タイトル『そしてカナリアは「かしら」と鳴く』
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『カ、カナちゃん・・・・』
『・・・どうする〜?カナリアーン・・・』

そのCMはまさに空前絶後のハイパワーCMでした。
つぶらで、涙に潤んだ目。そんな目をしたカナに上目遣いをされたら、
きっとだれだってイチコロ。
CM自体は消費者金融のちょっとばっかりいかがわしいものでしたが、
みんな、その魅力に撃沈していきました。

そうなると後は日本人の悪いところで、かしらショップには
もう、連日おびただしいほどの人が集まって、我先に、我先に、って
カナを買い取っていくのです!
そのうち「50万でも買うよ」って人も現れる始末で、瞬く間に
カナの価値は爆裂しました。一年前、CMが流れる前から比べると
実に50倍もの値段になってしまいました。

ここにひとりのカナがいます。
顔立ちもとっても整っていて、髪の質も十分。
コサージュだって、薄汚れのひとつだってありません。
120万で、一人のシロガネーゼに買われた、このカナは、
本当に何一つ不自由のない生活を送っていました。
お洋服はクローゼットの端から端まで、実に1kmに及ぶほどありましたし、
ご飯は毎日、一流シェフの作るカナまんまご飯。
そして、一日20回にも及ぶセレブの為の高級まさちゅーせっちゅ。
よりエレガントに、より貴婦人らしくなるカナ。窓の外から眺める下界には
数多くの、野良メイデンたちがいましたが、そんなことどうでもいいのです。
今の生活が変わることなんて、玉子焼きにお塩を入れるくらい、まずないのですから。

しかし、晴天の霹靂というか、既に天候は崩れ始めていたというか、そのすばらしい生活は
以外にあっけなく破局を迎えることとなるのです。
カナをCMに起用していた会社が倒産しました。普通に倒産するならまだいいのですが、
倒産理由がとんでもなくて、とてもここではかけません。詳しい理由はグーグルで検索でもすればいいと思います。
こうなると、もう大変!カナを飼っていたお金持ちはイメージダウンを恐れて、
カナを捨てたのです!
『あらまぁ、奥様。あそこの奥さんまだカナかっているそうね』
『ええ、まさかあんな事件があったというのに、まだ飼ってるなんて・・・ヒソヒソ・・・・』
こんな風に言われたら、シロガネーゼの沽券にかかわりますから
カナは、大雨の夜の日に捨てられました、本当に着の身着のまま。
悲しいかな、それはこのカナがお金持ちのカナであったという、とてもちっぽけな証明でもありました。

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突然セレブカナから、野良カナになってしまったカナ。
でも生きるためには、ご飯を探して、寝るところを探して、生活をしなくてはなりません。
昔、窓から見た下界は本当に薄汚れていて、悪意に満ちていました。
今カナは悪意に包まれています、どうしようもないほどの悪意に。

野良ローゼンたちは、セレブであったカナに意地悪をします。
セレブであったカナが食べかけで、質のいいお砂糖入り卵焼きを見つけても、
脅して、そしてラクしてズルて奪い取るのです。
何故このカナにそんなことをするのか、理由などありません。ただ世間が憎いだけなのです。

カナは公園で一人たたずみます。このセレブお洋服を売って、しばらくの玉子焼き代にしましょうか。
いえ、ダメです。これは唯一カナがセレブカナであった証拠。これをうっぱらってしまったら、
もはや、カナはすべてを失うのです。
今にも消え入りそうな街灯の下、カナはおなかが減って、その場でうずくまっていました。
ああ、あの電球にたかっているムシが全部玉子焼きだったらどんなに素敵かしらーって、
夢想ばっかりしているのです。

そんなカナの目の前に一人の野良メイデンが現れました。
「だわぁ、ねぇ、よぉ」
第一ドールの野良メイデン。野良ぎんとうです。

「だわぁ、だわ、よぉー」
若干ドールの種類が違うので、会話は難しいと思われましたが大丈夫。
カナは“元”セレブカナですから少しの語学力はあるのです。
二人の会話は大分長い間続きました。
ようやくするとこうです。
「私には、とても思っている人がいるのよ、でもその人は病気で、だけど誕生日は近くて、
 でも、私はお金なんかもってなくて、だけどなんか買ってあげたくて、だから手伝って欲しいのよぉ(カナ翻訳)」
ちょっとばっかしカナの翻訳がへたくそなので、否定詞ばっかりならんでますけど、
つまりは、カナに何かを手伝って欲しいとのことなんです。
手伝えば、ご飯をあげるとも言ってくれました。
カナは二つ返事をします。だって、こんなこと言ってくれる野良メイデンなんて絶対他にはいません。
これはまたとないチャンスなのです。

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カナのお仕事は思ったより難しいことではないようです。
まず、野良ぎんとうが入っていったお店の前で待っていて、お店の人からお金を受け取り、
それを使ってケーキを買う。あとはそのケーキを野良ぎんとうが指定したところに持っていくだけなのです。
これでご飯を食べれるというのならとっても安いものです。
「よぉー」
お店に入る前、野良ぎんとうさんは、羽を逆立てて、カナにあいさつします、
“行ってきます”といっているつもりなのでしょうか。
そして、10分がたち20分がたち、30分が立ちました。
いつまでたっても、のらぎんとうさんは中から出てきません。
もしかして、だまされたかしら?カナの心の中に一瞬疑心が浮かびます。
そんなうまい話ある分けないのです。こんなんでご飯が食べられれば、
世の中の野良メイデンたちはみんな裕福に暮らしているはずなのです。

しかし、そんなカナの暗い気持ちを吹き飛ばすように、中から男の人が現れました。
野良ぎんとうが言うように、片手に、お金を持っています。
あと反対の手には骨まで切れるような鋭利な骨切り包丁。
エプロンにはところどころ、黒い羽がついています、あたらしいオシャレでしょうか?
 あの野良ぎんとうはうそつきなんかではありませんでいた、本当のことしか言わなかったのです。
「おお、綺麗な毛並みの美しいカナだな。話しは聞いてるよ。ごくろうさん」
そういって、カナに数千円のお札を渡します。あとは、このお札をもって、
ケーキ屋さんに行き、そいでもって野良ぎんとうが指定した病院に届けるだけ、
とっても楽勝かしらーではありませんか。
るんるん気分で、カナは町を歩きます。

カナがこの店の正体を知っていたら、とっても悲しんだことでしょう。
悲しくて立ち上がれなくなっていたかもしれません。
だけど、このカナはセレブカナ。お店の正体なぞ知る由もないのです。
今も、そしてこれからも。

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カナはケーキを買いました。とても大きなケーキで。真ん中には「めぐちゃんおめでとう〜のらぎんより〜」とチョコレートで
入れてもらいました、これも野良ぎんとうのしじでした。
あとは、ただひたすら病院を目指すだけ、とっても簡単なことではありませんか!

スキップをして野良ぎんとうの言っていたびょうしつに入ります。
おとどけものかしらーと言った風貌でがんばるカナです。

そこには一人の女の子がいます。
きっとこの子がめぐちゃんに違いありません。
「あら、すてきなたっきゅうびんだこと」
めぐちゃんは、ベットから起き上がると、カナの頭を軽くなでてくれました。

カナは、野良ぎんとうから頼まれたケーキをめぐちゃんに渡します。
箱を開けたときのめぐちゃんの表情といったらありません!
顔をぐじゅぐじゅにして泣いて、大喜びをしていました。
そしてカナに、「あの野良ぎんちゃんにも御礼をいっておいてね」と伝えます。

この姿、あの野良ぎんとうにも見せてやりたいものです。
絶対喜ぶはずです、こんなめぐちゃんの姿を見ればきっととびついて抱きしめてしまうほどかも。

いえ、いました、野良ぎんとうはいたのです。めぐちゃんの横、ぴったりとくっつく形でいるのです。
カナは目をぐしゅぐしゅとこすります、さっきまでは確かにいなかったはずなのに、
今ここに野良ぎんとうさんはいるのです。

野良ぎんとうは、とても安らかな表情で、めぐちゃんの体に手を回しだきつきます。
でもめぐちゃんは表情ひとつ変えません、微動だにしないのです。
それでも、野良ぎんとうさんは満足そうでした。そして、このめぐちゃんの
お誕生日会に出席できたことをとても喜んでいるようなのです。

そして野良ぎんとうは、声をも出さずに、口の動きだけで、カナにお礼を言います。
カナもそれに答えるように「かしら」と鳴きました。

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