深夜―― 
それに気が付いたのはジュンだった。 
「……? 今何か、一階から物音がしたよな……?」 
この時間起きているのは勉強をしていたジュンだけの筈。 
姉が起きた様子も無いし、人形達の鞄も全てしまっている。 
 耳を澄ませてみた。 
――何も聞こえてはこない。 
 「気のせいかな?」 
握っていたペンを置き、肩を回してコリをほぐす。 
疲れているのかもしれない。現に今日はちょっと頑張りすぎた。 
時計の短針は既に二時を過ぎている。 
 それを理解した瞬間、強烈な眠気が押し寄せてきた。 
自然と欠伸がでる。瞼が急激に重くなる。身体の至る所が睡眠を提案している。 

 もう寝ようか。 
そう思ったとき、腹部が異論を唱えた。 
 ぐ〜。 
某黄色い不思議生物の鳴き声ではない。ジュンのお腹の鳴き声だ。つまりは空腹の合図。 
夕飯をしっかり食べなかった訳じゃない。人間とはつくづく食い溜めのできない生き物なのだ。 
「……寝る前に何か腹に入れとくかな」 
台所にならつまめる物くらいはあるだろう。 
そう考えジュンは一階へ降りていった。しかし、このジュンの考えは少しばかり―― 
 「……甘かった」 
冷蔵庫の中を覗き、ジュンはポツリと呟く。 
 何も無い。 
プリンもヨーグルトもアイスもゼリーもチーズ蒲鉾も、何にも無い。 
冷蔵庫の中だけの話ではない。戸棚に在った筈のスナック類も、 
巴のお土産の苺大福(後で食べようととって置いた)も消えて無くなっていた。 
 心当たりは……無い訳が無い。 
赤いのとピンクのと緑のがジュンの脳裏を通り過ぎていく。 
「あんの不思議人形共め、一体何処にそんなキャパシティーが……おっ、何だ、あるじゃん」 
冷蔵庫の奥の奥の豆腐の後ろ。 
まるで隠されているようにプリンが一つ。ジュンはそれに手を伸ばし蓋を――。 
「……終わった」 
蓋にはマジックで“しんく”と書かれていた。御丁寧な事に“くったらもやす”とまで。 
 全滅だ。 
炊飯器も空。まさかキャベツを丸齧りにする訳にもいくまい。 
ジュンは溜息を吐き、涙が混じった牛乳で腹を満たす事にした。 

「ふう、少し落着いたかな」 
空になったグラスを置き口元を袖で拭う。 
 その時、どこかで物音がした。 
ハッキリと、決して空耳ではない。これは――物置から? 
ジュンは先程二階で物音が聞こえてきた事を思い出した。あれも気のせいではなかったのだ。 
泥棒だろうか? まさか。夜中に忍び込む泥棒なんて時代錯誤もいい所だ。 
ペットだって飼ってはいない。ネズミがでた事なんて一度もない。だとしたら……奴か。 
 「…………」 
さて、どうしたものか。 
とりあえず確かめてくるのが先決だろう。正直あまり気は進まないが、 
就寝中(あの人形にとって睡眠は大切な儀式らしい)の真紅達を起こしたくもない。 
第一、起こした所で勘違いだったら何を言われるか解ったもんじゃない。 
「しょうがないよな」 
ジュンは今日何度目かの溜息を吐き、物置に向かう。 
「さぁて、鬼が出るか蛇が出るか……(一度言ってみたかったんだよな」 
恐る恐る開けたドアの向こうにいた者は―― 

 「っ……水銀燈!!―――……だよな?」 
ジュンの予想は当たっていた。 
いや、半分当たっていたというのが正しいだろうか。 
そこには、上半身を通販グッズやらぬいぐるみやらの山に突っ込んで、 
下半身をバタバタと動かす水銀燈(推定)の姿があった。流石にこれは予想できない。 

「何やってるんだお前?」 

水銀燈(の下半分)がビクっと反応する。 
『に、人間?』 
どこか安堵が含まれているような声。 
真紅達じゃなくて良かった、といったところだろうか。実に微妙な気分だ。 
「……楽しいか?」 
『そ、そんな事よりも、早くこれをどうにかしなさい。そしたら命だけは助けてあげるわぁ』 
「つまり自分ではでられないと」 
『!!』ビクッ 
「図星か」 
 水銀燈の足は床に着いていない。 
何となく蜂蜜を食べ過ぎて穴に嵌ってしまった熊のぬいぐるみを連想させる状態だ。 
これでは踏ん張りが効かないので自力で抜け出すのは不可能だろう。 
つまり、今の水銀燈は全くの無力。それを知り、ジュンは少し強気にでることにした。 

「何が目的だ? あと、まぁ、その、どうしてそうなった?」 
『あら、お馬鹿さんね。そんなの教える必要があって?』 

相変わらずの人を小馬鹿にしたような口調。 
この状態でよくまぁそんな口をきけるものだ。 
逆に少し感心を覚えるジュン。……同時に悪戯心も湧き上がってくる。 
「そうか……どうしても言わないっていうなら――」 
水銀燈の細い足を掴み、靴を脱がせる。 
『な、何!?』 
水銀燈の声に驚きが混じる。 
「こうだ!」 
人差し指で水銀燈の足の裏を擽ってやった。 
『ちょ、ちょっと! 止め、れぇえ?! あははははは!』 
中々にいい反応。 
調子に乗ってさらに指の動きを激しくする。 
『あは、ははっ、ホント、やめっ苦しはははは!』 

 ちょっと休憩。 
「少しは吐く気になったか?」 
『ら、られがぁ……』 
「じゃ続行」 
『ひっ! あははははは! ひっ…ッあ……!! ……っっ!』 
息も絶え絶えになり(呼吸をしていればの話だが)、身体をビクビクと痙攣させる水銀燈。 
「まだ言わない?」 
『……な、何度も、ふぅ、言わせないで、ちょうだい』 
「むぅ」 
想像以上にしぶとい。こんなに耐えてまで隠したい事と一体……。 
絶対に言えない目的。これは何かありそうだ。 
自慢じゃないが、ジュンは水銀燈に殺されかけた事もある。 
あんな事は二度と御免。また何か企んでいるとすれば何としても吐かせなければ。 
(ちょっと方向性を変えてみるか) 
ジュンは掴んでいた水銀燈の足を離した。 

 『……はぁ……はぁ……』 
ある種の拷問から開放され、安堵の息を吐く水銀燈。が―― 
『ひゃぁ!?』 
新たな刺激に思わず声を上げる。 
ジュンの手の平が水銀燈の形の良いヒップを撫で上げたのだ。 
『な、何を考えているのよ人げ――ひっ!?』 
今度は鷲掴みされる。 

「解からない?」 

『〜〜〜!!』 
解ったらしい。 
今まで以上に足をバタバタと動かし、暴れる。 
そんな水銀燈の抵抗にも全く意に介さず、ジュンはお尻に手を這わせる。 
『嫌、やめっ……んっ……ふぁ、あ、んん……』 
経験した事のない未知の感覚に戸惑う水銀燈。 
視覚が完全に遮断されている為、肌は敏感になり、刺激はダイレクトに脳を叩く。 
だんだんと荒くなっていく息を飲み込み、声を漏らすまいと歯を食いしばる。 
だが、ジュンの手はそれさえも許さない。 
蛇が這うように撫で上げ、 
『……っぁ、は……』 
ねっとりと揉み解し、 
『うぅあう……』 
軽く抓る。 
『ひん!』 
継ぎ間無く送り込まれてくる刺激の奔流に翻弄されて―― 
水銀燈は今、完全にジュンの支配下におかれていた。 

 一方、ジュンはジュンで己の内から溢れ出る衝動に戸惑っていたりした。 
(やば……やめられない) 
本来の目的を通り越している事を自覚しながらも、止められない。 
漆黒の生地越しに伝わる柔らかな感触が、 
水銀燈の艶やかな反応が、ジュンの何処かを狂わせていた。 
 もっと、もっとだ。 
もっと触れたい。もっと聞きたい。もっと見たい。もっと―― 
(って、おいおい、何考えてんだよ。こいつは人形だぞ? 流石にこれ以上は人として不味い……) 

『ふぁ……ぁあ、ひぅ……』 
ジュンの手の動きに合わせるかのように、身をよじる水銀燈。 
必死に逃れようと足掻き、左右に揺れる、水銀燈の小さくて可愛いお尻。 

(……よし、覚悟完了) 
ジュンの脳内の天秤は、あっさりと劣情へ傾いた。 
さよなら、人としての尊厳。そしてこんにちは禁忌の世界。 
黒いソックスに包まれた脹脛をなぞり、 
『うん……ぁ』 
雪のように白い腿を撫上げ、 
『や……あ、あぁ……やぁ……』 
そのままドレスの裾を捲り上げる。 
『やぁあ! 嫌ぁ! 止めて、見ないで……見ないでぇ!』 

 ジュンの目に晒される、艶やかで、それでいて可憐な、漆黒のショーツ。 
美しい曲線を描く臀部。もじもじと動く内腿が隠そうとするのは、薄らと湿り、ぷっくりと膨らんだ―― 
ゴクリ、と唾液が喉を流れる音が聞こえた。心臓が不自然な脈を打った。 
脳が命令を出す前に、欲望は手を動かしていた。 
『っ! やだ! いやよぉ!』 
ジュンの手が、指が、触れる。 
ほんのりと伝わる水銀燈の体温。先程までとは比べものにならない柔らかさと滑らかさ。 
手は止まらない。もっと奥へ、お尻の割れ目をなぞるように進んでいく。 

 『ひっ』 
息を呑む水銀燈。 
閉じようとする彼女の股を割り、たどり着いた場所は恥丘。 
「……濡れてる」 
『やめ、てぇえ』 
ぷにぷにとした感触をじっくりと味わい、 
薄い布越しにハッキリと浮かび上がった割れ目をなぞる。 
『ひぁあ、ああ、うぁあ、はあぁあ』 
何度も、何度も――。部屋には湿った水温が響き始める。 
「へぇ、感じてるのか?」 
他人事のように訊ねる。言ってみてから、意地の悪い質問だと思った。 
『違っうぁ……私は、私はぁあ……感じて、なんか――ひゃああああああ!』 
言葉は、一際高い嬌声で途絶えた。 
ジュンの中指が膨れ上がった陰核に触れたのだ。 
「何が違うんだ?」 
それを指の腹で捉え、回すように転がしてやる。 
『あぁあああ! うぁあぁう! あ、あ、ぁああ!?』 
返事は無い。 
「答えろよ」 
少し強く、摘み上げる。 
『ひっひぃいいいいいいいいい!!』 
絶頂、そして絶叫。 
ガクガクと痙攣する肢体。 
音を立てて溢れ出る液体がジュンの腕を濡らしていく。 
 もう、理性の限界だった。 
「……っゴメンな!」 
一応の謝罪。それはグッバイ理性と同義語だった。 
欲望は止まらない。びしょびしょになったショーツに手をかけ一気に下ろす。 

 荒い息を立て、絶頂の余韻に浸っていた水銀燈。 
だが己の一番大切な所を冷気に晒され、理性を瞬時に取り戻した。 
『嫌ぁぁああああああ!!』 
今までで一番強い抵抗。一番の拒絶。 
相手を蹴飛ばす位の勢いで足を暴れさせる。 
水銀燈自身、何処にそんな力が残っていたのか解らなった。 

 そんな水銀燈の抵抗を疎ましく思ったのか、 
ジュンはじたばたと暴れる水銀燈の両足首をぐっと握る。そして―― 
『っ痛ぁ!』 
股を180度近く開かせた。 

 全てが晒される。隠すものは何も無い。 
毛一つ無い幼い割れ目も、小さく露出するピンクの突起も、 
排出を必要としない筈なのに存在するお尻の窄まりも、全てが、曝け出されてしまった。 
「……すごいな」 
初めて見る女のそれに目を奪われるジュン。 
『うわぁぁああ! やぁあ! 見ないで! 見るなぁ!!』 
余りの恥辱と屈辱に、遂に水銀燈の感情のキャパが限界を迎える。 
『っ殺す! 絶対に殺してやる! 絶対に、絶対に!』 
涙で端整な顔を歪め、半狂乱になり物凄い剣幕で叫ぶ(もっとも状態が状態なので、ジュンからは見えない)。 
「そっか、殺す、か。じゃ、殺される前にやるだけやっとかないと損だなw」 
水銀燈の叫びを軽く流し、つるつる割れ目に手を伸ばす。 
 くちゅ、と音がした。 
『ひあぁっいやぁ、止め、ひぐぁあ!』 
軽く触れただけなのに、水銀燈が悲鳴をあげる。なぞるだけで悶える肢体。 
サーモンピンクの陰核に指先が当たれば跳ね上がる身体。 

「さっきの威勢はどうした? もう降参する?」 
『も、もう、許して……おかしく、なっちゃう』 
「うーん、やだ」 
とうとう根負けした水銀燈の哀願を、一蹴する。 
充分に濡れているとはいえ幼くピッタリと閉じた割れ目。 
そこを割り裂き、指をゆっくりと侵入させていく。 
『ひぐっぁあ、い、いたっ、痛い!』 
「うわ……吸い付いてくる」 
ギチギチと音を立てるかのようにジュンの指を締め上げる水銀燈のそこ。 
ジュンは人差し指をどんどん沈めていく。 
『入って、く、る。痛ぁい。や、奥まで、きてる』 
人差し指が全て飲み込まれた所で一気に引き抜く。 
『ひんっ』 
指についた液を舐めとり、今度は指を二本にして挿入する。 
『やぁああ! 裂けちゃう! 裂けちゃうの! いやぁ!』 
悲鳴を無視して再度奥まで――そして、乱暴とまで言える動きで指を出し入れする。 
激しく動く指を愛液が伝い、ぽたぽたと床に落ちていく。 
『ひぐっうあっ、ふぁ、ああ、ひああ! らめ、らめえ!』 
だんだんと痛みが薄れてきたのか、悲鳴は嬌声へ代わっていく。 
水銀燈の痴態に気を良くしたジュンは、もう片方の手を次なる標的に定めた。 
 そこは、小さなアヌス。 
秘所を弄る右手を休め、呼吸に合わせ上下に動く水銀燈のお尻にキスをする。 
「前だけじゃ寂しくないか?」 
『……??』 
応答なし。意味が解らなかったらしい。 
意味が伝わるよう左手の中指を、汚れの無い窄まりに押し付けてやる。 
「ここにも、して欲しいんじゃないか?」 
『そ、そこは、違っがぁあ!?』 
中指の第一関節まで押し入れる。 
『がっ……ぁあ!? かはっ』 
続いて第二、そして第三関節とすっぽりと指を飲み込む水銀燈のアヌス。 
膣とはまた違う、締め付け。異物を押し出そうと圧力をかける感触。 
『く、るしい……。や、ぁあ、ああ、あがぁ』 
中指を第一関節まで引き抜き、また入れる。また。何度も。もっと激しく。 
「解るか? 捲りあがってるぞ、お前の穴」 
『やだぁ! 言わないでぇ、見ちゃやだぁ!』 
「こんなとこもピンクなんだな。知らなかったけど、まぁ、当然か」 
『もう、やだぁ……やだよぅ。壊れ、ちゃぅっ』 

「……壊してやるよ」 
休んでいた右手の上下運動を再開する。 
『ひぐぃいい! あ、あはぁあ! 止め、がぁあ!』 
愛液が泡立つほどのピストンで秘所を責め、指の腹を腸壁に擦り付ける様に後ろの穴を責める。 
『や! か、はぁ、ぁああ! も、らめ狂っちゃ、ひぁあ!』 
涙と涎を垂れ流し、狂ったように嬌声を上げる水銀燈。 
限界はもうすぐそこまできていた。 
『らめぇ、もう、もう、壊れる! 変に、なっちゃっはぁあ』 
「いいよ、なればいい。いっちゃえよ!」 
そう言ってジュンは一際深く指を刺しこむ。 
『かっあ、あああああああああああ!!!!!!』 
その瞬間、水銀燈のなかで何かが弾けた。 
脳天から爪先までの神経が暴走し、まるで電流が流れたかのように、身体がビクンと跳ねる。 
頭の中から全てが消え、目には火花が散っているのが見えた。 
盛大に潮を吹く秘所、痛いくらいにジュンの指を締め上げるアヌス。 
尾を引くような絶叫。脳が焼けるほどの絶頂。 
ガクンと全身から力が抜ける。 
奇妙な浮遊感を感じながら、水銀燈は意識を失った。 

 「ふう……」 
水銀燈の中から指を抜き、その場にヘタリと座り込むジュン。 
「あー……何か、疲れた。……」 
ぼーっとする頭で、どうしてこうなったかを考える。……とりあえず、もうお腹は空いてないことは解った。 

 それから数十分後―― 
「だーかーらー、悪かったって言ってるだろ」 
未だ熊のブーさん状態ですすり泣く水銀燈にジュンが声をかける。 
『ひくっう、うう、わた私、汚れちゃっ……ホントに、ジャンクになっちゃっ』 
泣き止む気配は無い。レイプに等しい行為をされたのだから当然か。 
今更ながら、ジュンの中で罪悪感が積もっていく。自己嫌悪だって階段積みだ。 
(これはもう殺されても仕方ないかな……) 
どの道、真紅達にばれても殺されるだろう。諦め混じりの溜息が自然と漏れる。 
 「とりあえず、出してやるか」 
しゃくり上げる水銀燈の腰を掴み、「よっ」と声をだして引っぱる。 
すぽん、といった感じに引っこ抜かれる水銀燈。 
ガラガラと音を立て崩れるガラクタの山。結構な質量だ。抜け出せないのも頷ける。 

「しっかしなぁ……。確かに、通販グッズも引越しさせたから山みたいになってたけど…… 
 独りでに崩れるような積み方はしてない筈なんだけどな」 
床に散らばった通販グッズや縫い包みを見ながら、そう呟くジュン。 
 そこで気がつく。 
ジュンの腕の中の水銀燈が、ぎゅっと何かを抱きしめている事に。 
「あ……お前、何持って―― 
それは――ウサギの縫い包みだった。 
「……」 
「……」 
「……ぷっ……ふ、ふふ、ははははははははは!!」 
堪えきれずに大声で笑うジュン。 
「……」 
「くく……まさかお前……こ、これをとろうとして、ああなったのか?」 
「……(耳まで真っ赤」 
正解らしい。 
つまり、水銀燈がウサギの縫い包みをとろうとした拍子に 
山積みになった不用品が崩れ、それに巻き込まれてあの状態に至った訳だ。 
「結構可愛いとこあるのな、お前も」 
「……」 
ニヤニヤと笑うジュンを、涙目で睨み付ける水銀燈。 
首だけを90度動かす人形ならではのアクション。ちょっと怖い。 
それでもいつもの冷たさは感じられず、何処か可愛らしささえも感じられた。 
「いいよ、あげるよ。それ」 
「……え?」 
「気に入ったんだろ? ……何時だったかな、僕がつくったやつなんだ」 
きょとんと、不思議そうにジュンを見つめる水銀燈。 
「……そう」 
小さく呟いた後、真っ黒な羽を伸ばし滅茶苦茶に暴れ、ジュンの腕から逃れる。 
「うわっとと」 
心なしかふらふらと、大鏡に向かって飛んでいく水銀燈。このまま帰るつもりだろうか。 
「……その……なんだ」 
去ろうとする水銀燈の背中に、ジュンが遠慮がちに声をかける。 
「何?」 
「……悪かったな。変なことして」 

暫しの間。 

「いつもなら殺してやる所だけど……今回はこの子に免じて見逃してあげる」 
振り向きもせずにそう答え、水銀燈は鏡の中に消えていった。 
 大きく安堵の溜息を吐くジュン。ふと、一つの疑問が沸きあがる。 
「そういや……何しに来たんだ? アイツ」 
その問いに答える者はいない。ジュンは自分が“眠たい”ということを思い出し、大きな欠伸を一つした。 

 エピローグ 

 「ジュン、ちょっといい?」 
真紅に声をかけられ、ジュンはペンを置いて向き直った。 
「ん? 何だよ?」 
「貴方……冷蔵庫のプリン、知ってる?」 

 冷蔵庫のプリン。 
すぐに思い当たった。あの名前が書いてあったものだ。 
「ああ、アレか。奥にあったやつだろ?」 
「そう、知っているのね」 
「てゆーか、お前等さ、もうちょっと遠慮ってものを知ったらどうだ? 
 人の家のものガバガバ食いやがって。昨日も……正確には今日だけど、食べるもの探したら何も無くて―― 
そこまででジュンの言葉は止まった。 
真紅が纏う尋常ではない負のオーラが見えたからだ。 

「あの……真紅、さん?」 
思わずさん付けで呼んでしまう。 
「ちゃーんと私の名前が書いてあったわよね?」 
静かな言葉。その言葉に籠められた抑えきれない殺気を、ジュンは肌で感じ取った。 
「え、ええ、書いてありましたとも。……それがどうかしましたか?」 
「あれはね、私のだから食べちゃ駄目よっていう意味なの」 
「はぁ……」 
「それでも解らない輩がいるかもしれないと思って、警告まで書いておいたのに……」 
ジュンの脳裏に“くったらもやす”の文字が蘇る。 
そして気付く。真紅が持っているものに。それは――ジッポーライターだった。 

「可哀想なジュン……よっぽどお腹が減っていたのね……。一時の我慢より、死を選ぶなんて……」 
カチッカチッっとライターの音を鳴らしながら近づいてくる真紅。 
「ちょ、ちょっと待て! もしかしてお前、僕が食ったとでも思ってるのかよ!?」 
「あら、他に誰がいて?」 
「チビ苺や性悪人形がいるだろ!? 大体、僕が食ったって証拠は―― 

「チビ人間〜!!」 

バァン、と音を立て、突如翠星石が乱入してくる。雛苺も一緒だ。 
「何なんだよ!? こっちは生命の危機なんだ! これ以上話をややこしく―― 
「そんなことはどうでもいいです!」 
ジュンの言葉は翠星石の怒声で遮られた。 
「よくも……よくも翠星石のポッキーを食べてくれましたですね!?」 
「ヒナのうにゅ〜もなの〜!!」 
「お、お前等もそんなこと言うのか!?」 

 なんだかジュンにとって、好ましくない流れになってきた。 
「……と、言う訳で、ジュン。民主的多数決により貴方の罪が確定したわ」 
「い異議有り! こんなの数の暴力じゃないか!」 
後ずさりし、部屋の隅へ追い詰められていくジュン。 
「まだ言い逃れしようとするですか?」 
「ヒナぜったい、ぜったい、ゆるさないの!」 
「ジュン、最後に何か言い残したいことはある?」 
目を光らせながらにじり寄る三体の人形。ここまで来ると立派なホラーだ。 

「ぼ、僕は無実だぁ〜〜!!!」 
桜田家に断末魔が響き渡る。 

 ―同時刻某病院― 

「ねえ、いっつも気になってたんだけど……んぐんぐ……このお菓子、どこから持ってきてるの?」 
黒いロングヘアーの少女に訊ねられ、窓に腰掛けていた水銀燈が小さく笑う。 
「ふふ、内緒」 
いつもより少し機嫌のいい水銀燈に少女は小首を傾げる。 
「あれ? どうしたの? それ」 
水銀燈の腕にはウサギの縫い包み。 
「ああ、これ? ……とっても、とってもお馬鹿さんからもらったの」 
「ふぅん……ねえ、見せて」 
「い・や・よ・♪」 
「……けち」 

 爽やかな風が病室に流れ込む。 
それは白いカーテンを揺らし、二人の頬を優しく撫でていく。 
「そうね……今度は私が……」 
「うん? 何か言った?」 
「……別に」 
ウサギに顔を埋める水銀燈。 
ちょっと埃臭い。だが、それもすぐ消えるだろう。 
だって、今日はこんなにいい天気なのだから。 

以上です。無駄に長々と初投下。スミマセンでした。 

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