午前5時20分。
ジュンは目覚めた。
早朝とはいえ太陽が完全に顔をだし登りはじめる季節である。カーテンの隙間から強い光が部屋を照らしていた。
まだ体中がだるくふわふわした感じがする。どうやらノンレム睡眠中に起きてしまったようだ。

「ってまだ5時かよ…」

大きなあくびを一つしたあと2度寝をするためジュンは再び横になった。
が、なぜか気が進まない。いや、猛烈に眠かったのだがこの日だけは何故か眠る気がしなかった。
なんだろうこのもやもや感は何か変だ。何か気持ち悪い。いつもと違う、絶対に違う。しかし、ノンレム睡眠中に起きてしまったことが脳の回転を鈍らせている。
上半身を起き上がらせ左方向に眠り眼を向ける。
大きな鞄が2つ。一つは真紅で一つは翠星石。どちらもまだ微動だにしなかった。

「今日は僕の勝ちだな」

ジュンは口元をにやりとさせながら頭を掻いた。
どうやら脳が働きはじめたらしい。ジュンの体に普段の感覚がもどってくる。すると、ようやく異変に気付いた。
この感覚は知ってる。そう、ジュンのまだ短い人生の中で最悪なものの一つだ。昔小さいころ母に怒られて泣きじゃくったことがあるそれはジュンを戦慄へと導いたのだった。

「う…嘘…だよな」

ジュンはおそるおそるその異変を確かめるべく掛け布団をめくった。

「あ、あれ?」

予想してたのと違うことにジュンは半分安堵した。布団が濡れてなかったのである。ジュンは安心して大きくため息をつく。
いや、待て。じゃあ何なんなのだこの感じ。
下半身が、正確には股が濡れている感じ。寝小便ではない。布団は大丈夫。それじゃこれは…。
ジュンは今度は先程よりもおそるおそる下着の下にあるものへと右手を滑らせた。 

そこには、ねちょっとした感覚。パンツが大きく濡れているのもわかった。
右手を引き抜き目の前に持ってくる。それは白く濁りねばねばしていた。そして鼻をつくこの匂い。
ジュンは人生初の夢精をしていたのだった。

「うわああぁぁぁぁぁ!!!」

ジュンは驚愕し絶叫した。
まさかの出来事である。体育保健の本に書いてあったことが実際に起こってしまった。ジュンには絶対に信じられないことであった。

ガチャ、と開閉音。

「もう、なんなのかしら。朝っぱらから大きな声をだして」
「し、真紅!?」

ガチャ、再び開閉音。

「びっくりして起きてしまったですぅ…なんなのですか?」
「す、翠星石!?」

2体の人形がジュンの絶叫で目を覚ました。眠い目をこすりボーとジュンを見つめる真紅と翠星石。

「お、おおおおはよう」
「おはようジュン、どうかしたの?」

まずい。何故かはしらないがこの二人に夢精をバレルのは非常にまずいとジュンは判断した。

「い、いやなんでもない!」
「……声が上ずってるですぅ。なんか怪しいですね…」

こういうときの翠星石は妙にするどい。ジュンは冷や汗をかいた。

「……何か匂うのだわ。何か生臭い…」
「そうですか?……確かに匂うですね…」
「い!?」 

精液がたまりにたまりでてくるのが夢精である。それそれは濃かったのだろう。ジュンの部屋は夏の朝の熱さも手伝ってイカ臭かった。

「どうやらジュンからするみたいね」
「本当ですぅ。これは…さてはチビ人間!」
「な、なんだよ?」

ジュンはベットのうえで身構えた。バレたのか?そもそもローゼンメイデンは夢精なんか知ってるのだろうか?ジュンは単純に疑問に思った。

「さては私たちに内緒で夜中に塩辛喰ってやがったですねぇ!ふてぇ野郎です!」
「し、塩辛ぁ?」

よりにもよって塩辛とは。翠星石はするどいが違うとこにいきついてしまうのが玉に瑕である。

「そうなの、ジュン?」
「喰うかんなもん!!」
「白状するですぅ!翠星石にはお見通しですぅ!さぁだすです!翠星石も塩辛大好きですからね!」

いうが早いが翠星石はジュンの布団を無理矢理はがしにかかった。ジュンは我が身を忘れそれを防ぐ。この掛け布団一枚がジュンの絶対防衛領域だった。

「や、やめろぉぉ!!」
「いいから、だ、す、で、すぅ!!」

万力のような力をこめて翠星石は布団をひっぱがした。食い意地がはってるときの翠星石はまさに敵なしだろう。

「うわぁ!」
「あぁ!」
「あ…」

布団がはがれたことでさらに匂いが解き放たれた。そしてジュンの股はパンツだけでなくズボンにまで大きな染みを作っていたのだった。
「ち、ちちちちちちび人間!?おねしょしたですかあ!?」
「ち、違ーーーーう!!!」

言われると思ったがジュンは力の限り否定した。寝小便をしたと思われることはなんとしても阻止しなければならなかった。

「…ジュンの言うとおりこれはおねしょではないわ翠星石」

それまでのやりとりを静観していた真紅がぽつりとつぶやいた。こころなしか少し顔が赤い。
すると真紅はきびすを返しドアにむかった。

「いくわよ翠星石。たまには朝のニュースをみながら紅茶を飲むのも悪くはないのだわ」
「え、ええ?真紅、でもですねぇ…」
「ジュンも大人になったということよ。体だけみたいだけど」
「ちょ、よくわかんないです真紅〜!」
「まぁいいじゃない。ジュンも着替えたら紅茶を飲みにくるといいのだわ」
「お、おう」

そして2体のドールは下へと向った。
力が抜けるジュン。
翠星石にはバレなかったが真紅にはバレた。こうなるほかはなかったかもしれない。ジュンは頭をかかえいつまでもうなっていた。

所と時間がかわってここは図書館。夏休みの間に遅れた勉強を取り戻すべくジュンは学校の勉強にいそしんでいた、はずだった。
ジュンが読んでいるものは教科書でも参考書でもない。それは中学、高校生向きの思春期の内容がわかりやすくかかれた厚い本だった。
『男子は個人差がありますが大体12〜16才ぐらいから陰毛が生えだし場合によっては夢精を経験します…か。
よく考えてみれば今の僕なら全然ありえるんだよな。てか今朝経験したばっかだけど…。男子は射精するときに激しい快感を感じます……覚えてないよ…。
まぁ毛は最近生えはじめたのは事実だけどさ。ちょっと待てよ。これ確か女子の方が成長早いって書いてるよな。てことは…柏葉も…』

「こんにちは桜田くん」
「うわああぁぁ!!」

本日2回目の絶叫に巴はもちろんまわりの一般客もいっせいにジュンを見つめる。睨むものもいた。ジュンは死にたくなった。

「ご、ごめん柏葉…。大きな声だして…」
「う、ううん。こっちこそ急に声かけてごめんね。それより…はいこれ。夏休み前の宿題と授業のプリント」
「悪いな。いつも」
「いいんだよ。桜田くん頑張ってるし。ところで何読んでるの?図書館で参考書以外読むの珍しいね」

巴の視線からあわててタイトルを隠すジュン。当然なのかもしれない。いくら真面目な本でも性の本なのだ。同級生が読んでるのをみたら恥ずかしくないこともないかもしれない。

「あ、ああ!ちょっとな!そ、それより最近学校はどう?なんかかわったことあった?」
「今夏休み中だけど…」
「あ、そうか!あははは!僕何言ってんだろ!」
「クスクス、変な桜田くん」

どうにかこうにか巴をうまくやりすごしジュンは帰路についていた。
不覚にも自分の、しかも幼なじみの同級生に変な想像をした自分が心底情けなかった。おかげで今日のノルマに全然辿り着けていない。今日は徹夜、ジュンは重く心中でつぶやいた。 
自分が大人の体になる。誰もが経験する驚きと未知にたいする不安や期待。まさにジュンはその真っ最中なのだ。思春期に思いはせるのも無理はない。したがって多少なりとも幼なじみの巴を意識するのはしごく当然といえよう。
では真紅たちはどうだろう?彼女たちはまぎれもなく人形であることは間違いなく人間が異性とみるのはあやまりなのだ。

(本当にそうなのかな……)

ジュンは自問自答する。確かに彼女らローゼンメイデンは人形だ。だがほとんど人間と同じ行動をする。
ものを食べ、眠り、また個性もそれぞれだ。とするならば彼女と人間の違いは体の構造だけではないだろうか。人間は細胞という有機体で彼女らは無機質。たったそれだけではないのか。
ならば、だとしたならば人間と人形の恋や愛は存在してもいいのではないだろうか。
これがジュンが最近よく自己奮闘する倫理だ。

(だって仕方ないよな。あいつら無防備すぎるんだよ。すぐ洗濯したら下着姿になるし抱っこしろとかいうし。あげくには真紅なんか抱いて頂戴とか…。いや、あれは勘違いだったんだけどさ。でも意識するなってのが無理だっての)

そこで浮かぶのは先程巴に向けた想像。

(真紅にも……)

「て、何考えてんだ僕はーーーーーー!!!」

3度目の絶叫は犬と散歩中 のおっさんをびびらせた。

「ただいま…」

羞恥心がピークに達したジュンは自分で頭を電信柱で何度もぶつけまくった。そのせいで意識は朦朧、気分は最悪、気持ちブルーの3連発で帰宅した。
さすがにのりも真紅も翠星石も心配したがもはや簡単に声をかけられないほどジュンはぐったりしていた。

「ジュ、ジュン君〜。もうすぐご飯だからね」
「…うん。できたらよんで…」

いうとジュンはとぼとぼと自室に帰っていった。

「やっぱりおかしいですよジュンのやつ」
「やはり今朝のことがよほどショックだったようね」

のりに聞こえない声でソファーでひそひそ話する真紅と翠星石。ジュンのせいで大好きなくんくんにも集中できない。翠星石は多少いらいらしてた。

「まったくあのちびちび。いっぱつ気合入魂してやるですぅ!いけばわかるさですぅ!」
「やめておきなさい。あれはあれでジュンにとっては大変な問題なのだから」
「はいはい、真紅先生にはかなわないですぅ」

口をとんがらせる翠星石を無視して真紅はのりに紅茶のおかわりを頼んだ。

「それよりも翠星石。例のものは調達してきたの」
「この翠星石にぬかりはないですぅ!ちゃーんとおじじからもらってきてますよ。真紅の鞄にいれておいたですから。でもあんなものでジュンは元気だすのですかね?」

真紅はのりから紅茶をうけとり一口飲んでつげた。

「大丈夫。人間にはそのときどきにあわせて作ってある道具があるのだわ。ありがとう翠星石。おじいさまにも感謝を伝えておいて頂戴」
「べっ別に真紅のためにしたわけじゃないですから礼なんていらないですぅ」
「そ、でもありがとう」

微笑む真紅に翠星石は赤くなった。今では一緒にくらす姉妹は真紅のみ。だからというわけではないが翠星石にとって真紅は今はなき蒼星石と同じぐらい大切な存在だった。だから素直に、本当に素直に翠星石は嬉しかった。
だが思い出したかのように翠星石は口を開く。

「あの…真紅」
「何?」
「翠星石は今日おじじのところに泊まるですぅ」
「何故?」
「おじじが風邪をひいたらしくって。まったく、よぼよぼにもほどがあるんですがちょっと心配になったです。だから…」
「わかったわ。もし何かあったらすぐに呼んで頂戴」
「そんな大それたことじゃないですぅ!…淋しいだけなのですよおじじは…」

愛しい蒼星石を失った悲しみはマスターとこの翠星石にしかわからないのかもしれない。いまさらのことなのだが。
真紅は2杯目の紅茶を飲み干した。くんくんはすでに終わり幼児アニメへと切り替わっていた。

「了解したのだわ翠星石。ジュンのことはまかせといて」
「はいですぅ。…でも真紅!」
「な、何?」

まじまじと顔を見つめる翠星石に真紅は少し狼狽した。いかにも真剣である。

「翠星石がいないからって抜け駆けはなしですよ!!」
「ば、馬鹿ね!そんなことするわけないじゃないの!」

真紅は赤くなりすでに空のカップを強くすすった。 

――――――――――――――――――――

夕飯を食べおわると翠星石は薔薇屋敷へと向った。出掛ける前にうらめしそうに真紅を見つめたが真紅は気付かないふりをした。 

風呂からでたジュンは一人もくもくと机に向っていた。だが今日は5時起きなゆえにかなり眠い。時計をみるともう1時をすぎていた。あくびと背伸びをすると今まで黙って本を読んでいた真紅が話かけてきた。 

「疲れているのねジュン」 
「ん?あぁ、まあな。てかおまえもう1時だぞ早く寝ろよ。眠りの時間は大切なんだろ」 
「そうね。でもたまには下僕が頑張ってるのを見るのも悪くはないのだわ」 

言って微笑む真紅にジュンはたじろいだ。夕方の奸な想像が再び脳裏を巡ったからだ。 

「ジュン?」 
「いや、なんでもない。それと僕は別に頑張ってない。だからもう寝てくれ」 
「何故?ここ最近のあなたの勉学にたいする姿勢は目をみはるものがあるだわ」 
「ツケが回ってきただけさ。今までさぼってきたんだから」 
「ジュン…」 
「それに柏葉やねえちゃんにだってすごい迷惑かけてるからな。だからこのくらいなんともない」 

真紅は本を閉じジュンに近づく。そしてジュンの膝に両手をつけジュンを見つめた。ジュンは心臓が高鳴るのを静かに感じた。 

「ジュン。前にも言ったけど過ちに気付き反省し前に進むのは強く尊いものなのだわ。あなたは少しずつ強くなっていく。これからあなたの心の木もどんどん成長する。あなたはすごいわジュン」 

突然珍しくおだてられジュンはまたまたたじろいだ。だが真紅はいたって真剣。軽く流すわけにもいかなかった。照れ臭さを押し殺し礼をいうジュン。 

「あ、ありがとう…」 
「だから今のあなたをみるのは楽しいのだわ。だけど無理は禁物よ。せっかく頑張っても体を壊したら本末転倒よ。今日はそのぐらいにしたら」 

ジュンはまだノルマが終わってないので一瞬考えたが真紅のいうとおりにした。今断ったらバチがあたりそうな気がした。 

「うん、わかった。僕ももう寝るよ。だから真紅も、な?」 
「そうね、ジュンが寝るなら私が起きてる意味なんてないし。一緒に寝ましょうジュン」 

ジュンは机の電気を消しベッドへむかう。こころなしか晴れやかな気持ちだった。こんなに真紅が思ってくれてるのが素直に嬉しかった。 
「おやすみ真紅」 
「おやすみジュン。あ、ちょっと待つのだわ」 
「?」 

閉じかけた鞄からがさごそ何かをとりだす真紅。部屋はすでに暗いのでジュンはそれがすぐには何かはわからなかった。 

「はい、これをつけて寝るといいのだわ。あとこれをお飲みなさい」 

手渡されたのは白いパンツのようなものと栄養ドリンクらしきもの。ジュンは目を凝らしてそれらを眺めた。 

「『ハルンケア内服液』……あとこれは……。あの、真紅さん?」 
「見て分からない?オムツなのだわ、成人用の」 
「そんなもんみてわかるわ!!!ななななんで、なんで僕がこんなもん飲んでこんなもんつけて寝なきゃいけないんだ!!」 

ジュンの眠気は一気に吹き飛んだ。真紅は平然と告げる。 

「大丈夫、みなまでいわないでジュン。このことを知ってるのは私と翠星石だけだから。のりにはばれてないわ。それに薔薇屋敷のおじいさまにもらってきたものだから安心してつかって頂戴」 
「違ーーーう!!わけをいえわけを!!」 

真紅が赤くなる。ジュンも真っ赤だがお互いまったく違う意味だ。 

「あわてないでジュン。人間が大人になれば当然のことなのだわ。ただジュンには少し早かっただけ。気にすることはないのだわ」 
「はぁ?だからなんなんだよ!」 
「尿もれなのでしょうジュン?もっと年老いてからだと思ってたから正直驚いたけど」 
「ちっがーーーーう!!!!」 

ジュンは爆発した。まさか若い自分が尿もれと思われてたとは。今朝大人な反応しといて結局真紅にはわかってなかった。ジュンの徒労は無駄に終わった。 
どうやらローゼンメイデンには人間にあやまった解釈があるようだ。ともかくジュンはまっこうから全否定した。 

「僕は尿もれじゃない!!こんなものつける意味なんかまったくない!」 
「じゃあ今朝のあれはどういうことかしら?」 
「あれは夢精だ!!」 
「ム、セイ…?」 

言った後で後悔した。これで自分は夢精したとを真紅につげてしまったからだ。しかもこの流れだと絶対に真紅は夢精をしらない。聞いてくるのはしごく当然だった。 

「ムセイてなんなのジュン?」 
「い、いやそれは…そんなことどうでもいいだろ!さっさと寝ろ!」 
「嫌なのだわ。早く教えなさい。これは主人の命令よ!」 
「いやだ!絶対にいやだ!」 
「何故そんなにいやがるのかしら?」 
「嫌だったら嫌なんだ!!」 

頑なに拒否するジュンに真紅はまたも勘違いをしたようだ。 
そうか、ジュンは何か病気なのだ。だから主人である私を心配させないために無理をしているのだ。しかもこんなに拒否するだなんて。きっとムセイてのは不治の病なのだ。 
ああ、ジュン。わたしのジュン。あなたがそんな病気だなんて…。下僕の病気にも気付かないなんて主人失格だ。 

「し、真紅!?」 

みると涙をぽろぽろ流す真紅にジュンは心底肝を冷やした。ていうかわけがわからない。一緒に暮らし初めてけっこうになるがこんなに真紅がわからないことは初めてだった。 

「ごめんなさいジュン…。あなたが…そんなになるまで気付かなかったなんて…。私や翠星石がジュンの力を使いすぎたからそうなったのかもしれないのだわ…。そのせいであなたが病気になるなんて…」 

真紅がジュンの手をやさしく握る。涙がジュンの手にぽたぽたかかった。 

「許して頂戴ジュン…。私にできることならなんでもするのだわ。だからあきらめないで。二人でムセイを治しましょう」 
「真紅さん…違う、ちがうんですよぉ……僕は病気じゃないです……」 

今度はジュンがだーっと泣いていた。 

「え?違うの?ジュンは死なないの?」 

真紅は泣き止みパッと顔をあげ座っているジュンの膝に飛び乗った。 

「なんで夢精で死ぬんだよ…」 
「だから病気じゃないならそのムセイてのを早く教えなさい」 
「はぁ〜……」 

ついにジュンは観念した。このまま病気と勘違いされたままにしておくよりいいだろうと妥協した。 

「だからな…。その、夢精てのは生理現象なんだよ…」 
「生理現象?」 
「男は僕ぐらいの年になるとその……せ、精子を作るんだよ」 
「せ、精子ですって!?」 

真紅の声がうわずる。何を話してるんだ自分はと思ったが続けることにした。 

「そのたまった……精子がたまに寝ている間にでてくるんだってさ。僕も今日はじめてしったよ。てお前ちゃんと聞いてるのか?」 

目線を真紅に戻すとなぜか真紅がわなわな震えている。訝しげにジュンが思った瞬間だった。 

ぱちーん! 

「いてぇ!?」 

真紅の必殺金髪鞭がみごとジュンの目頭に直撃しジュンはひっくり返った。真紅はジュンから飛び降り距離をとった。 

「何すんだよ!」 
「や、やっぱり人間の雄は想像以上に下劣なのだわ!よりにもよってせ、精子だなんて!」 
「おまえが聞いたんだろが!!」 
「まさかそんなことだとは思いもよらなかったのだわ!心配して損したわ!」 

ジュンは本気で頭にきた。カッチーンというやつである。勝手に尿もれだと思われてしかも次は不治の病、あげくはちゃんと説明したら下劣といわれジュンも我慢の限界だった。 

「だ、だいたいなぁ!僕が夢精なんかしたのはおまえらがきたせいなんだからな!今まではちゃんと自分でだしてたんだ!おまえらがいるからできないんだからな!」 

普段は冷静なジュンもさすがに若さゆえか、怒りにまかせて真紅にオナニーできませんといってしまったのだ。 

「どういうことかしらジュン。なぜ私たちがいるからできないのかいってみなさい!」 

真紅は真紅で結構怒ってる。両手を腰につき上目遣いでジュンに迫る。 

「あ、当たり前だろ!おまえらがいるのにどこでするんだよ!」 
「そんなの私たちは人形なんだからいちいち気にせずすればいいのだわ!」 
「できるわけないだろ!一応おまえらだって真紅だって女の子なんだから!」 

その言葉は真紅の胸を強く打った。ジュンが自分をローゼンメイデンである人形を一人の異性としてみてくれていることに今更ながら実感したからだ。それは、真紅にとって嬉しかった。 

「じゃあジュンは…私たちが女の子だから、その、せ、精子をだせないっていうのね」 
「さっきからそう言っているじゃないか…」 

真紅は少し考えた。ジュンは自分を異性としてみてくれている。それは嬉しい。素直に認める。だが通常と違うのは自分とジュンは主属関係にあるということ(ジュンは認めていないが)。ならば主人としてやるべくことは一つ。 
真紅はゆっくり深呼吸をした。 
そして答えをだした。 

「なら私が、主人としてあなたが精子をだすのをゆるしてあげるわ。いえ、手伝ってあげる。それが主人としての務めなのだわ」 
「いぃーーー!?」 

ジュンは飛び上がった。何をいうのだこの少女は。というかなんでそれが主人としての務めなのか全然わからない。自分が何をいってるのか本当にわかっているのかこの少女は。 

「さぁズボンを脱ぎなさいジュン」 

どうやら少なからずわかっているらしい。が素直に従うわけにはいかなかった。男としてのプライドもある。 

「いや、いい!そんなことしなくていい!」 

ジュンが精一杯拒絶するが真紅はズンズン近寄ってくる。動きは固かったが。 

「な、なな何をはずかしがってるの?私とあなたのなかでしょう?」 
「他人が聞いたら勘違いされること言うな!しかもはずかしがってるのはおまえじゃないか!」 
「いちいちるさいわね!いいこと?あなたも毎朝パンツを替えるのは面倒でしょ?それに私たちも朝おきたらイカ臭いのはごめんなのだわ」 
「うぅ……」 

言い返せない自分が情けない。ジュンは心底自分の生理現象を呪った。 

「どうなのジュン!」 

気付けば真紅はジュンの顔前まで迫っていた。 
ジュンは天を仰いだ。 

「わ、わかったよ…」 
「よろしい。いい子ねジュン」 

ジュンと真紅。二人の夜は長くなりそうだ。 

――――――――――――――――――――

「なぁ真紅…本当にするのか?」 
「これ以上レディに恥をかかす気?」 

恥という言葉を使ってる以上やはりどこか恥ずべきことと認識しているのか、真紅の顔がわずかに赤い。だがジュンはそれ以上に赤かった。 
何しろ今からこの少女はジュンのオナニーを手伝うという奇妙奇天烈なことをしようとしているのである。ジュンは真紅が正気か疑った。 

「早くズボンを脱ぎなさい」 
「わかったよ…」 

ゆっくりとズボンを脱ぎはじめるジュン。変な気分だ。やっぱりおかしい。どうかしてる。何故こんなことに?思ったところで答えはでない。だが絶対に普通ではないのだ。 

「脱いだ…」 
「上もよ」 
「なんでだよ」 
「いいから脱ぎなさい。命令よ」 

なんか恥ずかしいのをとおりすぎて腹がたってきた。何故真紅に命令されて裸にならなきゃいけないのだろうか。情けなさと怒りが混じった変な気分にジュンは陥った。 

「ほら、脱いだよ」 

トランクス一枚となったジュンは至って普通にたっていた。真紅は目を見張った。 
ジュンの裸をこうしてまじまじみるのははじめてだ。その体は確かに華奢だが確実に一つの大人の男へと成長してる片鱗があったからだ。肩幅は出始め胸筋もわずかに自身を強調している筋が目に取れる。 
真紅は面食らってしまった。 

「真紅!」 
「え?」 
「え、じゃないよ。次はどうするのさ」 
「そ、そうね。じゃ次は……その、…あ」 

たじろぐ真紅をみてジュンは心に余裕がでてきた。同時に少しかわいいいたずら心もひょこっと顔をだす。 

「ちょっと待て。真紅は脱がないのか?」 
「え!?な、何をいうのかしら!下劣よジュン!」 
「違うよ。ほら、いろいろ汚れるかもしれないだろ?ドレス台無しになってもいいのか?僕は洗わないからな」 
「う…」 

ジュンはにやにやしながら得意気にそういったがその後の結果までは考えてなかったのはやはり若かったからか。今から二人でするのは子供の遊びではないのだ。 

「わ、わかったわ!」 

真紅は思った。 
何故だろう。いつもならこんなに恥ずかしいことなんてない。この前洗濯のとき下着姿をジュンにみられるのも特になんともなかった。なのに今はとても恥ずかしい。 
この気持ちは何?ジュンは私を一人の女としてみてる。じゃあ私は?私もジュンを男としてみてるというの?分からない、分からないけど今は物凄く恥ずかしい。 
一方ジュンは自分のいったことにまたも後悔していた。真紅がドレスを脱ぎだしたことでそっちに意識が戻ってしまったのだ。 
はらり、はらりと真紅がその肌をゆっくり露出していく。ジュンは目を逸らすことができず硬直せざるをえなかった。 
そしてついにお互い下着だけとなってしまった。長い永遠とも言える間が二人を止める。 

が、先に動いたのは真紅だった。 

「ジュ…ジュン、そっちにいっていいかしら…」 
「え!…う、うん」 

近づく真紅にジュンは唾を飲み込んだ。月明かりに照らされた真紅の下着姿はそれは綺麗で、美しくて、官能的だった。自分の中の何かがむくむくと出始めてきてることにジュンは気付かない。 
ベッドまできた真紅。二人の距離は50センチもない。 

「抱っこして頂戴」 
「あ、あぁ」 

真紅専用抱っこするジュン。 

「ジュンのベッドに寝かせて」 
「はい…」 
「ジュンも横になりなさい…」 
「うん…」 

見つめあうジュンと真紅。真紅の長いブロンドがジュンの手に掛かっている。お互いの息がかかる距離。 
真紅の妖しくも優しい薔薇の香りがジュンの鼻孔を刺激する。顔を赤くした汚れなき薔薇乙女はただじっとジュンの顔を見つめていた。 
月明かりが真紅の唇できらりと反射したときジュンの内なる部分がいっそう大きくなった。 
そして薔薇乙女は少年の性器をトランクスの上からやさしくつつみこんだ。 

「ここから出るのね…ジュンの精子が…」 
「うぅ…真紅」 

背筋がゾクゾクし全身がこわばる。それでも真紅は離さなかった。 

「どうすればでるのかしらジュン?」 

ジュンの苦悩がはじまる。 

(どうするって、どうもこうも今でも充分やばいよ!だ、だめだめだめ!!やっぱりだめだ!僕はまだ中学生で真紅は人形だ。いや、人形だからってわけじゃないんだけどやっぱだめなんだこんなこと! 
真紅に謝ろう。ちゃんと謝れば許してくれる。こんなことで真紅との関係を壊したくないんだ!!だから……) 

「直接触って真紅」 

(違うってーーーーー!!) 

「わかったわ…。じゃあ下着を脱いでくれるジュン」 
「あ、あぁ。ちょっとくれ待てよ」 

ジュンは自分を最高に罵ったがもはやときすでに遅し。ジュンの中ではもはや男の部分がはるかに勝っていたのだ。 
そして、あらわになるジュンのものに真紅はおもわず口からでてきそうな声を手で抑えた。長い間生きてきたがこんなにも男性の性器をはっきり見るのは初めてだった。 
驚愕した。ジュンのものは真紅が想像していたよりはるかに大きく、そして膨張していた。 

「あんまりじろじろ見るなよな…恥ずかしいから」 
「ご、ごめんなさい。それでこれをどうすればいいのかしら?」 
「その前にさ。真紅も脱げよな。汚れるのは下着も一緒だから」 

ちょっと待て。 

「え、そ、それは…」 
「いやか?」 

今しゃべってるのは自分か? 

「嫌じゃないわ…。ただ…」 

ダメだ、それ以上いったら。 

「恥ずかしいんだろ?なら僕も一緒だ」 
「わかった…のだわ」 

何故心臓がこんなにばくばくしているのに頭は冷静なのだ。こんなの自分じゃない。 
…いやこれが本当の自分か?まさか。だけど僕は真紅を…。 

そして真紅は下着を脱ぎはじめる。あらわになるわずかに膨らんだ胸はジュンの脳髄を打ち鳴らした。 
そして股にあった一本の筋はジュンの下半身を直撃した。 

「その、あ、あるんだな。おまえらにも…」 
「そうよ。私たちは至高の少女アリスになるため生まれてきた。少女であることは当然女性の象徴もなくてはならない。したがって、わたしたちローゼンメイデンにはそれがついているのだわ」 
「そうなのか。でも僕は…真紅は今でも充分至高だと思う」 

ジュンの頭に血が上る。究極に恥ずかしくなった。ジュンは奥歯をかちかちさせた。 

「ジュン…」 
「何いってるんだ僕は!!」 
「…いいえ。ありがとうジュン。嬉しかったわ」 
「真紅…」 

嬉しいような悲しいような想いが駆け巡る。でも、真紅がこれ以上ない美しさというのは本当だとジュンは思った。真紅の裸体は月明かりで白く透き通っていた。 

「さあ続けましょう。ジュンのこれをどうすればいいの?」 
「とりあえずさ。擦ってくれるか…?」 
「こうかしら?」 
「うあぁ!」 

両手でやさしく擦る真紅にジュンは小さく悲鳴をあげた。 
脳に、いや体すべてに電気が走る。すべての感覚がなくなるような敏感になるような不思議な気分だ。舌先までチリチリする。 
ジュンは仰向けに倒れてしまった。真紅はジュンのまたに居座り愛撫を続ける。 

「ジュンのすごい形をしているのだわ。それに何故こんなに上下に擦れるのかしら。不思議だわ」 
「う、あ、あ、あぁあ……」 

今まで生きてきて味わったことがない快感に襲われるジュン。 
その快感はジュンの中の何かをますます刺激させていく。真紅の無邪気な愛撫にまだ中学生のジュンが耐えれるはずもなかった。 

「あ、あ、う!く、くる!ぅああ!!」 
「え?きゃあ!」 

暴発した精液が真紅の顔を直撃した。顔面に弾かれた精液はそのまま布団に飛び散り、次いで散り狂う精液は真紅の透き通った肌を白く汚していく。 
休まず発射される濁った液体は小さき乙女の全身を簡単に蹂躙していった。 

射精が終った後にくるものはわかっている。そう、自殺してしまいたくなるような罪悪感と後悔の念。普通より一層ナイーブな少年にこれはかなりきつかった。 
だがまだ性器をしっかりと握られてる感触があるのに、ジュンは後悔より先に戸惑った。 

「真紅…もういいから放し…!!!」 
「み…みな…いでジュ…ン!」 

真紅が自分の性器を持ちながら震えている。息が荒く顔が真っ赤だ。が、ジュンを驚かせたのは他にあった。 
真紅がペタンと座っているその場所がべったりと濡れ大きな円の染みを作っていたからである。 

「あ、あなたの絶頂の、意識が、流れ込んできたの、だわ…。だ、だから…わたしも、イッてしまっただけ。それだけなの…見ないで、ジュン…」 

精液まみれでガクガクと震え泣く真紅。 
その時ジュンの中の何かが切れてしまった。いや、産声をあげた。 

「し、真紅!!」 

真紅に飛びかかりそのまま両肩を抑えるジュン。 
肩をゆらし呼吸を整えようとするが一向に治まらない。 
が、最後の理性を振り絞りジュンは真紅に渇望した。 

「ぼ、僕を殺して真紅。このままじゃ僕は…真紅を!」 

ジュンは泣いていた。心底泣いていた。間違いなく自分は真紅を犯そうとしている。一番大切なこの少女を。自分が許せなかった。殺したいと思った。やはり自分はいないほうがいい人間なんだと思った。それでも止められない自分が情けなかった。 
だが真紅は、この哀れな少年の涙をそっと優しく拭い、そして微笑みながらこういった。 

「わたしはあなたのお人形よジュン。人形は人間を幸せにするためにうまれてくる。あなたが望むなら、人形としてわたしはかまわないのだわ」 
「違う!!おまえはただの人形なんかじゃない!おまえは僕たちと同じだ! 
おまえだけじゃない!翠星石だって金糸雀だって、それに雛苺も!!みんなみんな僕たちと同じなんだよ!!」 

ジュンは泣き叫び真紅を否定した。否、本当は自分を否定したかった。こんなどうしようもない馬鹿な自分を。だが今まで一緒に過ごしてきたローゼンメイデンたちとの思い出だけは否定できなかっのだ。 

「そんな、おまえに、僕は…僕は……!!」 

ベチ 

いきなり真紅のロングヘアウィップがジュンに炸裂した。ジュンの視界が右へとずれる。左頬が熱い。 

ベチ 

今度は左へ。同じく逆の右頬が熱い。というより痛い。 

ベチベチベチベチベチベチベチベチベチベチベチ 

視線が右左へと激しく移動してる。 
脳が回転してるような感覚がしてジュンは真紅から飛び退いた。 

「何すんだよ!痛いだろ!」 
「うるさいのだわ。男のくせにメソメソするなんてみっともないのだわ」 
「な…」 
「私をごらんなさい。あなたの精液で体中べっとり。ジュンはこれでもまだ自分の内なるものを否定するの?」 

ジュンは面をとられた。両頬をさすると涙の後がくっきりと伝わってくる。 
真紅が言ってること、それは内なる自分を認めろということ。たった今生まれた感情と向き合えということだ。 
恐ろしい。恐ろしいが認めなきゃいけない。 
自分は真紅を犯したいことに。 
真紅の瞳に写る自分を直視することに。 
だが一つだけ、わずかな疑問が残った。 

「真紅。どうしておまえはそこまで僕を許せるんだ?」 
「…それを………レディの口から言わせる気?」 

上目遣いで顔を赤くする真紅。それをみてジュンは心から安心した。 

「いや、いい」 

ジュンは真紅を強く強く抱き締めた。 

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