はじめまして、ケットシーです。
このスレの一発目をいかせてもらいますね。
クリスマスほのぼの物です。

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ジュンのクリスマスプレゼント

 商店街は電飾とこの時期限定の音楽で溢れている。
 今日は世界的なお祭りの日。
 桜田家でもツリーが飾られ、ケーキと料理が並ぶ。
 クリスマスパーティーの真っ最中だ。
「メリークリスマス!」
 のりが高校生とは思えないはしゃぎ様でクラッカーを鳴らす。
 ローゼンメイデンの彼女達を迎えて初のクリスマス。
 去年は弟のジュンと楽しくケーキを食べようとして見事に散った。
 今年は人形達のおかげで、ジュンもパーティーに参加してくれている。
 弟想いののりにとって、これ以上嬉しいことは無い。
「私、神なんて信じてないのだけど」
 そんな中、空気を読まない声が聞こえる。犯人は真紅だ。
 ジュンは気乗りしない態度をしながらも、それとなく注意する。
「僕も姉ちゃんもキリスト教じゃないよ。日本のクリスマスはただのお祭り。宗教なんか関係ないのさ」
「いい加減な国民性ね。ま、おいしいケーキが食べられるからいいのだけど」
「そうですぅ。楽しければなんでもいいのですぅ!」
 浮かれた翠星石がサンタ帽子を被って踊る。実はのりと同じ想いだったりする。

「翠星石もケーキ作りを手伝ったですよ。ジュンも食べるです」
「食べてるって」
 騒ぐ周りに若干辟易しながらもジュンはケーキを食べる。
 もう一人元気な女の子がいるのだが、今日は保護者が付いているのでジュンも助かっている。
「雛苺、クリームで汚れてるわよ」
「うぃ……トモエ、取ってぇ」
 巴がほっぺに付いた生クリームを指で取ってあげる。彼女もクリスマスパーティーに招待されていた。
 親子のような微笑ましい光景を見ていた時、雛苺が面白いことを言い出した。
「トモエ、サンタクロースさんはまだ来ないの?」
「え?」
 巴は思わず唖然としてしまう。最近では小さな子供でも言わないことだ。
 それを聞いた翠星石は、これ見よがしに笑い転げる。
「キャハハハ、傑作ですぅっ。サンタクロースなんて来るわけねーですぅっ」
「どうして?」
 雛苺は聞き返すが、翠星石は笑いすぎて答えられない。

 仕方がないので、真紅が代わりに教えてあげる。
「雛苺、サンタクロースなんてものは人間が創った御伽話みたいなものよ。元になった人物はいるけど、それも普通の人間でもう死んでるわ」
 さすが真紅。夢もへったくれも無い。
 そのあまりに無慈悲な言い方に、ジュンまで雛苺を心配して苦笑いする。
「いるの! サンタクロースさんはちゃんと生きてるのッ!」
「聞き分けの無い子ね」
 泣きそうになって反論する雛苺を見ても、真紅は少しも退かない。
 こうなると雛苺がかわいそうになってくる。
 のりが見ていられなくて間に入る。
「サンタさんはいるわよ。もう少ししたら、来てくれるんじゃないかな。ね? 巴ちゃん」
「は、はい。そうかもしれませんね」
 困る話を降られ、巴は苦しい笑顔で同意する。
 ようやく場の空気を読めた真紅は、もう何も言わない。
「サンタクロースさん、早く来ないかな〜」
 機嫌を取り戻した雛苺は、希望で胸を膨らませながらサンタクロースを待つ。
 のりと巴は罪悪感を感じずにはいられない。サンタクロースが実在するわけがない。
 そこで、のりはさりげなくジュンに近寄って小声で話す。
「ジュン君、ちょっと一緒に来てほしいの」
 ジュンは特に考えず、そのままのりと廊下に出た。

「こんなの着れるかあッ!!」
「お願い、ジュン君。今日だけだからぁ」
「今日以外もあるのかよッ」
 一階の物置から怒声が轟く。幸い、パーティー会場のリビングには聞こえていない。
 怒鳴るジュンの前には赤と白の服や帽子。
 そう、サンタさんの衣装がなぜか用意されていたのだ。長い付け髭、付け眉毛も完備してある。
 のりが盛り上げようと自分で使おうとしていたのだろう。
「雛ちゃんを悲しませたくないの」
「だったら、おまえが着ろよ」
「私が着てもお婆さんにしかなれないわ」
 珍しく必死に食い下がるのりに、ジュンも折れるしかなかった。
「……今回だけだからな」
「うん、ありがと〜」
 ジュンはぶかぶかの赤い服を着込み、メガネを外す。
 髭と眉毛を付け、帽子を被る。
 プレゼント袋を背負ったらサンタクロースの完成だ。

 先にリビングに戻ったのりは、雛苺ばりに期待しながらサンタを待つ。
 そして、運命の時は訪れる。
「メリークリスマスッ!!」
 できるかぎり野太く作った声がリビングに響き渡る。意外にもジュンはやる気だった。
「わあっ、サンタクロースさん、いらっしゃいなの!」
 雛苺が真っ先に駆け出す。その溢れる笑顔は今にも零れそうだ。
 それに対し、他のみんなの反応は無い。
 どうやら、男性的な声に驚いて固まっているようだ。首謀者ののりまで驚いてどうする。
「本当にサンタクロースさんだぁ」
 ジュンの胸に飛びついた雛苺は、長く蓄えられた髭をしげしげと見る。
 役になりきっているジュンは、そんな可愛げのある雛苺の頭を撫でる。普段は滅多にしない行為だ。
 しかし、その行為が裏目に出る。
「ジュン、そんな格好で何をしているの?」
 場違いな言葉が発せられる。またも犯人は真紅だ。
 彼女は雛苺へのジュンの態度が気に入らなかった。ようするに、嫉妬しているのだ。
「な、何を言っているんだね、お嬢さん。私はサンタクロースだよ」
 ジュンは内心ではらわたが煮えくり返るのを抑え、それでも太い声で演じ続けようとする。
「ジュンなの……?」
 雛苺が髭と眉毛で隠れていない部分を見ようとする。
 ジュンは怪しまれない程度に顔を逸らそうと頑張る。
 しかし、もう一人の嫉妬女が引導を渡す。

「チビ苺、その真っ白なお髭を引っ張ってみるです。すぐに正体が判るですよ」
 終わった。もうジュンに逃げ場は無い。
 雛苺が髭の端を掴んで引っ張ると、ジュンの情けない顔とご対面になった。
「雛苺……」
 もう演じる必要は無い。ジュンの力ない声は聞き慣れたものに戻っている。
 偽者だと知った雛苺は、一気に表情を沈ませる。
 でも、それは一瞬だけ。雛苺はすぐに笑顔になってみせた。
「ありがとなのっ。ヒナのサンタクロースさんはジュンでいいの。いいえ、ジュンがいいの!」
 嬉しそうにジュンに抱きつくのを見て、巴とのりは胸を撫で下ろす。
 真紅と翠星石の嫉妬二人組は、予想外の展開に呆気に取られる。
 同じく呆気に取られていたジュンだが、事無きを得たのが分かって活気付く。
「よーし、雛苺。いい子だからプレゼントをやろう」
 抱きつく雛苺と背中の荷を降ろし、袋からプレゼントの箱を出す。
「ジュン、ありがとなのーっ」
 受け取った雛苺は、大喜びで箱を高く掲げ上げる。
 ジュンは袋を抱え、巴の所へ行く。
「はい、柏葉さん」
「え……いいの?」
「人数分あるから」
 巴は戸惑いながらも受け取り、その箱を眺める。これは、巴の宝物の一つとなった。

「ジュンく〜ん、お姉ちゃんにもちょうだ〜い」
「これ自分で買ってきたやつだろッ」
「お姉ちゃんもプレゼントが欲しいのぉ」
 やたらと欲しがる姉にもプレゼントを渡した後、ジュンは腰を下ろして一息つく。
 それを見ていた真紅と翠星石は黙っていられない。
「ジュン、私のは?」
「翠星石のもです!」
 ジュンは言い寄る二人を一瞥し、ここぞとばかりに仕返しをする。
「おまえらはいい子じゃないからなぁ。どうしよっかな〜」
 そう言われた二人は、揃って懸命に弁解しようとする。それほどまでにプレゼントが欲しいのだ。
「わ、私はいい子にしてたのだわ」
「翠星石もいい子ですぅ」
「この前なんて、誰かが閉め忘れた冷蔵庫を閉じてあげたわ」
「私だって、のりの食事の用意を手伝ったりするですっ」
「他にもあるわ。えっと、そう、あれよ!」
「私もそれだけじゃないです!」
 二人は善き行いを無理にでも捻り出す。
 その滑稽な――本人は必死なのだが――様子を十分に堪能したジュンは、袋に手を差し入れる。
「ほら、あげるよ」
 受け取った二人は、雛苺と変わらない顔を見せる。素直に喜ぶ姿は可愛らしい。
 みんなが喜んでくれて、ジュンにはそれが最高のクリスマスプレゼントになった。
 こうして、パーティーは大成功に終わった。

おわり

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長文失礼。
このSSがこのスレみんなクリスマスプレゼントになればいいな。

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