大きな戦いがあった。nのフィールドに突如発生した異変。放っておけばこちらの世界にも 
絶大な影響を及ぼしかねない大きな異変があった。その異変を阻止する為に薔薇乙女が立ち向かった。 
壮絶な激闘の果てに、薔薇乙女達はその異変を阻止する事に成功した。だが、払った代償も大きかった。 
「真紅!しっかりしろ!真紅!」 
薔薇乙女第5ドール、真紅。彼女はその戦いで瀕死の重傷を負った。彼女のマスターであるジュンが 
グッタリとしている真紅を抱きかかえ、必死に励まそうとするが彼女からは精気が徐々に抜けていく。 
そして彼女のローザミスティカの輝きが失われ、どす黒く変色していた。 
「おい!何とかならないのか!?」 
「ダメです・・・。ローザミスティカの輝きが失われるなんて・・・こんなの初めてですぅ・・・。」 
「・・・。」 
ジュンと共に真紅を見守る他の薔薇乙女達もお手上げと言う状況だった。 
第3ドール翠星石が言った通り、ローザミスティカの輝きが失われ、さらにはどす黒く変色して 
しまうなど、今まで無かった事だからである。 
「真紅・・・死んじゃうの・・・?そんなの嫌なのよ・・・。」 
「縁起でもない事言うな!それにドールに死は無いんだろぉ!?」 
「ハイですぅ。確かにドールに死は無いですぅ。でも・・・でも・・・これが死以外の何と呼べば・・・。」 
「くそっ!何も出来ないのか僕は!」 
何をやっても無駄だった。真紅の背中のネジを回しても、くんくんのぬいぐるみで釣って 
真紅の自立的回復を促す作戦も、花丸ハンバーグを持って来ても、何もかも無駄だった。 
そして徐々に真紅の体力は失われ、呼吸の間隔も少なくなっていた。 
「ジュ・・・ン・・・。」 
「真紅!?」 
真紅がかすかではあるが口を開いた。しかしやはり精気が感じられなかった。 
「ジュン・・・何処にいるの・・・?」 
「お前・・・目が・・・。」 
皆は愕然としていた。ローザミスティカの輝きの喪失に伴い、真紅の目の色も変色していたのである。 
そして彼女の口ぶりからすれば、もしかすると既に視力は失われているかもしれなかった。 
「真紅!僕はここにいるよ!翠星石と雛苺もいるよ!」 
「そうですぅ!」 
「そうなのよ!」 
「(あれぇ!?ひょっとして僕忘れられてる!?)」 
約一名ショックを受けている者がいたが、真紅はかすかに微笑んでいた。 
「ありがとう・・・。ジュン・・・最後に言いたい事が・・・あるのだわ・・・。」 
「最後!?何を言うんだ!お前の皮膚のツヤだって失われて無いし、大丈夫だよ!助かるよ!」 
「ジュン・・・、やっぱり貴方は励まし方が下手だわ・・・。でも嬉しいわ・・・。」 
真紅はかすかに微笑む。だが、それが逆にジュン達により涙を流させる結果となった。 
「ジュン・・・、今までありがとうなのだわ・・・。そして・・・今まで色々迷惑かけてごめんなさい・・・。」 
「馬鹿!謝るなよ!お前らしくないよ!何時もの強気の真紅に戻って本当どうしようも 
無い馬鹿な下僕なのだわとか言えよ!」 
「チビ人間の言う通りですぅ!」 
「そんなの真紅じゃないのよ!」 
皆は必死に真紅を励まそうとするが、それでも真紅の力は少しずつ失われていた。 
「もう・・・私もここまでなのだわ・・・。翠星石も雛苺も・・・今までありがとう・・・。 
アリスになれないのも、お父様に会えなくなるのは名残惜しいけど、これはこれで楽しかったのだわ・・・。」 
「(うわぁ!やっぱり僕の事忘れられてるよぉ!)」 
やっぱり役一名ショックを受けている者もいたが、ジュンは真紅の体を揺さぶった。 

「弱気になるな!お前は死なない!僕が保障する!」 
「ありがとうジュン・・・嘘でも・・・嬉しいのだわ・・・。」 
「嘘じゃない!嘘じゃないぃぃぃ!」 
ジュンは真紅を抱きかかえたまま叫んだ。だからと言って真紅の体力が回復するワケは無かった。 
「翠星石・・・雛苺・・・、そしてジュン・・・今までありがとうなのだわ・・・。 
もしこの後、私が何か別の物に生まれ変わると言う事があるならば・・・、ジュン・・・ 
その時は貴方の子供に生まれ変わりたいのだわ・・・。」 
「馬鹿!そんな事言うな!第一子供なんて・・・!?真紅!?真紅!?真紅!?」 
真紅は返事をせず、完全に動かなくなっていた。そして彼女のローザミスティカもまた 
完全に赤い輝きが失われ、真っ黒いただの石ころへと姿を変えていた。 
「し・・・真紅ぅぅぅぅぅ!!」 
「うわぁぁぁんですぅ!」 
「そんな・・・嫌なのよぉ!」 
真紅の亡骸を抱え、皆は号泣した。と、その時だった。三人に来訪者が現れたのだ。 
「あ〜ら〜、お馬鹿さん三人で何泣いてるのぉ?」 
「(やっぱり僕数に入ってないよ!無視されてるの!?)」 
それは薔薇乙女第1ドールの水銀燈だった。そして彼女は三人をあざ笑うかのような目で見下ろしていた。 
「あらぁ?真紅・・・貴女死んじゃったのねぇ?アハハハ!ほんとどうしようもないお馬鹿さんねぇ!」 
水銀燈はその場で腹を抱えて笑っていた。 
「今更ノコノコやって来て何するつもりですか水銀燈!」 
「真紅のローザミスティカを取っちゃうつもりなの!?」 
「はぁ?冗談!そんなどす黒く変色した石っころ何て取り込んだらこっちの体まで 
腐っちゃうかもしれないじゃなぁい!そんなの私はごめんよぉ!」 
そう突っぱねると水銀燈はその場から飛び去った。彼女の態度に翠星石と雛苺は激怒した。 
「今日こそは許せんです水銀燈!今直ぐ追って謝らせるですぅ!」 
「そうなのよ!私達二人で戦えばなんとかなるのよ!」 
「(あの〜・・・、僕の事忘れないで〜・・・。)」 
翠星石と雛苺は直ぐに水銀燈を追撃しようとした。しかし、ジュンがそれを止める。 
「やめろ二人とも!」 
「何でですかチビ人間!」 
「そうなのよ!水銀燈は真紅を馬鹿にしたのよ!」 
「お前等は気付かなかったのか?立ち去る時のアイツ・・・泣いてたんだぞ・・・。」 
「え!?」 
二人は硬直した。と同時に信じられなかった。あの水銀燈が他人の為に涙を流すなどと 
考えられなかったからである。 
「それは何かの見間違いですぅ!水銀燈がそんな事するワケ無いですぅ!」 
「そうなのよ!きっと目にゴミが入っただけかもしれないのよ!」 
「嫌・・・あれは確実に泣いてた・・・。そりゃあ僕は真紅とアイツが今まで何をやって来たのは知らない・・・。 
けど、ちょくちょくああやってちょっかいかけていたって事は、結構まんざらでも無かったって事だろ?」 
「・・・。」 

その頃、桜田家から遠く離れた一つのビルの屋上で水銀燈が一人月を眺めていた。 
「真紅のお馬鹿さぁん・・・。本当に死んじゃうなんて・・・本当どうしようもないお馬鹿さんねぇ・・・。」 
相変わらずの酷い言い様。だが、彼女の目からは大粒の涙があふれ出ていた。 
「真紅の馬鹿ぁ!何で死んじゃうのよぉ!薔薇乙女が一人でも欠ければアリスにはなれないと言うのに!」 
真紅が死んでしまった事を最も悲しんでいたのは水銀燈だったのである。 
アリスゲームに敗れたドールはローザミスティカを勝ったドールに奪われる。 
だが、死ぬワケでは無い。そのローザミスティカは勝ったドールの中で生き続けるのである。 
そしてアリスになる事に最も固執し、その為には様々な悪行にも手を染めて来た水銀燈。 
だがそれは考え方を変えれば、最も他の姉妹を愛していたが故の行為だったのかもしもしれない。 
他の姉妹のローザミスティカを自分自身に取り込むと言う事は、その姉妹のローザミスティカを 
自分自身の手で他の者をから守ると言う事にも繋がるからである。確かに水銀燈は 
今まで姉妹にさんざ酷い事をしてきた。だが、それは不器用な彼女の出来る精一杯の 
愛情表現だったのである。さらに姉妹の中でも特に真紅に対して目を付けていた事も、 
いうなれば真紅を最も愛していたが故だったのかもしれない。 
「私はもう戦わない・・・。」 
涙をぬぐった水銀燈はそのまま飛び去り、闇夜に消えた。 

皆が寝静まった頃、ジュンはベッドの上で一人真紅の亡骸と向かい合っていた。 
人間と違い、ドールである真紅は死亡してもその体は腐る事は無く、死してもなお美しかった。 
そして翠星石と雛苺は既に泣き疲れて鞄の中で眠りに付いている。なお、雛苺は真紅に代わって 
翠星石が擬似媒介となる事で今まで通りの状態を維持していた。 
「お前がウチに来てから・・・、本当色々な事があったな・・・。あの時僕がまきますと答えなかったら、 
今までの生活は無かった。雛苺、翠星石、水銀燈、金糸雀、雪華綺晶・・・。こいつ等とも会う事は無かった。」 
「(ジュンく〜ん!一人忘れてないか〜い?)」 
約一名必死に己の存在をアピールし続けている者がいたものの、ジュンはもう動かない真紅を見詰めていた。 
そしてジュンの目から大粒の涙がとめどなく流れ出るのであるが、必死にその涙を堪えていた。 
「もう泣いちゃダメなんだ・・・。真紅が生きていたら絶対救いようも無い下僕ねとかそう言う事を言うはず・・・。 
確かに今までの僕なら今回の事でまた塞ぎこんで閉じこもっていたかもしれない。でも、それじゃダメなんだ。 
僕はもう泣かない。だから・・・明日から学校に行こうと思う。その方が真紅としても嬉しいだろう? 
だから・・・お休み・・・。今までありがとうな・・・。」 
ジュンは涙を拭き、ゆっくりと真紅を鞄の中へ入れた。 
「(ジュン君・・・。いい加減にしないと、桜田家全体に血の雨を降らせるよ・・・いやマジで・・・。)」 

翌日、久々に登校したジュンの姿があった。その事で他の生徒がジュンにちょっかいを掛ける事も 
いた仕方ない事であったが、今日のジュンは今までの彼とは違っていた。 
「やあ久し振りだな桜田。今日はパンティーの色でも妄想するのかな?」 
「ああその件だけど、こんな物を作ってきたんだ。」 
早速ジュンにちょっかいを掛けてきた生徒Aに対し、ジュンは一枚の紙を取り出す。 
その紙にはなんと、それまでジュンを馬鹿にした男子生徒がフリフリでエロティックなドレスを着て 
いやらしいポージングをしていると言う想像するだけでもおぞましいイラストがデカデカと描かれていた。 
「う!うぇぇぇぇぇぇぇ!!」 
そのイラストを見た男子生徒は一斉に吐き気をもよおし、物凄い速度でトイレ目掛けて殺到して行った。 
ジュンはその光景を見詰めながら静かにニヤニヤしていたのだが、巴もかすかに微笑んでいた。 
「(桜田君・・・強くなったね・・・。)」 
ジュンは完全に吹っ切れていた。他の生徒がジュンを洋服関係の話題で馬鹿にするのならば、 
今回のようにそれを逆用しようと考えたのである。こうして完全に開き直ったジュンは 
有無を言わせぬ迫力があり、馬鹿にする者は徐々に姿を消していった。 

しばらく引きこもっていた為に授業から取り残され、これから色々大変だなと考えながら 
ジュンは帰宅するワケだが、ここにももう一つの変化が見られた。 
「ジュン、おかえりですぅ。」 
「え・・・?」 
出迎えた翠星石の言葉にジュンは硬直した。 
「どうしたですぅ?」 
「いつものチビ人間とは呼ばないのか・・・?」 
ジュンが驚いた事。それは翠星石がいつものチビ人間と言う呼び方では無く、名前で呼んだ事にあった。 
「お前はもうチビ人間なんかじゃないですぅ。立派な男になったですぅ。だからもう 
チビ人間なんて呼び方は似合わないですぅ。そのくらい翠星石にだって分かるですぅ。」 
「あ・・・そう・・・。」 
皮肉な事に、真紅が死んでしまった事がジュンを大きく成長させるきっかけとなっていた。 
そして間も無くして久々に帰ってきたジュンの両親に薔薇乙女の事を打ち明け、 
雛苺と翠星石は晴れて正式に桜田家の一員にして貰ったりと、様々な変化があった。 
「(やっぱり僕の事忘れられてるんだね・・・。もう慣れたけどね。でも、このままじゃ済まないよ。 
君達が僕の事を無視し続けれるのならば、それを逆に利用してあ〜んな事やこ〜んな事を 
やってあげるから・・・。)」 

真紅が亡くなって十年近い時が流れた。その間も様々な事があり、ジュンは本格的に洋服関係の 
道に進み、デザイナーになっていた。その業界に入って上には上がいる事を知り、 
挫折しかけた事もあったが、それでも何とか頑張って今ではそれなりに稼げる漢になった。 
その際本格的に身に付けた技術は仕事以外にも生かされ、ジュンは翠星石と雛苺に 
新しいドレスを作ったりしていたた。何時までも同じ服では・・・と言う事もあったのだが、 
特に翠星石の丈の長いスカートは動き難いだろうし、もし外を出歩くような事が 
あった場合汚れ易いのではと言う事で割と動きやすく、スカートの丈も程よく短い物にされていた。 
人間関係に関してもその十年の間に色々な事があり、巴と結婚して子供を授かるまでに至った。 
ぶっちゃけ本当色々あったんで細かい突っ込みはやめてもらいたい。 

そしてついにジュンと巴に第一子が誕生した。玉の様に可愛らしい女の子である。 
数日後にその子は巴と共に退院し、家のベッドに寝かされた赤ん坊を翠星石と雛苺は 
興味深く見入っていた。 
「赤ちゃん可愛いの〜。」 
「全くですぅ〜。ジュンの子供とは思えない可愛さですぅ〜。」 
「お前な〜・・・。」 
相変わらず口の悪い翠星石にジュンもやや困り顔であったが、今度は雛苺がジュンの服を引いた。 
「ねえジュン、この子の名前はどうするの?」 
「そうだった・・・。そう言えば仕事が忙しくて考えるのを忘れていたんだよな〜どうしよう・・・。」 
「全く・・・。チビじゃなくなってもやっぱり抜けた所があるですぅ。」 
ジュンは我が娘を抱き上げてその顔を見詰めていたが、その時だった。 
眠っていたその娘が目をゆっくりと開け、父親であるジュンを見詰めるとかすかに口を開き・・・、 
「タダイマ・・・ナノダワ・・・。」 
「え!?」 
三人は硬直した。赤ん坊が喋ったのである。だがそれ以上の事は言わず、 
また元の普通の赤ん坊に戻っていた。 
「今の声は・・・。」 
「まさか・・・なの?」 
直後、三人の記憶の中に埋もれかけていた十年前のある記憶が蘇った。 

『もしこの後、私が何か別の物に生まれ変わると言う事があるならば・・・、ジュン・・・ 
その時は貴方の子供に生まれ変わりたいのだわ・・・。』 

「真紅!真紅なのか!?お前!まさか本当に・・・。」 
ジュンの目に涙が溢れ、強く抱きしめた。 
「そうだ!お前の名前は今日から真紅だ!」 
「私もそれが良いと思うのよ。」 
「異議なしですぅ。」 
この娘が本当に真紅の生まれ変わりなのかは分かりようも無い。だが、それでも 
三人は真紅が十年前の約束通りにジュンの子供として生まれ変わって来たのだと信じた。 
「お帰り・・・真紅・・・。」 
「(うん。僕もそれで良いと思うよ。でもやっぱり僕は無視されてるんだね? 
僕にも祝福させてよ。じゃないと・・・僕の鋏が君達の血を吸っちゃうよ・・・。)」 

それから、巴にも赤ん坊の名を真紅にする事を話し、またジュンは物凄い速度で 
真紅と名付けられた赤ん坊用の為に真紅のベビー服を作り、着せていた。 
「こうして見ると、本当に真紅が生き返ったみたいね・・・。」 
「顔は似てないけど、雰囲気は真紅と同じ物を感じるですぅ。」 
と、皆は真紅を囲み、食事ついでにワイワイガヤガヤと盛り上がっていた時、 
窓から真っ黒い影が姿を現した。 
「あなた達楽しそうじゃなぁい?その楽しさを私にも分けてちょうだぁい?」 
「水銀燈!」 
窓から入って来たのは水銀燈だった。そして真紅(赤子)の方を見詰めた。 
「真紅の元マスターに子供が生まれたって小耳に挟んでやって来たのだけどぉ、 
その子がそうなのねぇ?名前は何ていうのぉ?」 
「し・・・真紅だよ・・・。アイツと同じ名前を付けたんだ。」 
ジュンがそう答えた時、水銀燈は一瞬鼻で笑った。 
「貴方本当にお馬鹿さんねぇ!お馬鹿さんな名前付けるなんて!きっとその子もお馬鹿さんに育つのねぇ!」 
「水銀燈!お前言って良い事と悪い事があるですぅ!」 
「そうなのよ!今直ぐ謝るのよ!」 
翠星石と雛苺は怒って突っかかるが、水銀燈はそれを容易くかわし、真紅(赤子)の前に立った。 
「近くで見るとますますお馬鹿さぁん。でも、あなた達がどうしてもって言うなら・・・ 
その子の頭くらい撫でてやっても・・・良いのよぅ?」 
「水銀燈・・・。」 
ジュンは水銀燈の気持ちを察した。口では馬鹿にしていても、心の底では祝福してくれているのだ。 
そして結局水銀燈は真紅(赤子)の頭を撫で、その後直ぐに窓の外に出た。 
「それじゃあまた来るわぁ。」 
「オイオイ、もう行くのか?もう少しゆっくりして行けよ。」 
「嫌よ。私はあなた達お馬鹿さんと違ってやる事がいっぱいあるのよぉ。」 
そう言って、水銀燈はその場から飛び去った。だが、窓の前に水銀燈の物らしき 
何かが入れられたビニール袋が残されていた。 
「水銀燈の奴、何か忘れてるですぅ。本当しょうがない奴ですぅ。どれ、どんな物か見てやるですぅ。」 
ビニール袋の中にはヤクルトが沢山入れられていた。そして、手紙まで同封されていた。 

『乳酸菌は体に良いのよぉ。赤ちゃんにも沢山飲ませてあげてねぇ。』 

「水銀燈・・・。」 
風の噂では、十年の間に水銀燈の方でも色々な事があり、 
その間にめぐの病気も完治して、水銀燈自身もめぐの手によって 
家族に紹介され、家族の一員にしてもらったと言う。もっとも、めぐは闘病生活が長かったので 
社会復帰にもそれ相応に時間が掛かったし、水銀燈も背中の翼を利用した飛行能力が評価されて 
ちょくちょく色んな所にお使いに出されて大変らしい。 
ついでに言うと、第2ドール金糸雀もみっちゃんとよろしくやっているそうな。 

その日の深夜、ベッドの上でスヤスヤ眠っている真紅(赤子)を見詰め、ジュンは 
様々な思いを馳せていた。 
「お前が大きくなったら、いつか話してやろう・・・、お前と同じ名を持った一人のドールのお話を・・・。」 
そしてジュンは部屋の電気を消して自室に戻るのだが、丁度その時、ある事を思い出した。 
「あれ?そういえば何か忘れてなかったっけ?」 
「(来たぁ!ジュン君・・・早く僕の事思い出して・・・。)」 
「それは雛も思ったのよ。でも、それが何なのか思い出せないの。」 
「どうしても思い出せないと言う事はそれは何と言う事は無いどうでも良い事なのですぅ。 
そうに決まってますぅ。」 
「そうだよな。」 
「雛はこの国の決まりを知ってるのよ。大きな鋏なんて持ち歩いたらじゅうとうほうって決まりを 
やぶっちゃうから、警察さんに捕まって牢屋にいれられちゃうのよ。」 
「そうですそうですぅ。そんな危険な物を持ち歩く物騒な輩とは付き合っちゃいけないですぅ。」 
「(そ・・・そんな・・・翠星石・・・キミまで・・・。マスターも天国に行ってしまった今、キミだけが 
頼りだったのに・・・酷いよ・・・。)」 

「私は誰・・・? 私は私・・・。私はこれからどうすれば良い? それはこれから探していこう・・・。」 
nのフィールドでそれぞれの生き様を見た雪華綺晶も、自問自答しながら 
自分の生き方を模索しようと決めていた。 

これからも苦しい事や辛い事はあるかもしれない。だが、それをある時は己の力で、またある時は 
皆との絆によって乗り越えていくのが人と言うものだ。そして薔薇乙女と呼ばれるドール達もまた・・・。 

「(あのさぁ、いい加減僕の事誰か気にしてよ。怒るよ本当に・・・。大体僕は薔薇乙女の中でも・・・ 
ってアレ!?もう終わっちゃうの!?そんな酷いよ!僕は誰にも気にされないまま終わっちゃうの!? 
そんなの嫌だ!一人ぼっちなんて嫌だよ!畜生!こうなったら庭師の鋏で皆殺しに・・・。 
あ!待って!まだ終わらないで!せめて後一分・・・。)」 

絆は成長の遅い植物である・・・。それが絆と言う名の花を咲かすまでは 
幾度かの試練、困難の打撃を受けて耐えねばならぬ・・・。 

                     おわり 

(さようなら。そしてお帰りなさい。 番外編)
桜田ジュンに第一子が誕生したと言う事で、ローゼンメイデンに登場した面々が一斉に桜田家に集まった。 
ドールズ勢揃いは当然として、挙句の果てには梅岡先生や槐、ラプラスの魔までやってくると言う 
凄い事になっていた。これだけの人々が一斉に集まるのは本当に珍しい事なので、 
皆で記念写真を撮る事になった。 
「それじゃあハイ!チーズ!」 
皆が並んだ後、ジュンはカメラのタイマーにスイッチを入れると共に走るのだが案の定こけてしまい、 
ジュン一人だけすっ転んだ格好悪い姿で写真に写ると言うまあ記念写真によくありがちなネタを 
やったりしていたが、その日は皆でワイワイ楽しく過ごした。 

その後、記念写真は現像して皆に配ったワケだが、その記念写真について翠星石がある事に気付くのだった。 
「た!大変ですぅ!この写真に恐ろしい事が起こってるですぅ!」 
「何だ何だ?どうしたんだ?」 
「翠星石、どうしたの〜?」 
皆が集まって来た所で翠星石は写真のある部分を指差す。 
「これ見るですぅ!これ心霊写真だったですぅ!怖いですぅ!皆で楽しく撮った記念写真が 
心霊写真になってしまうなんて・・・、縁起悪いですぅ!」 
「何を言ってるんだ翠星石・・・、もしかして写真の揺らぎとか、感光とかそういうので 
心霊写真とか言ってるんじゃないのか?そういうのはな、現像時のミスとかで良くあ・・・ 
ってマジで何かいるよぉ!」 
翠星石の指差した箇所を見たジュンは一瞬目が飛び出しそうになった。 
記念写真の翠星石がいた箇所の直ぐ隣に怪しい人影があったのである。 
「一体何なんだコイツは・・・。シルクハットもどきの変な帽子被った変な野郎が 
翠星石の隣に立ってる・・・。しかも片手にでっかい鋏を持って・・・おっかねぇ・・・。 
もしかしてこれが噂に聞く切り裂きジャックと言う奴か!?」 
「嫌ぁ!翠星石は悪霊に憑り付かれてしまったですぅ!助けてですぅ!」 
「幽霊・・・怖いのよ・・・。」 
翠星石と雛苺は泣きながらジュンに抱き付き、ジュンもまたガタガタと震えていたのだが・・・ 
「(そう来たか・・・。僕はついに心霊現象の領域にまで到達してしまったんだね・・・。 
それに・・・君達が言っていた絆と言うのは一体何だったんだい? 僕はその中に入っていない 
とでも言うのかい? そんなの酷いよ・・・。なら本当に切り裂きジャックになってやろうか・・・?)」 
約一名が恐怖に震える三人の姿をすぐ間近で呆れ顔で見つめていたのだが、 
やっぱり気付かれてはいなかったとさ。 
                  めでたし めでたし 

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