真紅はいつものように近所の散歩に出かけた。
大嫌いな猫をステッキを振り回して追い払い、水銀燈を思いださせるカラスには石を投げつける。
道端に置かれたダンボールに小学生たちが群がっていた。
「かわいい〜、この子犬飼ってあげたいな〜」
「アパートじゃなかったら飼うのにな」
犬好きの真紅には聞き捨てならないことである。
「貴方たち、そこをどきなさい。私に見せるのだわ」
見れば産まれたての子犬である、雑種であろうが茶色地に黒いブチのその姿はくんくんをおもわせる。
「どうやら捨てられた子犬のようね。この子は私が飼うことにするのだわ」
抗議の声をあげる小学生たちをツインテールのムチで叩きのめして追い払うと真紅は子犬を抱き上げた。
「あら、意外と重いのね。自分で歩きなさい」
子犬とはいえ人形の真紅には重すぎた、地面に下ろすと首にヒモをつけて引っ張りまわす。
「お前は私の下僕になるのだわ、私の家で飼ってあげるのだから感謝なさい」
空腹のためにヨロヨロと歩く子犬にお構いなく真紅は家までの帰り道を急ぐ。
「お前の名前はくんくんにするのだわ、名探偵くんくんを見習って立派な犬になりなさい」
「ただいま帰ったのだわ。ノリ、この子をお願い、キレイに洗ってちょうだい」
真紅は家に帰ると早速ノリに世話を押し付ける。
「あら〜ワンちゃんね〜、今から食事の準備するから待っててね」
ノリは子犬を抱き上げるとやさしく頭をなでる。
「ジュン、新しい下僕を連れてきたわ、仲良くしなさい」
真紅はジュンに子犬を飼うことを説明する。
「真紅、ただでさえ人形が3匹もいるのに犬まで飼うのか?」
文句を言うジュンを叱り飛ばし、真紅は読書で夕食までの時間を潰す。
「みんな〜ご飯できたわよ〜」
ノリの呼ぶ声に釣られて全員が食堂に集まる。
「今日の夕食はポシンタンよ〜」
食卓の上には煮込まれた肉のスープが並び、良い匂いをたてていた。
「このスープおいしいわね、このお肉も甘みがあって柔らかくておいしいわ」
真紅がノリの料理を褒めるとノリも喜ぶ。
「真紅ちゃんのおかげよ〜」
夕食を食べ終わると真紅がノリを呼び止める。
「ノリ、余った食材はないかしら?子犬にエサをあげたいの」
「真紅ちゃん、何言ってるのかな〜?犬なら食べちゃったじゃない」
ノリが笑いながら告げる事実を真紅は受け入れることができない。
「え!?よく説明するのだわ!!くんくんをどこにやったの!」
「だからポシンタンは犬肉の料理なの、おいしかったでしょ?」
真紅は3日間トランクの中で閉じこもって泣いた。
3日後、腹が減ってトランクから出てきた真紅は散歩に出かけた。
「ノリ、また犬を拾ってきたわ。この子をお願いね」