私は水銀燈を捨てた。
3ヶ月前、家にかかってきた怪しげな電話。
よくわからないままに巻きますと答えると翌日に届いたのは美しい人形。
私はその人形に魅入られてしまった。
言われるままに契約をして人形の下僕となった。
その人形、水銀燈を私は愛した。
水銀燈も私を憎からず思ってくれたはずだ。
水銀燈との毎日は楽しかった。
朝起きると水銀燈と朝食を食べ、会社に向かう。
水銀燈が待っててくれると思うと仕事に張り合いがでた。
家に戻れば水銀燈と過ごす本当の自分の時間。
ある日、会社のトイレで鏡を見た。
これは・・・誰だ?
鏡に映っていたのはやつれきった自分の姿だった。
私は怖くなって友人の占い師に相談した。
何かに取り付かれていると言われた。
水銀燈のことだろう、捨てなければ命を失うと告げられる。
私は夜中に水銀燈の入ったトランクを持ち出し、県境の山に向かった。
中で眠っている水銀燈を起こさぬように慎重にトランクを運ぶ。
山奥まで担ぎ上げ、深い穴を掘って埋めた。
翌日は胸の中のモヤモヤを押さえきれないまま会社で過ごした。
家に帰るのが怖い。
何かが変わるのか、変わるのが怖いのか。
真っ暗な部屋に入ると留守番電話の着信ランプだけが緑色に光っている。
「メッセージが25件あります」
私は恐る恐る再生ボタンを押した。
ピーッ!!
「気がついたらトランクから出れないんだけど、どういうことかしらぁ?早く迎えにきなさぁい」
ピーッ!!
「早く来ないとお仕置きよぉ、ウフフ・・・」
ピーッ!!
「私から逃げられると思ってるのかしらぁ?こんなとこ捨てたぐらいじゃダメねぇ」
ピーッ!!
「今すぐ迎えにくればお仕置きは勘弁してあげるわぁ、だから早くしなさい、早くぅ」
ピーッ!!
「何か言いたいことがあるなら聞いてやってもいいわぁ、だから早くきなさぁい」
ピーッ!!
「貴方って本当におばかさぁん、私に不満があるなら言えばいいのに・・・ウフフ・・・」
ピーッ!!
「もしかして私が力を吸い尽くして殺すと思ったのぉ?そんなことしないから早く来なさい」
ピーッ!!
「もしかして食事に文句いったのが気に入らなかったのぉ?からかっただけよぉ」
ピーッ!!
「部屋を羽で散らかしたのは反省してるわ・・・悪かったわね」
ピーッ!!
「ここ・・・暗くて怖いわぁ・・・早く迎えに来なさぁい」
ピーッ!!
「わかったわぁ・・・クスクス・・・これって放置プレイって奴?」
ピーッ!!
「もう充分楽しんだから、早く迎えに来てぇ。続きをしましょ」
ピーッ!!
「もしかして本当に捨てちゃったの?私がジャンクだから?」
ピーッ!!
「色々ゴメンなさいね、私たちまだやり直せるわ・・・早く来て」
ピーッ!!
「貴方には感謝しているわぁ、もう一度契約からやり直しましょ」
ピーッ!!
「やり直してくれたら、私は良い人形になるわ、掃除も炊事もするわぁ」
ピーッ!!
「私、本当は尽くすタイプなのよぉ・・・これまでは貴方に甘えていただけよぉ」
ピーッ!!
「本当に私を捨てるつもりかしらぁ?そんなことできないくせに」
ピーッ!!
「私はジャンクなんかじゃない・・・だから捨てないで」
ピーッ!!
「貴方だけは私を捨てないと思ったのに・・・私が人形だから?」
ピーッ!!
「私を捨てたのね・・・他に好きな人が出来たんでしょ?」
ピーッ!!
「好きな人がいるんでしょ?相手はだれ?誰なの?」
ピーッ!!
「許さないわ・・・絶対許さない」
ピ゚ーッ!!
「薔薇乙女の誇りにかけてお前を殺すわ、待ってなさい」
ピーッ!!
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる」
ピーッ!!
「今、貴方の後ろにいるわ」