僕は桜田ジュン、十七歳だ。
中学受験の時と同じように高校受験にも落ちて、引きこもってるヒッキーだ。
のりは部活や友達やなんやかんやで家に帰ってくるのは遅いので、
基本的には一人という僕にとっては最高のシュチュエーションだ。
毎日やっているネット通販での遊びは僕の、僕の一番の楽しみで、
毎日、毎日それで充実した日常生活を味わっていた。
あいつらが、あいつらが押しかけてくるまでは・・・
ある日のことだった。
ブウン、ウンウウウウゥン、キキー。珍しく家の側に車が止まったらしい。それも数台。
「あっちょっとお客さん、お客さん!」
運転手の声が聞こえる。タクシーか。
「うるさい下僕ね、少し黙っていなさい。」
「そうですぅ。すこしだまりやがれですぅ。」
女性のものらしい高い声も2種類聞こえる。・・・・え?マジかよ
この家に女性が?ハウスキーパーでも来たのか?のりの友達か?
「やっと着いたわぁ。車の中狭いし揺れるし、とっても苦しかったわぁ。」
気品に満ち溢れた声が聞こえる。3人目もいたのか。・・・さんにん?
「そうなのかしらー。水銀燈の羽、とっても邪魔だったのかしらー。」
子供っぽい声もする。4人目だ。・・・よにん?
「黙りなさぁい、金糸雀。さもないとあなたをボコボコにしちゃうわよぅ?」
「そ、それだけはやめてなのかしらー!」
新たな声がまた聞こえてくる
「水銀燈、そのへんにしなよ。」
少しボーイッシュな声。いや、今のところの唯一の男か?・・・ごにん?
「雛疲れたのー。」
子供の幼そうな声。子供?家族連れか?・・・・・ろくにん?
「お腹、減った。」
かすれた小さな声。聞き逃してしまいそうになった。
ここで僕は思考をめぐらせる。何故だ、何故よりによってうちに来る?
見た限り、この家が目標のようだ。
「いくわよ・・・。」
はじめに聞こえた声。少し緊迫した感じだった。
『ピンポーン』、無視。『ピンポーン』無視。『ピンポーン、ピンポーン』
ひたすら無視する。
無視だ無私だ無視だ。僕の直感がそういっている。否、そうさせている。
「・・・・・」
呼び鈴攻撃も止んだらしく、留守ならおとなしく帰るだろうと思い、安堵する。しかし、
『ダンダンダン!!!!』
何ィー!ドアまで侵攻してきたのか!しかし僕の要塞の門はそんな攻撃では開かない。
『ダンダンダンダン!!!!!!』さらに強くなる、まだまだ。
『ドンドンドンドンドドドンドン』ドンまでいったか。なかなかやるな。
「いるのでしょう!開けなさい!出てきなさい!」
少々ヒスっぽい声がする。ふっそんな口撃でみすみす出て行く僕じゃないぜ。
『ドンドンドンドっパリンン!!!!』
ん?僕は青ざめた。まさか、まさか、やりやがったな、やったな
割れたな、あの音は・・・
「これ以上割られてたまるか!」
すぐに椅子から立ち、部屋を出て、階段を降り、玄関へまっしぐら。
新記録だ!おそらく人生中最速であろう。
「人の家のドアに何やってんだよ!」
そこには赤いドレスを着た少女が立っていた。
「あら、いるんじゃない。最初から素直に出てきてくればよかったのよ。」
銀髪の娘が「そうよねぇ。」
黄色の服を着た幼女が「そうなのかしらー!」
緑のドレスとオッドアイも「そおですぅ。その無視虫がすべてわるいですぅ。」
青い服のオッドアイが「どっちもどっちだと僕は思うけど・・・」
ピンクの服着た幼女も「みんなにさんせーなの!」
薄紫の服着た眼帯少女も「そいつが、悪い・・・。」
そんな反論は聞き流し、
「割ったのはお前だろ!割れるほど強く叩くんじゃない!」
「原因は?」
タクシー運転手含め、その場の全員の視線が僕に注がれる。
「ほら、やっぱりあなたじゃない。」
「納得いかねー!!!!!」
僕はようやくここで本題に気づく。
「何しに来たんだ?」
「もちろん、あなたに買われたからよ、というより不本意だけど、もらわれた、と
いいましょうか。」
自分のここ一週間、それ以前の記憶をたどる。あった確かに記憶に凛と残っている。
『かわいいい七人の薔薇乙女があなたの家に!無料!(限定1セット限りです。)』
「ははははは何だよコレ!無料だし、買いだな!」
そして、『購入(引き取り)』のアイコンをクリックした。コイツラがそうだというのか。
「あ・あ・・あ」
「いまさら言い訳したって無駄よぅ。もうあなたは私たちと『契約』したことになってるのよぅ」
銀髪の彼女の一言は錯乱状態の僕にうってつけ追い討ちの言葉だった。
「い、い、いやだああああああああ!!!!」
二階に猛スピードで逃げようとする、が、
『ガシガシッ!』
「オウノーーーーー!!」
見事に銀髪と、赤ドレスの二人につかまれた
「逃がさないわよ。」「にがさないわよぅ。」
凄みの聞いた声が僕を恐怖で縛り付ける。
「あ、あう・・・・」(ガタガタガクガクブルブル)
恐怖で足が動かない。
「背丈どころか肝っ玉までもがプチですねぇ」
緑のドレスを着たオッドアイ娘が寄ってくる。怖い、今の僕にはコワ過ぎるものだ。
「く、くるなああああああ。」
『ひゅうン、ピシ!』 いい音が僕のほっぺからした。
どうやら緑のオッドアイ娘が放ったものらしい。
「つう、いってなああこの野郎、何すんだ!!離せ、離せよ!」
「翠星石を化け物扱いしたばつですぅ!」
「なんだとこの野郎、
ひゅ、ぱん!ひゅぱん! 2発、往復びんたか・・・痛い
「誰が野郎です。ふん!」
「このてめえ、
翠星石とか言うやつにとっかかろうとした所にまた邪魔が入る。
「もうやめなよ、二人とも。」
青い服着た翠星石と同じオッドアイの・・・女の子?が仲裁に入る。
「こんにちは。初めてお会いしたのに姉妹が無礼を働いてすいません。」
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「僕は蒼星石といいます。こちらが真紅。こっちが水銀燈。それと、
向こうの黄色い服着ているのが、金糸雀。ピンクの服が、雛苺。薄紫の服が薔薇水晶です。」
いきなり言われても、覚えれるわけがない。
「真紅、水銀燈、もう離してあげたら?」
「あなたがそう言うのなら・・・。」
「しょうがないわねぇ。」
僕はやっと解放された。強く掴まれていたため、肩が痛い。ほっぺも痛い。
僕がほっぺをさすっているとき、不意に蒼星石とかいうのが、
「立ち話もなんですから。」
といって僕の家に勝手に侵入し始めた。他の姉妹?も後に続く。無論許すわけがない。
「おいちょっと待てよ、人の家に勝手に・・・うっ。」
真紅の鋭いにらみで、反論を止められてしまう。
姉妹?達が家に入っていくのをただ見ることしか出来ない僕に、
「あのー、すいません。」
タクシー運転手が話しかけてきた。
「運賃のほうの支払いを・・・。」
運賃の額を聞くと、僕は耳を疑った。
「3万四千二百三十円!!!?無茶苦茶だ!!」
「そういわれましても、先程、お客さんのほうから運賃はあなたにと・・」
一応、お金の置いてある場所は知ってるが、納得いくわけがない。
「ちょ、ちょっと待ってろ!」
急いで家に入り、リビングへ向かい、勝手に入って、くつろいでいる侵略者どもに尋ねる。
「おまえら、金は持ってないのか!!!?」
返事は予想どうり、
「あら持ってるわけないじゃない。それに、輸送量は購入者負担になってるわよ?」
規約なんていちいち読むわけがない。遊びでやっているのだから。
「心配しなくても、タクシー代以外はいらないわ。密入国したから。」
犯罪にまで平気で手を染めるのかよコイツラは。
「なら警察を呼んでやる!」
「させると思う?」
「させるわけないわよぉ。ねえ?」
「かしらー!」
「あったりまえです!」
「さすがにそれはいやだね。」
「なのなのー!」
「絶対に、させない。」
背筋から血の気が引いた。
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だめだ、勝ち目はもうない。嗚呼神よ、ついに僕を見放したか。
「ほら、さっさと払ってきなさい。」
「ささっと済ませれないのですか?このノロマ。」
ソファーにころがりながら命令してくる。なんて屈辱だ。
もう抵抗は無駄だろう。そのうち殺されるかもしれないので仕方なく払うことにする。
「はあ。」
リビングの戸棚に隠してある封筒を出してきて、諭吉を四人、引っ張り出す。
「クソ、何でこんな・・・」
外で待っている運転手二人に諭吉を渡す。
「どうもありがとうございましたー。」
代金を受け取り、にこにこしながら去っていく。
「姉ちゃんになんて言われるか・・」
正直、いつも口で命令しているが、のりは怒ると最高におっかない。
想像しただけでも、背筋に悪寒が走る。
「アイツラのことも何て言われるか・・・」
追い出すということはないだろうが、やはり不安だ。なんせ、諭吉を一日で四人使ったのだから、不安にならないわけがない。
「はあ。」
ため息をつきながら家に入り、牛乳を飲もうと騒がしいリビングに入ると、
「うわああああ!何やってんだよお前ら!」
そこには、食べ散らかした、菓子類のくずやら、ごみやらがそこら中にあった。
「見て分からないですか?おやつの時間ですよ。」
「早くお茶を出しなさい。」
「このうにゅー、とってもおいしーの!」
「このヤクルトっていうの?癖になりそう。もっとないのぉ?」
「み、みんなちゃんと断ってから食べようよ。」
ん?あとふたり足りないな。そう思い、ふとキッチンのほうに目をやると、
「げっ・・・」
『がさがさむしゃむしゃもぐもぐ』 『かちゃかちゃ』
見れば、冷蔵庫が荒らされている。調理道具入りの棚も荒らされている。
「な、なな何やってんだ!」
薄紫の服を着た、薔薇水晶?が冷蔵庫あさりをやめ、こちらに振り向き、答える。
「おなか、すいたから・・・。」
次に、何か調理している黄色の服を着た金糸雀?が答える。
「甘ーい卵焼きを作ってるのかしら!」
これにはもう、ジュンは耐えかねた。
「お、お前ら、出てけー!!!」
ジュンは薔薇姉妹に向けて叫んだが、
「「「「「「「それは無理」」」」」」」
薔薇姉妹たちよる一斉の返答に、ジュンは言葉を失った。
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それから数分、桜田家のリビングは騒がしかった。
「だから、食うのをやめろといってるんだ!」
抵抗されながらも必死に止めようとするジュン
「み、みんなジュン君の言うとおりにしようよ。」
蒼星石も援護する。
「ハラが減ったら食う!本能に従って何が悪いのですか?」
その言葉を聞き、ジュンが反論しようとしたところ、
「翠星石!皆ももうやめなよ!ジュン君だって困ってるじゃないか!」
と怒声が聞こえた。怒声を発したのはジュンではなく、蒼星石だった。
翠星石はいつもとは違う雰囲気を放つ蒼星石に押されたのか、
「うう…そ、蒼星石がそこまで言うなら仕方ないです・・・」
と言って黙り込んだ。他の姉妹たちも、口々に
「「そ、そうね。」」
「ご、ごめんなさいなのー」
「ちょ、ちょっと待ってかしら〜、卵焼きがこげちゃうのかしら〜。」
「・・・・」
と同意していった。普段はおとなしい蒼星石が怒ったので、姉妹たちは押されていた。
「まったくもう、好き勝手するにも程があるよ。まるで迷惑かけに来たみたいじゃないか。」
(こいつ、結構すごいやつだったんだ)
静かだ。これがいつもの空間。ああ、なんて静かなんだ。
「真紅!」
名前を呼ばれたが、真紅は引け腰だ。少しスカッとする。
「な、何?蒼星石。」
「扉のガラス、割ったままだよね、ジュン君と一緒に片付けなよ。」
な、何でこいつと一緒ににしなきゃならないんだ。僕は反論する。
「何で僕が・・・」
蒼星石がこちらに振り向いた。今の蒼星石は怖い。そう感じさせるオーラが回りにあるようだ。
「ジュン君にも少しからず責任はあるよ。居留守使ってたんだし。」
「わ、わかったよ」
しぶしぶ返事をした。
「翠星石、雛苺、僕も手伝うから、部屋のかたづけを・・・こら翠星石!逃げるんじゃない!」
「わ、わかったですぅ。」
逃げる翠星石を引き止めた。あの緑を・・・蒼星石、もっとも怒らせたくないうちの一人だ。
「水銀燈、薔薇水晶、冷蔵庫を片付けて。」
「い、いいわようぅ」
「はい。」
残りの一人に向き直る。やっぱりオーラが出ている。
「金糸雀、後片付けは最後まできちんとやるんだよ。」
「は、はいなのかしら〜!」
全員に注意し、掃除を言い渡した蒼星石に僕は感謝している。
「じゃあ皆始めて。」