初めてのなっとー 

 平日お昼の番組に、健康に関する話題はつきもの。 
 有り余る時間をテレビ観賞で潰していた翠星石は、ほんの気まぐれだが、その番組で紹介されていた食品に興味を持った。 
「納豆ですか。そういえば、食べたことがなかったですぅ」 
 翠星石の納豆への挑戦が始まった。 

「今度、納豆を買ってきてほしいですぅ」 
 夕食の時、翠星石が唐突に話を切り出した。お昼の番組のことを忘れずに覚えていた。 
「翠星石ちゃん、納豆が好きだったのぅ?」 
 家事全般を担当しているのりが尋ねた。納豆は人を選ぶ食べ物だ。確認しておいた方がいい。 
「食べたことがないから食べたいだけです」 
「そうなのぅ。それなら、明日買ってきてあげるね」 
 のりは納豆を明日の食事に出すことを約束した。初めての納豆にどんな反応をするのか楽しみでもあった。 
 これでこの話題は終わりになると思われたが、そうはならなかった。横で聞いていたジュンが口を挟む。 
「やめとけ。絶対後悔するぞ」 
「チビは納豆が嫌いですか?」 
「ああ、大嫌いだ。あんなのを食えるやつの気が知れないよ」 
「そんなに不味いですぅ?」 
「あれは味以前の問題。不味さの次元が違う」 
 そこまで不味いと言われると、逆に食べてみたくなるもの。ひねくれ者の彼女なら尚更だ。 
「そんな好き嫌いを言ってるから、ジュンはチビなんですよ。明日は翠星石と一緒に食べるですぅ」 
「一人で食ってろ」 
 逆に納豆を勧められ、ジュンは黙って食事に戻った。 

 約束通り、翌日の夕食には納豆が用意されていた。 
 翠星石の席の前にだけ、スチロールの四角いパックが置いてある。 
「これが納豆ですか?」 
「そうよぅ。食べ方はわかる? まず蓋を開けて、たれとからしを出して」 
 翠星石は言われるように封を切り、たれとからし、薄いフィルムを取り出す。 
 その際、フィルムに付着した納豆が糸を引いた。糸を切ろうと手を振り回してもなかなか切れない。細くなった糸が風に揺れて手や顔に付く。 
「すごい粘りですぅ。それに、なんだか臭うですぅ……」 
 想像してなかった臭いに少し顔を顰める。 
「これ、腐ってないですか?」 
 素直な第一印象なのだが、のりは苦笑するしかなかった。あの臭いは、やはり悪臭に近いだろう。 
 そ知らぬ顔で食事をしていたジュンが、そら見たことかと口を出す。 
「それが納豆だっての。そんなの食えないだろ?」 
 翠星石は勝ち誇ったようにニヤリと笑う彼を見てカチンときた。こうなったら意地でも食べてやる。 
「これくらい平気です。のり、このたれを入れればいいですか?」 
「あとは泡立つくらいよくかき混ぜて、ご飯と食べるそうよ」 
 たれを注ぎ、ひたすら箸でかき回す。炊きたてご飯の上からかけたら、納豆ご飯の完成だ。 

「い、いただきますぅ」 
 茶碗を持ち、初めての納豆を恐る恐る口へ運ぶ。 
 見た目と臭いは最悪だが、普通に食されている食べ物だ。死ぬことはない。 
 そう自分に言い聞かせて勇気を出し、糸を引く納豆を口に放り込んだ。 

「……あ、意外とおいしいですぅ」 

 食べてみれば、意外に旨味の多いご馳走だった。自然に箸も進む。 
 おいしそうに食べるのを見て、真紅と雛苺も食べてみたくなった。 
「ヒナも食べたいのぉ」 
「のり、私の分はないの?」 
「はいはい」 
 微笑んで返事をしたのりは、冷蔵庫から納豆のパックを二つ持ってきた。用意のいい人だ。 

 薔薇乙女達が糸を引きながら納豆を食べるのを、ジュンは信じられないという顔で眺めていた。真紅と雛苺も納豆の味に順応できたのだ。 
「お前ら、本当にうまいのか?」 
 人がせっかくおいしく食べているのだから放っておけばいいのに、気になって仕方がなかった。 
「おいしいの」 
「ジュンも食べる?」 
「僕はいいけど、どんな味なんだ?」 
 ジュンが墓穴を掘った。あれだけ納豆を悪く言っていたのに、食べたことがなかったのだ。典型的な食わず嫌いである。 
 翠星石の目が怪しく光る。何かをする前兆だ。 
「ちーびーにーんーげーん。もしかして、納豆の味を知らないですか?」 
「あ、いや、知ってる。もちろん知ってるさっ」 
 焦った彼は勢いで嘘をついてしまう。当然、そこを追求される。 
「どんな味ですぅ?」 
「そんなの知るか!」 
「はぁ?」 
「いえ、違います。なんというか、おいしくない味です」 
 逆切れしたりと見苦しい言い逃れもここまで。翠星石が箸を置いて椅子の上に立った。 
「そんな嘘が通用するかです。罰として、ジュンにも納豆を食べてもらうですよ」 
 そう言って、庭師の如雨露を手に持った。ドールズの力は色々と危険すぎる。ジュンは顔を青くした。 
「お、おい、何をする気――」 
「スィドリーム!」 
 席を立とうとした瞬間、植物の蔓がぐるぐると体に巻きついて椅子に固定された。 
 動きを封じた翠星石は如雨露を仕舞い、食べていた納豆ご飯と箸を持って椅子から飛び降りる。 
 そして、向かうはジュンの所。彼の膝に上った翠星石は、納豆を抓んだ箸を向ける。 
「チビ人間、口を開けるですぅ」 
 ジュンは口を開けようとしない。この状況で抵抗できる彼は、意外と根性があるのかもしれない。 
「口を開けないと、鼻から食べさせるですよ」 
 納豆を挟んだ箸を鼻へと向かわせる。ただでさえ微妙な臭いが、ダイレクトに鼻腔へと侵入する。翠星石は鬼だった。 
 執拗に鼻先に納豆を持ってこられ、ジュンは耐えかねて口を開く。 
「いい加減にしろよ!」 
「とくと味わえですぅ!」 
 怒って口を開けた隙に箸を滑り込ませた。翠星石の作戦勝ちだ。 
 口の中の納豆をどうしようかと、箸をくわえたままのジュン。 
 少しして、口がもごもごと動く。そして、ごくんと飲み込んだ。 

「……意外とうまいな」 

 こうして、ジュンの納豆嫌いは克服されたのだった。 
 この後、翠星石がドキドキしながら箸を使ったのは秘密だ。 

おわり 

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ケットシーは納豆が好きです。 
ご飯と一緒に食べずに、そのまま納豆だけで食べてしまうくらい好きです。 
だから何だと言われればそれまでですがw 

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