前スレ>>498の続きのようなお話を投下。 「ジュン、紅茶を煎れてきてちょうだい」 桜田家のいつもの光景である。 「ジュン?聞いているの?」 「うん……分かったよ」 ジュンは憎まれ口を叩くこともなく、パソコンの前から立ち上がり、階下へと降りていった。 火にかけたやかんの取っ手で手を暖めながら、ジュンは数日前に起きたことを回想していた。 水銀燈に夜這いをかけられ、それを許すどころか、挙げ句の果てには求めている自分がいた。 それだけのことなら、まだ良かったのだが。 また、会いたい。滅茶苦茶に、して欲しい。 気付けば、そう願ってしまっているのだった。 こんなことは、真紅と翠星石のマスターという立場からは許されないことなのだと思う。 その二人と水銀燈が戦いになってしまったら、きっと僕はどちらに味方することもできず、かといってそれを止める権利もなく、何もせず立っているしかないんだろう。 本当に、自分が嫌になる。 思考が負のループに入りかけたところで、手の熱さに意識を引き戻された。 いつの間にやら、お湯は完璧に沸騰していた。 その夜。 ジュンの部屋にある鞄の一つが、静かに開いた。 その家のほぼ全員が、ジュンの変化に薄々は感づいていた。 彼は話しかけても何だか上の空で、何か考え事をしているようなのだ。 だが、最も彼の心に近いと言える真紅が直接聞いても、有効な答えは返ってこなかった。 従って、それ以上のことができるのは、直接夢の中に入れる彼女しかいないのだった。 「勝手に入るのは好きじゃないんですけど……でも、悪いのはお前です」 小さく呟き、夢の扉を開いた。 以前にも、来たことのある世界。 翠星石は空に飛び上がり、何か手がかりを探そうとする。 程なくして、それは見つかった。 彼の心の中心と呼んでも良い木の根元。 手がかりも何も、ジュン自身がそこに居たのだ。 だが、空から見たその姿には少し違和感があった。 「何かがくっついてるみたいですぅ」 彼に気取られないよう、背後に降りていく。 そして、ジュンの悩みの原因が、そこで繰り広げられていた。 「ほらぁ……もっと虐めて欲しいんでしょう?」 木に磔にされているジュン。 その股間から伸びるモノを握り、彼に囁く水銀燈。 「どうしたらいいかは、言わなくても分かるわよねぇ?」 「はい……イカせて、ください……」 「よく聞こえなかったわぁ?もう一度、言ってみて」 予想外の展開に、翠星石は何が起きているのかなかなか理解できなかった。 だけど、マスターの危機を黙って見ていられるわけもなく。 それとは別に、わけの分からない気持ちもあって、ともかく結論は一つ。 後先考えず飛び出した。 「水銀燈!何をしやがってくれてるですか!」 ジュンが気付いて振り向く。 そして、水銀燈は――前触れもなく消え去った。 「翠星石!?……どうして」 「それはこっちの台詞ですぅ!なんでこんなことになってるですか?」 「……言わなきゃ、駄目か」 「つまり、水銀燈に夜這いをかけられて忘れらんねーってことですか」 結局、ジュンは何が起きたか殆ど話してしまった。 もちろん、具体的なところは暈かしていたが。 「……そうだよ」 「ほんっとーに情けない野郎です」 そうは言いながらも、彼女の目は優しいものだった。 ただ、優しいだけではなかったけれど。 「この翠星石が一肌脱いで何とかしてやるのですから、感謝しやがれですぅ!」 何を思いついたか、急に赤面しながらまくし立てる。 「何とか……って」 当惑するジュン。 何が起こるか薄々感づいてはいたのだろうが、だからといって抗う勇気も気概も理由も彼には無いのだった。 「目を、閉じて……です」 「こうか?」 素直に従う。 静寂の後、頬に小さな手が触れてきて、唇に暖かいものが当たった。 そっか。 キス――されてるんだ。 暖かさが体中に伝わってくるみたいで、心地良い。 ほの甘い感覚に、目を閉じたまま惚ける。 一方、翠星石は翠星石でこの状況を楽しんでいた。 (これ……何だか落ち着くです) ずっとこうしていたい。 そんな風にも思う。 (でも、この程度で終わるわけにはいかねーのです!) 唇から舌をさし込むと、ジュンがそれを受け入れた。 ジュンの口内で、二人の舌がもつれ合い、より濃厚に互いの感触を感じていく。 特に、最初から性的な意味で高まっていたジュンは完全に惚けていた。 彼自身は元より、翠星石だってこういうことに慣れているとは到底考えられない。 だけど、本能のままに動き回る彼女の舌は、純粋に気持ちよかった。 それに舌を絡ませて応えようとするが、逆に動きに翻弄され、自分の舌まで自分のものでないみたいな錯覚に陥る。 こっそり薄目を開け、彼女の表情を伺ってみる。色の違う二つの瞳は潤み、頬を軽く上気させているのが分かった。 永遠に続きそうな接吻が終わる。 名残を惜しむように、一瞬だけ唾液が唇の間を繋ぐ。 「あんなジャンクよりもっと凄いことして、忘れられないようにしてやるのです……」 唇に唾液の橋の残骸をくっつけたまま、そんな滅茶苦茶なコトを口走る翠星石は――可憐さだけでない、危なく妖しい魅力さえ孕んでいた。 「服を全部脱いで、横になるです」 少々抵抗はあったけど、あんな場面を見られた以上今更どうなるもんでもないだろう。 そんな自棄みたいな気持ちで、その言葉に従った。 「こうか?」 すると、翠星石がつかつかと歩み寄ってきて、向かい合わせに横になった。 が、当然のことながら、高さが合ってない。 「……やっぱ、上を向けですぅ」 あ。この状態を想定してなかったらしく、ちょっと恥ずかしそうに要求してくる。 可愛い、と思った。 向きを変えると、その上に乗っかってきた。 ……軽いなあ。やっぱ。 首筋を舐められる。 「……んー」 戯れてくる子犬じゃあるまいに。 くすぐったいというか何というか。 でも、悪い気分じゃない。 何もしないでいるのも手持ちぶさたなので、小さな体に腕を回し、優しく抱いてみる。 すると、人間同様――というよりそれ以上の温かさが伝わってくる。 「ジュンは…何もせずに喘いでればいいのです」 「これぐらい、良いだろ?」 「……し、仕方ねーから許してやるですぅ」 …何を焦ってるんだろ? 再び、首への愛撫が戻る。 時々これで良いのか問うように、上目遣いにこっちを見てくる。 抱く腕を少しだけ強くして、それに応える。 すると、その唇で首筋に吸い付いてくる。 求められてる、ってこんなコトでも実感できる。 それは良いけど、実際問題として。 「なぁ……跡になったらどーすんだ?」 「見せつけてやればいいのですぅ」 想像してみた。 何だか、すっごく面倒なことになる予感。 「……勘弁してくれ」 「注文の多いジュンには……お仕置きですぅ!」 そんな悪いことしてないだろ?なんて突っ込む間もなく。 「ひゃあぁっ!」 さっきより更に激しく、乳首に吸い付かれた。 同時に、反対側を軽く抓られる。 翠星石は、勝ち誇ったような目で見てくる。 「ココなら、どんな風にされても問題ねーはずですぅ」 「そりゃそうだけど……あぁっ!」 また情けない声が出てる。我ながら悲しい。 「分かったです!ココは弱いから責めないで欲しいって言いたいんですね?」 「そういうことじゃ……」 ない、とは言えないのが尚更悲しい。 僕はいつの間にこんなことになっちゃったんだか。 「口ではそう言っても、体は正直なのですぅ」 そう言って、再び胸を乱暴に愛撫しだす。 痛くないギリギリの刺激が、純粋に気持ち良い。 それは認めるとしても。 「…そんな台詞、どこで覚えたんだ?」 残念ながらあまり厚いとは言い難い胸板を、指がはいずり回る。 時に花を愛でる如く繊細に、時に雑草を抜き取る如く乱暴に。 その度に、声を挙げないようにこらえる。 再びさっきのように胸の中心に吸い付かれる。 それだけなら何とかやり過ごせたのだが、舌が一番敏感な部分を舐め回す。 「あぁ……」 今のは、反則だろう。神経を直接愛撫されたみたいな感覚。 舌だか肌だかが水音を立ててる。 ひょっとしたら、わざとやってるんじゃないかと思うけど、それが更に気分を高めてくる。 ……忘れかけてたが、全裸なんだよな。 ということは、下の方は固くなっているわけで。 ちょうど同じ時に翠星石もそれに気付いたらしい。 「すっかり大きくなってるですぅ……」 いや、あのさあ。そんなもんをまじまじと見つめられても。 「ちび人間のにしては、立派なのですぅ」 さっきまでの勢いは何処へやら。 ゆっくりと手を伸ばして、屹立した棒を握ってくる。 いや、握ると言うより手で包むと言った方が正しいか。 まさに恐る恐るという感じだ。 「……無茶せんでも」 あ。今のを「口が滑った」というんだろう。 「む、無理なんかしてねーのですっ!こんなに大きくしてるくせに生意気な口聞いてんじゃねーよですぅ!」 思いっきり図星だったらしい。本当に分かり易いヤツだ。 「まあ、そこが可愛いんだけどさぁ……」 「今にそんなこと言ってらんねーようにしてやるですぅ!」 どうするのかと思ったら、その握りを急に強くして乱暴に扱いてきた。 さっきから焦らされていたこともあって、痛いんだけど気持ち良い。 痛いのが気持ち良いんでないことを祈る。 「あれ?なんか出てるのです…」 指に付けてみて観察してる。 何だかとってもシュールだ。 「あ、これって……」 糸を引いてるのを見て、何かに気付いたらしい。 邪悪めな笑みを浮かべてる。 「さては、ジュンはそろそろイッちまいそうなのですね?」 「う……悪いかよ」 悪いことなんかしてないはずだけど何故か後ろめたい気分になる。 ほら、警官の前を通るときみたいな。 「ちゃーんと情けない声でお願いできたら、挿れさせてやってもいいんですよぉ?」 え。挿れる、って。 想像すらしてなかったけど、当たり前と言えば当たり前だ。 「悔い改めるなら今のうちなのですぅ」 そりゃあ翠星石は女の子なわけだし。僕は男だ。 だけど、それ以前の問題として。 「……いいのか?」 「おめーが心配することじゃないのですぅ」 だって、アリスって完璧な少女じゃないの? 少女なら純潔じゃなくちゃ……とかいう発想はないのか? だいたいそこまで造り込まれてるのか? それが人間サイズだったりするのか? どっちにしろ、貴方は罪深い人だ――ローゼン。 「挿れたいのか、それとも入れたいのかさっさと答えやがるですぅ」 ああ。思考が反れまくった。悪い傾向だ。 「……挿れさせて、くれ」 今の完全な「いいえ」ループだ、なんて突っ込みはできなかった。 だって、本人は気付いてないだろうけど、結構不安そうな目をしてた。 拒絶される恐怖ぐらい、僕だって知ってるから。 答えると、またいつもより数段凶悪に微笑む。 何か思いついたらしい。 「駄目です。さっき水銀燈相手にやってたのより激しく、ちゃーんとお願いするのですぅ」 うわ――そこから見られてたのか。 「挿れさせて…ください」 「激しく、と言ったのが聞こえなかったですかぁ?」 こうなれば自棄だ。 「挿れさせてください翠星石様、お願いしますこの通りですっ!」 「そこまで言うのなら仕方ねーです……ちょっとだけ、目を瞑ってろですぅ」 素直に目を瞑る。 別に薄目を開けていてもばれなかっただろうけど、それは何となく、イヤだった。 だけど、リボンを解くところから、裸身を晒すところまでが音だけで十分に想像できた。 無意識に唾を飲み込み、自分が緊張していることに気付いた。 「いつまで目を閉じてる気ですか?」 目を開けると、翠星石が顔をほのかに赤く染めて、こちらを見ていた。 「……きれいだ」 人形の体は、人間とは違う。当たり前だ。 だからこそ、美しくあれるんだと思った。 「挿れるですよ……」 自分に言い聞かせているみたいに言いながら。 一気に、腰を落とした。 何かを貫いた感触。 一瞬遅れて、ペニスが締め付けられる。 気持ち良いと言うより痛い。だけど、そんなんは問題じゃない。 「……大丈夫か?」 「てめーに、心配される、ほど、落ちぶれた覚えは…ねぇです」 そう強がってみせても、こぼれ落ちる涙の前では説得力は皆無だろう。 だけど、それでも強がってみせる翠星石が――今までで一番、愛おしく思えた。 「動く、から…覚悟しやがれですぅ…」 痛みも引いていないだろうに、腰を上下に動かし始める。 繋がってる部分から、少しだけ血が出ているのが見えた。 「気持ちいいですか?」 「ああ……とっても」 「じゃあ、もっと激しくいくです…」 宣言通り、より動きが大きくなる。 さっきは痛いぐらいだった締め付けも多少はマシになって、それが勢い任せな動きと合わさって異常に気持ち良い。 依存症にでもなりそうなほど。 「ちょ……激しすぎ…」 「ジュンの、中で暴れてるですぅ……もう出そう、なんですかぁ……?」 そう。もう出そうだ。 だけど、もう少しこの感覚に溶けて繋がってたい。 「なら……おとなしく、出しちまえ…ですぅ」 願いも空しく、下半身に熱いのが流れ込んでく感覚。 「……出るっ」 ゆえに腰をどけろ、という意味も多少含まれていたのだが、むしろ腰を沈めてきた。 だからってどうすることもできず、迸りをそのまま中に放出する。 ペニスは脈打ちながら、翠星石の中で暴れてる。 「あぁ……いっぱい、来てるですぅ……」 翠星石は僕の上で、恍惚して感じてくれてる。 それが、何より嬉しかった。 「孕んだら…責任とれですぅ」 孕んだら。孕むのかな。孕むかもな。 孕まないという保証はない。 「出来る限り、何とかするよ……」 いまいち冴え渡らない頭で、翠星石と僕の間の子供って、どんな子になるのかな――なんて、考えた。