桜田家。 

「うわぁ――――ん!」 

 薔薇乙女達の戦いは現在沈静状態にあった。 
「うるせーですね。ピーピーわめくなです!」 
水銀燈の場合、動きがないことがむしろ怪しいとも言える。 
「でもでも翠星石がヒナの苺を食べちゃったんじゃないのよぅ!返して―――!返してよ――――!!」 
しかし日常は落ち着いている方が勿論良い訳で。 
「なんのことやら、ですぅ。雛苺の勘違いじゃないですか?」 
であるからこの家では多少のどたばたを含めても、至極平和な日々が続いていた。 
「違うの!翠星石ケーキの苺取って食べてるのヒナ見たもん!」 
今日もいつもと同じようでちょっとは違う、トラブルが起きていた。 
「ふん、あんなとこに置いておくのが悪いんですぅ!」 
くだらないというところは毎回共通だった。 
「やっぱり食べちゃったんじゃないのよー!うえ―――――ん!!」 
しかし事の当事者、幼い精神を持つ雛苺にとっては大変重要なことなのだった。 
「お前らうるせーぞ!ちょっとは黙れ!」 
そこにこの家の元からの住人、桜田ジュンが声を荒げた。 
「黙る理由がないですぅー」 
何故平日の昼間に家に存在するか。それはこの少年が引きこもりだからだ。 
「私はジュンに賛成よ。こんな中ではお茶も美味しく飲めないのだわ」 

 今、桜田家には6人の住人が居た。 
「ほら、親玉も言ってるんだ。おやつくらい静かに食え」 
先ほど挙げたヒッキー、桜田ジュン。 
「親玉というのは不愉快なのだわ、訂正しなさい」 
この家の薔薇乙女では一番地位と気位が高い真紅。 
「まぁ真紅が言うなら、ですぅ」 
どこでねじまがったのか、素直さに欠ける翠星石。 
「い―――ち―――ご――――!」 
幼女といえば大抵彼女を指す、ロリータ雛苺。 
「うふふ、ケーキならまた買ってくるわよぅ?」 
配線が一本はずれてる桜田家長女、桜田のり。 
そしてもう一人、 
「雛苺、僕の苺を食べなよ」 
蒼星石が居た。 
彼女は戦いの後、翠星石によって強引にこの家に連れられた。 
幾ばくかの時間が流れ、彼女もこのメンバーに控えめながらも馴染んでいたのだった。 
「ぅわぁーい、なのー!」 

  【蒼い子なら隣で寝てるよ】 

 これから始めるのはそんな蒼星石と、ジュンの恋愛である。 

 2人の互いに対する印象を整理しておこう。 
まず、ジュン→蒼星石の印象はというと。 
ジュンは、学校に行くよりも精神的に疲れると常々考えていた。 
水銀燈に怯え、金糸雀の相手をし、真紅に叱られ、翠星石に罵られ、雛苺に構い、のりをうっとうしがる。 
そんな中、一定の距離を保ち続けてくれる蒼星石は非常に有難い存在だった。 
先ほどの事件でもそうだったが、いつも優しくしている蒼星石を見て 
(なんか一番人間出来てるよな、いや人形出来てるって言うべきなのか?) 
などと、くだらないことを考えていた。 
次に蒼星石→ジュンの印象を挙げる。 
距離を置いていたのはたった一つのシンプルな答えだった。 
(接し方が分からない) 
夢の世界から舞台に入る、というのが蒼星石の戦闘スタイルだ。 
それ故に自然に、自分の所有者・マスターと姉妹達以外には会わないということが殆どだった。 
マスターでもない男性と関わりを持つのはこれが初めてである。 
どう話せば、どう触れれば良いのか分からないのも普通と言えた。 
しかし、悪い印象は持っていなかった。 
夢の庭師が蒼星石の仕事であり性質である。 
心を持つ者なら、良いところも悪いところも見通せるのだ。 
そんな観察眼にジュンは、 
(口や態度は悪いけど、本当はすごく繊細で、優しいんだろうな) 
と映っているのだった。 

ゴタゴタは解決したものの、依然としてリビングは騒がしかった。 
それに含まれているのが苦痛になったジュンはコソコソと自分の部屋に戻っていった。 
部屋に着き、独りになりジュンは一息、ふぅと漏らした。 
ジュンは大人数で群れて楽しむ、という意味が良く理解できないと盲信していた。 
典型的な厨2病だった。 
なので一人でパソコンでもいじくっているのが最も落ち着くと思っていた。 
そのパターンに漏れず、今回もジュンは部屋に着くなりパソコンの電源を入れた。 
他にやることがないとついパソコンを付ける癖は、止めようという気すらないのだった。 
ジュンが、ロゴマークが浮かんでいるまま動かない長いロード画面にイライラしている時、その部屋の扉はノックされた。 
ジュンは振り向いた。 
「誰だー?」 
これもいつものパターンだったので来訪者が誰かは分かっていたが、お約束通りジュンは問いかける。 
「蒼星石だよ。入っても良いかな?」 
「あぁ、入れよ」 
本を小脇に抱えた蒼星石は静かに入って来て、トコトコとベッドのふちに腰掛ける。 

蒼星石の大抵の定位置がそこだった。 
ジュンはパソコンのロードが終わったのでログインしはじめ、蒼星石は持ってきた本を開いた。 
ジュンは振り返らず質問する。 
「すぐ来たな。どうした?」 
蒼星石も目を本から離すことなく答える。 
「あの後すぐ、くんくんが始まったんだ」 
「それでか」 
またやっていることに没頭し直す。 
このような会話が2人の常だった。 

 カチカチ、とマウスを操る音、しゃらしゃら、と本のページを繰る音だけが連続する。 
ふとした疑問が浮かび、それを聞く。 
前から気になっていた疑問でもある。 
このように会話を積極的にすることは今まで殆どなかったことだが。 
「そう言えば、蒼星石」 
「なんだい?」 
「なんでお前はこっちの部屋に来ちゃうんだ?」 
「……」 
答えを深く考えるように、ページを捲る音が止んだ。 
「あいつらとは姉妹みたいなものなんだろ?」 
ジュンは椅子を回転させ、後ろを振り返る。 
「みたい、じゃなくてそうだね」 
蒼星石も顔を上げ、言う。 
「なら、なんでだ? 一緒に遊んだりすれば良いじゃないか」 
「……」 
ジュンには特に詰問するつもりはない。 
思いついたから、と羨ましさ半分から聞いただけである。 
それ故に黙りこまれると自分が悪者になったようでいたたまれなかった。 
いつも気をつかってくれるだけに自分も気をつかおうと、自然に思うのだった。 
(実際悪いことを聞いてしまったかも) 
「まぁ言うのが嫌なら良いんだ、すまん。でもあいつらに告げ口する訳でもないから素直に言ってくれたら良いかな、とか思ったから、すまんな」 
弁解するためにも一気にまくしたてる。 
「……」 
ジュンにとって、気まずい空気が流れる。 
また謝罪の言葉を出そうとジュンがした時、蒼星石は口を開いた。 
「……そうなんだよ、僕は素直に話すべきなんだ」 
蒼星石が自分語りを始める、珍しい事であった。 
ジュンが言った「素直」という言葉が考えていたことに丁度しっくりきたらしい。 
(むしろ今まで一度もなかったんじゃないか?) 
ジュンは思い、静かに聞く体勢に入った。 
蒼星石自身も慣れないらしく、真剣なジュンに少し照れながら言う。 
「……あのね、僕はつい、考えてしまうんだ。雰囲気を壊したくないなって。元からそうあるべき、なのに僕が入っていってしまうことで上手く話が伸びなくなるのは嫌だなって」 
そうか、と相槌を打つ。 

「うん。だから、姉妹達が出しているあの楽しげな雰囲気に自分が口を出すのはいけないんじゃないか。いつもそう思って、むしろ僕はいない方が良いって連想して。……ジュン君は僕がいると迷惑かな?」 
「そんなことはない」 
即答する。 
ジュンはこんなに周囲に気を配る、気弱な子を初めて見た。 
「ジュン君が羨ましいよ、あの子達と話せて。自分の気持に素直に、さ」 
文句をつけ、ツッコミをいれることも見方を変えれば意味が違ってくる。 
「……そうか」 
「そう、だよ」 
ジュンは気を使いすぎるこの少女に何かしてあげられないか、と考える。 
影響されやすい少年として、優しくされた分優しくしようと考慮する。 
そして懸命に思考したことを提案する。 
「じゃあさ……」 
「うん?」 
「僕にだけでも、気持ちを素直に話してくれないか? 今話してくれたみたいに」 
「……」 
蒼星石の顔には驚きが浮かぶ。 
そのままで固まって動かない。 
こんなことを言われるのは姉妹からも、ミーディアムからもなかった。 
双子の翠星石とは仲は良いが、蒼星石が遠慮して普段深い心理などは話さないのだ。 
何も言わないのでジュンは自分の発言を振り返り、恥ずかしさがこみあげてきていた。 
(僕は人形相手に何をしてるんだ! まるで口説いてるみたいじゃないか) 
照れ隠しの弁解をしようとした時、 
「……分かったよ、ジュン君」 
蒼星石が了承の意を表す。 
「そうか」 
何故か湧き上がる嬉しさを強引に無視し、ジュンは応答する。 
「その代わり」 
「なんだ?」 
蒼星石が何か要求するのもかなり稀なことだ。 
「みんなには秘密、ね」 
蒼星石は何らかの秘密を持つという行為に恥じらう。 
そんな少女の純粋さにジュンもどうしてかドキドキする。 
秘密を共有する、ということはいつも人の感情を動かす。 
「……分かった」 

「キャー!!」 
 ドアが勢い良く開く。 
ビクッと、ジュンたち二人は後ろめたいことをしている人特有の体の緊張を得た。 
ドタドタと雛苺が入って来る。 
まさか今の成り行きを聞かれていたんじゃないかとハラハラする。 
「あのねあのねのりがね! うにゅーを買って来てくれたの―――――!!!」 
しかし空気を読むことを知らない雛苺にそんなものは関係なかったのだった。 
「……そうか、いいから落ち着け」 
ジュンは内心ホッとし、なるべく緊張を出さずに注意してやる。 
蒼星石はまだ驚きが残り、口をパクパクさせている。 

「大事件なの! 落ち着いてはいられないの―――もがもが」 
なおも興奮冷めやらぬ雛苺は叫び続けたが、止める人はいた。 
翠星石に口を封じられる。 
「うるさいですぅ! 」 
「黙るのだわ、雛苺。そうね、折角なのだしまたお茶にしましょうか」 
続々と住民が部屋に集結していく。 
「またですか? さっきしたばかりですぅ」 
「もがもが」 
「今度はジュンの部屋でするから問題ないのだわ」 
一日の多くを占める喧騒が部屋に戻ってくる。 
「そこの二人」 
ジュンと蒼星石はやはり聞かれていたかと一瞬で血の気が引く。 
「という訳でお茶会をするわ」 
そんなことはなかったようだった。 
「とりあえずジュンはお茶の用意を持って来て頂戴」 
未だ早鐘を打つ心臓を静かにさせようと意識させながら、二人は言う。 
「あー、はいはい。めんどくさいな」 
「下僕なのだから文句を言う前に行動するのだわ」 
「あ、あの僕も手伝うよ」 
「あらそう? 自分からするなんて蒼星石は偉いのだわ、下僕とは違い」 
「うるさいな」 
「翠星石もスコーンでも取りに行くですぅ」 
「ぷはぁっ! あのねヒナも……」 
ようやく解放された雛苺が話す。 
「雛苺は私と一緒に部屋で待ってるのだわ。うにゅうもそれまで我慢しなくては駄目よ」 
「え――――――――!!」 
絶望の絶叫をバックに翠星石、ジュン、蒼星石はキッチンへと向かう。 
パソコンと本はしっかり閉じて。 
アニメの後で少しご機嫌な翠星石を前に、ふと二人は目が合う。 
蒼星石はぎこちなく微笑み、また心臓が一回、跳ねるのだった。 

ある日の深夜、ドール達が止まった頃。 
ジュンはお風呂につかりながらとりとめもなく考え事をしていた。 
例の件の後から、やけにジュンの頭の中は蒼星石で埋められる。 
(話しかけられることも増えたな) 
明らかに自分に蒼星石への好意が芽生えていると感じていた。 
そして厨房に限らずありがちな好かれているという勘違い回路も発動した。 
(このまま告白したら……、いやいや相手は人形だぞ?) 
どうにもこの理由によっていつも思考は停止された。 
好きだという気持ちもあまり確信が持てなかった。 
そもそも初恋ですらあるかもしれない。 
(あー、止めだ! ちゃんと風呂浸かろう) 
ジュンは口を湯船の中に入れ、ぶくぶくと息をはいた。 

蒼星石は自分の鞄の中で思い悩んでいた。 
例の件の後から、やけに蒼星石の頭の中はジュンで占められる。 
(たくさん話せるようになったからかな) 
不確かに自分にジュンへの何か感情が芽生えていると感じていた。 
そして蒼星石にあまりない、どう思われているか気になるという期待が発生した。 
(心配、じゃなくて期待、なんだよね) 
どうにも違和感があり、自分がどうにかなってしまったのかと不安になる。 
この気持ちには名前も付けられなかった。 
そもそも最近は初めてのこと、が多すぎる。 
(いや、考えるのを止めて、ジュン君に聞いてみよう) 
蒼星石は鞄の中で丸まり、ジュンを待った。 

風呂から上がったジュンは腰にぞんざいにタオルを巻き、部屋へと向かう。 
暖まった後なのでわりかしボーッとして。 
部屋で着替えれば良いかと考え、寝間着を掴んでいる。 
もう一方の手で扉を開け中に入ると、 
「ジュン君」 
いきなり蒼星石に呼びかけられる。 
……… 
9秒前の白、といった様相だった。 
蒼星石はひとしきり口をパクパクさせた後頬を赤に染めあげ、 
「ごめん」 
と言い鞄に引きこもる。 
ジュンはそんな蒼星石の挙動にときめきながらも、恥ずかしい気持ちでいそいそと服を着た。 
いつもよりきちんと寝間着を着込む。 
「もう、良いぞ」 
「……そう?」 
鞄を少しだけ開け、外の様子を伺う。 
ジュンのみなりを確認するとおずおずと出てきた。 
ジュンは場を取り繕わなければと言う。 
「あ、そ、そうだ、髪でもすくか?」 
「う、うん、お願いするよ」 
ジュンはベッドのふちに座り、蒼星石はその前で正座する。 
取り出した櫛やブラシを使い、無言で蒼星石の髪をすいていく。 

静けさに比例して胸の鼓動がうるさく鳴る。 
ジュンは蒼星石が言い出しそうになったことを言うまで待ち髪をとかす。 
蒼星石はタイミングを失くしたせいでなかなか言い出せずになされるがままになる。 
5分間もたっただろうか、二人はそれぞれ自分の心臓の音しか聞こえない状態だった。 
ようやく蒼星石が声を発した。 
「あの、ジュン君。聞きたいことがあるんだ」 
「ん、なんだ?」 
蒼星石は言うことを整理するために少しだけ黙る。 
「……あの、さ。最近僕、おかしいんだ」 
「何が?」 
「ジュン君と話してると普通以上に楽しい。ジュン君と一緒に居るとローザミスティカがある辺りが高鳴る」 
「……」 
「ジュン君のことを思ってると顔が熱くなる。ジュン君を見てると頭がボーッとする」 
「……」 
「このことを考えてるとさっきも、止まることさえできなかったんだ。ジュン君僕に何かした? 教えて欲しい」 
ジュンは思考よりも、感情と行動が暴走していくのが分かった。 
「……!」 
ジュンは気がついたら櫛を放り捨て、蒼星石を抱きしめていた。 
「ほら、今もおかしいんだ」 
蒼星石は心が平静でないことを冷静な口調で伝える。 
「……それは」 
ジュンは自分の口も思うように動かせない。 
「何?」 
蒼星石はジュンが自分の相談を解決してくれることを望み聞く。 
「それは、お前が僕を好きだってことだ」 
断定する。 
蒼星石はジュンがずっと期待していたような言葉を出した。 
例え蒼星石の悩みの正体が恋愛感情以外のものだったとしても、 
ジュンはそれ以外の答えを提示しなかった。 
「どういうことなの? それは」 
蒼星石はまだいまいち分かっていない。 
ジュンはきつく抱きしめるその腕を緩め、言う。 
「僕も、丁度蒼星石がなってたような状態だったんだ。んで、そういう状態のことを恋って言うらしい」 
「恋ってあの、恋愛小説で良く見るアレ?」 
「それ。なんだ、お前そういうの読むくせに分からなかったのか?」 
「自分のこととなると、何だか別だよ」 
ドキドキは強まるばかりなのに、軽快な会話を続けようとする。 
しかしそれも途中で途切れ、場には静寂が訪れる。 
ジュンはもう一度蒼星石をギュッとした。 
ふにふにとした感触、暖かい体温をそれぞれが体感する。 
「……」 
「……」 
状態はそのまま、鼓動は高いまま、二人は落ち着いていく。 
蒼星石は突然、 
(ジュン君のモノに) 
と、自分のことを認識した。 

「……」 
「そうか、これが好きってことなんだ」 
「……」 
「うん、好きだ。好きだよ、ジュン君」 
蒼星石は自分の腕をジュンの体に巻く。 
抱きしめ返した。 

落ち着いてなどいられなかった。 
頭の中が真っ白になった状態で、ジュンは蒼星石をベッドの上に横たえていた。 
「蒼星石、好きだ。だから、したい」 
息つぎしながら、それだけ言った。 
恋愛からすぐSEXに直結するのはまこと若いと言わざるを得ない。 
だが今の二人には関係がなかった。 
「する、って好き合う人なら普通にすることなんだよね? うん、良い、よ」 
許可が得られたジュンはがっつき、下の蒼星石にのしかかりキスをしようとする。 
ガッ! 
「「痛っ」」 
勢いづきすぎて唇までではなく歯までぶつかる。 
「痛た……ひどいよ、ジュン君」 
「す、すまん」 
一回恥ずかしい思いをすればその後は少し落ち着く。 
深呼吸を一回する。 
学校や何かで落ち着く時は深呼吸しろ、などと言われることがある。 
半ば強制的にやらされる時は信じられないのだが、いざ自分でやると落ち着くから不思議なものだ。 
「……ふぅ。もう一回、良いか?」 
「……うん」 
ジュンは反省を生かし、じわじわと顔を近づけていく。 
蒼星石は待つ時間が実際よりも長く感じ、そわそわする。 
…………ちゅ。 
ついに触れ合う。 
唇から、身体全てが熱くなっていく。 
何秒たっただろうか、ジュンは口を離す。 
「……なんか、良いな。どうだ?」 
「……うん、なんか、ポーッとなるよ」 
余韻が広く深く部屋に充満する。 
朝起きたばかりのように呆然とした。 
二人は見つめ合う。 
蒼星石が帽子を脇に置き、我に返ったように言う。 
「また、して」 
我に返ってなどいなかった。 
ジュンは言葉もなく、行動を繰り返す。 
ちゅう。 
先のキスよりは長く繋がる。 
二人は気分が良くなる一方だ。 
「もう一回する」 
今度はジュンから宣言する。 
返事は待たず、何度も何度も反復する。 
この後は馬鹿の一つ覚えなので表現は控える。 
音で表すと、 
………ちゅう、……ちゅー、……ちゅーー、ちゅっちゅ――――、ちゅ――――ちゅ(ry 
のような感じだ。 

「ぷはっ、はぁ、……はぁ、はぁはふぅ」 
 蒼星石は大分呼吸が乱れていたた。 
「ふぅ」 
ジュンは自分の中で仕切り直す。 
(つい楽しいから調子づいた) 
そして、実はジュンの分身はずいぶん前からのっぴきならないところまできてしまっていた。 

しかし中々こんなになっていることは言い出しづらい。 
変な男のプライドでなんだか情けないような気持ちになっている。 
そこで、唾液によってべたべたで、溶けきった顔をしている蒼星石が顔をふと下に向ける。 
「………はぁ、はぁ。……ん? ジュン君の、ズボンの、……ふぅ、そのパンパンの、何?」 
「いや、これはだな」 
「苦しいなら、僕が出してあげようか?」 
「いやいや、僕がやる!」 
焦りまくるジュン。 
覆いかぶさっている体勢を膝立ちに変える。 
その勢いのまま両手でズボンを、膝の位置まで下ろす。 
蒼星石もつられて身を起こす。 
現れたリトルクリーチャーに、蒼星石は溶けた顔を一瞬で驚きのそれにする。 
「えっ、えっ? 何それ」 
蒼星石は臨戦体勢のそれを初めて見た。 
ミーディアムのを突発的な事故で見たことはあっても、勃ち上がってはいなかった。 
不思議な形状のそれを見て肥大化した幼虫の一種かと勘違いするのも無理のない話かと思われる。 
「いや、あのコレを蒼星石の中に入れたりするんだけど……」 
当惑しきりの蒼星石を見てジュンはどのように対応するか決められない。 
自然、言葉も尻すぼみになる。 
股間はすぼむことがなかったが。 
「む、無理だよそんなこと。無理無理、大きいもの」 
蒼星石は想定外の事態に前後不覚気味だ。 
「無理、か? それはちょっとまずいな」 
ジュンは蒼星石が困る姿に更に興奮を覚えていた。 
「……」 
「……」 
各々の理由によって黙りこくる。 
どちらも、相手が話し出すのを待つ。 
蒼星石はよだれまみれ、ジュンは下半身を中途半端に露出、と少々間抜けな外観であった。 
「……そうだ。僕はジュン君のモノになろうって決めたんだった」 
ジュンは初耳だ。 
「え? もう一回言ってくれ、もう一回!」 
驚いた顔を見て蒼星石は微笑む。 
「ふふ、何度もは言わないよ。ん、覚悟は、出来た。ジュン君に、好きにして欲しい」 
気になることがあろうと、ここまで言われ何もしないなんてことはジュンには不可能だった。 
荒々しく襲いかかる。しかしコケる。蒼星石に受けとめられる。 
膝までしか下げていないズボンのことを忘れていた。 
「うふふ」 
蒼星石に見守られながら、ジュンはひたすら恥ずかしい脱衣をした。 
早く繋がりたい気持ちからズボン、パンツだけを脱ぎ上は着たままだ。 
気を取り直して、 
「……良し、じゃあ、大丈夫か? 蒼星石」 
「……うん」 
ちゅ、――――る、くちゅ。 

ジュンはさっき試せなかったディープキスに挑戦する。 
「ん」 
ちゅる くちゃ、……ちゅー。 
ジュンが舌を少し出しただけで蒼星石は順応し、それらを絡ませ合う。 
蒼星石が夢中になっている隙に、とジュンは蒼星石のズボンを脱がそうと苦戦する。 
が、ジュンが頑張っていることを見通していた蒼星石はほんの少し口の端を吊りあげ、またキスに没頭していく。 
悪闘の末、ついにジュンは蒼星石のズボンを剥ぐことに成功した。 
長い間接していた唇を遠ざける。 
ツー、と二人は唾液によって橋渡しされた。 
「ぷはぁ」 
「ふぅ、ふぅ、じゃあ、入れるぞ」 
「来て、欲しい」 
ジュンは蒼星石と出来ることを、神とお義父様(ローゼンと読む)に感謝した。 
いい加減、ジュンのそれはいつブチキレてもおかしくない程いきりたっていた。 
蒼星石の、膣穴がある辺りをめがけ、一気に腰を前に押し出す。 
「痛っ! ジュン君、そこは何もないよ!」 
標準も定まってない状態で突き出すとこうなる。 
もしこれが薔薇乙女でなく普通の女の子だったら、今頃はもう一つの穴へと入ってしまっていたかもしれない。 
「もぅ、ジュン君は……。ほら、こっちだよ」 
「す、すまん」 
紅潮した頬の蒼星石はふらふらした小さい手で導く。 
あまりにも失敗が多すぎた。 
童貞などやはりこんなものである。 
ジュンは息子の先端に湿った抵抗を感じ、そのまま突き入れた。 

瞬間で奪う方が痛みは少ないだろうと決めつけ、そのまま奥まで進んだ。 
ベッドのシーツには鮮血の薔薇が咲いた。 
「くぅっっ!」 
蒼星石はとっさのことに歯を全力でくいしばることで処置する。 
同時に反射で、腕をジュンの首に巻き付け、キュッとした。 
耐えがたい痛みに、涙がこぼれた。 
「だ、大丈夫か?」 
「う……うん、だ、いじょ、ぶ」 
明らかに大丈夫でない声で蒼星石は呟く。 
最大限負担をかけないよう、ジュンはその身体の形のまま停止する。 
蒼星石の涙が全て流れ落ちた頃、痛みは幾分やわらいでいた。 
「僕はだいじょうぶ、大丈夫だから、ジュン君は動いて? 辛そう、だよ僕の中、で」 
「分かっ、た」 
ジュンは腰をちょっとずつ、動かし始めた。 
非常に遅いペースで前後させる。 
蒼星石を痛くさせないように、でもあるし油断すると直ぐ出てしまいそうだったからでもある。 
「ぐっ、ぁ、……つっ……う………くぅ」 
痛々しいうめきが漏れ出る。 
好きな人に与えられるものだから、むしろ心地良い痛みだった。 
「っう………はくっ、ぐぅ……つ、んっ」 
二人の身体からは汗が流れ落ちる。 
ジュンの汗が蒼星石にも移っているだけとも言うが。 
失敗ばかりなのだからせめて蒼星石が感じられるまで出すのは堪えようと考えた。 
「つぁっ……んぅ……ふっ………く、あっ」 
連結部からは血がなおも止まらない。 
薔薇乙女に血が流れてないとすると、お父様はここまで作りこんだのだろうか。 
「ぅあっ、ん………ふっ……がっ」 
ジュンは腕立てのように、蒼星石の脇の下に手を置き、自分の体勢を支えている。 
蒼星石は下半身を貫かれている。 
自由の効く上半身で、ジュンの首に腕をまわしている。 
自然に、ジュンと蒼星石はジッと見つめ合う。 
ちゅ、……んちゅ、ちゅる、……ちゅー、ちゅ……くちゃ 
どちらともなく口を合わせ、そのまま深化させる。 
何度もしていれば少しは慣れるのか、滑らかに舌と舌を絡める。 
「ぷはっ、……はっ、んっ……ふっう」 
息がもたないので離す。 
二人は放熱しきれないほどの熱を内側に感じる。 
蒼星石は自分の身体の異変を伝える。 
「ぁっ、ん………ふっ、なんだか、僕っ……気持ち良く、っな……てきたかも……ぅんっ、しれ、ない」 
「良か、った」 
事実、蒼星石の薔薇からは血以外である、透明な液体が湧き出ていた。 
それは、シーツの赤を薄くしていく。 

「っだから、あっ………もっと、つ……よく……んっ、はげ、しくっ! してっ、欲しい!」 
ジュンにもう本能に坑う術は残されてなかった。 
優しくしようという決意も脆く崩壊する。 
赴くように、入れ、出すただそれだけの行為を速く、反復する。 
「あ、あっ、あっん、は、あっ! はふっ、う、んあっ、ぁう」 
「ごめっ、もう……出るっ!」 
「ぁあっ!」 
我慢を解き放つと、違うものまで放たれた。 
蒼星石は、自分の奥が熱くなるのが強く把握できた。 
疲労が全身を襲う。 
その優しい疲れに身を任せ、ジュンは最後にキスを落とし、眠りに落ちた。 
蒼星石は白い手首を重ね、指をギュッと握り、鞄の外で就寝した。 

翌日早朝。 
「おはよう、ジュン君」 
「ん……おはよう」 
二人はいつもよりかなり前の時間に起床した。 
蒼星石がやけに嬉しそうにニコニコしている。 
気になったジュンは聞いてみる。 
「どうした?」 
「うん、あのね。昨日までのドキドキが今日も続いてて嬉しいなって思って」 
ジュンも胸が高鳴っているのに気付かされる。 
そして、昨日言えなかったことを言おうと決心した。 
「蒼星石」 
「なんだい?」 
「僕と、付き合ってくれ」 
蒼星石は目をパチクリする。 
「……それって、僕を彼女にしてくれるってこと?」 
「そうだけど。駄目か?」 
告白はいつでも不安なものだ。 
ピンクの顔を更に赤くして、蒼星石はブンブンと左右に首をふる。 
「駄目じゃない、全然駄目じゃないよ!」 
オッドアイから一滴の涙が光る。 
泣かれてしまい、ジュンは困った。 
「……泣くなよ」 
「だっ……て、嬉しくて」 
蒼星石は心機一転させるため、強く目の下を拭うと、 
「じゃあ、僕はシーツとか片付けるよ!」 
と、いつも通り仕事を全て引き受けようとした。 
「待て待て、僕も手伝う」 
「……ありがとう、ジュン君」 

 【蒼い子なら隣で寝てるよ】 End. 

「あー、そのぬいぐるみはヒナのなの―――――!」 
日常の騒動がまたリビングから聞こえる。 
例によってジュンと蒼星石は部屋に逃げていた。 
そしてそれぞれ、ディスプレイと本の字面を見ていた。 
ただ一つ以前と違うのは、 
蒼星石がジュンの膝の上にいることだった。 

――――――――――――――――――――
はい、これで一応しゅーりょー。 

意見感想文句「帰れ!」コール全てウェルカム。Mなので。 

流してでも読んでやってくらさい。 

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