ジュンの家で珍しく双子の姉妹が喧嘩をしていた。
蒼星石は盆栽に凝っていた。何故ならおじじに盆栽を仕込まれてしまったからだった。
誰が何と言おうと仕込まれてしまったのだ。
翠星石は盆栽が嫌いだった。
何故なら植物は太陽の下でのびやかに育てるべきというポリシーを持っていたからだ。
誰が何と言おうと持っていたのだ。
「蒼星石、そんなじじむさい趣味止めるです」
「何を言うんだ、盆栽は芸術だよ。この気品漂う姿を見てよ、惚れ惚れするじゃないか」
「そんなに木を苛めちゃ可愛そうです、樹木はもっと自然に育てるべきです」
「ちがうよ、木の個性を見極めて伸ばしてるんじゃないか、無暗やたらにカットしたり矯正してる訳じゃないんだよ」
そんな平行線の話し合いがエスカレートして、もはや肉体言語で語る一歩手前に達していた。
「翠星石の分からず屋!」
「翠星石が分からず屋なら、蒼星石はスカポンタンです!(小原乃梨子)」
「ただいまー」
そこにジュンが帰ってきた。
雛苺と一緒に部屋に入ると、双子が喧嘩してるのでそのまま下へ降りようとしたのだが、
両腕をがっしりと捕まれて床に座らされた。
「ジュン君、君なら盆栽の美しさが解るだろ?日本人だものね」
「ちび人間は翠星石の味方ですぅ、マスターですから当然ですぅ」
返答次第では只では済まない。いっきにピンチに陥るジュン。
「ふ…ふふふふ…君達は間違っている」
ジュンが不敵な笑いを浮かべた。ピンチがチャンスと紙一重という証明が始まる。
「何が間違いですか」「何が間違いなのさ」
「盆栽?自然に育てる?チッチッチ!そんなのは世間じゃぁ〜2番目だぜ」
「なにぃ、じゃぁジュン君は何が一番だって言うんだよ!」
「僕はヒッキ―時代に確信したのさ、人の心を癒すのは自然の草木じゃない、
ましてや人工的な芸術でもない、真に人を癒す植物、そ れ は!」
「そ、それは!?」「何なのです!?」
「そ れ は〜!サボテンなのさ!!!」
「・…サボ」「・…テン」
いっきにテンションが下がる双子の姉妹。
「そうさ、サボテンは僕を裏切らない、サボテンこそが僕の心の友達さっ!」
「うわっ、暗っ!」
「チビ人間!サボテンなんて不健康な友達は棄てるですよ!」
「何を言うか、人と心を通わせる唯一の植物こそ、サボテンじゃないか!
な、雛苺だってサボテン好きだよな?」
「うん、ひなサボテンだいしゅき〜」
その手には苺大福が握らされている。
「これで2対1対1だぜ、僕が正しいって証明されたようなもんだ」
「あー、買収なんてズルです、ズル!」
「そうだよ、あんな何考えてるか解らない植物なんて僕は認めない!」
「ならば見せてやる、サボテンの真の美しさを!
みよ、このオードリー(サボテン)の丸っこいスベスベした完璧な姿を!」
と、啖呵を切って持ち出したジュンのサボテンは、
見事なまでにクレヨンで落書きされ、しかも何故か頂上には豆電球が取り付けられていた。
もはやそれはサボテンではなく、へたくそな顔をしたガチャピンと変わり果て、その目の所には釘が刺してあるのだった。
「ああ〜〜〜〜!!僕のオードリーがぁぁぁ!!!」
「ぶははははははははははは!!!!」
「あははははははははははは!!!!」
双子の姉妹は笑い転げている。
「ひーなーいーちーごぉぉぉぉ!!!」
血の涙を流しながらジュンは雛苺を追い詰める。
危機を悟った雛苺は最期の弁解を試みる。
「でもでも、こうして釘のところをクリップで繋ぐと面白いの〜ほらほらジュン、見るのっ」
ガチャピンの目に刺さった釘を繋げる雛苺。頂上の電球がチカチカ点滅した。
「………」
「あの…ジュン?」
「雛苺…これ、自分で考えたのか?」
「ううん、この前金糸雀に教えてもらったの〜」
無邪気に微笑む雛苺。
こうしてスマキにされた雛苺は、近所の川から海に流れていった。
これがこの組織のやり方である。
つづく…かな?