「ジュン、紅茶を淹れてちょうだい」
僕は真紅に教えられたとおりに紅茶を淹れる。
アッサムのブレンド茶葉を適量、沸かしたお湯を少し冷まし、温めたティーポットに入れ蒸らす。
「ほら、できたよ」
カップに注いでやると真紅はしばし香りを楽しみ、ゆっくりと口をつける。
「そうね・・・おいしいわ、だけど何かが足りないわね」
「真紅に言われたとおりに淹れたんだけどなあ」
「私の前のミーディアムが淹れた紅茶とは何かが違うわ、そう・・・心遣いかしら」
真紅は前の持ち主の話をはじめた。
「前のミーディアムは乱暴でいい加減な人だったけど、紅茶だけは違ったわ」
遠くの景色を眺めるように窓の外に目をやり、言葉を続ける。
「あの人の淹れた紅茶はとても味が深くて・・・この紅茶のレシピもあの人に教えてもらったのだわ」
「ジュン、紅茶を淹れてちょうだい」
真紅が紅茶を求める、僕は台所で紅茶を淹れる準備を始める。
ふと、戸棚にあった「午後の紅茶ストレートティー」に目がとまる。
真紅は紅茶の味にうるさいけど市販品はどうかな・・・
「ほら、淹れてやったぞ」
真紅は紅茶の香りに少し眉を動かし、一口飲む。
「ジュン!これは・・・」
しまった、市販品だとばれてしまったようだ。
「ジュン!これよ!この味よ!前のミーディアムの淹れた紅茶と同じ味だわ!」
真紅は感動で目を潤ませる。
「すばらしいわ・・・ジュン、よくやったわね」
どうやら前のミーディアムは午後の紅茶でごまかしていたようだ。
毎回毎回、丁寧に紅茶を淹れるのは大変だからな・・・
僕は会ったこともない前のミーディアムに親近感を感じていた。
「真紅、これからは毎日その味の紅茶を淹れてあげるよ」