西暦21XX年。科学技術の発達は人格を持つロボットを実現させ、人間とロボットの 
共存する社会を生み出していた。その中、人間とロボット共通の娯楽として楽しまれていたのが 
ロボットファイト、略してロボファイと呼ばれるロボット同士の戦いによる戦闘競技。 
そして今日も我こそが最強ロボと信じるロボット達がスタジアムに集結する。 
そんな中、街外れに一つの寂れたジムが存在した。トンゲロボファイジム。 
ロボファイの選手を育成するジムであるが、大した選手は殆ど輩出されておらず、 
三流ジムと呼ばれていた。そのジムの真ん中の練習用リングの真ん中に一人の男が座っていた。 
男の名はトンゲ=ドンペイ。このジムのオーナー兼コーチであるが、その服装は 
オッサンシャツに腹巻、ゲタなど、時代遅れも甚だしい格好をしていた。貧乏なのだ、彼は。 
しかしその日、ある存在が彼の生活を一変させる事となる。 
ローゼンメイデン第一ドール、水銀燈。彼女がドンペイのジムにやって来たのである。 
「あ〜らぁ、貴方が私のネジを巻いたのぉ?な〜んか冴えない親父ねぇ〜。」 
「コイツはすげぇ・・・。ただの古臭ぇアンティークドールかと思ったらお前ロボットか!?」 
「何このお馬鹿さんはぁ。私はローゼ・・・んが!」 
水銀燈の言葉を遮り、ドンペイが物凄い勢いで彼女の肩を掴んだ。その時の力は物凄く 
思わず関節が外れそうになった。 
「お前・・・ロボファイ選手にならねぇか?」 
「ちょっちょっといきなり何なのよぉ!話が読めないわぁ!」 
「あ・・・す・・・すまねぇ。俺の名はこのジムのオーナー兼コーチのトンゲ=ドンペイ。お前は?」 
「ローゼンメイデン第一ドール、水銀燈よ。」 
「聞いた事無い型式だな〜。一体何処のメーカーが作ったロボットなんだ!?」 
「ロボットなんて下等な物と一緒にしないで欲しいわぁ。私はローゼンメイデン。 
お父様が作った誇り高きドールなのよぉ。」 
「ああなるほど。個人によるオーダーメイドってワケか。」 
「貴方・・・人の話聞いてる?」 
ドンペイの態度に水銀燈もカチンと来ていたが、それ以上に気になっていたのは今いるジムの汚さだった。 
「それにしても汚い所ねぇ。信じられなぁい。」 
「何しろ貧乏ジムでな。門下生も殆どいなくなっちまって。だが、お前は鍛えれば結構行けると見たぜ? 
おい!ここで会ったのが何かの縁だ!ロボファイ選手にならんか!?」 
「何よそのろぼふぁい?ってぇ〜?」 
「ロボファイってのは最強のロボットを決めるロボットの格闘大会よ!」 
ドンペイはそう言うと、テレビのスイッチを入れる。そしてテレビではロボファイの中継が行われていた。 
多種多様のロボットによる壮絶な格闘戦、入り乱れるビームやミサイル、会場中が大勢の人間や 
ロボットで湧くスタジアム、などなど様々な事が映し出されていた。 
「どうだ?わかったか?」 
「バッカみたぁい。あんなのアリスゲームに比べれば子供の遊びよぉ。」 
水銀燈はドンペイをあざ笑うかのような顔で後ろに振り返ろうとした。しかし・・・ 
「ほぉ。アリスゲームってのが何なのかは分からんが、お前・・・怖いんだろう?」 
「な!?こ・・・怖いですってぇ?」 
「違うか?この試合見て怖気づいたんだろう?キャア怖い怖いって感じによ!」 
ドンペイのその言葉だけで水銀燈を怒らせるには十分だった。水銀燈は背中の翼を大きく左右に広げ、 
ドンペイの顔を物凄い形相で睨みつけた。 
「分かったわぁ!ならば直接アリスゲームに比べれば子供の遊びだと言う所を見せてやるわぁ!」 
「よし決まりだな!試合出場等の手続きは俺に任せろ。」 

数日後、大盛況のスタジアムのど真ん中に水銀燈の姿があった。前座扱いだけど。 
『彗星の様に現れた期待のルーキー!スイギントー!ゼンマイ動力と言う変り種であります!』 
「キャー!小さくて可愛い!」 
「ゴスロリロボだー!」 
「それにしても良く出来たてるなー!本物の女の子みたいだー!」 
観客達が水銀燈をはやし立てるが、水銀燈本人は思い切り緊張していた。 
「て・・・テレビで見る以上に・・・本格的じゃなぁい・・・。」 
水銀燈が緊張するのも無理も無い話だった。それまで一部の関係者以外の前からは 
姿を隠す様な生活を続けていた彼女にとって、これほどの大勢の人間から注目されるのは 
初めてだったからである。 
『対しましてはー!迫り来る重金属!ビッグバン!』 
「ちょっと・・・大きすぎなぁい?」 
対戦相手は全身が超合金の重装甲で覆われた2メートル以上の大型ロボットだった。 
「全くひでぇ貧乏くじ引いちまったぜ。こんなおチビちゃんを相手にしなきゃならんとは。」 
「お!おチビちゃぁん!?」 
ビッグバンの最初のセリフで水銀燈は怒った。普段から人を馬鹿にしている者ほど 
他人からの馬鹿にされる事には意外に脆い物である。今の水銀燈がまさにそうだった。 
『それでは試合開始です!』 
そして試合が開始された。ビッグバンがその巨大な腕を振りかぶって水銀燈に迫る。 
「その可愛いお顔を粉々に砕いてやるぜぇ!」 
「きゃあ!」 
その瞬間、水銀燈にある恐怖の記憶が蘇った。かつて彼女は顔面を思い切り殴られると言う 
辛酸をなめた事がある。しかも自分が最も馬鹿にしていた相手に・・・ 
その事が彼女のトラウマとなっていたのだ。 
「避けろ水銀燈!!スピードならお前のが上だ!!スピードでかき回せ!!」 
「はっ!!」 
ドンペイのアドバイスで我に返った水銀燈は翼を広げ、後ろに飛び上がる事でビッグバンの 
拳を回避した。そして距離を取りながら羽を飛ばした。 
「これで切り刻んであげるわぁ!ってええ!?」 
残念ながらビッグバンには通用しなかった。人間やドールなど柔らかい対象を切り裂く事が 
出来ても、強固な重金属の塊であるロボットには通用しなかったのだ。 
「無駄だ無駄だ!」 
「それならぁ!」 
水銀燈は羽の中から一本の剣を取り出す。その剣先をビッグバンの肘関節に突きこんだ。 
「関節なら脆いはずよぉ!」 
「なるほど。考えたな?だが・・・。」 
その時だった。ビッグバンの肘関節が火を噴くと共に、肘から先が撃ち出されたのだ。 
そう、それは俗に言うロケットパンチと呼ばれる物だった。 
「あああ!!」 
ロケットパンチの直撃を受けた水銀燈は思い切り壁に叩き付けられ、倒れこんだ。 
「か・・・は・・・。」 
水銀燈は立ち上がろうとした。しかし、体が動かなかった。 
「(う・・・動けない・・・。そんな・・・ロボットなんかにぃ・・・ロボットなんかにぃ・・・。)」 
水銀燈はショックだった。自分が子供だましと馬鹿にした相手にこの様にやられるなど 
プライドの高い彼女にとってそのショックは想像を絶するものだったからだ。 

『無様ね、水銀燈。』 
「(!?)」 
水銀燈が見た物。それは彼女の姉妹達だった。しかも水銀燈を見下すような顔で見下ろしていた。 
『あの時謝って損したのだわ。やっぱり貴女はジャンクなのだわ。』 
「(真紅!)」 
『頭脳派な私と違って大馬鹿なのかしらー!』 
「(金糸雀!)」 
『お前はローゼンメイデンの面汚しですぅ。』 
「(翠星石!)」 
『所詮第一ドールなんて僕達を作る為の試作品。この程度って事だね。』 
「(蒼星石!)」 
『水銀燈なんて大嫌いなのー。』 
「(雛苺!)」 
『アナタハジャンク・・・。』 
「(雪華綺晶!)」 
『アハハハ!ジャンクジャンク!』 
「(違う・・・私はジャンクじゃないのよぉ・・・。)」 
水銀燈は心の中で必死に叫んだ。しかし、肝心の声が出なかった。 
『何時も私達をお馬鹿さん呼ばわりしていた貴女は何処へ行ったの?水銀燈。』 
『悔しかったら立ち上がって見るですぅ!』 
『ま、ジャンクには無理な話だよ。』 
「私はジャンクなんかじゃ無いのよぉぉぉぉぉぉ!!!」 
姉妹達に罵倒された怒りからか、水銀燈は立ち上がった。その時の彼女の目付きが変わった。 
そして物凄い気迫を発しながらビッグバンを睨みつけていた。 
「私はぁぁぁ・・・ジャンクなんかじゃ・・・無いのよぉぉぉ!!」 
「何をワケの分からん事を素直にダウンしてれば良いものを!」 
ビッグバンはパンチを打ち込むが、水銀燈はビッグバンの頭上に飛んでかわし、 
背後に回りこんだ。素早く振り返るビッグバンだが、水銀燈は背を向けたままだった。 
「バカめ!敵に背を向けるとは!」 
「さぁ・・・。それはどうかしらぁ・・・。」 
その時だった。水銀燈の翼が大きく伸びると共にビッグバンに襲い掛かった。 
「本当のバカはお前だな!その技はもう通用せんと・・・うわぁ!」 
水銀燈の翼はビッグバンの全身に絡み付いた。しかもまだまだ伸びて行く。 
「これがローゼンメイデン第一ドールの力よぉ!」 
ビッグバンを絡みつかせた水銀燈の翼は何十メートルにも渡って伸び上がり、 
そこからさらに高速で振り回したのだ。強風が起こる程にまで・・・。 
『これは凄い!スイギントー、重量級のビッグバンを振り回しております!!』 
「うおおおおおおおおおおお!!」 
「これで・・・終わりよぉぉぉ!!」 
高速で振り回した後、その勢いの全てを注ぎ込んでビッグバンを地面に叩き付けた。 
それは大きなクレーターが出来る程であり、流石のビッグバンの重装甲もそれには耐えられなかった。 
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」 
「俺ぁお前におチビちゃんと言ったが訂正するぜ・・・。お前はとんでもねぇおチビちゃんだ・・・。 
お前なら勝てるかもしれねぇな・・・。あの桜田博士が作った最強ロボ・・・ 
あの紅の悪魔に・・・。お前の行く末・・・期待するぜ・・・。」 
『やりました!スイギントー!デビュー戦は勝利を飾りましたー!』 
「すげぇぜ水銀燈。やはり俺の目に狂いは無かった。」 
「や・・・やったのぉ?私・・・。」 
水銀燈はロボファイにおいて記念すべき一勝を飾った。しかし、それが彼女の新たな戦いの始まりだった。 

                    おわり 

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