真紅が身体障害者になった。
その日、僕は真紅と雛苺を連れて散歩にでていた、雛苺を抱っこし真紅の手を引きながら商店街を歩く。
「あ〜〜!ともえがいるの〜〜!ともえ〜〜!!」
突然、雛苺が僕の手から飛び出し道路の反対側に駆け出していく。
「雛苺!!危ない!来ちゃダメ!!」
向かい側の歩道を歩いていた柏葉がこちらに向かって叫ぶ、雛苺の目の前に大型ダンプが迫っていた。
情けないことに僕は何もできなかった、足がすくんで動けず声も出せなかった。
突然、目の前を赤い疾風が通り過ぎた。真紅だ!
ガシャーーーン!!
真紅は雛苺を突き飛ばし、ダンプに撥ねられるのを防いだが真紅の両足はダンプに踏み潰されていた。
真紅の両足は細かい破片となって道路に散らばり、小さな靴が道路の真ん中に転がる。
「真紅!!大丈夫か!!」
「真紅ちゃん!」
「真紅〜〜ごめんなの〜〜うわ〜〜ん」
僕たちは慌てて真紅に駆け寄り、助け起こす。
「大丈夫よ、これくらい。雛苺、ケガはないかしら?」
真紅は気丈にふるまったが、真紅がこれから歩けないことは皆が予想できた。
僕は泣きながら真紅を背負って家に帰った。
雛苺は責任を感じて鞄に閉じ篭ってしまい、翠星石も普段の元気が無くなった。
もちろん一番ショックを受けているのは真紅であろうが、努めて取り乱すことはなかった。
「ここまで粉々に砕けてしまってはお父様でも治すのは無理でしょうね」
真紅が自嘲気味に呟いた。
「ジュン、紅茶を淹れてちょうだい」
真紅の定位置は僕のベッドの上、くんくんを見る時と食事の時は僕が抱っこして階下に降ろす。
雛苺は甲斐甲斐しく真紅の身の回りの世話をするようになり、翠星石さえも家事をよく手伝うようになった。
徐々に家の中にも昔の明るさが戻りつつあった。
事故から三週間後、水銀燈が現れたが真紅が両足を失ったことを知ると黙って帰っていった。
次の日からヤクルトやバナナを手土産に水銀燈がお見舞いに来るようになった。
つい先日などは一緒に花見に行くと言い出して、嫌がる真紅をぶら下げてヨタヨタと公園に飛んでいった。
帰ってきた真紅は水銀燈の勝手さに文句を言ったが、とてもうれしそうだった。
「水銀燈、お花見は良いのだけど木の上から見るのは感心しないわね、桜は下から見るものだわ」
「あらぁ、上から見る桜の良さがわからないなんて、おばかさぁん、ウフフ」
「あら、もうこんな時間ね。水銀燈、夕食を食べていきなさい」
金糸雀もよく家に来るようになった、親切のつもりだろうがヘタクソなバイオリン演奏を披露してくれる。
大量の人形用衣装を持ち込み真紅の前でファッションショーも開催された。
真紅も帽子やリボンを身につけたりして女の子らしくはしゃぐ。
「金糸雀、あなたにこのコサージュはふさわしくないのだわ。私の方が良く似合うわ」
「キーー!!言ったわね、真紅!許さないのかしら〜」
真紅は新しい趣味として編み物を始めた、冬までにジュンにマフラーを編んであげるわと宣言した。
翠星石はお菓子作りだけでなく最近は料理にも挑戦しだした。
雛苺は相変わらず遊んでいるが真紅に呼ばれるとすぐに飛んでいく。
僕は人形たちも生長することを発見し、真紅にそのことを話してみた。
「そうね、私は歩けなくなったけど姉妹たちが助けてくれる。皆が助け合えば生きていけると気がついたのは生長ね」
「アリスゲームはどうなるんだろうな・・・」
「闘わなくても生長できることに気がついたのだから、いつかは皆がアリスになれるわ、きっとね」