「もう、飽きた」 
「ああ! やめないで! やめないでぇぇぇぇええ!」 
 絶叫するラプラスの魔を捨て置いて、薔薇水晶は現実世界に戻った。 
「さすがア○ター版のフィギュアだ。出来が違う……!」 
 すっかり現代の人形にハマってしまった槐を無視し、小さな書庫に向かう。参考にと通販で買ってしまって以来、彼女の父親はあっち方面へ行ってしまった。 
「現在目覚めているローゼンメイデンは七体すべて。しかしアリスゲームは発生せず」 
魔導書の一冊はローゼンメイデンの現状を記載していた。薔薇水晶は健気にも、以前の槐の願い(現在の槐の願いはありとあらゆる美少女フィギュアの蒐集である)を叶えようとしているのだ。今まではあの変態ウサギにだまされて徒労に終わったので、今回は独力で行うらしい。 
「第一ドール、多数の護衛が存在。第二ドール、第三ドール、第五ドールは群居。第六ドールを攻撃するのが最良だが、第四ドール、第七ドールが護衛……」 
 一見しても困難であることは明白だが、薔薇水晶はあきらめない。ローザミスティカを集めれば、お父様を更生させることができるかも……。 
「なら、先に第四ドールと第七ドールを襲撃。それにより第六ドールから容易に奪取可能」 
 第七ドールは実体すら持っていないらしい。それなら単純に第四ドールとの対決に持ち込める。 
「手始めに、第四ドール」 
 薔薇水晶は鏡へ飛び込んだ。 
「お、おい!?」 
「ごめんなさい……でも、嬉しいの。こんなこと、今まで一度もなかったから……」 
 父親の野望を叶えるために生み出された存在。誇り高きローゼンメイデンを越えることが存在理由。しかし、もう必要とされなくなった願望。なにもない。相手にされない。必要とされない。 
「あのね、お姉ちゃん。嬉しかったら、笑うんだよ。ないたら、みんな心配しちゃうよ」 
 娘の一人が言う。いつの間にかみんな集まっていた。薔薇水晶はその子を抱きしめ、ぎこちなく笑う。 
「もう、飽きた」 
「ああ! やめないで! やめないでぇぇぇぇええ!」 
 絶叫するラプラスの魔を捨て置いて、薔薇水晶は現実世界に戻った。 
「さすがア○ター版のフィギュアだ。出来が違う……!」 
 すっかり現代の人形にハマってしまった槐を無視し、小さな書庫に向かう。参考にと通販で買ってしまって以来、彼女の父親はあっち方面へ行ってしまった。 
「現在目覚めているローゼンメイデンは七体すべて。しかしアリスゲームは発生せず」 
魔導書の一冊はローゼンメイデンの現状を記載していた。薔薇水晶は健気にも、以前の槐の願い(現在の槐の願いはありとあらゆる美少女フィギュアの蒐集である)を叶えようとしているのだ。今まではあの変態ウサギにだまされて徒労に終わったので、今回は独力で行うらしい。 
「第一ドール、多数の護衛が存在。第二ドール、第三ドール、第五ドールは群居。第六ドールを攻撃するのが最良だが、第四ドール、第七ドールが護衛……」 
 一見しても困難であることは明白だが、薔薇水晶はあきらめない。ローザミスティカを集めれば、お父様を更生させることができるかも……。 
「なら、先に第四ドールと第七ドールを襲撃。それにより第六ドールから容易に奪取可能」 
 第七ドールは実体すら持っていないらしい。それなら単純に第四ドールとの対決に持ち込める。 
「手始めに、第四ドール」 
 薔薇水晶は鏡へ飛び込んだ。 
「みんなヒナに続くの〜!」 
『はーい!』 
 どたばた家中を走る彼女たちを、保護者たる三人は紅茶を飲みながら見ていた。 
「雛苺もお姉さんらしくなってきたな」 
「叔母さんだけどね」 
「そういえば私も……」 
 雪華綺晶は肩を落とそうとしたが、くんくんのボディに肩はなかった。 
「まあ、チビたちも元気だし、僕の勉強も順調だから、順風満帆だな」 
「そうだね。翠星石たちも毎日楽しく暮らしているみたいだし、うん、言うことなしだ」 
「私はもみくちゃにされなければいい」 
 三人は一時の休息を楽しみ、紅茶を楽しむ。勉強、育児、子守。違いはあれど、全員それを真剣に取り組んでいる。 
「あ、そろそろお姉さまの番組」 
 くんくんがテレビに駆け寄り、スイッチオン。イントロが流れ、めぐと水銀燈がブラウン管の中で歌う。 
『乳・酸・菌! 乳・酸・菌! 三六五日、毎日乳酸菌! イエイ♪』 
「ローゼンメイデンにも色々あるんだなあ」 
「彼女は特別だよ。歌姫になるなんて、普通じゃ考えられない」 
「こっちも普通じゃないんだろうけどな」 
「ふふふ。あなたのおかげよ。あなたがいるから、僕がここにいる」 
「蒼星石……」 
「ジュンくん……」 
 二人の影が重なろうとしたとき、リビングの扉が荒々しく開けられた。 
「父様、母様−!」 
「へんなのみつけたよー」 
「あれ? なにしてるの?」 
「やーん。くんくん目隠ししないでー」 
「見ない方がいい」 
 赤くなって距離をとる両親を、娘たちは怪訝な顔で見る。 
「な、なんでもないよ」 
「そ、そうなんだ。ところでどうした?」 
「これなの〜」 
 六人が担いできたのは、一体のドール。ローゼンメイデンに酷似している。 
「ヘンだなあ。ローゼンメイデンは七体までのはず。お父様が新しく作ったのかな?」 
「とりあえず、このたんこぶはどうしたんだ?」 
「きっと物置でころんだの。あそこ暗いから」 
「ま、そのうち起きるだろ」 
 全員大して興味を抱くことなく、薔薇水晶はソファに放置された。雪華綺晶は歌番組を観賞し、ジュンと蒼星石は団欒、雛苺たちはまた家の中を駆け回る。 
 薔薇水晶が目を覚ましたのは夕食時だった。のりは合宿でおらず、蒼星石とジュンが担当である。 
「ここは……?」 
 痛む頭部が知らせる。そうだ、何かに躓いて頭を強く打ったのだ。そこから先は記憶がない。つまり、気絶していたのだろう。すると、ここは第四ドールと第七ドールの本拠地……。 
「おう。気がついたか」 
 薔薇水晶の視界をジュンの顔が占めた。反射的に飛びのく薔薇水晶。 
「ああ、悪い。驚かせたか。ほれ、お前の分」 
 コトリと置かれたのはカレーライス。子供が多いと、どうしてもこういった料理が多くなる。大量に作れ、栄養豊富、子供に人気とくれば、まあ分からないことではない。 
「甘口でよかったか?」 
「どうして……?」 
 どうして見ず知らずの自分に優しくするのだろうか。どうして敵かも知れぬ自分に捕縛どころか警戒さえしないのか。 
「メシってのは皆で食う方がうまいんだよ。僕も最近気づいたんだけどな」 
 スプーンを手に取り、一口食べる。広がるうまみの他に何かを感じて、薔薇水晶は涙を流した。せき止めるはずの眼帯は、まるで意味を成さない。 
「お、おい!?」 
「ごめんなさい……でも、嬉しいの。こんなこと、今まで一度もなかったから……」 
 父親の野望を叶えるために生み出された存在。誇り高きローゼンメイデンを越えることが存在理由。しかし、もう必要とされなくなった願望。なにもない。相手にされない。必要とされない。 
「あのね、お姉ちゃん。嬉しかったら、笑うんだよ。ないたら、みんな心配しちゃうよ」 
 娘の一人が言う。いつの間にかみんな集まっていた。薔薇水晶はその子を抱きしめ、ぎこちなく笑う。 
「泣いちゃだめだよね……泣いちゃ……」 
 優しさが感情わだかまりを溶かしていく。孤独、嫌悪、絶望。多くのものが彼女の心を蝕んでいた。 
「はい、あーん」 
 薔薇水晶にスプーンが差し出される。彼女は素直にそれを口に含んだ。 
 ――おいしい。 
「ばらしーお姉ちゃん」 
「どうしたの?」 
 駆け寄った少女の手には、一輪の花。 
「あのね、花壇のお花が咲いたの。だから、お姉ちゃんにあげる」 
「私に?」 
「いつもありがとう。あと、これからもよろしくね」 
 恥ずかしいのか、そのまま少女は走り去る。残された彼女は、その紫色の花を撫でる。 
「お前も私も、あの子たちのおかげで咲けたのよね」 
 そっとその花をドレスに飾り、水晶で固める。枯れると花も可哀想だし、あの子も悲しむだろう。 
 水と土だけでは花は育たない。照らしてくれる太陽がなければ、花は華麗に咲けない。 
「今日は、何をしようかしら」 
 あの子たちが私の太陽であったように、私はあの子たちの光になろう。それはひとつの戦い。武力とは根本的に違う戦い。まったく未知の領域。 
 それでも―― 
「負けるもんですか」 
 彼女はドレスをはためかせ、戦場と化したリビングへ出向いた。 
―――――――――――――――――――――――――
燃え尽きているはずなのに、職人が執筆をしていると「俺も負けてられっかー!」と思ってしまう私です。 
しかし、やはりID変更に合わせて書くのは無理でした。眠いですし、なんと言っても時間がない。 
クオリティーの低下でがっかりさせてしまったかもしれませんが、 
できる限りのことはしたので、ご了承のほどを。 
とりあえず今は自己嫌悪に浸りながら寝ます。 
それでは。 
青二才。 




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