「う〜〜死にたい死にたい…」
今、死に場所を求めて全力疾走している私は、
有栖川大学病院に入院している気の毒なふつうの女の子。
強いて他人と違うところをあげるとすれば、「死」に興味があるってとこかナ――。
あ、名前は「柿崎めぐ」ね。
そんなわけで深夜徘徊。病院の敷地内にある取り壊し予定の礼拝堂に散歩に来たのだ。
「あっ…」
ふと見ると、祭壇に革の角カバンが置いてあった。
「うほっ! いいカバン・・・」
そう思っていると突然そのカバンが開き、
私の目の前に深紫のドレスを着た人形が、漆黒の翼を広げ飛び出したのだ…!
「ま か な い か」
…そういえば、この礼拝堂は怪奇現象が多いことで有名なところだった。
イイ人形に弱い私は、誘われるままホイホイと近づいて行っちゃったのだ{{include_html html, "!hearts"}}
人形―――いや彼女は、ちょっとワルっぽいアンティークドール(笑)で、水銀燈と名乗った。
生気吸収もやりなれてるらしく、出会うなり私は力を抜かれてしまった。
「いいのぉ? ホイホイ吸い取られて。
私は姉妹だってかまわないで攻撃しちゃう残酷なドールなのよぉ」
「こんなこと初めてだけどいいの…。私…水銀燈ちゃんみたいなドール好きだから…」
「…はずかしいこと言ってくれるわねぇ。
それじゃぁとことん破壊して、吸い尽くしてやるわよぉ」
言葉どおりに、彼女は身の毛もよだつ残酷なドールだった。
羽を竜の形に変形させ、銃弾のように飛ばし、
礼拝堂の壁を、ステンドグラスを破壊しまくった。
月の光に照らされたそれは、七色の雨になって私の上に降り注いだ。
全身がキズだらけになったが、なぜか気持ちよかった…。
しかしその時、予期せぬ出来事が…。
「ううっ…!」
ガクガクッ!
「く、苦しい…」
「ん? ガラスが刺さったぐらいでもうくたばるのぉ? 案外使えない人間ねぇ」
「ち、ちがう…実は…昨晩から心臓発作気味だったの。
散歩に来たのは、し、死ぬためで…。だから幸せ…{{include_html html, "!hearts"}}」
水銀燈は一瞬、ぎょっとした表情をした。死にたいと言う人間を初めて見たのだろうか。
「…そう…。いいこと思いついちゃった。
貴方、私のミーディアムになんなさぁい。」
「えーっ!? ステーキになるの?」
「それはミディアム」
「あちゃー」
「…女は愛嬌。何でもためしてみるものよぉ。きっと楽に死ねるわぁ…ふふっ…。
ほらぁ、遠慮しないでこの薔薇の指輪に誓いの口付けをなさぁい。」
彼女はそういうと、薔薇の指輪を私の前につきだした。
こんな死に損ないの自分すら媒介にするなんて、なんて酷いドールなんだろう…。
しかし、彼女の射抜くような冷たい視線を感じているうちに、
そんな変態じみたことをためしてみたい欲望が……。
「それじゃ…誓うね…」
水銀燈の手をとって唇を接した。
「…キスたよ…。私、男の子ともまだなのに…{{include_html html, "!hearts"}}。」
「いいわぁ、私の中にどんどん力がみなぎってくるのがわかるわよぉぉぉぉ!
しっかりお腹を締めとかないねぇぇぇぇ!」
お腹? 何の事かわからなかった。
「くうっ! 力が抜けていく…。」
この初めての体験は、病院のベッドで独り慰めるのとは比べ物にならない絶頂感を私にもたらした。
あまりに激しい快感に、生気を吸い取られると同時に、
私の脚は力を失って、礼拝堂の床に倒れ伏してしまった。
「このぶんだと相当な死にぞこないだったみたいねぇ、ちっとも足りないわぁ。」
礼拝堂の天井を仰ぐ。全身に残るガラスが痛い。でもそれすら今の私には快感だった。
「どうしたのぉ?」
「あんまり気持ちよくて…こんなことしたの初めてだから…。これで死ねる…死ねる…。
アハ、アハハハ…………!」
コイツはおかしい人間だ。そう思われたらしい。
すると水銀燈は何か考え付いたようで、ビスクの肌にまとった服を脱ぎ捨てると、
空っぽのお腹を指差した。
このドール、胴体がない。
「ところで私の体をごらんなさい…ポンコツの貴方はこれを見て…どう思うかしら?」
「すごく…綺麗…」
正直な感想だ。
床に伏した私からは見えたのだ。胸と下腹部の間、その空洞の向こうに、月と星が。
借景というのだろうか。星を宿した人形。今まで見たどんな人間より美しく見えた。
「素敵よ…輝いてる。」
「……………!……………!」
水銀燈は驚いていた。
この人形、こんな表情をするんだ。
コンプレックスにしかなっていなかった、自分の欠損した身体。
それを綺麗と言われたのが初めてだっただろうのか?
水銀燈は震えていた。今度こそ驚きで動けなくなっていた。
触りたい。この後自分がどうなるかわからない。でも今、この人形に触っておきたい。
私はいま、ステンドグラスが刺さって綺麗なはずだ。彼女に触る資格がある。
「水銀燈…銀ちゃん、こんどは私の番{{include_html html, "!hearts"}}」
水銀燈の身体を掴んで、床に組み伏せる。弱った私にとっても人形など軽いものだ。
「なっ…………ちょっと、やめ…やめなさぁい! この死に損ないのポンコツ!」
「あなたも、でしょ」
本来なら、身体を見せて、バカにさせて、それを口実に私を殺すつもりだったのだろう。
手順を踏むあたり、意外と真面目な性格なのかもしれない。
しかし、このタイミングでジャンク呼ばわりされても怒れないみたいだ。
私は水銀燈の服を脱がせて、身体を触り続けた。
医者に触られるのは慣れていたけど、自分の意思で誰かの身体を触るのは初めてだった。
自分の性器に触れていないのに、こんなに気持ちいいとは。
水銀燈が私の下で喘いでいる。しかし、限界は私に先に来た。
「銀ちゃん…私、も、もうダメ…」
「…な、なによぉ。自分から攻め始めて、もう気を遣っちゃうのぉ? むっ、無ぅ責ぃ任ぃん…。」
「ち、ちがう…!!」
さっきから、血の巡りが悪くなっていたのだ。いつもの、あの症状だ。貧血とうっ血。
喉の奥と、頭の奥に鉛をのせられたようで、急速に気分が悪くなっていた。
こみ上げる不快感。
「は、は、吐きそう…」
「な、なんですってぇー?! あンた、さっきから私をなんだと思っているのよぉーー!!」
「う…、
うう…、
ううううっ!
うぼぁっ!!!!」
「お父様ァァァァァァァァ!!!!!!」
…と、こんなわけで私の初めてのドール体験は、ゲロまみれな結果に終わったのでした…。
[おわり]