番外編〜新世紀ローゼンメイデン〜 某国にて―― 「敵機来ます! 数五〇〇〇!」 ブリッジ内が震撼する。 「ついに来たな」 「ああ。予想通りだ」 指令と副指令は動じなかった。敵国が勢力戦を行うのはある程度予想できた。それを打破する切り札もある。問題は何一つない。 司令官は動じず、一言。 「MATUを投入しろ」 戦車部隊隊長機の中では、哄笑が響いていた。 「これだけの戦力、あのちっぽけな国では抵抗もできまい」 「ま、技術もよさは認めますけどね。しかし、それを駆使できる人材がいない」 「ん? 隊長、なにか来ます」 センサーを覗いて士官が告げる。 「敵機か」 「いえ、人間です。それも非武装の」 光学映像がモニターに映し出される。和服を着た老婆のようだ。 「どうします?」 「構わん、撃て。下手なこけおどしをしやがって」 「了解」 砲身を下げ、照準を定める。発射させようとした瞬間―― 老婆が目の前にいた。 声を上げる暇もない。そのまま老婆は動力部を引き裂き、戦車を爆発させた。 「戦車中隊壊滅! すごいです、まだ十分も経ってないのに!」 「どれくらいもつかな」 「さっきあんぱん喰ってたから、五時間程度だろう」 巨大スクリーンに映し出されるマツの獅子奮迅な戦いは、常軌を逸していた。 実弾を無力化するMATUフィールド、鋼鉄を切り裂く双腕。 まさしく鬼神。 「敵国が降伏宣言を出しました!」 「MATUは活動停止。回収しろ」 指令の言葉に、全員が彼を見た。 『どうやって?』 「…………すまん」 全員発令所から逃げ出した。 「いやあ。国がマツを持っててくれてから、平和になったもんじゃ」 柴崎元治は日本茶を一啜りし、しみじみと言った。 「眠ってる獅子を起こしちゃいかんな。うん、勉強になった」 逃げたあげくにエコノミークラス症候群にはなるし、病院食は食べられるし、ロクなことがなかった。 「一人がこんなに素晴らしいとはなあ」 静かな和室を見渡す。マツを介護することも、摩訶不思議な人形に振り回されることもない暮らし。ああ、素晴らしい。 そのとき、電話のベルが鳴り響いた。元治は受話器を取る。 「はい、柴崎時計店です。え、マツを返す? ちょっと待ってくださいよ。引き取るって言ったじゃないですか。手に負えない? 私だって手に負えませんよ。もう送った? 何を勝手な――」 屋根をぶち抜いて、一つの棺桶が元治のすぐそばに落ちてきた。それに伴い、電話も切れる。 中身は凍結されたマツであることは明白である。 「あ、悪夢じゃ〜〜〜〜!!」 元治は我が家から飛び出した。いくあてはない。だが、そこに居ても未来はない。お先真っ暗である。