンタはその巴って子が目障りなんでしょぉ?」
「確かに貴女ならこの国の警察の基準から見た場合の完全犯罪も可能なのだわ・・・。もっとも、
くんくんには敵わないでしょうけど・・・。でも、私はジュンの幸せのお人形。そして巴が
死ねばジュンは悲しむのだわ。だからそんな事はやってはいけないのだわ。」
「じゃあ・・・貴女はどうするの?」
「・・・。」
水銀燈は真紅を睨みながら問うが、真紅は黙り込んだ。と、その直後だった。水銀燈が
真紅の首元のリボンを掴み挙げると真紅の頬に平手打ちを放ったのだった。
「まったくうっとおしい!!ウジウジウジウジとぉ!私が知ってる真紅は確かにお馬鹿さんだけど
こんな腑抜けじゃないのよぉ!!ホラホラ!!悔しかったらいつもの強気の真紅に戻って
私をジャンク呼ばわりしてみなさぁい!!」
水銀燈は真紅の頬に何発も平手打ちを放つ。それは次第に水銀燈の手さえ赤くはれ上がる程だった。
水銀燈も真剣なのである。真剣だからこそこのような事が出来るのである。そしてその直後だった。
今度は真紅の右拳が水銀燈の左頬に叩き込まれていた。
「あんまり馬鹿にしないで欲しいのだわ・・・。私だって・・・私だってやってやるのだわ・・・。」
その時の真紅の顔は先程までの腑抜けた顔ではない。真剣に物事に打ち込む顔になっていた。
「そう・・・それで良いのよ・・・。これでもう心配はいらないわねぇ。そしてこの問題が解決したら・・・
その時は私が貴女のローザミスティカを奪ってあげる。」
「なら私だって貴女の顔面をもう一度殴って、さらに羽を全てむしりとってやるのだわ。」
「そして戦って戦って疲弊した所を私が乱入して貴女達の体を頂く漁夫の利作戦・・・。」
「え!?」
どさくさに紛れていつの間にか雪華綺晶までジュンの部屋にいた。だが、二人に見付かるなり
彼女はさっさと帰っていった。
「・・・。」
「ハア・・・。じゃ・・・帰るわねぇ・・・。」
雪華綺晶一人のせいでせっかく盛り上がっていたムードが台無しになってしまった。
水銀燈が帰ってしばらく後、ジュンが帰って来た。と、その直後に真紅のツインテールがジュンを襲った。
「うわぁ!何だいきなり!」
「ジュン!のどが渇いたわ。お茶を淹れて頂戴!」
「な!帰って来て早々何を言うんだ!こっちだって疲れてるんだぞ!大体そういうのは姉ちゃんに・・・。」
「私はジュンに淹れてほしいのだわ!例えぬるくても、不味くてもジュンの淹れたお茶が飲みたいのだわ!」
真紅は真剣な顔でジュンを見つめていた。それには流石のジュンも怒る気が失せていった。
「分かったよ・・・ちょっと待ってな。」
ジュンは靴を脱いで台所へ行った。その後を真紅が付いて行く。
「(私は薔薇乙女第5ドール真紅、ジュンの主にしてジュンの幸せなお人形・・・。私はもう泣かない。
だからジュンと巴の仲を応援するのだわ。下僕の幸せを願うのも主の務めなのだから・・・。
でも、その分ジュンにも働いて貰うのだわ。それが私の出来る精一杯の愛情表現なのだから・・・。)」
一方、翠星石がどうなったのかと言うと・・・。
「と言う事なのですぅ。そんなワケで蒼星石にも協力して欲しいですぅ。」
「ダメだよ。二人の仲を無理矢理引き裂くなんていけないよ。」
翠星石は双子の妹である第4ドール蒼星石の所に協力を仰ぎに来ていたのだが、見事に拒否されていた。
「そんな・・・蒼星石なら翠星石の気持ちを分かってくれると思ったですのにぃ・・・。」
「そりゃあ僕だって翠星石の力になりたいさ。でも、
そんな理不尽な理由でジュン君を酷い目に遭わせるのはいけないよ。」
「分かったですぅ。なら蒼星石、庭師の鋏だけ貸してですぅ。」
「え!?いきなり何を言うんだい!?一体何に使うんだい!?」
「いいからさっさと貸せですぅ!!」
翠星石は突然何かに憑り付かれたかのように蒼星石に飛びかかり庭師の鋏を奪おうとした。
「わぁ!翠星石落ち着いて!落ち着いてよ!」
「煩いですぅ!さっさと貸せですぅ!これでジュンを刺し殺して翠星石も死ぬですぅ!」
「ダメだよ!そんなの余計に貸せないよ!」
「嫌ですぅ!ジュンは翠星石の物ですぅ!あんなチビ女にはやれないですぅ!」
翠星石は泣きながらなりふり構わず蒼星石から鋏を奪おうとした。
だが次の瞬間、蒼星石に殴り飛ばされていた。
「いい加減にしろ!」
「・・・。」
初めて蒼星石に顔面を殴られた。そのショックで翠星石は硬直した。だが、蒼星石も手を痛そうに抑えていた。
「痛いかい?でもね、殴った僕の手も痛いんだよ。それにね、無理矢理二人の仲を引き裂いたら
ジュン君は君の事を怨むと思うんだ。それこそ本末転倒だろう?だから少し落ち着いて考えるんだ・・・。」
翠星石が静かになった所で蒼星石は優しく言い聞かせるつもりだった。確かに実際いい事言っているのだが
それを理解できる程翠星石の精神年齢は高くなかった。
「何ワケのわからねぇ事言ってやがるですか!さっさと鋏出せですぅ!」
「わぁ!もういい加減にしてぇ!!」
この後、アリスゲームが勃発するがやっぱりグダグダな結果に終わったそうである。
おわり