「翠星石。俺と、結婚して欲しい」
ああ……ついに、言われてしまった……
翠星石はそう思った。
この男と契約を結び、共に暮らしてきた。今までのどのマスターよりも惹かれた。蒼星石にお願いして、二
人っきりの同棲生活。心配そうに去っていった蒼星石。
最初は楽しかった。何気ない日常が幸せに溢れていた。でも、ある日ふと気が付いてしまった。
自分は人形 彼は人間
このまま添い遂げることは出来ない。これは由々しき問題の筈だ。
けれど。
眼の前があまりにも幸せすぎて。考えないようにしていた。問題を先送りにして、幸せを隠れ蓑にして、自
ら答えを出そうとはしなかった。
きっと蒼星石は気が付いていた。遅かれ早かれ、こういう時期が来ることに。
「お前は……どうしようもない、馬鹿野郎ですぅ……」
翠星石は搾り出すように言葉を紡ぐ。
「翠星石は人形です……いつか壊れるですけど、それは、ずっと先のこと。添い遂げることなんて出来ないで
す……
それに。アリスゲームが始まれば、翠星石もすぐ壊されるかもしれないんです」
「そんなことは、言われなくても判ってる。それでも俺は君と一緒に居たい。
君を幸せにする。
この言葉は、誓って嘘じゃない。
俺が居なくなっても、寂しくなんかないよ。それ以上に幸せな思い出を、これから二人で創っていくんだ」
翠星石は目を閉じた。閉じられた両の瞼から、涙が溢れる。幸せが溢れた、素敵な涙だった。
「誓いの指輪を、俺は君から貰った。だから。
俺の誓いの指輪も、君に貰って欲しい」
そう言って、男は手を開く。そこには、小さな、シンプルで精緻な装飾が掘り込まれた、銀の指輪が一つ。
手先が器用なこの男の業だった。
「……はい……ですぅ」
一言。翠星石はそう答えた。
「金は高くて手に入らなかったんだ。銀で勘弁してくれないか」
男は跪き、翠星石の手を取った。その細い指にそれを填める。指輪は、そこに納まるのが必然であったかの
ように煌めいた。
誓いの指輪は填められた。残るは一つ。
誓いのキス。
二つの影は寄り添い一つになった。
「ずっと……こうして、君をこの手に抱きたいと……そう思っていた」
ベッドの上で二人は抱き合っていた。翠星石はしがみつくように男の胸板に擦り寄る。
男が翠星石の細い顎に手を沿え、ついっと上向かせる。
視界一杯に広がる男の顔に、赤く染まった彼女の顔は更に赤くなった。そしてゆっくりと目を閉じる。軽く
唇を突き出す。
「ンッ……」
本日二度目のキス。始めは軽く触れあわせる。角度を変えて、何度も何度も啄ばむように。
しばらくそうやって触れ合ったあと、男は舌で翠星石の唇を舐め始めた。ゆっくりと、舐め溶かすように舌
を這わせる。柔らかさを堪能する。唇を割って、舌を口内に滑らせた。
「んんっ!……んふっ……」
チュピ、チャプっと水音が響き、翠星石が軽く震えた。緊張のためか、歯は硬く食い縛られている。そんな
ことはお構いなしに男の舌は歯列を、歯茎を、頬の内側を、舐める。掻き回す。
「んあっ!……んむぅ!」
下唇を甘く優しく噛まれた時、思わず声を上げた。その隙間。舌が滑り込む。舌と舌が、触れ合う。
電気が奔ったかのように翠星石の小さな体は大きく震えた。
「ぷはっ!はぁ、はぁ、はぁ、んんっ!」
唇が離れ、互いに乱れた息を整える。交換した体液を飲み干す。
それは翠星石の下腹部に、未体験の熱を吹き込んでいた。
「初めてのキスの、感想は……?」
「んんっ……はぁ……お酒の匂いがする、です……」
「……プロポーズの直前に、一杯だけ飲んだ……
服、脱がすぞ」
一枚一枚丁寧に。ドレスを剥ぎ取っていく。あっという間に翠星石は裸になってしまった。
その肢体の美しさに、男は息を呑む。
ベッドに広がる艶やかな黒髪。オッド・アイ。赤らんだ頬。
僅かに膨らんだ乳房や、流麗なおへそ、そして穢れ無き一本のスジ。
全てが愛しく、美しい。
男はゆっくりと体を倒し、翠星石に覆いかぶさった。
そしてキスをした。軽く口内を舐め、舌を絡める。そのまま啄ばむように頬を通り黒髪を掻き分けて耳を啄
ばんだ。そして耳朶を咥えしゃぶるように愛撫する。耳の穴に舌を差し込み、クチュクチュと掻き回す。
「うあっ!音、凄いっ……あっ、あぁっ……」
耳からダイレクトに流れ込んでくる水音は、翠星石の官能を激しく揺さぶった。
自然、股間にも違和感が走る。無自覚のまま、翠星石は太腿をモジモジと擦り合わせてしまっていた。
それに気が付いた男は、ゆっくりと手を伸ばし翠星石の内腿に手を掛けた。
「翠星石……濡れてるよ……」
少し驚いた風に男が伝える。
「うぁっ……す、翠星石には、よくわからないですぅ……人間の牝は濡れないですか……?」
不安そうな顔。それが滅茶苦茶にしたいほど可愛い。
「人間だって濡れるよ。でも触れてもいないのに濡れるなんて、翠星石はエッチだな、って」
「そんなことっ!……ない……です……おまえが、変なことするから、です……
……あの……そのっ……え、えっちな翠星石は、き、キライですぅ……?」
それが引き金。
男は身を起こすと翠星石の足首を掴み、M字に割り広げた。
濡れてテラテラと輝く一本のスジが晒される。部屋の空気がひんやりとそこを撫で、翠星石は悲鳴を上げた。
「ひあっ……!な、なんて格好させるですか!!て、手を離すですぅ!!!」
「翠星石……綺麗だ……可愛いよ……」
「ど、どこ見てそんなこと言ってるですか!……は、恥ずかしいから……そんなに、見ないで……ですぅ……」
そう言ってそっぽを向いてしまう。羞恥のためか顔は真っ赤で、閉じられた瞼の端には涙が溜まっていた。
その仕草があまりに可愛らしいので。男は、翠星石の乙女に口づけた。小さな割れ目を舌で舐め上げる。
「ああっ!ふあぁっ!そ、んな、だっめぇ!んあっ!」
舌先を宛がい、少しだけ力を込める。だんだんと左右に開かれていく。上へ上へとすりあげて、クリトリス
を探り当てた。最初は舌の腹で、ソフトに優しく。
「はっ!ああんっ……!ああ、ああ……!」
心なしか、先程よりも愛液の量が増えてきた気がする。舌先でコロコロと舐め転がす。
「やぁっ!うあっ、あああっ!すご、い、ひあっ!」
ピュッ、ピュルっと愛液が噴出す。始めは硬く閉じていた蕾がゆるゆると開いていく。
あまりの柔らかさに感動。唇で挟み、少し強めに吸い上げた。チュッと音が響く。それを何度も。
「ひっ、ああっ!うっ!くあぁっ!あああっ!
な、なにかきちゃ、う、ですっ!だめっ、もうっ!
あああああああっ!」
ひくんと下腹がわななき、翠星石の小さな体が跳ねた。波のような快楽が頭を支配する。飛沫を上げて、果
てる。
生まれて初めての、絶頂。ビュク、ビュクっと溢れ出すそれを、男は余すことなく甘受した。全てを舌で受
け止め飲み干す。ピチャピチャと、子犬がミルクを啜るような音が響いた。
初めての絶頂に翠星石は乱れた息を整えるのが精一杯だった。快楽の名残が時折体を痙攣させ、小さな割れ
目から愛液を垂らす。
男は翠星石が落ち着くまで何度もそこを舐め続けた。愛撫とは違う。落ち着かせるように、綺麗に整えるた
めの行為だった。
何度も舐めて、綺麗にする。これから二人が繋がろうとする場所に、舌を浅く潜らせて。染み出す愛液を啜
り、確認する。男は身を起こした。
「翠星石、いくよ」
もう十分過ぎるほどに濡れそぼった秘花に己が分身を擦り付けながら、男が宣言する。
「あ……翠星石は……その……初めて、だから……優しくして……です……」
一度身をずらし、安心させるように深く口づけ。
ゆっくりと、腰を突き出す。
「あっ!ああっ!くはぁーっ!」
翠星石が身を捩った。体が上へと擦り上がる。それを押さえ込むように、男の手が細い腰を掴む。
「くぅっ!うぅっ!」
苦痛とも快楽とも見受けられるような呻き。亀頭が完全に埋没していた。
「だ、大丈夫か?痛いか?」
「痛くなんか、ない、です……このまま、つ、続けて……です……」
苦しそうな吐息。目を見開き、虚空を見る。男の腕を掴む小さな手には強い力が込められていた。
更に腰を突き出す。ゆっくりと。今度は半分ほど挿し込む。
「んあっ!かはっ!あぐぅっ!」
ここまできたらもう、お伺いを立てるような野暮はしない。男は腰の動きを止めず、そのまま突き上げた。
亀頭が最奥をノックする。これ以上はもう、入らない。男のペニスは完全に埋没していた。こころなしか翠
星石の下腹部の一部がポコッと膨らんでいるような。
「全部、入ったぞ……痛く、ないか?」
落ち着いたのを見計らって、男が尋ねた。
「はぁ、はぁ、はぁ……んくっ……痛い、というか……あっつい、です……
あ、あっつくて……!どうにかなっちゃいそう……ですぅっ!」
そう叫んで、翠星石は男にしがみついた。
この反応に、男が今まで散々耐えてきた欲望が爆発した。
翠星石の太腿を掴み、ズルッとペニスを引き抜く。亀頭が見えるギリギリまで。そして。
「翠星石っ!」
男は叫び、再度欲望を突きこんだ。ペニスを半分まで突きこみ素早く引き抜く。そしてまた半分ほど。
いきなり最奥を叩くようなことはしない。浅く、激しく、腰を突きこむ。
「やっ!ああっ!あっ!ん、ん、ん、ん、んっ!んくぅっ!」
自らが上げる喘ぎ声を羞恥に感じたのか、必死で声を抑えようとする。男はそれを許さなかった。
今度こそ、最奥目掛けて亀頭を突きこんだ。ズンッと、鈴口がノックする。
「んあっ!ひあああああああああっ!…………ああんっ!きゃっ、ああっ、あああああ〜っ!」
浅く、浅く、浅く。何度も掻き回し、膣壁を擦る。
そして深く。最奥をコツンと小突く。引き抜きカリ首で愛液を掻き出す。
グチュっ、ズチュっと水音が響き、ベッドに二人の混合液が飛び散る。
「ひっ、あっ!だ、めぇっ!も、くるっ!ですっ、なにか!くるっ?!ああっ!!!」
ペニスを噛み締めるかのような、断続的な締め付け。その間隔がだんだんと短く、力強くなっていく。
翠星石の絶頂がすぐそこに来ている。
「うっ!翠星石っ!俺、イクっ!中に射精すぞっ!」
男はそう宣言し、翠星石の腰を掴んだ。射精に向けてラストスパートをかける。
遠慮も容赦もない。限界まで引き抜き、限界まで叩き込む。それを、最速で。何度も何度も。
パシンっ、パシンと音が響く。
「ああっ!きてっ!すいせいっ!せき、のっ!なかにぃ!
はぁっ!あっ!あっ!あっ!くるっ!!!あっ!
やあっ、あああああああああああああっ!」
「ぐっ!うおぉっ!」
翠星石の絶頂が激しくペニスを締め付けた。男のペニスは激しく脈動する。最後の最後、強烈に奥まで突き
上げ、男も絶頂に達した。最奥へと精が迸る。少女の全てを己がものにしようとして、最後の一滴まで注ぎ込
んだ。
どさりと音を立て、男は翠星石の隣に寝転んだ。ペニスが引き抜かれ翠星石の秘所からは精液と愛液が溢れ
て零れ落ちる。
互いに目を合わせる。手が触れあい、絡みつく。二人とも微笑みあい、そして眠りに落ちた。
閉じられる瞼。翠星石の目から一筋、涙が零れた。それはきっと、悲しみの涙だった。
翠星石はとある木の前に立っている。まだまだ若い木だ。これから、もっともっと大きくなる可能性を秘め
ている。
その木の前に、俯いて翠星石は立っていた。
「……居るのはわかってるです……出てきてください……」
空間が歪む。その歪みから現れたのは、蒼い衣服を身に着けた彼女の妹だった。
「なにか用かな、翠星石」
こころなしか頬が赤いのは、姉が何をしていたのかをある程度把握していたからに相違ない。
「この木を……この枝葉を、切り落としてください……」
「どうして、そんなことをしなければならないんだい?」
蒼星石は翠星石の背中に声をかけた。
「翠星石という名の夢は、これで終りです……夢はいつか覚めるもの……そして、覚めたら忘れてしまうもの
です……」
「駄目だよ翠星石……それだけじゃ、僕は納得できない……
……こっちを向いてくれないか、翠星石。ちゃんと理由を聞きたいんだ」
翠星石はゆっくりと振り返った。その顔は、涙でぐしょぐしょに濡れていた。
「あの人間は、きっと翠星石を幸せにしてくれます……でも……でも……!
翠星石には、出来ないっ!年を取らない!添い遂げられない!
……翠星石には、あの人間を幸せにすることは……きっと、できない……です……」
ボタボタと。大粒の涙が零れ落ちて、地面に跳ねる。
「幸せ、は、二人でっ!、紡いでっ、いくもの、ですぅ……!……うぐっ……翠、星石に、は、それが、できな」
「……もういいよ……」
涙を流しながら告白する姿があまりにも痛ましすぎて。蒼星石は翠星石を抱きしめていた。
蒼星石の胸の中。
声を上げて翠星石は泣いた。
その長い黒髪を蒼星石はずっと撫で続けていた。
「……夢……」
鞄の中で目を覚ました翠星石は、自分が涙を流していたことに気が付いた。
あれからもう何十年たっただろうか?どうして今日、突然こんな夢を見てしまったのだろう?
一度だけ。好奇心にかられて「あの木」を見に行ったことがある。
それはそれは、立派な大樹だった。天に向けて枝葉を広げた、誰にでも誇ることが出来る立派な大樹だ。
美しき妻を娶り、父親に似て精悍な息子と、母親に似て美しい娘に囲まれた、太くて力強い一生だった。
自分と居ればきっと、その全ては手に入らなかっただろう。
あの時の選択は間違っていなかった
そう思えるような、素晴らしい人生。
でも。それでも。
「……寒い……寒い、ですぅ……」
あのとき傍に居て自分を暖めてくれた、慰めてくれた蒼星石は、もういない。
温もりを求めて、翠星石は鞄を出た。
翌朝。
ジュンのベッドでスヤスヤと眠る、何故か全裸の翠星石が発見され、当然ながら一騒動起きた。
その時の翠星石の寝顔は、とてもとても安らかだったことを付け加えておく。