その日、僕は真紅と雛苺を連れて動物園に向かってた、バスに乗り真紅を窓側に座らせ雛苺を膝の上に抱く。
「ジュン、あのね、象さんとライオンさんどっちが強い?」
雛苺は動物園で見たい動物について夢中で話し続ける。
真紅は初めて乗るバスがめずらしいのか、窓の外の景色をずっと見つめている。
そのうち、すれ違う車に向けて窓から身を乗り出して手を振りはじめた。
「おい、真紅。そんなに窓から出たら危ないぞ」
次の瞬間
ゴシャッーーー!!
真紅の首がすれ違ったトラックに吹き飛ばされた、真紅の髪や顔の破片が道路に散らばる。
僕は呆然として目の前の光景をみていた。
首から上がなくなった人形が手をばたつかせながらバスの中を走り回る。
「真紅!!大丈夫か!?」
乗客たちが悲鳴をあげ逃げ惑う、僕は慌てて真紅を押さえつけてその場でバスを降りた。
真紅は喋ることも聞くことも出来なくなった、紅茶も飲めず、食事もできない。
僕が真紅の手のひらに指で字を書く、真紅はクレヨンでゆっくりと一文字ずつ紙に書いて答える。
「真紅、9時になったよ、寝よう」
「コ・ワ・シ・テ」
「ワ・タ・シ ジ・ャ・ン・ク」
僕は黙って真紅を抱きしめた。
ジャンクでもいいからそばに居てほしい。
翠星石はプライドの高い真紅は首無しで生きていることは望まないだろうと言った。
僕が真紅を壊すのを拒否すると翠星石は家から黙って出て行った。
雛苺はよく状況が理解できないようだった。
いや、理解することを拒むように首なし真紅から逃げ回った。
真紅は部屋の隅に座っていることが多くなった。
時々手を握ってやると、黙って握り返してくる。
ある日、真紅は突然いなくなった。
翌日、水銀燈が訪ねてきた。
「昨日、真紅と戦ってローザミスティカを奪ったわ。もう真紅は戻ってこないわ」
「どうして・・・目も耳も使えないのに・・・」
僕は呆然として呟いた。
「最後に薔薇乙女としての誇りを守りたかったんでしょ、首の無いままこの家に居ても貴方のためにならないと思ったんでしょうね」
水銀燈はそれだけ言うと飛び去っていった。