その日の午後は、暖かく気持ちのいい日差しがさんさんと降り注いでいた。
「ジュンー、お話があるのなのー。」
穏やかな笑みを浮かべた雛苺が部屋の入り口に立っている。
「どうした雛苺?その手に持っているDVDはなんだ?」
「このDVDにはねー、不登校の中学二年の男子児童が幼い少女に暴行を加える動画が入ってるの」
ジュンはとまどって額にしわを寄せ、それからじわじわと恐怖に襲われはじめた。
「・・・どうして・・・それを・・・?」
ジュンが唇をわななかせながら尋ねたとき、雛苺の後ろから、険悪な表情をした真紅が現れた。
「ジュン、あなたはもうお終いよ」
「真紅?一体何を言ってるんだ?」
全てを悟ってなお言い逃れしょうとするジュンに哀れみの声がかかる。
「ちび人間、観念しやがれです。お前は調子に乗りすぎたんです」
「翠星石・・・。」
ジュンは両手を握りしめていた。胸が上下に波打ち、とめどもなく後悔の念が押し寄せてくる。
対照的に、雛苺は不気味なくらい落ち着いていた。
「ジュンー?楽しかった?ひきこもりのくせにこんな可愛い人形に囲まれて生活できるなんて。でも、人生そんなに甘くないのよ?
行動に結果と責任は付きものなの」
ジュンが突然、雛苺に突進し、可愛らしいドレスの胸倉をつかんで小さな手からDVDを奪った。
「嘘だ!」 彼は金切り声をあげた 「いえ!嘘だといえ!ーーーーー」
冷たい金属がジュンの首の後ろにふれた。蒼星石のハサミだ。
「それを許すわけにはいかない、ジュン君」
ジュンは・・・しかし、確かめずにはいられなかった。あの光景を真紅に見られたのかどうか・・・。
「DVDには何が保存してあったんだ、真紅?いってくれ!」
真紅の手はふるえていた。目から涙が流れる。言葉が出てこない。
「いまいったなの、ジュン」 雛苺が静かにいった。
「嘘だ!」
「いや、真実なの。ジュン」
ジュンはいきなり疲労の波に襲われた。腕の力が抜けて、DVDを足下に取り落とした。
遠くからサイレンの音が聞こえてくる。幻聴だろうか・・・ジュンには確信がなかった。
二時間後、のりは居間で、冷たくなったコーヒーのカップを手にソファーに座っていた。
家の前には警察車両が停まっていた。私服警官と鑑識員がジュンの部屋で作業に当たっている。
ジュンは一時間以上前に連行されていた。
のりは何も映っていないテレビをじっと見つめながら、思いにふけっていた。
体格のいい刑事が作業している一団から離れて、居間に姿を見せた。
「終わりました、桜田さん」
のりにはどうしても聞いておきいたことがあった。
「ジュン君はどうなります?」
刑事は肩をすくめた
「法廷で裁きを受けます。ただ・・・重罪を犯していますし、少年刑務所に送られることはないでしょうが、ある程度の期間は少年院で過ごさなければならないでしょう」
のりの目から涙があふれてくる。刑事はばつの悪そうな顔をして、
「私たちはこれで引き上げます」 とだけ言い残していった。
両親が海外赴任している以上、ジュンの面倒は全て姉ののりが見なければならなかった。
中学校に馴染めず、家に籠もりきりの弟を見るたび、胸が詰まる思いだった。
両親にはなんと伝えればいいのだろう・・・。全て自分の責任であることは間違いない。
のりは決心するとソファーから立ち上がり、キッチンへ歩き出した。
包丁を取り出して、自らの首ーーーちょうど耳のしたあたりーーーに刃を押し当てると、思い切り前へ引いた。