かつて、そこは戦場だった。
ツィタデレ作戦の破綻が濃厚なブタベストでの夜、私は戦場の空を駆る赤い少女を見た。
雪の降る誰もが寝静まった深夜、その少女は私を夢の世界へと誘ったのだ。
時さえ止まったかのような静寂の中、戦車の砲身に佇む少女を見たとき、
私にもようやく迎えが現れたのかと覚悟を決め、胸のクロスに最期の祈りを捧げた。
少女は私に問うた。
人間、一体何をしているのか…と。
答えなど私は知らない。知ったところでどうなる訳でもない。
明朝には私はこの世界のくびきから解き放たれているのだろうから。
自分が何をしているか解からない私達の戦いが、少女には不思議でならなかったらしい。
彼女は私に語った。
少女は完全なものを求めて、自分の姉妹と戦っている事。
永遠に生きる彼女達には、時というもの自体に意味が無い事。
完全な少女になったとき、初めて時は意味を持つという事。
私は少女に懐中時計を託した。
対フランス戦勝記念として買った物だが、もう私にはいらないものだ。
少女が過ごす永遠の時間の中では、
世界とは、些細な出来事でうつろい行くだけの存在なのかも知れないが、
そんな彼女だからこそ、本当に時が必要なのだと私は感じたのだ。
翌日は嘘のように晴れた青空が広がっていた。
白い市街地にピンと張った空気が流れている。
私は生きている。再び私の時間は流れ始めたのだ。
そして今、私は大戦を生き延びて幸運にも天寿を全うしようとしている。
そして思う。
あの少女はもうアリスになれたのだろうか。
私の時計は、彼女に必要とさているのだろうか。
そしてアリスとなった少女の元で、今も時を刻んでいるだろうか。
『戦場の小夜話集〜赤いアリスと麗しき金時計〜』

「真紅…何読んでんだ?よくそんなドイツ語の本なんか見つけて来るよな」
「昔話よ、ジュン」
そう言って真紅はパタンと本を閉じた。
「何だ、なにかあったのか?」
「いいえ、それより紅茶を淹れてくれるかしら、喉が渇いたわ」
そう言って真紅は金時計を取り出すと、
懐かしそうに蓋を開き、今という時を確認する。
「あの兵隊さん、生き延びたのね…」
少女の金時計は、今も未来を刻んでいる。

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