「う・・・・うっく・・・ひっく・・・もうやぁよぉ・・・・ぐすっ・・・ズルルッ・・・」チーン 

水銀燈は泣いていた 
真紅のゲロで汚れた自分に、あまりにも情けない妹達に、そして部屋に充満する酒の気に 

あの冴えないミーディアムは泣きじゃくる水銀燈を気遣って色々と話しかけてくるが 
水銀燈は泣きながら手と羽根を振り回し「ほっといてよぉ・・・・」と言ってまた泣いた 

その時 

「おひとつ・・・・・いかが?」 

それまで水銀燈を無視して忙しく動き回り、真紅や翠や蒼の不始末を片付けていたのりが 
いつのまにか水銀燈の横に座り、湯気をたてるお銚子の中身を、小ぶりな湯呑に注いだ 

吐き気がする酒の匂いをたてる熱い湯呑をのりに投げつけてやろうと思ったが 
のりはただ黙ってお銚子をそばに置き、自分を散々困らせる同居人達を優しい目で見ている 
水銀燈は湯呑を手に取った 「頂く・・・わよぉ・・・」 人肌の温もりに燗した酒に口をつける 

「最悪・・・・」湯呑になみなみ注がれた甘く口当たりのいい熱燗を、水銀燈は飲み下した 

昔、ずっと昔のミーディアム、人形だけが友達の少女、病に冒された少女を思い出した 
水銀燈が風邪をひいた時、少女はお湯で薄めた葡萄酒を飲ませてくれた・・・甘い味がした 

「サケ・・・・わたしたちのふるさと、日本のお酒よ、お米で作ったワインなの・・・・」 
のりは呟く・・・水銀燈は置いてあったお銚子を取り、近くに転がってた杯をのりの前に置いた 
「あなたも・・・・飲みなさいよぉ・・・・」 
水銀燈がのりの杯に少しこぼしながらぬるい燗酒を注ぐと、のりは杯を水銀燈に向けて差し上げ 
にっこり笑うと粋な仕草で飲み干した、そして再びお銚子を摘み、燗冷ましを水銀燈の湯呑に注ぐ 

注いで注がれて、薔薇乙女達が醜態を晒して眠る居間での酒盛りは、静かなまま・・・ 

水銀燈は桜色の頬に触れながら思った、あの時葡萄酒を口移しで飲ませてくれた少女はもう居ない 
でも今の私にはアツカンを注いでくれる気のいい娘が居る、心許すには早いけど、アツカンは美味い 

どこまでも不透明なアリスゲーム、幸福なのか不幸なのかわからない自分、今日の災難 
後ろでは、床に座り込んだまま酔いの回ったのりが、肩をコキっと鳴らしてため息をついている 
ドールの自分には辛いことも多いけど、それはきっと皆同じ、美味い酒が飲めれば、それでいい 

水銀燈は立ち上がった、帰らなくちゃいけない、わたしには帰るべき所があるから 

うつらうつらし始めるのりと、無防備に酔い潰れる薔薇乙女達、今日は何も奪わずに帰ろうと思った 

それでいい、と思った 

(完) 

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