「どうもー、ご注文のピザをお届けに来ましたー」
玄関のベルが鳴るが、人形達はジュンに出るなと言われているため動く気はなかった。
「ピザなんて注文したのは誰ですぅ?」
「私ではないわ」
翠星石と真紅は身に覚えのない注文を疑問に思ったが、とりあえず立ち去るのを待つことにした。
「とりあえず入りますよー」
「へ?何かおかしなこと言ってますよあの人間!」
予想外の行動に慌てる翠星石。
「落ち着きなさい。常識的に考えて彼は家の中にまでは入って来ないわ」
「そ、そうですね。って雛苺!」
二人の会話を他所に玄関の方へ向かう雛苺。
「戻ってきなさい雛苺!」
真紅は呼び止めようとするが、雛苺の頭の中の計量器ではピザの方が重いようだ。
「す、翠星石はどうなっても知らないですよ!」
「仕方が無いわね。このまま様子見するしかなさそうね」
自分から姿を見せるわけにもいかない真紅と翠星石は聞き耳を立てて玄関の様子を伺った。
『お嬢ちゃんお金持ってる?』
『お金?雛はどこにあるか知らないの』
『そうですか困りましたね』
『あは、このピザ美味しそうなのー』
『ちょっとお客さん、まだお金払ってないのに困りますよっと』
その時何かが壊れる音が響き渡った。
真紅達は雛苺の身に何かあったのかと慌てて玄関に乗り込んだ。
「ひ、雛苺!そんな!ひどい!」
「あ、う・・・真紅、体が動か・・・」
二人の前にはナタに串刺しにされ、動くことができない雛苺の姿があった。
そしてそのナタの持ち主はピザ屋の店員である。
「代金払えないってんで命で払ってもらいましたんで。金払う前にモノに手つけちゃ、食い逃げですよね」
「あ、あなたは一体!?」
「おっと、一体じゃまだ足りないですよ。しっかり払ってもらうから二人とも覚悟しな!」
「翠星石!逃げなさい!ここは私がなんとかするわ!」
怖くなった翠星石は急いで階段を駆け上がった。
「アホか。無駄だっつうの」
既に戦闘態勢に入っている真紅を余所目に店員は会談を登ろうとした。
「あなたの相手は私よ!」
「あぁん?うるせえカスだな」
「人間を傷つけるわけにはいかないけど、今回は例外よ」
真紅は無数の花弁を出現させ、男をそれで包みこんだ。
姿すら見えない男を見て少しの間優越感が生まれかけた真紅であったが、それも直ぐに打ち消されることになる。
花弁の中から腕が一本飛び出し、真紅の胴体を掴み上げた。
「!?」
さらにもう一本の腕が飛び出し、今度は右腕を掴まれる。
そのまま右腕に物凄い圧力がかかるのが分かった。
「や、やめて!あ、くぅ!」
そして激痛が走ったかと思うと、腕は見事に引き千切れていた。
「あぁぁぁあぁああああ!!!」
真紅の集中力が途切れると同時に花弁も床に舞い散る。
「ピザ屋だからってなめんなよコラ。これからが本番だぜガラクタ」
男のすべてを暗黒に引きずり込むかのような黒い瞳が、これから自分の身に起こる恐怖を表しているようで真紅は新底恐怖を感じるのだった。

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ピザ屋は真紅の左腕を床に押さえつけると、ポケットから鋏を取り出した。
「離しなさい!何をするつもりなの!?」
「さあね。生憎タネ明かしは俺の趣味じゃないんでな。勢いにまかせて何でもやっちまうぜ」
そう言って鋏を大きく振り上げ、押さえつけた腕の人差し指の爪の部分に突き刺した。
「きゃああぁぁぁあああ!!!」
悲鳴を上げる真紅。
「まだ終わっちゃいないっつうの」
さらにもう一本、また一本と、計五本、すべての指に鋏を突き刺した。
真紅は必死でその場から逃げようとするが、串刺しにされた指が引っかかって動くことができなかった。
「なんだこいつ、人形のくせにもぞもぞ動きやがって。潰すぞコラ!」
ピザ屋はナタで真紅の右腕に向かって振り下ろした。
「!!」
真紅は腕が千切れた反動と、自ら動こうとしたのも重なって吹っ飛ばされた。
「わ、私の手が・・・両手が・・・こんなこと嘘よ、嘘に決まってる」
あまりの衝撃に現実を受け入れられずにいる始末であった。
「どいつもこいつも自分が不利な立場に置かれるとすぐに逃げようとする。だがそんなことは許されないんだぜ」
ピザ屋は真紅を掴み上げ、だらりと俯いた顔に向かってアッパーを喰らわせた。
「目を覚ませ!」
やがて何発か食らわせているうちに放心状態だった彼女も我に返りつつあった。
気づいた時にはなぜか顔に激痛が走り、歯がボロボロになって折れていた。
そしていつの間にか流れる涙。
「一体、どうして」
途端にピザ屋は真紅を床に投げつけた。
「つまらん。もういい死ね」
「え?」
ピザ屋はどこからか巨大なハンマースレッジを持ちこみ、真紅の頭目掛けて振り下ろさんとばかりに頭の上で構えていた。
「やめて!お願いよ!」
腕は切断され、幾度と無く打ちのめされた彼女は恐怖で打ち震え動くことすらできずただ震えるばかりである。
「御託は聞き飽きた。代金分の命はもらうぜ」
そしてスレッジが振り下ろされると、真紅の頭は粉々に弾け飛んだ。
動かなくなった胴体にガソリンを振りかけライターで燃やすと今度は二階へ向かうピザ屋。
「さて、次は緑だ」

翠星石は一階で起こっている惨劇を目の当たりにすることなく、自分の主のベッドの下へ隠れてガタガタと震えていた。
やがて大きな足取りで何者かが階段を登る音が聞こえてきた。
足音は次第に近づいており、次は自分がやられるという恐怖感がより一層彼女の恐怖心を揺さぶる。
一体真紅はどうなってしまったのだろうと考えているうちにドアが開く音が聞こえた。
そしてベッドの下に光が差し込んだかと思うと、男の不吉な顔があった。
「く、来るなですぅ!」
迫り来る大きな手に向かって手当たり次第に落ちている雑誌を投げつける翠星石。
男は怯んだのか、手を引っ込めた。
「はぁはぁ・・・うぐぁ!」
威嚇することによって助かったと思った翠星石であったが、それは間違いだった。
翠星石はベッドの上からサイズで胴体を串刺しにされたのだ。
「ったく、態度の悪さは相変わらずだな」
男はベッドを起こし、串刺しにされてもがき苦しむ翠星石をまじまじと鋭い視線で観察した。
「このデュード様が直々に、しかもご丁寧にピザまで持ってきてやったってのにお前らの態度ときたら」
釘バッドを振りかぶる男。狙いは翠星石の頭である。
「万死に値するぜッ!」
勢い良く振り下ろしたバットは見事後頭部を直撃する。
「あがぁぁああああ!」
「ボールなら長打コースだなこりゃ」
さらにもう一発叩き殴る。
今度は顔面にもろに直撃した。
「今度はホームランだ」
翠星石は鼻が潰れ、左目が砕けた状態で
「く、狂ってるで・・・」
デュードは翠星石の言論になど聞く耳を持たず、ただ只管顔面をバットで殴り続けた。
「も、もうやめるです・・・あぐ!」
「さっきまでいろいろとやってたからな。気分がハイになってんだ。そらっ!」
極めつけにバッドを口にねじ込む。
既に両目とも眼球は潰され、鼻や頬はでこぼこだらけになっていた。
ねじ込まれたバットは顎を砕き、歯もすべてへし折った。
「あ゛がぁ・・・・ふひゅ」
「つまらねえ。何とか言ったらどうなんだこのカス!」
デュードは翠星石、といっても先程のまでの面影など微塵もないが、からバットを引き抜き、再び叩き殴った。
「本当につまんねえけど、もう終わりか。情けねえ」
ガソリンを振りかけ、ライターで放火する。
翠星石は勢いよく燃え上がり、真っ赤な炎に包まれた。
そして彼が部屋を出ようとした時、
「あ゛づいでずぅ゛ぅ゛ぅ゛!!!」
炎に包まれた案山子のようなボロ人形が悲鳴を上げて苦しむ姿が見えた。
「そうそう、忘れるとこだった。代金分はしっかり頂いたからピザはくれてやる。
デュードは正方形のピザの入ったケースを翠星石に向かって投げつけた。
それは厚みのある、チーズとベーコンがたっぷり乗っかった本物のピザだった。

The End

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