全12話のお話を一本書きました 
今より少し後の、ジュンのお話です 

では「夜の紅茶はいかが?」投下します 

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その夜も、8時45分のニュースが終わるのを見て、真紅達は眠りの場である鞄の中に入った 
真紅と雛苺、翠星石と蒼星石、真紅の主導により、彼女達ドールにとって重要な鞄での眠りは 
いつもキッチリ夜の9時から朝6時、9時間の眠りの時間は、ごく稀な例外を除いて守られていた 

9時間というのは少し長すぎないか?そう思っていた、僕は連続9時間はそうそう寝られないし 
ヒキコモリの強みで寝たいだけ寝ても、6時間強か8時間弱、それくらいで目が覚めてしまう 
人とドールのそれが同じだったとして、「理想の睡眠時間は7時間半」と、いくつかの読み物で見た 
どうやらドールにとっても、「9時間」は微妙に長すぎるようで、雛苺はよく寝るのをゴネる 
ウチと時計屋夫婦のマスターの間を往復する翠星石と蒼星石も、時計屋で眠る時は少々勝手が違い 
翠星石はテレビを見始めるとすぐ夜更かしをして、よくお婆ちゃんに鞄に追い立てられるとか 
蒼星石は早寝だが、届いてすぐの朝刊を読むのが好きな彼女は、よく5時前に起きてくるらしい 

社会人のミーディアムの元で暮らす金糸雀はそれより少し不規則な朝寝坊の夜更かしで 
平日の朝はマスターの目覚まし時計で起こされ、休日は二人でゆっくりと朝寝を楽しむそうだ 

薔薇水晶は寝るのは早いが、朝は必ず夜明け前に起きる、ドール・ショップの丁稚の朝は早い 

水銀燈はといえば寝るのはいつも明け方で、陽が頂点に昇るまではまず起きてこないらしい 
「昼頃にすっごい不機嫌な顔で起きてくるのよぉ、髪とかボッサボサで」とマスターの女性は言ってた 
何その自由業?と思ったが、僕も似たような物だった、真紅達によって変わったが、それはほんの少し 

0時を少し過ぎた頃、僕は復学のための勉強の手を少し止め、背後の床に並ぶ3つの鞄を見た 
眠るドール達にほんの少し悪戯心を出し、一度寝ると雷が落ちても起きない翠星石の鞄をそっと開けた 
翠星石は体の大きさに少々のゆとりのある鞄の中、複雑な大の字となってイビキをかいている 
どんなご馳走の夢を見てるのか、ニヤけた顔のだらしなく緩んだ口元からヨダレを垂らしていた 
「・・・・・・・・・あぁん・・・ダメですぅ・・・・・・・ピ様・・・・わたしには・・・・ドンゴン様というお方が・・・・」 
安っぽいゴチソウを堪能中のようなのでデザートをくれてやる事にした、寝言に話しかけると気が狂うとか 
耳に唇を寄せ、囁く「・・・・・・ニポンノ・・・ミナサン・・・・コニチワ・・・・・」 
翠星石の眉にシワが寄る、苦悶の表情を浮かべた彼女はうなされ始めた 
「あぁっ・・・ちがうの!・・・・ちがうの!・・・誤解ですぅ・・・・・翠星石は身も心もジェヒ様のもので・・・」 
うるさいので鞄を閉じた、気は紛れなかったのでもう寝るかと思ったが、なんだか眠る気になれない 

その時、翠星石の鞄の隣、真紅の鞄の蓋がそっと開いた 

姉妹達に9時寝を励行する真紅はといえば、意外と他の姉妹と比べても、あまり寝つきのよくない方だ 
9時に鞄を閉じた後も、鞄の中で転々と寝返りを打つ音がかすかに聞こえてきた事がよくあった 
いよいよ寝入り損なった時、彼女は鞄から出てきて、僕と短い会話を交わしたりしてから再び鞄に戻る 

真紅にとっても長すぎじゃないかと思っていた9時間の睡眠時間 
それはまるで睡眠時間の中に、予め何か睡眠以外の為の時間を見込み、繰り入れているかのようだった 

真紅の鞄、鞄の中から顔だけ出した真紅がこっちを見る、寝起きのショボショボな瞳をしていないので 
どうやら翠星石へのイタヅラで起こしてしまったのではないようだった、今夜も眠れないらしい 
闇に微か輝くブルーの瞳で僕を見る、寝入り損なったせいかその瞳は、なぜか抗い難い力を放っていた 

「ジュン、よかったら・・・夜の紅茶を、飲まない?」 

僕は頭を掻きながらしぶしぶ立ち上がった、真紅の紅茶命令に逆らうのは面倒、夜は静かに過ごすもの 

「英国では一日10回のティータイムを楽しむのよ」と、この日本国で自慢げに薀蓄を垂れる真紅は 
日に何度も僕にお茶を淹れさせる、回数はまちまちだが10時と15時のお茶だけはまず外さない 
そんな真紅も、そういえば日の落ちた後に紅茶を飲むことはなかった、夕食後はお茶より甘い物を 
ご所望なさるし、メシ食ってデザート食ったら、大体「眠りの時間」がやってきて、鞄に引っ込む 

「紅茶・・・ね?、へいへい、今淹れてくるのでしばしお待ちくださいっと」 

座りっぱなしでふらつく足で部屋を出ようとすると、真紅は座り込んでいた鞄の中でドレスと髪を直し 
「んっ!」と勢いをつけるような掛声をあげて立ち上がると、歩いて僕についてきた、目を伏せている 
「今淹れてきてやるから部屋で大人しく待ってろって、ちゃんと適温で淹れるってばよ」 
「雛苺も翠星石も寝ているわ、部屋でズルズル啜るわけにはいかないでしょ?、階下で頂くわ」 
紅茶をズルズル啜ったことなんて無いくせに、彼女は煎茶も味噌汁も音をたてて啜れない 

階下の居間、僕は台所周りを照らす蛍光灯を点けた、意地悪心を出して居間の灯りは点けなかったが 
真紅は僕が電気ポットではなくヤカンを取り出すのを確認して頷くと、ソファにどっかりと座った 
こちらを見もせず「二人分淹れてちょうだい、あなたも紅茶を飲むといいわ」と偉そうに命令する 

真紅は薄明かりの中でテレビをつけた、音を絞りチャンネルを替える、映画、洋楽PV、アニメ、通販 
やがて地方局の夜景映像にチャンネルを固定し、少しボリュームを上げた、BGMの音楽が聞こえる 
定点撮影された深夜の高速道路の映像、それに不似合いなオペラの歌声が流れている、知ってる曲 
僕と真紅、この夜更けに何が起ころうと、きっと僕らはただ、ここでテレビを見ていただけなんだ 
きっと僕らはただ、真夜中の暗い居間で、二人でパパロッティのオペラを聞いていただけなんだ 

僕はヤカンに浄水器の水を注ぎ、火にかけた、カップを温めるのも茶葉を蒸らすのも、まずはお湯から 
真紅のうるさい文句のお陰で、多少は紅茶が淹れられるようになった、きっと何の役にも立たない技術 
ソファの真紅は、相変わらず夜景が映るテレビを見ながら、歌劇「イ・ピュリターニ」を聞いていた 
いつも会話の時は目を見る真紅にしては珍しく背を向けたまま「今夜はミルクティがいいわ」と抜かす 
どうも夜更けってのは反論しようって気持ちも鈍る、僕は黙って冷蔵庫から牛乳のパックを出した 
「ミルクに紅茶を注いで頂戴、ミルクティの時はミルクが先か紅茶が先か、聞くのがマナーよ」 
牛乳に紅茶を落として、それで何が変わるってんだ?、たかが紅茶、飲んだら消える物じゃないか 
もしも今が昼間だったら、もしも僕と真紅の距離がほんの少し違ってたら、僕は真紅を拷問してただろう 
どんな責め苦を与えてやろうか、澄ました顔で夜景の映像とオペラを楽しむ真紅をソファに縛り付け 
丁度この時間にTVKでやってる「ぬいぐるみがつまらない話を延々する音楽番組」でも見せてやろうか 
いや、くんくんを信奉する真紅はヘタすると、その目つきの悪いぬいぐるみに惚れてしまうかもしれない 
そんな僕の考え事に文字通り水を差すように、火にかけたヤカンが笛を吹き、僕に蒸気を吹きかけた 

ヤカンのお湯に充分な空気を含ませるためにしばらく沸騰したままにしながら、お茶の準備を進める 
食器棚から真紅のマイカップ、小さな金色のカップを出した、産地も素材も不明の不思議なカップで 
何をしても割れない、いつかのりが食器洗いの時、うっかり真紅のカップをガラスの深皿と激突させた 
粉々に割れたのは分厚い耐熱ガラスで直火にもかけられるのが自慢であるパイレックスの深皿だった 
毎日丁寧に洗ってれば、使い手の愛情に応えるかのように微かな茶渋さえ付かずに白く輝き続ける 
それから僕のカップ、のりが僕専用に買ったナルミ・ボーンチャイナ、厚手で白無地のティーカップ 
僕はといえばウェッジウッドの中でも買いやすい値段の「ピーター・ラビット」が欲しかったのだが 
のりは「そういうのはジュン君にはまだ早いから、自分でお金を稼ぐようになってから、ね」と笑った 
つまり、僕が昔「ワイルド・ストロベリー」をうっかり電子レンジに入れてしまい、カップの縁の 
金線を焼き焦がし、ウエッジウッドをひとつパーにしてしまったことを未だに根にもっているらしい 
ただ、僕はこのボーンチャイナのかすかに濁った白の素地、純白より生命感のある白は嫌いじゃない 

型通りお湯をカップとティーポットに少し注ぎ、カップとポットを充分温めてから、お湯を捨てた 
安いがバラつきのない三井農林のセイロン葉を、紅茶専用の銀のスプーンで計りながらポットに入れる 

ふたつのティーカップにミルクを注いだ、温めたカップに注いだミルクは、じきに適温になるだろう 
ポットに熱湯を注ぎ、躍る茶葉が充分に開ききるまで待つ、お茶を淹れるのは待つことの多い仕事 
OLがサボりの口実にするのも、仕事も学校も忙しくない暇な奴ほどハマるのもよくわかる 

ポットに台所布巾を縫って作ったティーコージを被せる、ボッタクリの既製品を買う奴の気が知れない 
一段落、ヒマになったのでキッチンの流しに寄りかかり、ソファにふんぞり返る真紅の背中を眺めた 
真紅は僕に背を向けてパパロッティのアリアを聞いていた、視線を感じたのか微かに身じろぎしている 
感情を表に出すことを恥じる真紅、今夜の真紅はいつもにも増して無口で無愛想だが、何かが違う 

勘で茶葉の開く時を測り、一度ポットを開け、蓋の裏の匂いを嗅いでから、カップにお茶を注いだ 
カップの白に溶け込んでいた純白のミルクに琥珀色の雫が落ちる、それは渦巻き、白の中に溶け込み 
ミルクはやがてキメ細かい肌のような褐色に変わっていく、女の肌を思わせる色に少し劣情を覚えた 
白いカップの中で真っ白なまま守られたミルクが、やがて苦いく芳ばしい琥珀を知り、受け入れ、求め 
混ざり合う中で純白の肌を茶の色に変えていく、生きる者の色を得ていく、そして・・・飲んだら消える 

いつだったか、真紅に聞いてみた、いや、詰め寄ったことがある、「僕と紅茶のどっちが好きなんだ?」 
真紅は「貴方は香りと雫だけを残して消えられる?それが出来たら貴方を愛してあげる」 

僕はもういちど真紅を見た、背を向けた彼女の解かれた髪、その下のうなじの色が知りたかった 

不意に真紅が背を向けたまま俯く、昼間のように結われていない髪が、さらさらと左右の肩に流れた 
稲穂の色の髪が分かれ、彼女の首筋が少し見えた、その肌の色、香り、味、薄暗がりではわからない 
知りたかった、僕はそっと真紅に近づいた、真紅のうなじ、肌、そして真紅の女の部分が知りたかった 
僕が真紅にそっと近づき、背を向けた真紅のうなじに触れようとした時、別の僕が声を出した 

「真紅、紅茶が入ったよ」 

背を向けたまま「そう・・・」と呟いたきりの真紅に、歩いて自分のお茶を取りに来させようとしたが 
僕は両手に真紅と自分のカップを持った、今の僕は両手が塞がってないと、何かしでかしてしまいそう 

真紅は僕が淹れたミルクティを、ただ頷いて受け取った、一口啜るとまた頷く、無口なのは夜のせいか 
いつも使いもしないのに必ず紅茶に添える事を要求する砂糖壷が無い事にも、何の反応もしなかった 
ソファに二人並んで、温かいミルクティを飲んだ、二人でただ黙って暗い居間でテレビを眺めていた 
真紅がコクリと、僕がズズっと、二人がお茶を飲む音が響く居間の奇異な空気を、テレビが和らげる 

僕はテレビに映る高速道路の映像、今もどこかで世界が動いてる証明のような赤と白の光の川を眺めた 
真紅はテレビから流れるオペラの調べ、清教徒の苦難を唄うベッリーニの旋律に耳を傾けていた 

紅茶を早々に飲み終わった僕はカップをソファ前のテーブルに置いた、横に座る真紅の視線を感じたが 
彼女はすぐミルクティに意識を戻したらしく、残ったお茶をグイっと飲み干す音がした、吐息 
僕の白無地カップの横に、真紅は自分の金色のカップを音立てて置いた、何だかいつもの真紅と違う 
真紅が珍しくカップを微かにカタカタと鳴らしたのは、彼女の青い目が少し鳥目気味だからだと、思った 
テーブルに並ぶ、分厚く生命感のある白無地のカップと、小さいながら華やかに輝く金色のカップ 
二つのカップは僕らが望む僕ら自身の未来の姿なんだろうか、僕は並ぶカップをぼんやりと見つめた 

そして、真紅は・・・・ 

横に座る真紅が突然、僕に向き直り体当たりを食らわした、仰向けに倒れた僕の上に真紅がのしかかる 

僕は、真紅に押し倒された 

真紅とは今より少し前、他のドールより親密な関係になった、初めての時、真紅は泣き叫び抵抗し暴れた 
僕が襲いかかった理由はもう忘れてしまった、真紅のお茶への文句とか、そういうつまらない理由だった 
それから何度かの秘密、今では真紅も、襲われるのも服を剥ぎ取られるのも、犯されるのもうまくなった 
初めての頃の飢えとか感動とか照れ、ぎこちなさとか恐れとか、そういうものは無くなった気がする 

それでも真紅の方から「来る」なんて初めてだった、プライドを捏ねて作ったような真紅にはありえない 
真紅のサファイア・ブルーの瞳、その瞳は今、暗闇にうっすら映るテレビの灯りを反射して輝いている 
いつのまにか放送終了してカラーバーになったテレビの画面より、はるかに強く輝いている 
ギラギラの瞳、真紅のギラギラした意思、真紅はその瞳と体を、紅い情欲に輝かせていた、ギラギラと 
真紅は・・・僕とやりたがっている 

「ずっと背を向けていたのを怒らないでくれるかしら?こんな瞳をあなたに見られたくなかったの」 
真紅は小さい体をその情欲で燃やし、僕に覆いかぶさる、背後には灰色の放送終了画面が映っている 
テレビを消す様子は無い、どうやら真紅にはイタリア語の歌詞の意味はわからないようだった、 
パパロッティは恋人と引き裂かれた姫が悲嘆に暮れる様を見事なテノールで歌い続ける 

「ジュン・・・あなたはやっと、紅茶と呼んでもいい代物を淹れられるようになったわ・・・でも 
美味しい紅茶を淹れるには『ゴールデンルール』があるの・・・それを知らなくてはいけない・・・・」 
真紅は僕の手を自分の胸に導いた、その掌は熱い、彼女が人形であることは少しの間忘れようと思った 
「まずは・・・熱いお湯でカップを、ポットを温めるの・・・相手を思いやって・・・優しく・・・強く・・・」 
真紅の、サイズは貧相ながら僕の手に心地よいカップをドレスの上から暖めた、指で、掌で、握力で 
「っ・・・ぅ・・・ぁ・・・ぁっ・・・ジュンっ・・・わたしを・・・ァ・・・あなたのお人形を・・・温めてっ・・・ァあっ」 
体を反らし息を切らせる真紅の胸を赤いドレスの上から揉みあげる、胸の頂点を探り当て、指で弾く 
「きゃ!・・・はぁん!・・・ジュン・・・も・・・もっと・・・あつく・・・して・・・・もっと・・・あんっ!」 
僕は真紅のドレスのボタンを上から外し始めた、真紅は脱がされる自分の体ををなぜか無表情に見つめる 
赤いドレス、松浦亜弥がCMしてる紅茶のような赤、今夜の真紅の肌は年増になったあややよりキレイだ 
白い下着を脱がされても彼女は抵抗しなかった、ただ僕のお人形となって表情を殺し、身を委ねている 

その素肌、球体関節、全て剥き出しになった真紅は両手で下半身を隠す、そして、僕に胸を差し出した 

真紅のカップ、鼓動する柔らかい胸に直接触れ、掌の温かみ、僕の命の温かみを激しく擦りこんだ 
「はぅ!・・・ジュ・・ジュン・・・はぁっ!・・・いっぱい・・・・いっぱい・・・あたためて・・・・はぁん」 
そして、彼女のポット、完璧な曲線を描く白磁、その丸みを確かめるように指を下へと這わせていった 
その繊細なリーフが納まる、女の証であるポットの中身に指を伸ばした、そして唇を接する、舌と歯 
すでに暖まっていたポットを、舌と唇で充分に熱した、その熱さで彼女が狂うまで、迸るように狂うまで 

共有ファイルで落としたAVを見た経験を生かし、僕は真紅の中で淫靡に光るリーフに激しく吸いついた 
「・・ひ・・・ぃやぁ!・・・いたぁい!・・・や・・・やぁっ・・・ジュン!・・・ダメ!ダメぇ!・・・つっ!」 
真紅は快感の声とは違う抗議の悲鳴を上げる、自分の下半身に埋もれていた僕の顔を咎めるように見た 
「茶葉はとても繊細なもの、一つひとつ違うの・・・でもジュン、あなたが知る茶葉は生涯ただひとつ・・・」 
僕は再び真紅の、リーフを包む艶やかな鞘を広げ、優しく、時に真紅が悲鳴を上げる程に激しく味わった 
「あぁ・・・あんっ・・・ジュン・・・・・・あっ!・・・ジュン!・・・ジュンぅ!・・・・あぁん・・・」 
真紅のポットは熱に染まり、その中の、薄暗がりでも桃色に粘るリーフが女の匂いを立て始める 

「熱いお湯を・・・入れるの・・・熱いのを・・・たっぷりと・・・早く・・・つっ!」 
体をずらし、充分に沸いた僕の熱湯を真紅のポット、注ぎ口の外周に当てた、探るように焦らすように 
縁に沿って撫であげ、浅く刺す、僕を受け入れるためにエキスを垂れ流すポットの中、リーフに触れた 
「っ・・・はぁ!・・・早く・・・早くぅ・・・お願い、ジュン・・・もう茶葉は開きたがってるの・・・来て・・・」 
熱く膨張した僕の熱湯を、真紅のキツくて狭いポットに押し入れた、少しづつ、そして一気に奥まで 
「んぅ!・・・くぅぅ!・・・つ・・・あつぃ!っ・・・だ・・・だいじょうぶ・・・いれて・・・き、きゃぁ!」 
根元まで挿し挿れた、真紅の中の感触、その熱さ、真紅の中が僕を包み、幾多の指のように動いている 
「ジュ、ジュン・・・んぅ!・・・わ、わかる?・・・熱いお湯の中で茶葉が踊ってる・・・喜んでいるの・・・んっ!」 
その小さな体で僕に跨り、僕に挿し貫かれた真紅は、苦痛に僕の両肩を握り、爪を立てながら、僕に囁く 
「おいしい紅茶は・・ポットを揺らすの・・・ふたりで・・・優しく・・・ね・・・やさしく・・・おねがいよ・・・」 
僕は真紅の言葉に従いゆっくりと腰を持ち上げ、そして、真紅を振り落とし壊す勢いで激しく突き上げた 

真紅の悲鳴とともに、テレビからパパロッティの独唱が聞こえてきた、彼は大いにのっている 
恋人が処刑を宣告される様を見た姫が悲しみのあまり狂気へと堕ちていく歌を、ノリノリで歌っている 

僕は・・・今夜はまだ真紅とキスをしていない事に気づいた 

真紅は股を限界近くまで開いて僕に跨り、初めての時から変わらぬ入口が裂ける痛みに泣き声を上げた 
「はぁ・・・きゃぁ!・・・ぃたぁい!・・・いたいわ!・・・ちょっ・・・やぁっ・・・い・・・いたいよう・・・」 
真紅は僕の上で、激しく揺れながら泣き叫んだが、やがて悲鳴を上げながらも腰を上下しはじめる 
「あぁ!・・・・あぁん!・・・はぁん!・・・ジュン・・・いたいけど・・・いじめて!いたく・・・いじめてぇ!」 
激しい快感に燃える真紅は、声を上げ、髪を乱し、青く燃える瞳から涙を飛ばしながら体をくねらせた 
迸るのが涙だけでないことは、彼女から僕の腰を伝い、尻の下に出来ていく生温かい溜まりで感じた 
「あン!・・・ジュ、ジュン!もっとぉ!・・・アアっ!・・・奉仕、しなさい!あぁん!・・・あっぐ・・・っはぁっ!」 
僕より小さく軽い真紅への手加減はやめた、全力で真紅の体の中、僕の突起で真紅の奥を掻きまくった 
「・・・あぁっ・・・あぁん!・・・あぁん!・・・はぁん・・・はぁん・・・はぁあん!・・・はっ・・アン!アン!」 
真紅の声がリズムを刻む、、服を着ている時より紅く見える体を、僕にビタン!ビタン!と叩きつける 
ソファはズ、ズっと床と擦れる音を出し、ソファの横のテーブルに置いたカップがカチカチと鳴っている 
のりが熟睡中である事を祈った、テレビの灯りで僕らの影法師が、化け物の踊りを壁に映している 
「はぁん!・・・っはぁ・・・いやぁ・・・わたし・・・こんな・・・こんなにィ・・・あぁーん・・・あはぁん!」 
力の限り動く僕の上で真紅は体を反らし、頭を振り、髪を振り乱し、涙と涎を流しながら上下に貪る 
今まで僕の知らない激しい体と声、真紅はもしかしたら初めてかもしれない全身の快感を体で表わした 
「あん!あん!あーーん!あァーーーん!あはーん!あはーんっ!・・・あっアーーーー!・・・あ・・・」 

壊れる程の悲鳴を上げた真紅は起こしてた体を伏せ、僕の熱い流れを迎えるように優しく腰を振り続けた 
僕は真紅の優しさに、今までの快感を上回る体中の痺れを感じた、脳にスッと白い幕が引かれる、破裂 
「最後の一滴まで・・・ちょうだい・・・それはベスト・ドロップ・・・」 
僕の熱流を一滴残らず受け止めて真紅は、青く燃える瞳に、処女を失った時のような涙をにじませた 
真紅と、下半身が繋がったまま唇を重ね合わせる、今夜初めてのキス、湿っぽい音を立てる長いキス 
そして僕の唇を、涎の筋をつけながら真紅の頬に這わせ、その瞳から青い滴りを吸いとった 
「僕の一滴・・・僕は・・・真紅のベスト・ドロップが欲しい・・・・」 

遠くで聞こえる声、それが僕のとても好きなパパロッティの歌劇だということに気づくまで 
少し時間がかかった 

そっと繋がりを解き、真紅を僕の傍らに優しく横たえた、真紅は何か言いたげに見つめてくる 
僕のイク時に合わせるようにしてくれた真紅、僕が出したのに合わせて途中でやめた真紅 
真紅は僕の出したものと自分の出したもので下半身を汚し、ソファに出来た染みを指でなぞってる 

僕はテレビの発する音、恋人への愛を歌う姫と死地の中から愛の歌で応える恋人の絶唱を聞いていた 
また意地悪な気持ちになって、真紅の再び熱を帯び始めた視線を無視した・・・真紅から言ってくれ 
真紅は、その裸体を両手で隠しながら、もぞもぞと両方の腿をすりあわせ、上目遣いで僕を見つめた 
吐息、微かな声、聞こえないふりをしようとしたが、これ以上焦らしたら薔薇の刺で処刑されそうだ 

「ジュン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もっと・・・」 

汚れたソファの上にそっと真紅を横たえた、今度は僕が上になって、四つんばいのまま真紅を見つめる 
真紅は僕に両腕を差し出し「んーっ、あーっ」と幼児のような意味を成さない言葉で僕におねだりをする 
自分の仕草に照れたらしい真紅は一度横を向くと、もう一度手を伸ばし、僕の顔を確かめるように触れた 
「ジュン・・・素晴っしい紅茶と、素敵な、あ、あなた・・・わたひの茶葉はあなたのっ・・・奇跡ろ・・・」 
何かのセリフを言おうとしたんだろうか、真紅は自分のロレツが回らないのに困惑している、無理もない 
僕は真紅の唇に、人差し指をそっと触れさせた、真紅がハっと黙り込む、瞳には再びの炎が揺れている 
「紅茶は・・・飲むものさ」 
そう、ウンチク垂れるものじゃない、味わうためにあるもの 

僕と真紅は再び体を重ね合わせた、言葉もなく、ただ吐息と甘い声だけでお互いの体を味わった 

青く初々しく、そして今思うと少しほろ苦い、新茶の時期は過ぎた僕たち、もう戻れない僕たち 
いつか僕らはアールグレイやアッサムのような、熟成された美味なお茶になれるんだろうか 

いつか、のりの勧めで蒼星石のマスターである柴崎さんに菓子折りを下げて挨拶に行ったことがある 
僕はといえば人と話すのなんて慣れてない、会話の接ぎ穂に困り、僕は爺さんに無難な質問をした 
「・・・え、え〜と、夫婦円満の秘訣は、何ですか?」 
柴崎爺さんは、僕を見て、真紅を見て、最後に奥さんのマツさんを時間をかけて見つめてから 
「タンチャぞ、タンチャ!」とだけ言い、僕にひどい匂いの湯気をたてる湯呑みを押しやった 
その「タンチャ」に口をつけてみたが、黴臭く埃臭くて、こんな不味いお茶があるのかと思った 

後で知ったが、「団茶」ってのは、新鮮なお茶など手に入らないアジア内陸部で飲まれるお茶で 
煉瓦状に干し固めたお茶を削って煮出す、発酵も熟成も通り超えたミイラのようなお茶だそうだ 
よく塩やバターを入れて飲まれ、それらの国では嗜好品を超えた貴重な栄養源、生命の一部らしい 
柴崎爺ちゃんは再びマツさんを、自分の暮らしの一部、今までの人生の一部を愛おしげに眺めながら 
「たんちゃぁ〜まぁしましぃ〜♪」と、沖縄民謡を歌ってみせた、マツさんは何も言わず笑う 
菓子折り持ってった事を後悔するようなマズいお茶飲まされ、ヘンな話を聞かされたヘンな一日だったが 
その「タンチャ」とかいう奇怪な味のお茶を、また飲みにきてもいいな、と思った 

僕は真紅を自分の命の一部に出来るのか、真紅の命になれるんだろうか、今は緑茶の頃を過ぎた僕ら 

試験放送の花畑を映すテレビから流れるパパロッティのオペラはいつのまにかフィナーレを迎えていた 
恋人を処刑台から救い出した姫が末永い愛を誓う、こじつけたようなハッピーエンドを歌い上げている 

初めての2連チャンにぐったりと蹲り、時々痙攣をしていた真紅は、ようやく意識を取り戻した様子 
真紅はだいぶ熱を発散して渇いているらしい、僕もイった瞬間に吹き出た汗が引き始め、少し寒気がする 
いままでに無い位の体力と精を放出し、なぜか頭の一部が砂嵐になったようなぼやけた気分のまま、 
見栄を張って平常を装いながら立ち上がる、裸のまま台所に向かい、振り返って真紅に言った 

「・・・・・・真紅、あたたかい烏龍茶でも、煎れてあげようか?」 
「気が利くわね、貴方はいい下僕よ、いつかは下僕を卒業できるかもね・・・ジュン、ありがとう」 

今はそれだけで充分だった、僕らは、今はまだ新緑の頃を過ぎたばかり 
これから梅雨がやってくる、異常気象だってあるかもしれない、でも・・・ 

きっと僕らには、夏が来る 

それから 

相変わらず真紅は日に何度も紅茶を淹れさせ、そのたびに文句を言い、夜になると鞄に入って眠る 
そして時々、静かな夜が更けた頃に、真紅の鞄がそっと、姉妹達やのりの目を盗むようにそっと開く 

「ジュン・・・夜の紅茶はいかが?」 

(完) 

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あとがき 

以上です 
また何か書けたら参上します 

参考文献・・・「ローゼン・メイデン・アントラクト」巻末付録『紅茶のゴールデン・ルール』 

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