ばっさ、ばっさ、ばっさ、ばっさ・・・・・・・・・・・・・・。 

 ―――――黒い翼が今朝も耳障りに羽ばたく音がする。顔に触れる羽のこそばゆい感覚が、僕を心地よい眠りから覚ます。折角久しぶりにいい夢を見ていたというのに。 
「早く起きなさぁい人間。早く起きないと、このまま永久に目が醒めないようにしちゃうわよぅ」 

 ・・・・・・・・・・・物騒な事を言いやがる。 
 そう思いながら僕は重い瞼を無理やり開ける。それと同時に、五感にあらゆる情報が流れ込んでくる。人間、眠りを欲する衝動を抑えるコツは、それらの情報をキチンと情報として認識し、頭脳の活動を開始させてやる事だ。 
 例えば、階下から漂う、姉が作成中の朝食のにおい。 
 窓を通して聞こえて来る車の音。 
 肌に突き刺さる外気の温度。 
 そして・・・・・・・・・眼前で無気味に笑う銀髪の生き人形。 

「やっと起きたみたいねぇ人間。いい加減、その夜更かしのクセ直した方がいいわよぅ」 
「ふああああ・・・・・・・・・・・・。その『人間』ってのいい加減やめろよ。この家にゃ人間サマが二人いるんだぜ」 
「くすくす・・・・・・・このあたしに名前を覚えろって言うのぉ? たかだかミーディアムごときの名前を? 全く、身の程をわきまえ――――」 
「そういや、お前の名前なんだっけ?」 
「水銀燈よ! ―――――ってか、いい加減覚えなさいっ!このやりとりもう三度目よ!」 
「お前だって僕の名前覚える気無いくせに・・・・・・・」 

 その瞬間、鋭い黒羽がパジャマ越しに僕の肩口に突き刺さる。激痛に思わず飛び上がりそうになったが、眉をしかめるだけでかろうじて悲鳴を押し殺す。そして、そんな僕を見下すような眼でせせら笑う水銀灯を睨み返す。 
「――――全く、ホントに懲りない子ねぇ。あたしに逆らったらどうなるか、あなたの身体が一番知ってるでしょう?」 

 僕はそんな言葉を全く無視して、何事も無かったかのようにベッドから降りる。 
「・・・・・・ありがとうよ水銀燈、おかげで眠気が吹っ飛んだよ」 
「いいわねえ桜田ジュン。長年ミーディアムから力を奪ってきたけど、あなたみたいな学習しない人間は久しぶりだわ」 
「こちとらダテに引き篭もってる訳じゃないんでね。お前みたいな悪魔人形相手に、利口な口を利いたところで仕方ないだろ」 
「そうよねえ。そうこなくっちゃあ楽しめないわぁ」 

 その途端、僕は全身の力が吸い込まれるような感覚を覚えた。そうなのだ。コイツは眼が合っただけで相手の精気を奪い取る事が出来る。文字通り死神のような能力を持っているのだ。 
「ぐッ・・・・・・・この―――――悪魔人形めぇ・・・・・・!」 
「くすくす・・・・・・どうしたのぅ、お馬鹿さん?足がふらついてるわよぅ?」 
 僕は必死に精神を集中して、この脱力感をこらえる努力をする。やらないよりマシだという程度だが、それでも全く効果が無いわけではない。もしそうでなければ、僕はコイツに逢った最初の夜に睨み殺されてしまった筈だからだ。 
「無駄よ、人間」 
 そんな僕をコイツはいかにも楽しそうに見つめる。ネズミをなぶるネコのようなイヤらしい笑みを浮かべながら。 

 足がふらつく。肩が震える。立ってられない。いつもならもう少し我慢出来る筈なんだが、何故か体が言う事を聞かない。早朝だからか?低血圧で朝が弱いからか?そう言えば――――腹減ったなあ・・・・・・階下から立ち上る味噌汁の匂いをかぎながら、僕はベッドに倒れ込む。 

「無駄だって言ったでしょう人間?そんな事考えて、このあたしから気を逸らそうとしても無意味よ」 
 ――――――水銀燈が言うには、こいつらは自分と正式に契約を結んだ人間に関して、かなりの範囲で干渉・認識が可能になるのだそうだ。 
 例えば今やったように僕の思考を読んだり、どんなに距離が離れていても、例え地球の裏側にいたとしても直に精気を奪ったり出来るのだそうだ。 

「しっかし、いい度胸してるわねえ人間。この情況で腹減ったなんて思えるやつって、結構いないわよぅ」 
「・・・・・・・・・・・それ誉めてんのかよ?」 
「ええ、誉めてるのよぅ」 
「嬉しくないな」 
「素直じゃないわねえ」 
 そう言いながら舌なめずりすると、水銀燈はふわりと僕の懐に飛び乗ってきた。そして、そのまま僕を押し倒し、唇を奪う。 
「・・・・・・・・・・・・・・・・でも、そういうの、嫌いじゃないわよぅ」 
「や・・・・・・・・め・・・・・・・ろ・・・・・・・・・!」 

 抵抗なぞ出来よう筈が無い。体の力がまるっきり入らないのだから。いや、正確に言えば抵抗できない理由はそれだけじゃない。 
「判ってると思うけど人間・・・・・・・・・・・・・・・逆らったら、お前の大事なお姉ちゃんを殺しちゃうからね」 

----

――――姉を殺す。 

この一言は、いつもながら実に的確に僕の抵抗意欲を削ぐ。単なる脅しではない。こいつにはそれだけの能力があるし、実際やりかねない。自分の代わりに他人が傷つけられるという事が、いかに人間の心に負荷を与えるか、コイツはちゃんと知っているのだ。 

「・・・・・・・・・・・・そうよ、そうやって大人しくしていなさぁい。すぐに天国に、連れて行ってあげるから」 
 そう言いながら僕の唇を・・・・・・・いや、口といわず鼻といわず顔面全体を舐め始める。 
「――――くっ、やめ・・・・・・・・・・気持悪い・・・・・・・・・・・!!」 
「嘘ばっかり・・・・・・・・・・・」 
 水銀燈が、パジャマ越しにギンギンに膨張した僕の海綿体に手を伸ばす。 
「ねえ人間、これはなぁに?」 
「・・・・・・・・・・・これは・・・・・・・・朝、だから、その・・・・・・・・・・」 
「じゃあ、これは?」 
 今度はパジャマ越しに、カチカチになった僕の乳首に舌を這わす。 
「ぐぅっ!!・・・・・・・・・」 
 僕は思わず声をもらす。自分自身でも信じられないが、僕の乳首の性感は、時にペニスを凌ぐ。しかし、男なのに女みたいに胸で感じさせられてるなんて、そんな事・・・・・・・!! 
「これはなぁに?」 
 人形が僕の乳首を軽く噛む。パジャマ越しにもかかわらず僕の身体に電流が走る。 
「ひいいいぃぃぃぃっっ!!」 
「答えなさい人間。これはなぁに?」 
「・・・・・・・・・ちっ・・・・・・・・ちく・・・・・・・・・・びぃぃぃ!!!」 

「ホントお馬鹿さんね人間。・・・・・・・・・ここはちゃんと『おっぱい』と言いなさぁい」 
「―――――おっ・・・・・・・・・おっぱい・・・・・・・・あああああああ・・・・・・・・!!」 
「そうよね。で、おっぱいがどうしたの?気持ちいいの?」 
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 

 こいつが僕に何を言わせたいかなんて、とっくの昔に判っている。でも、イヤだった。男の尊厳にかけても言いたくない台詞。―――――そして、こいつが何よりも大好きなのは、人が人としてのプライドをかなぐり捨てる瞬間なのだそうだ。 
(・・・・・・・・・・・くそっ!くそっ!言うもんかっ!言ってたまるかっ!!) 
 そう思いながら僕は水銀燈を睨み返す。しかしこいつは、相変わらずのイヤらしい眼で、僕の抵抗をせせら笑う。 

「・・・・・・・・くすくす・・・・・・・・・・・まあいいわ。そういう素直じゃない人間も嫌いじゃないからね・・・・・・・・」 
 そう言いながら、その小さな手で僕のパジャマのボタンを一つずつ外してゆく。 
「もっ・・・・・・もうやめろよっ・・・・・・・いい加減にしないと、姉ちゃんに聞こえちゃうよっ」 
「あらぁ、それはまずいわねえ。――――でも大丈夫よ、あなたが声を立てなきゃいいだけの話なんだから」 
「ひはあああっっっ!!・・・・・・・・くうううう・・・・・・・・!!」 
 パジャマ越しではない、直に与えられる乳首への刺激は、さっきよりもさらに強烈だった。しかも声を立ててはいけないという意識が、その快感に拍車をかける。 
「んふふふふ・・・・・・・・・・・・・・美味しい・・・・・・・・」 

 その時だった。階段を静かに上ってくる音がしたのは。 
(おっ、お茶漬けのりっ・・・・・・・!?何でこんな時にっ?) 
「さあて、どうする人間?ドアの外のお姉ちゃんに聞こえちゃうわよ・・・・・・・!」 

 トントン、といかにもおずおずとしたノックがドアを打つ。 
「――――ジュン君、起きてる?あの、朝ご飯の時間なんだけど・・・・・・・そろそろ起きた方が、いいんじゃないかな・・・・・・・・」 

「くすくす・・・・・・・・・ああ言ってるわよ・・・・・・・・どうする?」 
「くっ・・・・・・・・くうううう・・・・・・・・!!」 
「答えてあげないのぉ?あなたのだぁい好きなお姉ちゃんなのに・・・・・・・」 

 答えるもクソも無い。食いしばってる口をあけたが最期、どんなボリュームで喘ぎ声が飛び出すか、もう僕自身にも予想がつかない。 

「・・・・・・・・ねえジュン君、つらいのは分かるけど、せめてご飯の時くらいお姉ちゃんと一緒に食べようよう・・・・・・・。お姉ちゃんだって、すっごく寂しいんだよぅ・・・・・・」 
 その切ない声に、僕は胸を締め付けられる。 

「・・・・・・・・・ふふふ・・・・・・ほんとにいい子ねえ、あなたのお姉ちゃん」 
 ――――そうだ、僕自身そう思う。僕のこれまでの人生の中で、姉ほどに純粋で、陽気で、元気で、人を和ませる女性はいなかった。だからこそつらい。そんな姉を暗く沈ませている僕自身の後ろめたさが、快感に支配されていた魂に冷水をぶっかける。 

(・・・・・・・姉ちゃん・・・・・・・・・) 
「――――あああっ!!」 
 まさしくその瞬間、僕の心が、快楽の海からポッカリ顔を出した瞬間を狙って、水銀燈は再び僕をその海に叩き込む。その黒羽の微妙な振動が、舌や指とは比較にならない刺激を僕の乳首に与えたのだ。 
「ああああああああああ!!!!!」 
「―――――ジュン君?ジュン君!?どうしたの!?ねえジュン君!?」 

「何でもないぁぁぁぁああああ!!!何でもない!何でもないから・・・・・ひいいいいい!」 
「何でもないって・・・・・・ジュン君何をしてるの!?ねえ!ねえったらっ!!?」 

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