翠星石は夢の世界を出入りする事が出来る。そうやって人の心の樹の世話をするのが 
庭師である彼女の仕事でもある。そうして彼女は今夜、皆の眠りと共にジュンの夢の中へと 
やって来た。と言っても別にジュンの精神に何か異常があるわけではない。 
単純に夢の中のジュンと一緒にいたいだけだった。 
「夢の世界なら真紅に邪魔されなくて済むですぅ。」 
皆が起きている時、ジュンは真紅と一緒にいる事が多いし、二人の仲がとても良好なのは 
翠星石も認めている事実。しかし、翠星石とて真紅に負けないくらいジュンが好きだ。 
ただ、真紅程素直じゃない性格が災いし、素直に好きと言えない。 
結局チビ人間と罵倒し、脚を蹴っ飛ばしてしまう。本当は好きだと言いたいのに… 
けど、夢の世界で二人きりになればきっと… 
そう信じて翠星石はジュンの夢の中にやって来た。 
「お〜いチビ人間! どうせお前は夢の中でも引きこもって寂しい思いしてるでしょうから 
翠星石が遊びに来てやったですぅ! 感謝するですぅ! ってあれ? いないですぅ…。」 
不思議な事にジュンの姿が見当たらない。一応確認してみたが、ここは間違いなくジュンの 
夢の中である。なのにジュンの姿が無いとはどういう事であろうか… 
「おかしいですぅ…ジュン何処ですぅ?」 
ジュンを探して歩き回る翠星石だが中々見付からない。次第に不安になって来た。 
しかしそんな時だった。 
「マンマ〜。」 
「え?」 
翠星石の前に一人の赤ん坊が現れた。その赤ん坊はヨチヨチと這いながら翠星石の前に近寄り、 
スカートを引っ張るではないか。 
「マンマ〜、マンマ〜。バブ〜。」 
「ちょっと何ですぅ? この赤ちゃんは…、翠星石はお前のママなんかじゃ無いですぅ。 
大体お前は一体何ですぅ? 何でこんな所にいるですぅ? もしかして他所の夢から 
紛れてきたですかぁ?」 
翠星石は困った顔をしながらもゆっくり抱き上げたが、その時彼女はある事に気付いた。 
その赤ん坊はジュンにそっくりなのだ。以前のりに見せてもらったアルバムに載っていた 
赤ん坊の頃のジュンそのものだった。 
「お前まさかジュンですぅ!?」 
「アブ〜。」 
赤ん坊はゆっくりと頷いた。まさかジュンが赤ん坊になっているとは… 
しかしここはジュンの夢の中だ。現実の物理法則など通用するべくも無い。 
それ故にジュンが赤ん坊になっていても可笑しくない。現実においても 
誰だって童心に返りたくなる事があるのだから、夢の中だけでも 
赤ん坊に戻ったって罰は当たらないはずである。 
「マンマ〜、マンマ〜。」 
「もう違うですぅ! 翠星石はお前のママじゃないですよ〜。」 
身体的のみならず精神も赤ん坊に戻った今のジュンは翠星石を母親だと勘違いしている様子だった。 
当然究極の少女を目指す薔薇乙女たる翠星石がそれを否定したくなるのは当然だったが… 
「ジュン! いい加減にするですぅ! 翠星石はお前のママじゃないですよ!」 
「う…びゃぁぁぁぁぁぁぁん!」 
ほら、今のジュンは赤ん坊なのだから泣き出してしまった。 
「あ〜分かった分かったですぅ! ママですよ〜。」 
「キャッキャッキャ!」 
「もうこうなったら仕方ないですぅ…。」 
とりあえずジュンは元通りの笑顔を取り戻したが、仕方が無い。 
どうせここは夢の世界なのだからと翠星石は少しの間だけジュンの母親になる事にした。 
「そう言えばジュンのお母様はお仕事で遠い外国に行ってるってのりが言ってたですぅ… 
だからですね…ジュンが寂しがってお母様を求めるのは…。本当にしょうがない奴ですぅ。」 
顔では困った顔をしながらも内心そこまで困っていなかった。 
むしろ赤ん坊のジュンがとても可愛らしく見えて来たのである。 
「ほ〜ら、お前は一体何して欲しいですぅ?」 
翠星石はジュンを抱き上げながら優しく揺さぶり、ジュンはとても嬉しそうだった。 
すると、ジュンは手で翠星石の胸の部分を撫で回しはじめたではないか。 
「マンマ〜マンマ〜。」 
「ええ!? 翠星石のおっぱい吸いたいですかぁ!?」 
赤ん坊がママのおっぱいを欲しがるのは至極当然の行為である。 
翠星石とママと認識している今のジュンもまた例外では無かったのだが 
翠星石は困った。何しろ彼女はあくまでもドールなのだから… 
「翠星石のおっぱいを吸っても母乳なんて出ないですが…吸い付くだけならやっても良いですぅ…。」 
むさくるしい男に吸われるならともかく、赤ちゃんに吸われるのなら 
翠星石も許せたし、今のジュンが可愛く見えるのもそれを加速させた。 
そうして翠星石はゆっくりとドレスを結んでいる紐を解き、丸々とした乳房をたゆんと露出させた。 
流石に水銀燈には敵うべくも無いが、それでも十分大きく形の良い乳房。それをジュンに近付けると 
赤ん坊故の小さく柔らかい手が乳房を掴み、かすかにへこんだ。 
「あっ!」 
思わず声が出てしまう。決して嫌らしい気持ちでやっているわけではない。 
赤ん坊であるが故の他愛も無い行為だったのだが、少し乳房を触られるだけでとてもくすぐったい。 
「くすぐったいですぅ…でも…何かスベスベしてて柔らかいですぅ…。」 
赤ん坊は翠星石の柔らかい乳房をいたく気に入ってくれた。だが、柔らかいのは 
今のジュンの手もまたそう。無邪気に翠星石の乳房を触れまわすジュンの手もまた 
翠星石に心地よい感触を与えていた。続けてジュンの小さな口がゆっくりと開き、丸々とした乳首に食く。 
「あんっ!」 
ただでさえ敏感な乳首に食いつかれた翠星石は思わずジュンを引き離してしまいそうになったが 
それを我慢して、ゆっくりとジュンが乳を吸いやすい高さに抱き上げ、夢中になって乳を吸う 
ジュンの顔を見て微笑んでいた。 
「ふふ…母乳が出るワケでも無いのに夢中になって吸ってるですぅ…。って…え…?」 
翠星石は異変に気付いた。何と言う事か、本来母乳が出ないはずの翠星石の乳房から 
母乳が出ているではないか。 
「え…? 何でですぅ…。」 
翠星石は戸惑ったが、あくまでここはジュンの夢の中。それ故にジュンが翠星石の乳房から 
母乳が出る事を望んだのだろう。だからこそ翠星石の乳房から母乳が出ていたのだが、 
それを美味しそうに飲むジュンの顔を見ていると翠星石にとってそんな事はどうでも良くなってきた。 
「どうですぅ? ママのおっぱい美味しいですぅ?」 
知らず知らずの内にすっかり本当にジュンの母親の気分になっていた。 
そうして翠星石はゆっくりその場に座り込み、ジュンの頭を優しく撫でながら 
乳房を吸うジュンの姿を幸せそうに眺めていた。が…そんな幸福な一時も長くは続かなかった。 
「あら〜翠星石あんた何やってるのぉ〜?」 
「すっ水銀燈!?」 
なんと言う事か、水銀燈までジュンの夢の世界にやってきていた。 
「真紅のマスターの夢を弄って真紅に間接的な揺さぶりをかけようと思ってたけど 
面白い物見ちゃったぁ〜。」 
翠星石はジュンを守るように我が身で覆い隠していたが、水銀燈は既にその事には気付いていた。 
「赤子に乳あげるなんてぇ…そういうのって薔薇乙女がやる事じゃないと思わなぁい?」 
赤ん坊の正体がジュンである事は流石に気付いてはいない様子であったが、水銀燈は 
ジュンの姿を見てクスクスと笑っていた。 
「翠星石…お父様はお怒りよぉ。それに私はお馬鹿さぁんが嫌いなのよぉ。 
もちろん赤子も大っ嫌い! だってうるさいしぃ! うざいしぃ!」 
直後、水銀燈は背中の翼を伸ばし、翠星石からジュンを奪い取ってしまった。 
「あ! 何するですぅ!? 返すですぅ!」 
「嫌よぉ…。だって言ったでしょぉ? 私は赤子が嫌いだってぇ。 
それに赤子なんて…赤が付く時点で真紅を連想させて嫌なのよぉ。」 
「オギャーオギャー!」 
ジュンは泣き叫んだ。勿論水銀燈にとってそれが心地悪い事この上無い事は想像に難くない。 
「ほらぁ! こんな煩く泣き叫ぶなんてぇ…これだから赤子は嫌いよぉ…。 
だから…始末しちゃうのぉ…。」 
「え!?」 
翠星石に悪寒が走った。水銀燈はジュンを殺す気だ。嘘でもこけ脅しでもない。 
やると言ったらやるのが水銀燈。いくらここが夢の世界だと言っても 
ジュンが殺されてしまえば現実におけるジュンの精神にどの様な影響が出るか分からない。 
「こら水銀燈! その子を返すですよ!」 
「やぁよぉ…。それじゃあバイバァイ…。」 
「オギャー! オギャー!」 
水銀燈は泣き叫ぶジュンを抱いたまま飛び去り、翠星石もその後を追った。 
流石に巨大な翼を持つ水銀燈の方が速い。それ故に翠星石は随分と離されてしまった。 
しかしそれでも翠星石は水銀燈を追う。ジュンを取り戻す為に… 
「水銀燈待ってろですぅ…ジュンは殺させないですぅ…。」 
真紅もいない今、一人で水銀燈に立ち向かうのは確かに怖い。 
だがジュンが殺されてしまうのはそれ以上に嫌だった。そしてついに水銀燈を見付けた。 
翠星石は庭師の如雨露を出し、水銀燈へ向けて飛びかかろうとした…が…。 
「ほ〜ら坊やぁ? ママのおっぱいおいちいでちゅかぁ?」 
「…。」 
翠星石は呆れて声が出なかった。なんと水銀燈がジュンを大切そうに抱いて 
あまつさえ乳を吸わせているという予想外過ぎる光景が展開されていたのである。 
「水銀燈…始末するって言って無かったですぅ? ま、そんな事はどうでも良いですぅ…。 
さっさとその子を返すですぅ…。」 
「やぁよぉ〜。この子は私の子供よぉ。だから私が育てるのぉ。」 
「ええ!?」 
始末するって言ってたのは一体何だったのか? 水銀燈はジュンを優しく抱きながら 
翠星石から遠ざけてしまったではないか。 
「ふざけるんじゃないです水銀燈! その子のママは翠星石ですぅ! 
第一お前なんかまともに育てられるわけねーですぅ! 今流行りの子供を虐待死させてしまう 
バカ親になってしまうに決まってるですぅ!」 
「馬鹿にされた物ねぇ…。でもぉ…まだみんなでお父様と一緒に暮らしてた時、 
貴女達姉妹の世話をしていたのが私なのをすっかり忘れてなぁい? それに比べれば 
子供一人世話するくらい簡単よぉ。それにぃ…この子だってこんなに嬉しそうに 
私のおっぱい吸ってるでしょぉ?」 
確かにそうだ。あの時泣き叫んでいたのは何処に行ったのか、ジュンは 
水銀燈の乳房を夢中になって吸い付いていた。 
「そんな…この浮気者ですぅ!」 
「違うわよぉ…。赤ちゃんは純粋におっぱいの大きなお母さんが好きなのよぉ。 
だからあんたみたいなペッタンコより、ボインボイんな私を選んだのぉ。」 
「ペッタンコじゃないですぅ! 翠星石だって立派に大きいですよぉ! とにかく返すですぅ!」 
翠星石は水銀燈に飛びかかり、ジュンを取り返そうとした。しかし水銀燈もそうはさせない。 
そうして二人の引っ張り合いが始まった。 
「返すですぅ!」 
「嫌よぉ!」 
「オギャーオギャー!」 
「あ!」 
二人が引っ張り合えばそれだけジュンが痛い思いをしてしまう。それによってまたも 
泣き出すジュンであったが、それに気付いた翠星石がジュンに気を取られて 
一瞬力が抜けてしまった隙を突いて水銀燈が完全に翠星石からジュンを取り上げていた。 
「私の勝ちよぉ! ほ〜ら今日から私が貴方のお母さんよぉ〜。」 
水銀燈は嬉しそうにジュンに優しく頬擦りするが… 
「いいえ、その勝負、翠星石の勝ちよ。」 
「真紅!」 
今度は真紅まで現れた。しかも翠星石が勝ったとはどういう事であろうか… 
「水銀燈貴女は気付かなかったのね…。翠星石がその子を気遣って故意に手を離した事を…。 
それに気付かずにただ引っ張り取り上げる事しか考えられない貴女にその子の母親になる資格は無いわ。」 
「…。」 
水銀燈は声も出なかった。そして負けを悟ったのか、翠星石にジュンを手渡し飛び立つ。 
「まあ良いわぁ! 今日はあんた達に花を持たせておいてあげるぅ!」 
そう言って水銀燈は去っていったが、ジュンを無事取り戻す事が出来た翠星石は 
安心してジュンを抱こうとした…がしかし、真紅に取上げられてしまった。 
「あ! 真紅! この子をどうする気ですぅ!?」 
「何って決まってるじゃない。この子は私に仕えるの。今はまだそれが出来ないけど 
私の忠実な下僕になるように育てていくつもりよ。」 
「そ…そんな〜…。」 
…と、そこで翠星石は目を覚ましてしまったわけだが、 
夢の中でも真紅にジュンを取られてしまった彼女は少し落ち込んだ。 
とはいえ、そんな事でめげる翠星石ではない。次こそは真紅からジュンを手に入れる。 
その想いを強めていた。 
                   おわり 
―――――――――――――――――――――――――
ドールズの持つ母性に焦点を当ててみたこの話。 
でもぶっちゃけ赤ん坊化したジュンが翠星石と水銀燈の 
乳を吸うくらいしかエロいと思えるシーンが無いのが辛いorz 
最初は不思議な力で赤ん坊に戻ってしまったジュンを 
翠星石が母親代わりになって一から育てる的な話を考えてたけど 
今の形になった。水銀燈と真紅の登場も本来は予定になく、 
赤ん坊ジュンと翠星石のほんわか系にするつもりだったけど 
結局今のように(以下略) 




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