有栖川大学病院 

ここに入院してもう何年経つのか、もうめぐはそんなことは忘れてしまった。 
ただ一つだけ言えることは、自分の命がもう幾許もないということである。 
半年前、めぐはローゼンメイデンに第一ドールである水銀燈と契約を交わしていた。 
彼女と一緒に過ごす時間はとても幸せで、めぐにとっての天使だった。 
だが、めぐは水銀燈がどれだけ自分を想ってくれているか知りたいというささやかな 
欲望にかられていた。 

「・・最近、水銀燈来ないな・・・」 
病室の窓から見える見慣れた風景を見ながら、めぐは呟いた。 
確かにここ数日、水銀燈に会っていない。だがそれはめぐだけのことで実際には、 
めぐが眠っているときに水銀燈はめぐを心配して来ていたのである。 
だが会話がないというのはめぐにとって淋しいことだった。 
「・・・え?」 
大きな木に視線を移しためぐが小さな驚きの声をあげる。 
そこにいたのはタキシードを着たウサギの姿、そのウサギはめぐと視線が合うと 
病室の窓まで飛んできたのだった。 
「こんにちはお嬢さん、ずいぶんと退屈しているようですね」 
「・・・あなたは誰?」 
「フフフ、わたしはあなた、あなたはわたし、退屈は多忙・・・なにやら 
悩みがあるようですね」 
ラプラスの魔の問いかけにめぐは答えない。さらにラプラスは言葉を続ける。 
「一番目のお人形は、貴女をどう想っているのか?試してみたくはありませんか?」 
「ど、どういうこと」 
かろうじてそれだけ口にするめぐだったが、その目は好奇に満ちていた。 
「つまり彼女―水銀燈を試すのです。彼女がどこまで貴女のために行動するのかを」 
「できるのそんなこと?」 
問い返すめぐに対し、ラプラスは頷いてその秘策をめぐに耳打ちする。 
「そうね、やってみるわ」 
積極的に賛成し、小悪魔のような笑顔をみせるめぐ。 
「楽しき宴の始まり、じっくり見物すると致しましょう」 
ラプラスはそう言い残すと病室より消えていった。 

翌日の夜 
めぐは水銀燈が現れるのをずっと待っていた。彼女が来るのは深夜であることを 
ラプラスから聞かされていたから、10時まで眠り、それからは水銀燈が来るのを 
見計らっていた。 
「・・・もうそろそろかな」 
めぐが呟くと、はたして水銀燈の気配がした。めぐはラプラスの指示通りに行動を開始した。突然激しく苦しみだし、水銀燈の名前を呼ぶ。 
「め、めぐ、どうしたの?!」 
もがき苦しむめぐに、水銀燈はあわててめぐの側に飛び出しグッと手を握る。 
「・・・す、水銀燈、わ、わたしもうダメかも・・・」 
手を握る水銀燈を見つめめぐは答えた。 
「ダ、ダメよ!しっかりしてめぐぅ!!」 
いつもの水銀燈ではない。ミーディアムを大事にし守りたいと思う水銀燈の 
初めて見せる表情だった。 
「フフフ、なにやらお困りのようですね」 
声がする方を水銀燈は振り返る。そこにいきなり現れた道化のウサギを水銀燈は 
睨みつけた。 
「その彼女を助けたいですか?ありますよ方法なら」 
「何ですって!」 
「聞きたいですか?その方法」 
「もったいつけないで早く言いなさい!その毛をむしり取ってやるわよ!」 
「フフフ、相も代わらず、お気の強い。まあいいでしょう、彼女の病を和らげる 
アイテムをお教えしましょう」 
それからラプラスは長々と必要なアイテムについて語り始めた。 
「というわけで、必要なアイテムは金糸雀の傘、翠星石のレース、蒼星石の帽子、 
真紅のヘッドドレス、雛苺のリボン、そして薔薇水晶の眼帯、この6つのアイテム 
が揃えば貴女の大事なミーディアムは助かります」 
「ふざけないで!どうしてそんなものでめぐが助かるのよ!!」 
からかわれていると思った水銀燈がラプラスに食ってかかる。 
「別にふざけてなどおりません。ローゼンメイデンの身に付けるものには、 
それなりの力が与えられているのです。貴女はお父様をお信じにならないのですか」 
「・・・お父様」 
ローゼンのことを持ち出されては水銀燈には返す言葉がない。だが水銀燈は 
ラプラスを睨みつけ、もう一度念押しした。 
「本当なんでしょうね。その言葉」 
「勿論です。貴女の健闘をお祈りいたしますよ」 
そう言ってラプラスは姿を消した。水銀燈はめぐを見つめ、固く誓った。 
「待ってて、めぐ、必ずわたしが助けてみせるわ」 

VS 金糸雀 
水銀燈のめぐ救出の戦いの火蓋は切って落とされた。まずは第一の関門、金糸雀の 
持つ傘をターゲットにする。 
都内の某マンションに潜入し、様子を窺う。そこに金糸雀はいた。 
「見つけたわぁ、金糸雀、貴女のその傘、必ず奪ってみせる!」 
金糸雀をロックオンして、一気に部屋に侵入しようとする水銀燈、だがそこには 
大きな蹉跌が待ち構えていた。 
「きゃあぁぁぁぁぁ!!この子可愛いぃぃぃぃ!!!」 
水銀燈を見つけたみっちゃんがダッシュで駆け出し、水銀燈を捕獲する。 
「貴女もローゼンメイデンなのね!もう早速、着せ替えしなきゃ!それでそれで 
いっぱい写真もとらなきゃあぁぁぁぁ!!!」 
バーサーカーのように水銀燈へのハグをやめないみっちゃん。熊をも絞め殺す 
かのような凄まじい攻撃に水銀燈は苦しんだ。 
「こ、こんなところでやられてたまるものか」 
水銀燈の小宇宙が高まり、みっちゃんの腕から脱出する。 
「ハァハァ、これで終わりよ!」 
みっちゃんの延髄に強力なキックをかまして失神させる。倒れるときもみっちゃんは 
恍惚の表情を崩さなかったという。合掌・・・。 

「あぁ!みっちゃん!みっちゃん!しっかりするかしらー!!」 
騒ぎを聞きつけた金糸雀がみっちゃんに駆け寄る。 
「ひどいかしら!なんてことするのかしら!」 
金糸雀は水銀燈に向き直り、戦う決意を固める。 
「金糸雀、貴女の傘、めぐのために頂いていくわぁ」 
水銀燈も戦闘準備をして金糸雀と対峙する。 
「絶対に許さないかしら!!みっちゃんの弔い合戦かしら!」(←死んでないって) 
金糸雀はバイオリンを奏で始める。 
「いくかしら!水銀燈!デッドエンドシンフォニーかしらぁぁぁ!!!」 
強力な音波攻撃が水銀燈を襲う。 
「何このメロディー、身体が、力が抜けていく・・・」 
「かかったわね水銀燈、もう貴女は力が半減してしまったかしら」 
金糸雀の音波攻撃にめげず、何度か攻撃を仕掛ける水銀燈であったが、 
その攻撃はことごとく金糸雀にかわされていた。 
「・・聞いちゃダメ、この音を聞いちゃダメ・・」 
水銀燈は耳を塞ぎ、音を遮断しようとする。 
「無駄無駄無駄ァァァかしら!!その音は貴女の脳波に直接響くかしら!」 
膝をつき、倒れかける水銀燈、だがそのとき、めぐの意識がローザミスティカを 
通じて流れ込んだ。 
(水銀燈、貴女はお人形。だから脳なんてものは存在しないわ。だからそんな 
まやかしに騙されてはダメ、今こそ金糸雀を倒して・・・) 
「!!っく、めぐぅ!!!」 
水銀燈はめぐの名前を叫び、雄々しく立ち上がる。 
「な、なにかしら、す、水銀燈の小宇宙が高まっていくかしらぁぁ!!」 
水銀燈からの凄まじい小宇宙を感じた金糸雀が後ずさる。 
「わたしは、わたしは、こんなところで負けるわけにはいかないわぁぁぁ!!」 
金糸雀の音波攻撃を撥ね返し、金糸雀に詰め寄っていく。 
「いくわよ金糸雀、ブラックウィングアロー!!」(←勝手に命名しました) 
無数の黒い羽根が光速の矢となって金糸雀を襲う。 
「ひぃぃぃぃぃ!!やられちゃったかしらぁぁぁぁ!!!!」 
金糸雀は吹っ飛んで、みっちゃんの隣に倒れた。 
水銀燈の勝利が決まった。技の力がアップ、HPがアップ、金糸雀の傘をゲット! 
「・・や、やったわ。まずは1つ。あとアイテムは5つ・・・」 
水銀燈は金糸雀の傘を奪いそのままマンションを立ち去っていった。 

VS 蒼星石 
金糸雀との戦闘のダメージも癒えぬまま、水銀燈は次の目的地へと向かう。 
めぐが苦しんでいる今、残された時間はあまりなかった。 
柴崎時計店、水銀燈にとってある程度、見知っている所である。だが状況は 
以前訪れたときとは全くというほど違っていた。 
「たしかこっちの部屋だったはず・・・」 
水銀燈は記憶の糸をたどり、蒼星石のいる部屋へと近づく。 
「何をしとる!」 
厳しい言葉が発せられ、水銀燈は声の主の方を向く。 
柴崎元治、それが彼の名だった。 
「あらぁ、おじいさんお元気ぃ。ちゃんと乳酸菌摂ってるぅ?」 
嘲るような水銀燈に対し、元治はいきなりほうきで襲い掛かってきた。 
「ダメよ、おじいさん、おとなしくしてなきゃ」 
さすがに老人を本気で殴る気も起こらず、水銀燈は一瞬で片付けるつもりだった。 
“ドボッ!” 
元治の鳩尾に水銀燈のパンチが入る。これで気を失って倒れるはずであった。 
「ん〜、今何かしたかね」 
不気味に笑い元治は水銀燈をほうきで振り払う。 
「な、なによ、棺桶に半分足を突っ込んでるから感覚がないわけぇ」 
ゾンビといっしょじゃないか!こうなれば完全に止まってしまうまで攻撃するしかない。 
だが元治の攻撃はさらに速さと激しさを増し、水銀燈を追い込んでいった。 
「こんな年寄りにこんなに苦戦するなんて」 
水銀燈は自嘲しながらも必死に元治の攻撃をかわしていた。 
「むぅ、とどめじゃー!」 
廊下の角に水銀燈を追い込んだ元治がとどめの一撃を振り下ろす。絶体絶命の 
水銀燈の頭上に電球が閃いた。 
「ナイアガラバスター!!!」 
水銀燈は咄嗟に元治を持ち上げると垂直落下で頭から落としていった。 
強烈な大技を喰らい元治はそのまま動かなくなった。 
「い、いまの技は?」 
咄嗟に出した必殺技に水銀燈自身が驚いていた。だがこれで終わったわけではない。 
水銀燈はそれを思い出すとターゲットの元へと進んでいった。 

「来たね、水銀燈」 
蒼星石は予め知っていたかのように言った。 
「蒼星石、貴女のその帽子頂いていくわ」 
「帽子?ローザミスティカじゃなくて?」 
「そうよ、貴女のローザミスティカなんていつでも取れるわ」 
自信満々、内心は不安だらけで水銀燈は答える。 
「そう、だったらこの全てを切り裂く聖剣もとい聖鋏で相手しよう」 
蒼星石が鋏を構え、水銀燈に襲い掛かる。蒼星石の繰り出すその鋏の 
剣圧もとい鋏圧で触れてもいないのに水銀燈のドレスが切り裂かれていった。 
「遅い!!」 
蒼星石は水銀燈の動きを読みきって攻撃を仕掛けている。水銀燈も羽根から創りあげた 
剣を持って戦っていたが太刀筋において蒼星石が勝っていた。 
“カキーンッ!!” 
水銀燈の剣が蒼星石の鋏に弾き飛ばされる。蒼星石は鋏を水銀燈の眼前に突きつけた。 
「勝負ありだね。潔くここで散るといい」 
蒼星石が鋏を頭上に掲げて一気に振り下ろす。 
“バシィッ!!” 
「な、こ、これは・・・」 
鋏を受け止められた蒼星石が驚きの声をあげる。 
「真剣白刃取り、わたしたちのミーディアムの国に伝わる武芸よぉ」 
水銀燈は真剣白刃取りの型のまま、蒼星石に強烈なキックを見舞う。 
「くっ!やるね水銀燈、でももうそんな芸当はできないよ」 
蒼星石は鋏を何度も抜刀乱舞させ、その剣圧ならぬ鋏圧で水銀燈を追い詰めていく。 
「うっ!ぐっ!あぁぁぁぁぁ!!!」 
蒼星石の猛攻に水銀燈の命はもはや風前の灯火状態となった。 
(水銀燈、負けちゃダメよ!水銀燈!!) 
ハッと我に返る水銀燈、そうここで倒れてはいけないのだ! 
水銀燈の不屈の闘志が心の小宇宙が奇跡を起こす。 
「いけ!黒龍波ッーーー!!!」(←これも勝手に命名) 
水銀燈の翼が黒い龍となり、蒼星石に襲い掛かる。 
「うっ!うわ〜〜〜〜〜!!!」 
蒼星石はその技をまともに喰らいK.Oした。 
「ハァハァ、勝った。ようやく勝った・・・・」 
水銀燈は苦戦の末、なんとか蒼星石を倒した。 
各種ステータスがレベルアップし、蒼星石の帽子を手に入れた。 
だが負ったダメージはあまりに大きく水銀燈はその場に倒れ伏してしまった。 
頑張れ水銀燈!立て!立つんだ水銀燈ォォォォ!!!! 

VS 薔薇水晶 
「・・・わ、わたしは・・いったい・・・」 
窓からの風でようやく水銀燈は目を覚ました。よろよろと立ち上がり、 
ふらつきながら飛び去っていく。 
「あと4つ、めぐ、待ってて・・・」 
体の痛みに耐えながら、水銀燈は次の目的地へと向かって行った。 

「人形作家 槐」と書かれた看板のドールショップ。深夜のため店内は暗く、 
静まり返っている。水銀燈の周囲には何体ものアンティークドールが飾られて 
おり、そのドールたちの瞳が水銀燈を映し出していた。 
「・・・誰?」 
ショーケースの中の1体のドールが突然、水銀燈に話しかける。 
「いたわね!薔薇水晶!」 
振り向いた水銀燈の視線の先にアメジストのドレスを纏った薔薇水晶が現れた。 
「・・・水銀燈・・何をしにここへ・・・」 
「貴女のその眼帯を頂くためよ。おとなしく渡しなさい!」 
先手必勝、水銀燈の攻撃!! 
「ブラックウィングアロー!!」 
水銀燈の黒い羽根が薔薇水晶めがけ飛んでいく。 
「・・・クリスタルウォール」 
薔薇水晶が静かに右手をかざすと透明な防御壁ができ、水銀燈の黒い羽根を 
ことごとく撥ね返していく。 
「うっ!ああぁぁぁぁぁ!!!」 
自分の技をその身に受けて倒れる水銀燈。 
「・・そ、そんな・・わたしの技が全て撥ね返ってくるなんて・・・」 
「・・この壁は決して破られることのない水晶の障壁・・・」 
水銀燈を見下ろし、淡々と述べる薔薇水晶。 
「・・そしてわたしのこの指に宿る燐光は全てを死の世界へと導きます・・・」 
薔薇水晶が右手の人差し指を掲げ小宇宙を集中させると薔薇水晶の頭上に 
黒い空間が現れる。 
「・・・積尸気冥界波」(←さっきとキャラ違うぞ) 
「っく!な、なに!こ、これは、あぁぁぁ!!」 
水銀燈の身体の自由が利かなくなり、水銀燈はバタリと倒れこむ。 
水銀燈のローザミスティカが黒い穴の中へと吸い込まれていった。 
「・・・他愛のない・・・・」 
抜け殻となった水銀燈を見下ろし、薔薇水晶はつまらなそうに呟いた。 

「・・・こ、ここはどこ・・・」 
辺り一面、モノクロームの世界が広がっている。その中でようやく水銀燈は目を覚ました。 
周囲を見廻し、自分の置かれている状況を確認する。 
「・・わたしは薔薇水晶の技にかかって・・・」 
技をかけられたことは理解できたが、ここがどこで、どうすれば良いのか、 
水銀燈は分からなかった。 
「とにかくここから出ないと」 
そう思ったが、見慣れない世界に水銀燈はわずかながら混乱していた。 
その水銀燈の視線の先に何やら人影が映った。 
「何かしら?ここにいても埒が開かないわね」 
人影の方へと飛んでいく水銀燈、だが、そこにいたのは無表情にヨレヨレと行進 
していく人間の姿だった。 
「なんなの?この人間の群れは」 
呼びかけどもその人間たちは何の反応も示さない。ただひたすら進むだけだった。 
水銀燈の心に不安がよぎる。だがその不安をかき消すような光が水銀燈の前に 
現れた。 
「・・・水銀燈、そっちに行ってはいけない」 
その光が水銀燈に話しかける。 
「・・・?」 
「水銀燈、私だよ、水銀燈・・・」 
「その声は、まさか、お父様?!」 
あまりの衝撃的な出会いに水銀燈の声が上ずる。その光は尚も水銀燈に語りかける。 
「そっちに行ってはいけない、ここは黄泉比良坂、向こうに行けば、そこの 
人間同様に死界の穴に落ちることになる」 
「・・・じゃあ、やはりわたしは薔薇水晶の技にかかって」 
「そうだ。早く元の世界に戻りなさい」 
そう言って、水銀燈に一条の光を指し示す。 
「この光を辿って行けば元の世界に戻れる。早く行きなさい」 
「・・で、でもお父様は」 
「わたしに会うのはアリスになってからだ。そのためにも早く!」 
再度、その光に促され水銀燈は光の道を辿っていく。その水銀燈にその光は 
さらに言葉をかける。 
「さあ水銀燈、急いで戻り、あの不肖の弟子の創ったドールをジャンクにしてきなさい! 
これは命令だよ。いいね水銀燈」 
(お父様!これは、抹殺命令!キターーーーーーーーー!!) 
ローゼンの命令(?)に水銀燈は勇気100倍、殺る気満々で元の世界へと 
戻って行った。 

「・・こ、これは?」 
店内のショーケースから水銀燈のローザミスティカが戻り、水銀燈のボディに 
入っていくと水銀燈は再び立ち上がった。 
「薔薇水晶!上意よ!思いっきりジャンクにしてあげる」 
水銀燈の目がギラリと光り、薔薇水晶を睨み付ける。 
「いくわよ!ブラックウィングアロー!!!」 
黒い羽根が威力を増して薔薇水晶に襲い掛かる。 
「・・その技は通用しないと理解したはず・・クリスタルウォール・・・」 
薔薇水晶が全ての攻撃を弾き返す水晶の壁を創り出す。 
水銀燈の黒い羽根がまたも撥ね返ってくる・・・はずであった。 
「・・・な、そんなバカな・・・あぁぁぁ!!!」 
威力を増した黒い羽根は薔薇水晶のクリスタルウォールを粉砕し、薔薇水晶に 
大ダメージを与えた。 
尚も立ち上がろうとする薔薇水晶に対し、水銀燈は止めの一撃をお見舞いした。 
「黒龍波―――!!!」 
水銀燈の一撃は薔薇水晶の右腕をもぎ取り、その衝撃で薔薇水晶の眼帯は吹き飛ばされた。 
「ウフフ、これはもらっちゃうわよ」 
眼帯を奪った水銀燈は薔薇水晶にゆっくりと歩み寄り、止めを刺そうとする。 
水銀燈が手を振り上げたその瞬間、隣の部屋からローゼンの弟子―槐が現れた。 
「何をしている?薔薇水晶!なんてひどいことを!」 
槐は水銀燈を睨みつけ、薔薇水晶を助け起こす。 
「そこをどきなさぁい。お父様の命令でその子をジャンクにするんだからぁ」 
「バカな!私の師がドールの破壊命令などするはずないだろう!」 
「貴方はしたじゃない」 
「ほっとけ!私はするが、師はそんな命令は出さん!」 
かなり自己中だな槐。 
「とにかく、その子を渡しなさい。でないとここのお店ごとジャンクにしちゃうわよ」 
「断わる!それよりお前のそのボディのパーツ造ったのは私だぞ!」 
「だから何よ」 
「お前には貸しがあるということだ。それとも材料費払ってくれるのか?」 
話をすり替えながら、巧みに違う方向へ誘導する槐。当然のことながら水銀燈に 
手持ちの金など無い。有るわけがない。 
「フン、分かったわ。とりあえずその子は助けてあげるわぁ。今回は」 
ニヤリと笑うと水銀燈は店から出て行った。 
「大丈夫かい?薔薇水晶。腕はすぐに直してあげよう」 
薔薇水晶を抱きかかえ、槐は工房に入り明かりを点ける。 
「・・お父様、あれは本当に私の姉妹なのですか・・・」 
「いや、姉妹というより従姉妹なんだが・・・」 
「・・・気高くて、誇り高いのがローゼンメイデンのはず・・・」 
「そうだな。私もそう思っていたんだが、あれはむしろバーバリアンだな」 
師の造った至高のドールに落胆しながら、槐は薔薇水晶を直していった。 
この後、彼はローゼンメイデンとは別のドールシリーズを造り出していく。 
そのドールたちは別名モビルスーツと呼ばれることとなるが・・・・ 
それはまた、別のお話・・・・。 

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