!【 Alice 9 】

「だめなのぉ〜! もっとお口ちゃんと開けて、ジュンー♪」
「いいって! やめろって雛いち むぐ!」

……今 僕は、生まれてこの方感じた事が無い恥ずかしめを受けているっっ!!

じょ!冗談じゃない!そんなこと恥ずかしくて出来るか!
おままごとじゃないんだぞッ!何で僕が赤ん坊みたいに『 あ〜〜ん? 』とかしなくちゃならないんだっ!
いいからもう下に行って真紅や姉ちゃん達と遊んでろ!

そう言ってやろうと思う間も無く、じゃれつく子猫の様な素早さで僕の手からレンゲを奪い、
土鍋の雑炊を一すくいして、否定しようとした僕の口に『 カポッ! 』と入れてきた。

「は! はひぃ、はふはふいい〜!」(※あ! あちぃ、あつあついい〜!)
「あにゃー!? ご、ごめんなさいなのぉ〜!(アセアセっ!)」

ベッドに座った僕の膝の上に股座りをした雛苺が、熱さで涙を滲ませた僕の訴えにうろたえ始めた。
口を押さえ片目をつぶって、何とか飲み込みながら、雛苺に大丈夫と片手を振ってやる。
雛苺も悪いと思ってくれたのか、瞳を潤ませて
「あ、あの、その…ごめんなさいのぅ....ヒナ...ヒナ....」
なんて言ってくる。
その目はやめてくれ…こっちが悪い事したみたいになるじゃないか。

「…いいよ。ありがと、雛苺」
「ジュン〜…」

( あああ....頼むからその潤んだ瞳と、子猫みたいな顔するのやめてくれ… )
( 後、膝の上で動かないでくれ… )

そんな何とも もどかしい気持ちをどうにかしようと、雛苺から目をそらそうとした時だった。
雛苺がレンゲを持ってない方の手で、僕の服をそっと…
小さな....だけど意思のある、柔らかい握り方でそっと掴んできた。

「ヒナね… ジュンがずっと起きなかったらどうしよう、どうしようって....思ってたの。
 翠星石もね、真紅もね....心配してたの。…ジュンのこと」
「雛苺…」

「…でも、ジュンは起きてくれたわ。ヒナ達の声....きっとジュンが聞いてくれたから、ジュンは起きてくれたの」
「あ……」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

…… ……  … ……

......声が...きこえる..... だ れ....?

・・・・

・・・

・・

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「目がさめた時、だれもいないのは...とっても悲しいの。……でも、ジュンにはヒナ達がいつもそばにいるの。
 ヒナはジュンといっしょにいたいから....だから、ジュンが起きてくれて...とってもうれしかったのよ。
 だからね....早くいつもみたいになって欲しいから、のりが作ってくれたごはん....食べさせてあげたかったの....」

「・・・・・・」

それだけ言って、雛苺は小さく微笑んでうつむいてしまった。
僕の服は握られたままだったけど....さっきより強く....まるで僕から離れないように、握っている。
そんな雛苺を僕は....抱きしめたい気持ちで一杯だった。

人形なのに、それが動いたりしゃべったり、物を食べたり、どう考えたって異様な存在なのに…
なんで、なんでこんな気持ちになるんだ…

「…!? ジュン?」

僕は、雛苺の柔らかい、カールのかかった綺麗な金色の頭髪に手をやって
「さ、冷めるだろ....早く食べたいんだよ…」
雛苺から目をそらしながら、ちょっとつっけんどんに食事の催促をしてやった。
顔が赤くなるのが自分でも判るし、目の端に涙をにじませた雛苺の視線も感じる。

「……食べさせて くれるんだろ?」

照れくさかったけど、僕は少しだけ視線を合わせてそう言った。

ああ....今僕の顔はきっと微笑んでるんだろうな…
こんなの僕じゃない…僕じゃない…  けど…

「  うんっ! なのぉ〜!♪  」

けど、こんな僕も悪くないって思える。

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!【 Alice 10 】

妹が居ればいいな、なんて思ったことなんかなかったし、
居てもどうせ うっとおしいだけで、僕に負担がかかるだけじゃないか。

雛苺が僕達と暮らし始めなかったら、ずっとそんな風にしか考えなかったと思う。

それがどうだろう…

人間なんて勝手なものだから、自分の都合のいいように物事を捉えてしまいがちになる。
だけど、それが自分に素直な思いを運んでくれるのなら、都合がいいと言われても...
その捉え方を変えても、いいんじゃないのかなって、思えるようになった。
だって....今の僕が.....そうだから。

こんなに心があったかくなって、素直に言う事を聞いてやれるなんて、前の僕なら絶対に無かったんだから。

「はい、ジュン〜♪」

本当に嬉しそうな愛らしい笑顔と、純粋な心で僕の目を見つめてくる女の子が、
本当の妹じゃないとしても、人としての命じゃないものだとしても....
女の子の姿をした人形だとしても....今の僕には関係が無い。

こんなこと、よく図々しく言えるもんだな僕も....姉ちゃんに会わせる顔がないよ。

「うにゅ? どぉしたのぉジュン、笑ったりして? なにかおかしい事があった?」
「いやぁ....何でもない」

「じゃあはい、あ〜....あ!」
「? どうした雛苺?」
「フーフーするの忘れてたのっ♪」
「え?!」

さっきの事があるからだろうけど....
いや、あのな雛苺....僕の顔の前でそんなことするなよ....

「フゥ〜… フゥ〜…」

雛苺のふわっとした髪の甘い香りが僕の鼻腔をくすぐり、
小さなつぼみのような唇から出る雛苺の吐息が、僕の顔にかかってきた。
しかもどういう訳か、目をつむって、優しく冷ましてくれてる。
うすく桃色に染まった雛苺の、頬と唇がとても綺麗で....

普段の幼い顔とは違う、小さな女の子が見せる母性の顔だ……

いやだから! こいつらは人形だって! 何で意識しなくちゃならないんだって! なんだよこれ! 新しいガマン大会?!
って言うか今日の僕はおかしい! どう考えたって変だ! なんでこんなに翠星石や雛苺の事でドキドキするんだよ!

                    あああああああああ……もうっ!

僕は最低だ。もう一人僕がいたら、きっと今の僕の考えを感じて張り倒してるよ…

「もういいのぉ〜♪ おまたせージュン〜♪ はい、あ〜〜ん{{include_html html, "!hearts"}}」

だけどそんな僕の邪(よこしま)な考えは、
雛苺の嬉しそうに弾んだ声で、あっという間に掻き消されてしまった。

「あ、あ〜〜ん…(赤)」(もぐもぐ....)
「…おいしい?」
「う、うん」
「よかったのー〜!じゃあ次ー〜♪」

端から見たら、まるでおままごとそのものなんだろうけど…
小さな時に母さんに食べさせてもらった時を思い出して、僕は素直に嬉しく思えた。

いつもなら『 ヒナもヒナもぉ〜〜〜!! 』と欲しがるだろうに、
そんな事も忘れて、小さな手で甲斐甲斐しく僕の口に雑炊を運んでくれる。
姉ちゃんが気持ちを込めて作ってくれた雑炊の味は、雛苺の気持ちがプラスされて…
本当に美味しく感じ、あっという間に無くなろうとしていた。

「ジュン いっぱい食べたのぉ〜! もうこれで終わりなのよ♪」

グゥ〜〜〜…

「んょ?」 「え?」

雛苺のおなかの虫が、主人である雛苺の意思とは関係なく『 おなかへったのよぉ〜 』と鳴き声をあげた…
しかし....どういう構造してるんだ....おなかの虫まで鳴るって。

僕と雛苺は、雛苺自身のおなかを見て、そして目を合わせる。
雛苺が凄く恥ずかしそうに、すごく愛らしく、ふにゃっとした笑顔で
「え、えへへぇ.....いっぱい のりのごはん食べたのに、変なのぉ....(赤〜)」
上目遣いに僕を申し訳なく見つめてきた。
自然と顔がほころんでくるのが自分でも判る。
自分らしくも無いと思いながらも、僕が雛苺に言ってやるセリフは、もう決まっていた。

「もう 一口分しかないけど、食べるか?」
「うんっ!♪」

僕の食べ残しを食べさせるみたいでちょっとあれだけど、それでも喜んでくれている。

「じゃあちょっと待ってろ、ティッシュでレンゲ拭くから」
「いいの!」
「え!いやだけど」
「ジュン....食べさせて....くれる?」
「えぇ!?」

僕の両膝に股座りをしてる雛苺が、その両手の平を僕の太ももにつけて僕を見上げ、
喉を鳴らす子猫のような瞳で見つめながら、そんな事を言ってくるもんだから
思わずドキッとしたけれど....土鍋に残った一口分の雑炊を、僕が口をつけたレンゲですくって
「……ほ、ほら、口あけて(赤....)」と雛苺の口元に持っていってやった。
「フゥ〜フゥ〜してなの♪」
「いや もう冷まさなくても食べられr

「ジュン....」

その目はやめろ....

「…フゥ〜 フゥ〜…ほ、ほら」
「♪ あ〜〜ん はむっ ♪」

僕にとっては一口だけど、雛苺にとっては三口ぐらいの雑炊を、
自分の小さな両手で、レンゲを持っている僕の手をはさみながら....おいしそうに、本当に嬉しそうに食べてくれた。

その後、ティッシュで雛苺の口を拭いてやったのは、ここだけの話だ……

そんなこんなで食事をし終えた僕に、雛苺が声をかけてきた。
「じゃあヒナ、これ持っていくのね」
「そこ置いとけよ、明日僕が持って行くから」
「ダメなのよ!ヒナはジュンのお食事係だから、ちゃんと最期までお仕事するのよ♪」
雛苺はそう言って、カチャカチャ土鍋を鳴らしながらドアまで歩き出した。
ドアの取っ手に子猫みたいな仕草で飛びついて、ドアを開けた雛苺に

「 雛苺 」
「んにゅ?」
「姉ちゃんに...ありがとうって...言っといてくれるか? それと....ありがとうな....その....食べさせてくれて....」

そう言葉をかけた。……顔が熱くなる。

「ジュン〜〜♪」
僕のその言葉を聞いた雛苺が、 テテテテテ と僕のそばまでやってきて
「しゃがんで ジュンっ♪ あのねあのね....」
僕をしゃがませ、耳元で....

「 ヒナ....ジュンが大好きなのよ {{include_html html, "!hearts"}}{{include_html html, "!hearts"}} 」

      チュッ{{include_html html, "!hearts"}}

耳元はフェイントで、僕のほっぺたに.....可愛いキスをしてくれた…

恥ずかしいって言うより、変な気持ちになるより、凄く...凄く幸せな気持ちになれる....
とっても胸があったかくなるような....そんな優しい...愛らしいキスだった。

「 えへへ♪ 」

物凄く嬉しそうな顔をして微笑んだ雛苺は、ドアの近くに置いていた土鍋の所まで戻ると、
その土鍋を抱えながら僕のほうに振り向き

「今日のことは....ナイショなの。ヒナとジュンだけの、ナイショなのよ♪
 カンセツキス したことも、ナイショなのっ♪」

愛くるしくなるくらいの笑顔でニコッと微笑んでくれた。
・・・って!

「おいっ!間接キスって....意味知ってて言ってんのか?(赤)」
「知ってるの♪ だから....早くよくなって、いっしょに遊ぼうね....ジュンっ!
 ヒナ、手が使えないから ドア閉めておいてね♪」

「…雛苺…」

雛苺はそう言って笑顔のまま....うぃうぃ言いながら土鍋を抱えて僕の部屋を出て行った。

僕の身体が....姉ちゃんの作ってくれた食事と....
雛苺のくれた小さな暖かい愛情で....火照り始めているのが判る。

辛かったはずの身体のだるさと気分の悪さは....もう無くなりはじめていた。

                    ( おっ! おのれ チビチビぃ〜〜〜〜!! や、やりすぎなのですぅーーーー!!! )

何か声が聞こえた気がしたけど、気のせいだろうと思うことにした・・・

!【 Alice 11 】

随分身体が楽になった僕は1階に降りて、リビングで後片付けや洗濯物をたたんでいた
姉ちゃんや真紅達にさっきのお礼を言った。
恥ずかしかったんで、ぶっきらぼうな感じに言ってしまったけど
いつもみたいに翠星石が食って掛かる訳でもなく、
みんな穏やかな優しい顔で、“今は身体の調子を整えて欲しいから ゆっくり休んで”と言ってくれた。
まるで優しい家族そのものの雰囲気に照れくさくなりながら、
僕は姉ちゃんが用意してくれた薬を飲み、顔を洗って歯を磨く為にバスルームに向かった。

何故か脱衣所の鏡が気になったけど、特に何がある訳でもなく、
心のどこかで、あの水銀燈が出てくるんじゃないかと思っていた僕の少し不安な顔を映し出しただけだった。

アリスゲーム……

そう言えば、蒼星石がその事を気にしていたな....
ここの所 彼女の表情はパッとしないし、余り遊びに来なくなったし....
どうしたんだろう....蒼星石…

  ・
  ・
  ・

部屋に戻ると、翠星石と雛苺のトランクが無かった。
そういえば今日は姉ちゃんの所で寝るとか言ってたな、あいつら。
しかし真紅のトランクだけはしっかりあるのな……

「真紅?…」
もう寝たのかな....トランクは閉まってるし…まぁいいか。

「あれ?…」
ベッドの上に便箋と小さな菓子箱のような物があった。さっきは無かったのに……
真紅か……まさかな....
そう思いながら薄青いシックな便箋を手に取ると、
達筆な字で『 ジュン君へ 』と書かれた字が目に入ってきた。
この鮮やかな字は蒼星石の字だ....

僕は部屋の扉を開けたが何の気配も無く、蒼星石の姿も見えなかった。

「....行き違いになったのかな....でもそれならわざわざ手紙なんか...用意しないよな」

取り合えず机に座り、便箋の封を開けて手紙を取り出し、目を通してみた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

拝啓 ジュン君

直接会わずに、手紙でジュン君にお見舞いする形を取る事をお許しください。

翠星石からジュン君が体調を崩したと聞きました。
大丈夫ですか? 心配です。
ジュン君が二学期から復学する為に頑張っているのは、僕も知っています。
だけど身体に無理だけはかけずにして下さいね。

ジュン君の頑張ろうという気持ちを、僕達姉妹はちゃんと感じ取っていますから。

余計な事だと思われるかも知れませんが、
みんなジュン君の事を、心の中ではとても大事な存在だと思って接しています。
真紅や翠星石は素直じゃないから、ついジュン君にそっけなくしたり
憎まれ口でジュン君に接していると思いますが、
彼女達もジュン君の事が気にかかっている訳ですから、どうか大目に見てあげて下さい。

僕のマスター達、おじいさんとおばあさんもジュン君の事を心配していました。
おばあさんが作ってくれたおはぎを持って来ましたから、体調が良くなったら食べて下さいね。
とっても美味しいんですよ。
翠星石も遊びに来る度、おいしいおいしいと言って食べてくれてますから。

ジュン君

君はもう一人じゃありません。
今、君の側には君の事を思ってくれる大事なお姉さんや、僕の姉妹が、
いつも君の事を見守っています。

僕にとっても、翠星石と居ただけの時よりも、素敵な時間を過ごせてこれたと思っています。
僕のマスター  おじいさんおばあさんの心の枷を解き放ってくれて、
大事な思いを心に抱きながら、前を見つめて歩いていける心を与えてくれたのは、
雛苺に力を与えてくれる、真紅や、翠星石のマスターである、貴方のおかげだと思っています。
君がいてくれなかったら、僕達は真紅や雛苺とも会えなかったし、
真紅達に力になってもらえなかったと思います。
だから、僕は君に本当に感謝しています。

ジュン君       僕は   アリスゲームを

ごめんなさい、なんでもありません。

長くなりましたが、これで失礼します。

追伸。

また遊びに行きますので、これからも翠星石の事、宜しくお願いしますね。
姉さんは素直じゃないですから、思っている事と反対の事ばかり言って
ジュン君の事を困らせると思いますが、あれは姉さんの愛情の裏返しなので
軽く流しておいてあげて下さい。
僕が言ったこの事は、姉さんには内緒にしておいて下さいね。

かしこ

ローゼンメイデン第四ドール 蒼星石

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

!【 Alice 11 】

「・・・・・」

僕は...ベッドに置いてある小さな菓子箱と、黙読し終わった手紙、それぞれに目をやった。

蒼星石の笑顔が頭に浮かんでくる。

少年を思わせる端麗な容姿と、淑女らしく落ち着いた言動と物腰。
確かに接する機会は、真紅や雛苺、翠星石と比べると少なかったけど、
一番気軽に話しやすくて、姉ちゃんの家事手伝いも良くしてくれた彼女…

なぜか僕は、この手紙から....
普段見せようとはしない、彼女の脆さと儚さが感じられて、仕方が無かった。

            ・・・蒼星石・・・

君は一体何が言いたかったんだ.....
アリスゲームを....その先を....何を僕に伝えたかったんだ.....

アリスゲーム....

第七ドールが現れて、
真紅達は否が応でもその戦いを始めなければならない状況に立たされてしまったのは....
それは僕も判っている。

僕はあいつらに.....何をしてやれるんだろうか....

そう思って、僕は真紅のトランクに目を向けた。
真紅のトランクは硬く閉じられたままだ…
あいつは....どうするんだろう.....今はもう以前のようにうなされて、
夜中に荒い息を上げて目を覚ます事も無くなったみたいだけど。

槐(えんじゅ).....あの人はドールをどう思っているんだろう....
もしあの人がローゼンの様に、姉妹となるドールを創ったとして.....
アリスゲームみたいな、姉妹同士の争いを、命を奪い合うような争いを....望むだろうか.....

生きているドールがいたら、どう思います?
そのドール達を、もし貴方が生み出したとして、戦わせ、命を奪い合わせ、
自分が生み出せなかった、自分が望んだ存在に、アリスになれと言いますか?.....

「…そんな事....言える訳無いし...聞ける訳無いよな…」

引きこもりの中学生の僕が、何を考えているんだろう。
自分の事ですら...自分の面倒すらかまけて....姉ちゃんに迷惑ばかりかけてきている僕が....

(  戦うことって...生きるってことでしょう?  )

(  貴方は逃げてばかりの臆病者だわ.....でも.....勇敢ね  )

「…そんな訳、無いじゃないか…」

(  そうして自分の弱さと向き合って認めるのは....とても勇気の要る事  )

「……真紅……」

以前、真紅が僕に言ってくれた言葉を思い出し、
彼女の眠るトランクを見つめ、つぶやいた。

「もし....お前達が戦う事になったら....もし....あの水銀燈みたいになったら....僕は...」

何故だろう…折角よくなっていた筈の気分が、また悪くなってきた。

勝者だった真紅は、水銀燈のローザミスティカを取らなかった。
水銀燈はどうしたんだろう.....
あのドールも戦うんだろうか....
でも....
いや.....魂が....ローザミスティカが残っているんだから....やっぱり....

だめだ…気分が悪い…

僕はベッドに倒れ込む様に横になり、そのまま目を閉じた。
卑怯だと思われるかもしれない、でも....どうすればいいのか判らない。

どうしてやったらいいんだ....僕は....

!【 Alice 12 】

みんな動かなくなる。
ローザミスティカが消えて行く。
僕の目の前で真紅達がただの人形に変わって行く。
傷付き 壊れた身体を横たえて。

たった一体残ったドールが僕の目の前にいる。
背を向けて僕の目の前にいる。
六つのローザミスティカをその手に躍らせながら。

やめろ...そのローザミスティカは、真紅達の命だ!

そう声をあげたつもりだった。

でも声が出ない。
僕の身体は動かない。
地面にうつぶせられた僕の身体は動かす事が出来ない。
涙で目の前が霞む。
僕の身体が言う事を利かない。

あのドールに.....
あのドールに真紅達の命を.....
奪われたまま何も出来ないのか.....

蒼星石....雛苺....翠星石.....

真紅....

いやだ...いやだ.....いやだ......いやだ.......嫌だ!!
うごけ、うごけ、うごけ、うごけ、うごけ、動け!!
何で、何で、何で、何で、何で、何で!!

何で身体が動かないんだ!!

やめろ...やめろ....
ローザミスティカを返せ....

真紅の.....真紅達の命が....取り込まれていく....
やめろ、やめてくれ、やめろ、やめろ....
もう止めてくれ....やめてくれ....

真紅の、真紅のローザミスティカが....

( これが欲しいの……? )

振り向いたドールの顔と姿がぼやけてる。
おまえは....お前は一体誰なんだ!

( これが…最後…ふふ… )
うごけ、動け、うごけ、動けっ!! おねがいだうごいてくれーーーーー!!!

( …動けるのね…凄い……でも…その手が…私を止めるのが早いか… )
止めろ、かえせ、返せ、かえせ、返せっ!!!

( …私が最後のローザミスティカを取り込んで… )
それは....真紅の、真紅の命だ!!!

( ……アリスになるのが早いか… )

真紅のローザミスティカを返せぇえーーーーーーーー!!!!!

!【 Alice 13 】

「 真紅っ!!! 」

僕は....自分の叫び声で目がさめた。
いつの間に眠っていたんだろうか....嫌な....嫌な夢だ。
上体を起こし、荒い息をついて胸を押さえながら、僕は手で顔を覆った。

…眼鏡が無い…いつの間にかシーツが僕の身体にかけられている…

「ジュン.....」

真紅?!

その声にハッとして横を見ると、真紅が心配そうに僕を見つめていた。
はっきりとは見えないが、真紅のその小さな手には、
水気を切ったらしいタオルのような物が握られている。

じゃあ、眼鏡を外してくれたのも、シーツをかけてくれたのも…

「はい...眼鏡」

どこに置いていたのか、真紅が僕に眼鏡を渡してくれた。
寝顔をずっと見られていた気恥ずかしさを感じながら、
僕は眼鏡を受け取り顔にかけた。

「真紅...そのタオル....」
「気にしなくて良いわ。それより、随分うなされていたわね。ジュン、顔をこちらに向けなさい」
「な、なんで...」
「いいから向けなさい」
僕のベッドに横座りになった真紅は、僕の額に小さくて綺麗な手を当て、
もう片方の手で自分の額と比べながら
「もう...熱は下がったようね」
凛とした端整な幼い顔立ちに、母親のような優しい微笑みを浮かべて...そう言ってくれた。

真紅……

いつもそうだ。主従関係を僕に押し付けながら、時々こんな優しさを見せる…
お前は怖くないのか....
何でそんな顔が出来るんだ....
僕はお前達の事が.....お前の事が.....

そんな僕の気持ちをさえぎるように、早い朝日がカーテンの隙間から入ってくる。
「……随分早起きなんだな、真紅」
僕の言葉を聞いた真紅は、額からそっと手を離した。
「そう?……たまには、早起きもいいものだわ」
「ずっと僕の事.....」
「さぁ。下僕の体調管理をするのも、主の勤め....と言う所かしら」
いつもなら拳を握りしめて怒る所だけど...今はそんな気分じゃないし、
僕の事を心配してくれて...こうして真紅なりの優しさを見せてくれたんだ。
だから「....ありがとぅ...」としか言えなかった。

急に僕は....蒼星石のことを思い出して、真紅に尋ねてみた。

「…蒼星石が手紙と....お見舞いのおはぎを置いていてくれてたんだ....真紅は....」
「私は....会っていないわ.....」
「そうなんだ……聞かないのか....手紙の事」
「貴方に宛てたものでしょう?おいそれと自分に宛てられた言葉や気持ちを....他人に言うものではないわ」

「!他人じゃない! 何でそんなこと言うんだよ!?」

「ジュン……」

僕は...思わず声をあげてしまった。
自分の姉妹だろ....僕はお前のミーディアムだろ....それなのに何が他人だよ....

「そうね....私の失言だったわ....」
「.....僕の方こそ....ごめん....でも...蒼星石はお前の姉妹じゃないか....」

僕は、蒼星石の手紙を真紅に見てもらった。
彼女なら...蒼星石なら....判ってくれるはずだ。

蒼星石が気持ちを込めて、僕にくれた手紙....
真紅はしばらくその手紙から....目を離そうとはしなかった。

「……あの子....」

ただ一言。それだけ言って真紅は僕に手紙を返してくれた。
真紅が沈黙する。
ほんの数秒だったのかもしれない。いや....ほんとは数分だったのかもしれない。
その沈黙に耐えられなくなった僕は、真紅に声をかけようとした。

「....ジュンは、どう思うの...」

だけど、先に口を開いたのは彼女だった。
何を言いたいのか何となく判る。そう判断して、僕は答えた。
「.....分からない....分からないけど、蒼星石は....だけど、どうして」
「....前にあの子が言った事があるの....いつか戦うことになる、って....」
僕と目を合わせず、静かにそう真紅は言った。

何か言いたかった。でも、何を伝えていいのか判らない。
アリスゲームというものが...どういうものなのか解っている筈だった。
蒼星石はアリスゲームについて、はっきりとしたことは何も伝えてくれてはいない。
だけど....今...一番この事について真剣に悩んで、心を痛めているのは...
蒼星石なのかも知れない事は、彼女がくれたこの手紙から感じ取れる...

「お前は...どうするんだ..真紅....前に、僕に言ってくれたよな....戦うことは生きることだって....」
「ええ....でも、判った事があるわ。戦うことの意味には、色々な意味がある事を....」
「意味……?」
「自分の為に、相手の存在を奪う事だけが....生きる事では無いと言う事。
 失いたく無いものが判ったから、私は受け止めてかわし....守っていこうと....思うの。
 人に言わせれば....逃げになるのでしょうけど...奪い、勝ち取る事だけが....戦いでは無いと...思えるようになったの」

「・・・・・」

「ジュン...貴方の心は、傷付きやすくて....とても繊細だわ。だけど....もう貴方は、以前の貴方とは違う。
 貴方の心には、貴方を育む芽が息吹き.....貴方自身を育む樹が...貴方自身で成長を始めているわ。
 貴方を見つめなければいけないのは、ジュン自身。だけど....貴方を見つめ、育むのは....ジュン、貴方だけでは無いのよ。
 のりが貴方を見つめ続けてくれていて...貴方のお父様やお母様も....例え貴方がどう思っていようとも、貴方を見続けてくれているの」

何故真紅がそんな事を言うのか解らなかった。
何故....今こんな事を僕に話すんだ....

!【 Alice 14 】

「もし……私がいなくなっても....ジュン.......貴方は一人ではないわ」

「       !       」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

やめろ...やめろ....
ローザミスティカを返せ....

真紅の.....真紅達の命が....取り込まれていく....
やめろ、やめてくれ、やめろ、やめろ....
もう止めてくれ....やめてくれ....

真紅の、真紅のローザミスティカが....

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「  そんな事言うなっ!!  」

そんな言葉聞きたくない、そんな姿なんか見たくない、そんな思いなんかしたくない!

「僕はお前達の誰一人として、いなくなって欲しくない!」
「…ジュン」

「だってそうじゃないか、勝手に僕の家に押しかけてきて、勝手に僕の心に入り込んできて、
 勝手に一緒の時間を作って、勝手に僕と過ごしてる、そんなのってずるいじゃないか!!」

真紅は僕を見つめたまま

「じゃあ僕の気持ちはどうなるんだよ!? 今までずっとお前達と、お前と過ごした僕の気持ちは!
 そんな事言われて僕が “はいそうです” なんて言える訳無いだろ!」

ずっと僕の方を見つめている

「本当にそれでいいのか! 間違ってるとは思わないのか! 姉妹同士で戦って!
 そんなのおかしいと思わないか! お前だって、真紅だって、水銀燈を倒したのが正しいとは思ってないんだろ!」

まるであの夢で見た

「僕は、僕はっ! お前達の父親が、ローゼンが何を言おうと僕には関係ない!
 僕にとって、僕にとってお前達みんなが! 君が! 僕にとって....僕にとっては」

僕の心の奥の情景を見る様に

「……失いたくない....アリスなんだ.......」

見つめている・・・

今まで真紅達と過ごした記憶が...今日までの日々の記憶が....僕の脳裏を駆け抜けて行く....
真紅と初めて会ったあの日。初めて会った雛苺の顔。翠星石、蒼星石と会ったあの日。
初めて見た水銀燈の姿。初めて見せてもらった僕の心の世界と、僕自身の存在の樹。
お姉ちゃんが初めて見せてくれた、お姉ちゃん自信の気持と僕への思い。
今までの全ての記憶が....引き篭もったままだった僕に、歩き出す勇気をくれた、想いと体験の日々が....
僕の心から溢れ出そうとしている....

想い出になんかしたくない。あり得なかった夢語りになんかしたくない。
僕の時間から君達の存在が一人づつ消えて行くのなんか認めたくない。

「・・・あ.....」

視界がぼやけ出す。感情が溢れ出しそうになる。

「・・・ジュン....」

「   見る な!   」

こんな姿なんか見られたくない。僕のわがままな気持ちで真紅をこれ以上困らせたくない。

僕は真紅に背を向けて....溢れ出した涙をぬぐった...
だけど...止まらない....止まらないんだ....

!【 Alice 15 】

僕は何も出来ない… 何もしてやれない… ミーディアムなんて… 何の役にも立たない…

そんな僕の背中に、真紅の手が添えられる。

「...しん k」

真紅の、悲しくて....だけど...凄く優しい顔が....
僕の横顔を見つめてくれて....僕の心を包み込んでくれる。

真紅の小さなその指先が...眼鏡を外した僕の目元から溢れていた涙を....優しく拭ってくれた。

           ふれた指先   心 燈して

「…私は今....とても幸せを感じているわ」

           流れ出す旋律   愛を 望む

「絆を通じて....貴方の気持ちを感じ....貴方の想いを知り」

      傷つけた 枝の先  朽ちてゆく宿命(さだめ)なの

「貴方が....私達を....この真紅を...どれだけ想ってくれているのか教えてもらい」

          鎖された時の狭間に  迷い込んだ

「そして今...貴方は...私の、私達姉妹の為に...その想いの辛さを流してくれて」

               小さな光の雫

「私達を...貴方のアリスだと言ってくれる.....こんなに誇らしい事は....こんなに嬉しい事は無いわ....ジュン」

           夢の終わり ただ君だけを願う

!【 Alice 16 】

真紅のその言葉が、くじけそうになった僕の心に溶け込んできた。

彼女の蒼く 深い色の瞳に 僕の泣き顔が映っている。

一番辛いのは僕じゃない。
真紅 彼女なんだ。

僕は 訪れようとする悲しみから 真紅から目を背けようとしたのに
彼女は そんな僕の背に 先を見つめる強さと 暖かさを与えてくれて
戦わずに だけど 逃げずに全てを見つめ 受け入れる為に
今こうして 僕を見つめてくれて 答えてくれているんだ

そうだ....逃げちゃいけない....ミーディアムが、僕が逃げちゃいけないんだ。

「....僕が、真紅のミーディアムの僕が泣いてちゃ...いけないよな....」

僕は、真紅を見つめてそう言った。

「...いい子ね....ジュン。それでこそ、この真紅の....誇り高きミーディアムだわ」

いい子。
僕はまだ彼女からすれば、ほんの少しの時間しか生きていない子供かも知れない。
だけど僕は、彼女が選んだ、彼女に選ばれた、彼女が誇りにしてくれる、彼女のミーディアムなんだ。

「真 紅」
「じっとしているのだわ…」

だからこそ真紅は、普段は決して見せない優しさを....
まだ涙の乾かない僕の目元に....
その気品を漂わせた....優しい口付けを....今、僕にくれているんだ。

!【 Alice 17 】

そんなロマンティックな気分の僕を、突然真紅がベッドに押し倒し

「な? な?!(赤)」

「……あなた達、いつまでそうして覗いているつもりなのかしら(赤)。 あまり良い趣味ではないわね」

顔を赤くして、そのままベッドから下りた真紅は....
わずかに薄く開いた部屋のドアに向かって、不機嫌そうな声を静かに投げている。

……ちょっとマテ! え? じゃあ....じゃあ今までの真紅とのやり取り....全部....全部っ!?

  ガチャっ…

「(赤)ぬ、抜け駆けするなんて許さんです真紅っっ!」
「よーー! 真紅だけジュンにキスしてずるいの〜〜!.....(ヒナもしたけど)なの....」
「ちょ、おま!? ち、ちびちび今 何さらっととんでもないこと言いやがったですかーーーーーーーー!!!!!」
「うよ? ヒナなぁんにも言ってないの〜〜――――♪」
「嘘コキやがれですぅっっ!!!(怒)」

「はぁ……また騒々しい一日が始まるのね.....ジュン、どうにかしなさい」
「ちょっ ちょっとまて! 何で僕が?!」
「主に口答えをしない!(びしびしっ)」(テールびんた)
「ぶんっ!?」←(モロ喰らったジュン)

僕に何が出来るのか、今すぐ答えを出せといわれても、無理としか言いようが無い。
だけどこれだけははっきりと言える。
どんな事があっても、どんな事になっても、このドール達を見つめ、
このドール達と……ローゼンメイデン達が与えられた運命と一緒に、歩いていかなければいけないんだ。

それが今の僕に与えられた、雛苺の力の源の....翠星石の......真紅のミーディアムとしての....

僕のやらなければいけない、逃げちゃいけない、運命だから。

雛苺を見守り……翠星石と契約を結び……そして真紅に選ばれた……誇り高き、彼女達のミーディアムだから。

「お....お....お前ら全員っ! 僕の部屋からでてけーーーーーーーーーーー!!!」

それが、僕が今やらなくちゃいけない事なんだから。

!【 Alice AfterStory ― Versprechen ― 】

「もう すっかり秋ね…ジュン君」

キッチンからジュンの姉、のりの声がする。
夕焼けの鮮やかな色は、桜田家の小さな裏庭を柔らかく染めていた。
裏庭に出るガラス戸を開けて、夕焼けに染まった庭の草花を見つめていたジュンは

「 うん 」

ただそう答えただけだった。

「もうすぐしたらお夕飯だから、待っててね。今日は苺スパゲティだから」
「ちょ!?冗談だろ!」
「うふふ♪ 嘘よ♪ でも雛ちゃんの好きな、いちごはデザートに出すから…」
「……そう」

ジュンは、目をつむり穏やかにリビングのソファー座っている雛苺と蒼星石に、
少し寂く....優しい笑顔を向ける。

あれから少しの時間が流れ、僕達は前のような日常を送っている。
蒼星石が僕達の元から離れた事がきっかけで、アリスゲームは始まり…
そしてアリスゲームは終わりを見せた…

僕が彼女達に出来た事は、何も無かったと言ってもいい。

でも、あの日真紅の優しい微笑みに誓った事は嘘じゃなく…
僕は全ての出来事を僕なりに受け止めて、あの時僕の出来る、僕が出来た事をしたつもりだ。

でも…彼女達に何もしてあげれなかった事に、変わりは無かった。

あの時、ラプラスの魔は僕に言った。
「ねじを巻いただけの少年」と。

やっぱり僕は、ただそれだけの存在なのかも知れない。
だけど…真紅に選ばれた事には…僕が真紅達のミーディアムだという事に変わりはないんだ。
今は何も出来ないかも知れない。
それでも僕は、彼女達を呼び戻してあげたい。

アリスゲームは戦うことだけではない、アリスになる道は争うだけではない。
そう言ったローゼンの声が聞こえた。
それなら僕でも何か出来る事がある筈だ。

何も生み出せないくせにと、槐(えんじゅ)が僕に言うなら、僕は生み出してやる。

そして僕はきっと彼女達を呼び戻してみせる。

僕は社会に出て、会社や世の中の役に立つ様な生き方は、出来ないと思う。
でも、何かを生み出し命を吹き込めるような生き方は……出来るかも知れない。
その為に、今度こそ僕は本当の自分の一歩を踏み出さなきゃいけない。

―― 貴方を見つめなければいけないのは、ジュン自身。だけど....貴方を見つめ、育むのは....ジュン、貴方だけでは無いのよ ――

だから僕は頑張れるんだ。
だから僕は約束できるんだ。

君達二人を、呼び戻してみせるって…

「ジュン君....もう、大丈夫....? みんなとは...その.....」
「……うん....僕はもう、逃げないよ お姉ちゃん。こうしてみんなが居てくれるから、僕は頑張れるんだ」

僕の幼なじみ、柏葉巴も、型に押し込められた自分を変えたいと言っていた。
一緒に頑張ろうと言ってくれ、僕を応援してくれている。

僕はいつか作り出してみせる。彼女達....雛苺と蒼星石を呼び戻す為の....ローザミスティカを。
そして一緒に見続けて行きたい。彼女達が戦わない事で...目指し、なし得る筈の、アリスになる事を。

「そうです....その服.....とっても似合ってるですよ、ジュン」
「そうね....ジュンはこの真紅と、翠星石のミーディアムだもの」

ジュンの側に寄り添っていた真紅と、蒼星石、雛苺の側に寄り添っていた翠星石が、ジュンに声を続ける。
のり、翠星石、真紅には...夕日に照らされた制服姿のジュンが...
以前よりもひとまわりもふたまわりも、頼もしく思えているに違いない。

「たのもーーーー♪ かしら♪」
(カナ、そんな大声出しちゃめいわく)
「大丈夫かしら。せっかくカナ達が遊びに来てあげたんだから、真紅達だってよろこんでいるのかしら〜♪」
(あの、私....)
(せっかく会ったんだから、一緒にお邪魔しましょう、ね?)
(でも.....)
(あなたの持ってる荷物も、そうなんでしょ?だったら私達と一緒よ♪)
「全くぅ。いつまで待たせるのかしら! たのもーーーーーー!」

「あら? あの声は、金糸雀ちゃんじゃないかしら?」
「また来たですかあのちびっ子ー?最近夕食になるといつも来るですー」
「ちょっと待って....金糸雀の他に誰かの声がしなかった?」

「じゃあ、僕が見てくるよ」

「一緒に行くです」
「そうね、私も行ってあげるわ」

「いいよお前たちは。それより.....雛苺と...蒼星石の側に居てあげてくれるか...?」

「わ....分かったです♪」
「ええ。そうするわ....ジュン」

秋の風が優しくそよぎ、庭に咲いた花を揺らしている。
その風に揺られて、一本の黒い羽も舞い落ちてくる。

揺らされた花は、踊るように....ジュン達にエールを送るように揺れている。
舞い落ちてきた黒い羽は、緩やかに....そっとかさなる様に....揺れる花たちの横に佇んでいる。

             待っているよ....ジュン君

             待ってるわ なの....ジュン

             冴えないミーディアムがどこまでやれるのか.....見ててあげるわぁ

どこかで待っている....大事な人達からの言伝を伝えるように。

いつか解りあえるかも知れない人からの.....応援を伝えるように。

いつか必ず生まれるだろう....新たなドールマスターへの.....ジュンへのメッセージとして。

【  おわり  】

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これでおわりです。今までの大量投下すいませんでした。
読んで下さっていた方、本当にありがとうございました。では。

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