タイトルは「お菓子選挙」
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「スコーンですぅ!」
「いいえっ、クッキーだわ」
春の暖かな日差しに包まれる桜田家で
今小さな争いが繰り広げられている
リビングで言い争う翠星石と真紅、何でこんな事になったのか
そんな2人を眺めながら、ジュンは頭の中で呟いていた
ご飯を食べ終わり、各々が自由な時間を過していた
雛苺と真紅、翠星石はソファーで何時ものくんくんを楽しみTV鑑賞会
蒼星石はのりと食器の後片付けをしていた
「くんくんっ、誰なの?犯人は誰なの?」
「犯人は絶対あの猫娘ですー、今にあの犬探偵の口から語られるはずですぅ♪」
「うー、くんくんすごいのー、頑張るのくんくんー!」
3人がTVに熱中している中
食器を洗いながら、のりがふと真紅達に訊ねた・・・。
「今日のおやつ、何がいいかしら?」
いつもなら大体彼女のおまかせで作られているのだが、今日はリクエストに応えてくれるらしい
ドール達に問い掛けたあと、最初に雛苺が声をあげる
「ヒナはねぇー、のりが作ってくれるおやつならなんでもいいのー」
「僕も特には、のりさんのおまかせでいいよ」
一緒に食器を洗っている蒼星石からも同じ返事が返ってきて
2人の言葉にのりは少し嬉しくなった
自分はみんなから信用されてるのかな、何てバカな事を頭の中でぼやきながら
思わず表情に漏れて微笑んでしまう
「そっかぁ〜、じゃーわかったわ!今日も私が頑張って
「そうですねぇ〜、翠星石はスコーンが食べたいですぅー」
と言おうとしたが、途中で翠星石からのリクエストに阻まれてしまった
少し笑顔が歪んだが、元々自分が言い出した事なのですぐ立ち直る
「スコーン〜?雛苺も食べたいのー!」
「姉さんがそう言うなら」
他の2人も異論はない様なので、今日のおやつはスコーンに決まるかに見えた
だが
「じゃー翠星石ちゃんの言う通り、今日はスコーンに
「まって、のり、私はクッキーが食べたいのだわ」
今度は真紅からの声に、また言いそびれてしまった
「クッキー?んー、ヒナも食べたいのー」
「へぇー、きみが他人の意見に口を出すなんて意外だね」
のりが作ってくれる物なら何でもいい雛苺に
真紅の普段見せない反応に意外性を浮ばせる蒼星石
それに真紅が迷いなく答えた
「今日のくんくんはクッキーを食べていたの、私はくんくんの一番の助手ですもの
そんな私がくんくんと同じ物を食べなくてどうするのだわっ!くんくんと同じ物を食べて、同じ生き方を貫かなきゃ
真にくんくんと心を通じ合わせるのは不可能なのだわ」
恥らう様子もなく、淡々とくんくんへの愛を語る
「うぬー?くんくんがクッキー?、食べてたっけーなのー」
「そう言えば食べてた気もしますけど・・・多分ほんの一瞬ですぅ、よく覚えてましたね真紅」
同じTVを見ていた2人だが、返事は疑問形で返って来た
「貴女達にはくんくんへの愛が足りないのよ!」
大真面目に一喝を入れる
おそらく、くんくんを見ている間の彼女は動体視力が飛躍的に揚がるのだろう。愛は常識を凌駕するらしい
しかし、その二つのリクエストにのりはやや困った顔を見せる
「えーと、どうしましょう・・・今日は卵と小麦粉をあまり沢山用意してなかったから
二つも一緒に作れそうにないのよ」
ちょっとしたトラブルの発生に、今日のおやつの献立を決め兼ねているのりだが
戸惑う彼女に真紅が愛の名の元に畳み掛けた
「クッキーは今日でなきゃ意味がないの、私のくんくんは今日クッキーを食べていたのよ
明日じゃダメなの、そう言うわけだから翠星石、今日のスコーンは諦めてちょうだい」
きっぱりと言い切る。だが、それに翠星石が応じようとしなかった
「ちょ、ちょーっと待つです!昨日もクッキーは食べたですよ
何で2日も続けて同じ物を食べなきゃならないのですかぁ〜、断然今日はスコーンですぅ!」
「あなた、私とくんくんとの愛を引き裂こうって言うの!?」
「そんなの知らないですぅ、花よりだんごですよ!」
「ちょ、ちょっと2人とも・・・」
とまぁ、僕が2階から降りて見たらこんな感じである
「大体スコーンなんて、お菓子は味もそうだけれどそのシェフが奏でた繊細な形を楽しむ物よ
生地と言うキャンバスに描かれた小さな芸術品なのだわ、それを何?
あんな何も手を加えずに無造作に膨らませた様な外形は。まったく、洋菓子の風上にもおけないわ」
まだ言い争っている様だ
「クッキーも作れない真紅にお菓子のなんたるかを語る資格はねーですぅ!
あの雲の様で、口に入れた瞬間に広がる柔らかさ〜♪さらに中にレーズンを入れるともっと美味しさが増すですよ〜
あんな石を食べてる様なお菓子より絶対スコーンですぅ」
なんです〜!なんなのだわ!
2人による互いのお菓子の罵り合いは激しく続いた
そんな中、まるで自分の腕を否定されているかの様で途端に落ち込んでしまった娘が一人いるのは
言うまでもないだろう
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「けんかはやめるの〜」
「そうだよ、2人とも落ち着いて」
言い争う翠星石と真紅を、見兼ねた2人が引き止める
その言葉が届いたのか、ハッと2人が我に返った
「そうね・・・、私ともあろう者がちょっと熱くなり過ぎたわ」
「所詮お菓子くらいの事で、大人げなかったですね」
これでやっと事が治まったかに思えた、ジュンも騒動の終着に1つ安堵の息を付く
のだが
「けど、私はやっぱりクッキーが食べたいのだわ」
諦めてないらしい、そこで次に真紅が1つの妙案を言い出した
「それなら今日のおやつをどちらかにするか
みんなに決めてもらうって言うのはどう?票を多く勝ち取った方が今日のおやつよ」
その妙案に、勝負好きの翠星石が快く受け入れる
「それは名案ですぅ〜♪受けて起ちますよ真紅」
「負けないのだわっ!」
「こっちこそです!」
蒼星石や雛苺、落ち込む姉ちゃんや僕を他所にどんどん話を進めていく2人
まったく、そのお菓子を作るのは誰だと思ってるんだか・・・
一通り張り合った後、さっそく翠星石が行動に出た
「と言うわけでチビ苺、クッキーとスコーンどっちが食べたいです?」
「うゆー?えーっとねー、ヒナはねぇー」
迷っている雛苺に、そっと耳元で囁き掛ける
「スコーンはですねぇ、苺ジャムを浸けるととっても美味しいのですよー」
「苺っ!?ヒナ、スコーンがいいー!」
有権者の好物を利用した見事な戦術で一票を獲得した
「ず、ずるいのだわ翠星石っ」
「スコーンの利を生かしたまでです〜♪これで一票ゲットです〜」
負けじと真紅も蒼星石に問い詰める
「蒼星石、貴女はどちらがいいの?」
「僕は別に、どっちでも」
そんな特に関心の無さそうな返事に
「貴女、昨日の・・・・いいのね?」
「ク、クッキーが食べたいなぁ〜」
見事な精神操作で一票を巻き返した
「昨日って、何があったですか蒼星石・・・」
「な、なんでもないよ!それより早くどっちにするか決めようよ!」
相当まずいのか、慌てて話を逸らそうとする。本当に何があったのやら
「くぅぅ、妹を脅迫で揺さ振るとは卑怯ですよ真紅」
「やったもの勝ちなのだわっ」
これで1−1、次に狙うのは・・・
グリンッ、今まで様子を眺めていた僕に一斉に顔を向けてきた2人、少し怯んでしまう
しかし、そんなジュンの動揺もお構いなしにズンズンと近寄ってくる
「チビ人間っスコーンかクッキーどっちがいいんです!」
「ジュン、クッキーとスコーンどちらがいいの!」
「わ、まて、そんな同時に言われても」
いきなり叫ばれてまた戸惑うジュン
それからじっと2人が見詰めてくるものだから、意味もなく頬が赤くなり慌てて目を逸らした
何を動揺してるんだ僕は
「・・・どっちも、じゃダメか?」
「ダメです!」
「ダメだわっ」
んな事言われても、どちらか一方を選べばどっちかに殴られるのは目に見えている
そうジュンが返事を迷っていると、ふと翠星石が訊ねて来た
「チビ人間っ、フワフワとカチカチ、どっちが好きです?」
「え?えーと・・・フワフワかな?」
この返事に、してやったりの笑みで勝ち誇る
「でしたらー、ジュンはスコーンの方が好きに決まってるですぅ〜これで2票ゲットです♪」
「ま、待つのだわ!クッキーはサクサクなのよ、カチカチじゃないのだわっ!」
「どっちでも一緒です〜、ジュンは硬いのより柔らかいのを選んだんですぅ〜♪」
「ジュ・・・ジュンッ!」
真紅が睨みながらこちらを振り向いた・・、いや、これは違っ
「おい、ま、まって」
左ストレート絆パンチ!
「グハッ」
カンカンカーンッ!WINNER赤いのッ!
倒れたジュンは放って置いて、雛苺がしゃがみながら指で突っつき、ジュンの頭の上にお線香を焚いてお祈りをしている
「まだよ、まだのりがいるわっ」
必死に挽回を謀ろうとする真紅だが
「のりはもうダメです〜」
そう告げると、翠星石が目をのりに向ける
そこには俯いたまま、すっかり自暴自棄になってしまった彼女
「わたしなんて・・わたしなんて・・・」
「のりー!のりーー!」もはや返事を訊ける状態ではなかった
「これで決まりですねぇ〜、今度こそ今日のおやつはスコーンですー♪」
「ま、待つのだわ!まだあの子がいるのだわっ」
そう言ったかと思うと突然片手から花びらを舞い上がらせた
え、何する気ですか・・・
それは手から滞りなく舞い続け、頭上に桜色の集合体を形成して行く・・、
一通り放出した、次の瞬間、勢い良くその花びら達をドアに向けて飛ばし出したっ
リビングの中を、桜色の一線が駆け抜けるっ
そして、バーンッ!
花びらがぶち当たり、そのままドアが勢い良く開いたっ
ひっ、いきなり何をやらかすですかこの娘は
翠星石がそう驚嘆の表情を見せていると
「うぅ・・・」ドアの外で花びらに埋もれた金糸雀が顔を揚げた
「さぁ、話は聞いていたんでしょ?貴女はどっちなの?」
「いきなり、この仕打ちはひどいかしらー・・」
途端に隠密がばれてしまった金糸雀、突然の攻撃に埋もれて、意識がもうろうとするが
「うぅ、カナはーー、えーっとー」
睨み付け、金糸雀に見える様に拳を握る
「ク、クッキーがいいかしらぁ〜!」
「これで同点だわっ!」
「い、色々とずるいですー!」
こうしてまた、振り出しに戻ってしまった。
もう他のドール達は2人に振り回されてぐったり
頭に線香を乗せたまま意識の戻らないジュン、祈り続ける雛苺
翠星石もさすがにはしゃぎ過ぎたと言った感じで、ソファーにぐったり倒れ込んでいる
そんな疲れ切った雰囲気の中、真紅が一言呟いた
「そうよ」
「ジャンケンだわっ」