今日は楽しみにしていた夏祭りだ。
この村ではみんなで水銀燈様を祭っている社に行き、そこで夏祭りをする。
みんなでゾロゾロと神社への階段を登る、普段はうるさい子供たちもこの時ばかりは神妙な顔つきになる。
神社につくと水銀燈様が屋根の端に座ってこちらを見下ろしていた。
「ナムアミダブツ・・・ナムアミダブツ・・・」
婆ちゃんが水銀燈様に手を合わせて拝む。
村人全員が集まると村長さんが水銀燈様に声をかける。
「今年も水銀燈様のおかげで無事に過ごせました、お礼の宴をさせていただきます」
水銀燈様はプイッと横を向くが、しばらくすると屋根から降りてきて用意された席に座る。
選ばれた巫女さんたちが水銀燈様に甘酒を注ぎ、神主が来年の運勢等をお伺いする。
「今年の冬は大雪になりますでしょうか?」
「しらないわぁ、そんなこと」
「田上さんの嫁さんに子宝が授かったんですが、名前はいかがいたしましょう?」
「適当でいいわぁ、適当で」
「来年の田植えはいつごろにしたらいいでしょう?」
「いつもと同じでいいわぁ」
どうやら来年も何事もなく過ごせそうだ。
占いが終わると水銀燈様が邪気を払う舞を踊り、村民を祝福する。
「太郎、水銀燈様が踊りを見せてくださるき、しっかりみちょけ」
前の方に集まっていた大人たちが急にザワザワと騒ぎ始めた。
「ど、どうするべさ・・・」
「しっ、寝てるのを起こしたらタタリがあるべ」
どうやら水銀燈様は甘酒を飲みすぎて眠りこんでしまったらしい。
今年の邪気払いの舞はなしでいこうと村長さんが神主さんに耳打ちする。
主役の水銀燈様は眠ったままだがヤクルトとカラスの羽をお供えして来年の無病息災をお願いする。
子供たちは水銀燈様に願い事を書いたお札を納め家に帰り、大人たちは集会場に場所を移して一晩中飲み明かす。
次の日、家の外に出ると水銀燈様がフラフラと飛んでいた、二日酔いらしい。
大丈夫ですかと声をかけると照れくさそうに手を振って答えてくれた。