第一弾 「捧げられるモノ」
「困ったなぁ・・・・どうしよう・・・・」
一人の少女がとぼとぼと歩いている。
その顔は沈み、何度も立ち止まっては溜息を突く。
「・・・・ケーキ、どうしよう?」
少女は家族の待つ家路、ただ途方にくれていた。
空は白く、わずかばかり舞う小鳥達。
そして・・・・
―――天使?
「 捧 げ ら れ る モ ノ 」
「ウフフッ♪ いただきぃ!」
バッ!
今日は久しぶりに日課であった小鳥狩りに精を出す。
最近屋内にこもることが多く、なまったかとも
思ったがまだまだ勘は鈍っていない。
桜田家に厄介になる前は、これで食べていたのだ。
いわばこの道のプロである。 やはり私は空の覇者だ!
あとでバラす楽しみのために死なない程度にくびった小鳥を袋に詰め込む。
趣味であるボーン・アクセの材料は、これだけあれば十分だろう。
「あら?」
視線を感じ、目をやると一人の少女がこちらを伺っていた。
「・・・何か御用かしら?」
身体的なコンプレックスから人の視線にはとみに
敏感な水銀燈はすぐに舞い降りるとそう尋ねる。
「あ、あの、天使様?」
「は?」
「天使様だよね? 綺麗だし・・・・」
「え? そうかしら?」
「うん。 とっても綺麗。」
「まぁ、当然よね。」
褒められる機会の少ない水銀燈は途端に気をよくする。
「えへへ! みんなに自慢できるや。」
「ウフフ♪ それは良かったわね?」
「うん、でもどうしようかなぁ・・・・」
「? なにかしら?」
「えっと・・・・」
少女はこの苦境を誰かに打ち明けたかったのだろう。
おつかいでケーキを買いに来たこと、
そしてお金を落として買えなくなったことを語った。
「それは困ったわねぇ。」
「うん・・・・」
少女は先ほどの笑顔が嘘のようにしぼんでしまった。
(ケーキくらいどうってことないわよね?)
賛辞に気を良くしたこともあり水銀燈は一肌脱ぐことにした。
「じゃあここで待ってなさい? 私が持ってきてあげるわ。」
「えっ? 本当?」
「ええ。 だからいい子にして待ってるのよ?」
「うん! ありがとう!」
途端にパッと輝く少女の顔。
その姿にいよいよ意気を高めた水銀燈は
空に舞い上がるや一直線に飛んでいく。
「じゃあ、ちょっと行ってくるわね?」
「いってらっしゃい。」
足りない材料の買出しに出かけるのり。
留守番を任された人形達は思い思いの時間を過ごしていた。
ガラッ
「ごきげんよう。」
「水銀燈? 早かったのね?」
「おかえりなのぉ〜!」
「また小鳥を虐待してやがったですか?」
「寒くなかった?」
「ここにクリスマスケーキはないかしら?」
「ケーキ? 冷蔵庫に入ってるわよ?」
「すっごくおいしそうなのぉ♪」
「食後が待ち遠しいです。」
「楽しみだね。」
「・・・・そう。 好都合ね♪」
すぐにキッチンに向かう水銀燈を皆は怪訝な表情で見送る。
「これね?」
真っ白な箱を取り出した水銀燈は再び飛び出して行った。
「お待たせ。 いい子にしてた?」
「天使様!」
「ハイ、ケーキよ?」
「うわぁ、ありがとう!」
受け取った箱の中を確認するや、満面の笑顔を浮かべる少女。
「さぁ、早く家にお帰りなさい?」
「う、うん、あのね・・・・」
「?」
「これ・・・・」
少女は付けていたペンダントを差し出す。
赤色の宝石を模したプラスチックのおもちゃだ。
「私の宝物なの。 でも、天使様にあげるね?」
「え?」
「綺麗でしょ? きっと天使様に似合うと思うの。」
「そ、そうかしら?」
「付けてあげるね。」
少女は安全ピンを外すと慎重に服に差し込んで止める。
「やっぱり綺麗。 とっても似合ってるよ!」
「あ、ありがとう・・・・」
「それじゃあ天使様! ありがとう!」
そう言うと少女は駆けていった。
その姿を見送ると胸元の宝石に目を落とす。
その色がある人形を連想させ、少し複雑だったが
水銀燈はどこか誇らしげな気持ちで家路に着いた。
「みんな〜! 用意はい〜い?」
「ああ。」
「いいわよ。」
「万端なのぉ〜♪」
「バッチリです!」
「ボクも。」
桜田家はこれからのパーティーのために思い思いの得物を手にしていた。
後は主賓の水銀燈が帰ってくるのを待つばかりである。
居間に揃った一同の目は輝き、
これからはじまる宴への期待に満ちていた。
「ただいま。」
一同「お帰り〜〜〜〜!!」
「あら? みなさんごきげんよう。 どうしたのかしら?」
「みんな水銀燈ちゃんを待ってたのよ?」
「オマエがいないと始まらないからな。」
「あまりレディを待たせるものではなくてよ?」
「おっそいのぉ〜!」
「まったく! 時間にルーズなヤツです。」
「でも来てくれて良かったよ。」
「・・・・みんな。」
思わず胸が熱くなる。
まさかここまで自分が愛されているとは思わなかった。
「ありがとう、みんな、今日は最高の日だわ・・・・」
自分にペンダントを捧げてくれた少女の顔を思い出す。
それなら自分も何かを捧げよう
この愛すべき家族のために
「みんな、本当にありがとう。
私にできることがあったら何でも言ってね?」
「ううん、何もしてくれなくていいのよ?」
「そうそう、するのはこっちだからさ。」
「でもそれじゃ私の気持ちが・・・・」
「大丈夫よ水銀燈? 万事任せておいて。」
「じっとしてればそれでいいのぉ〜!」
「そんな・・・・なんだか悪いわ?」
「チビ苺! じっとしてられても困るですよ?」
「そうそう、泣き叫んでのたうちまわってくれないと・・・・」
「・・・・え?」
改めて一同を見回す。
そう言えば皆、手のモノがなんだかぶっそうな・・・・?
「ケ〜キの恨み? たぁっぷり晴らさせてもらうわねぇ?」
「あ、あの、あれは・・・・」
「聞く耳もたぁぁん!」
「覚悟はいいわね?」
「泣いても謝っても許さないのぉ〜!」
「ていうか、泣き叫ばせてやるです!」
「壊れて動かなくなるまで、ね?」
得物を手ににじり寄る一同、そして―――
「ぎゃあああああああああああああああああああ!!??」
断末魔の悲鳴がこだまする
「・・・・あら? 素敵な声! 誰かしら?」
桜田家を目指していた私は魂消るような絶叫を耳にした。
耳を済ませていると再び悲鳴が響き渡る。
「・・・・きっとジュン君の家ね?」
そう判断した私はプレゼントと木刀を握りなおし、駆け出す。
きっと私の大好きな拷問だ♪
一刻も早く参加しなければ!
「こんばんわ!」
「あら? 巴ちゃん、いらっしゃい!」
「柏葉? 早くこいよ! もう始まってるぞ?」
「うん! 今行く!」
私は綾辻の留め金を外し、刃をスラリと抜き放つと居間に向かった。
今宵捧げられる贄は如何なるものか?
私は自分の顔が狂喜に引き歪むのを止めることが出来なかった。
「 捧 げ ら れ る モ ノ 」
完
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クリスマスにちなんだ作品です
そのうちまたいくつか投稿します
反省をいかし、コンパクトにまとめてみました
第二弾 「明日への誓い」
「はぁ・・・・」
もう何度ため息をついただろう?
8回までは覚えているのだが・・・・
「ダメよこんなことじゃ!」
逸れていく思考を修正し、再度当面の問題に向き合う。
目の前に置かれた一枚の紙、サンタクロースへの手紙である。
四枚まではなんとか片付けたのだがその後が難題だった。
「笑顔って言われてもねぇ・・・・」
「 明 日 へ の 誓 い 」
「それじゃあその手紙に欲しいものを書いて、後で私に返してね?」
居間に集めた5体の人形達は紙を手に目を輝かせている。
「なんでもいいの?」
「うん。 でも非現実的なコトや非常識なコトはダメよ?」
「翠星石は花の種が欲しいです。」
「雛、苺がいいのぉ〜!」
「私は本がいいわ。」
「それじゃあ名前をきちんと書いてね?」
「私はお腹が欲しいのだけど、どうかしら?」
「う〜ん、とりあえず書いて送ってみましょうか?」
早速それぞれに字を走らせる。
この分だと雛苺や翠星石は簡単かつ安価で済みそうだ。
真紅は正直見るのが怖い。 一体いくらになるのか見当がつかない。
一番の問題はやはり水銀燈か? 彼女のお腹・・・・どうやって用意しよう?
そして・・・・
「はい! みんな書けたわねぇ?」
皆から手紙を集める。 大方は予想通り。
しかし一枚引っ掛かるものがあった。
「みんなに笑顔をください」
そのほかは、花の種・苺・本・お腹と来ているのでおそらく蒼星石だろう。
(笑顔ってなにかしら?)
笑顔とは読んで字の如く笑った顔だ。
つまりみんなを笑わせて欲しいと言うことだろうか?
それとももっと深い意味が込められているのだろうか?
流石に迷った私は出て行こうとする蒼星石を呼び止める。
「蒼星石ちゃん? ちょっとい〜い?」
「なに?」
「このお手紙のことなんだけど・・・・」
「?」
「笑顔って、どういう意味なのかなぁ?」
「笑顔は笑顔だよ?」
「え〜と・・・・」
「みんなにいつまでも笑ってて欲しいんだ。」
「う〜ん、それはちょっと難しいと思うなぁ。」
「どうして?」
「人生山あり谷ありって言ってね? 生きてると楽しいときもあれば
辛いときもあるものなの。 ずっとずっと笑顔のままではいられないものよ?」
「そっか・・・・」
「だからね? 他のお願いにしましょう?」
「うん。 じゃあみんなに笑顔を!」
「え・・・・?」
「ずっとずっとじゃなくていいんだ。
ほんの一時だけでもみんなが笑顔になれたら。」
「・・・・そうね。」
つい顔をほころばせる。
やっぱりこの子はいい子だ
いつだってみんなのことを思ってる
「じゃあ、そうお願いしてみましょうね?」
「うん!」
しかし請合ったはいいもののやはり困ってしまう。
みんなして笑う機会は結構多い。
だからこそ逆に見慣れた普通の笑顔ではプレゼントの意味がない。
いつもとは違う、輝くような笑顔を引き出してやらなければ。
とりあえず先に簡単なものから片付けることにする。
翠星石は花の種、雛苺は苺、これは買い物ついでに片が付く。
真紅の求めた本はクンクン本だったので思ったより安くついた。
水銀燈の腹部はサイズを測り、町の工芸職人の内田さんに依頼した。
かなりの出費を覚悟していたのの、事情を話すと
感じるところがあったのか材料費だけにまけてくれた。
そして最後は蒼星石である。
「笑顔って言われてもねぇ・・・・」
私は笑顔について考えていた。
(嬉しいときとか楽しいとき、よねぇ・・・・)
しかし単純に皆の笑顔だけならよく目にしている。
特別に嬉しいときとはどういうときだろう?
自分が今まで特別に嬉しかったこと、楽しかったことを思い返す。
――あ、そうだ!
やや姑息だがこれしかない。
というか8ビットの私の頭脳ではこれが限界!
パンパンパンッ!
「メリークリスマース!」
桜田家のクリスマスパーティーが始まる。
この時のために用意した飾り付けや料理の数々に皆が感嘆の声を上げる。
一旦皆を追い出し、半日かけて仕上げたものだ。
「綺麗だね!」
「おいしそうですぅ♪」
「すごいのぉ〜!」
「なかなかね。」
「もっと頽廃的ならいいのに・・・・」
思い思いの歓声をあげている。
そしてお待ちかねのプレゼントだ。
「これでたくさん花ができるです♪」
「うわぁ〜い! 苺ぉ〜♪」
「あぁ! クンクンの本だわ!」
「ついに私が完全体になるときが・・・・!」
蒼星石はみんなの様子を嬉しそうに見守っている。
私もみんなの様子を確かめた。
約一名、顔がかなりイってるが気にしない。
「それからねぇ? もう一つ来てたわよ?」
「「「「「???」」」」」
特別に奮発した二つ目のプレゼントを差し出す。
翠星石にはお洒落な鉢セット、雛苺には浜屋の苺セット
真紅にはクンクングッズ、水銀燈には服に合わせたアクセサリー
思わぬプレゼントにこれ以上ないくらい顔を輝かせる一同。
「みんなに笑顔を」これに応えるために出した苦肉の策がこれである。
もらうことがわかっているプレゼントでは効果が薄い。
そこで意表をついて他にもう一品用意したのだった。
「どう? 蒼星石ちゃん、みんなとっても嬉しそうでしょう?」
「うん、みんなすごく嬉しそう。」
「これで良かったのかな?」
「うん! 最高のプレゼントだよ。」
「それじゃあ、はいコレ。」
「?」
「サンタさんからのプレゼントよ?」
「なに?」
「開けてみたら?」
蒼星石は包みを丁寧に開いてゆく。
中には――
「うわぁ・・・・!」
彼女に合わせて作ったドレス
「綺麗・・・・」
「良く似合うと思うわよ?」
「ありがとう! のり。」
「え? それはサンタさんがくれたのよ? だから・・・・」
「のり? 私達を子供扱いされては困るわ。」
「そうです。 サンタなんて信じてるのはチビ苺だけです。」
「お生憎、それほど私達は純粋じゃないの。」
「それは水銀燈だけなのぉ〜。」
「・・・・なんですって?」
「まぁまぁ、チビチビもうっかりホントのコトを言っただけですから。」
「どういう意味かしら?」
「そこまでよ? それよりもみんな?」
「うん! せ〜の・・・・
のり! いつもありがとう!」
そういって一斉に差し出される贈り物。
それは感謝の手紙であったり、押し花であったり、
折り紙であったり、鳥の骨でできたウインドベルであったり・・・・?
思わず涙が溢れ出る。
「みんな・・・・ありがとうね・・・・」
ポロポロと零れ落ちる涙が止まらない。
やれやれ、まさかまったく同じ手を使われるとは・・・・
「のり? ボクの欲しいのは笑顔だよ?
だから笑ってよ?」
「そうね? うん、そうよね・・・・」
ともすれば途端に崩れそうになる顔に必死に笑みを浮かべる。
今日は最高のクリスマスだ。
「それじゃあみんな? クリスマスケーキよ!」
少し早いが先に見せておくことにした。
冷蔵庫を開けると――
「あら? おかしいわねぇ?」
作っておいたケーキがない。
一体どこにいったのだろう?
「変ねぇ?」
「どうしたの?」
「入れておいたケーキの箱がなくなってるの。」
「それって綺麗な包装がしてあるものかしら?」
「水銀燈ちゃん、知ってるの?」
「雀を狩ってたら、綺麗な箱を持った
ジュン君が出ていくのを見たのだけれど・・・・」
まさか・・・・
「ただいまぁ! おっ! これ旨そうだなぁ。」
「・・・・ジュン君? 冷蔵庫にあったケーキ知らない?」
「ああ? もらったよ。 また作ってよ。」
「・・・・ぅ」
「う?」
「ぅおらあああああああああぁぁ!!??」
「うわなにをせdrftgyふじこlp;!?」
「はぁはぁはぁはぁ・・・・」
私は雪道を駆けていた。
(もうすぐだからね? もうすぐだから!)
足を滑らせ、何度も転ぶ。
だが痛がっているヒマも休んでいるヒマもない。
早く、一秒でも早く行かなければ!
数分前の悪夢が頭をよぎる――
「じゃあ部屋に上がって待っててよ?」
「でも、お姉さんに御挨拶したいし、雛の顔も久しぶりに見たいから。」
「後で会えるよ。 絶対一緒にってうるさいからさ?」
「うん・・・・」
不承不承受け入れる。
キッチンに向かう彼を見送ったあと、脱いだ靴を揃えていると・・・・
「ぅおらあああああああああぁぁ!!??」
「うわなにをせdrftgyふじこlp;!?」
突如響く雄叫びと悲鳴!
ジュン君!?
「よぉくぅもぉ、ケ〜キを〜〜〜!?」
「ま、待て!? 話せばわか・・・・」
「ぅがああああああああああああ!!」
「ぎゃああああああああああああ!?」
―――ケーキ?
「やっば・・・・」
ジュン君が持ってきてくれたケーキを美味しく頂いたことを思い出す。
私は慌てて浜屋を目指す。 最短時間で戻ってくるにはあそこしかない!
(あと少し・・・・あと少しだけ持ち堪えて? すぐに戻るからね!)
浜屋のケーキが完全予約制であることを知らない
私は必死に走り続けた・・・・
皆の笑顔が恐怖にひきつる――
五体の人形達はすべて・・・・いや約一名、こちらをウットリと眺めながら
胸と股間をまさぐり、自慰にふけっている。 どういう趣味だ?
ともあれ大半の顔は恐怖にひきつり、泣き出すものもいる。
そして私の顔は怒りと悲しみに、最愛の弟の顔は苦痛に歪む。
一年で最高の日は一年で最悪の日となった。
――蒼星石ちゃん、ゴメンね?
でも今日だけは許して? 明日からはきっと笑顔に戻るから――
心中で誓いを立てた私は改めて血まみれの弟の体を貪る。
とりあえず命だけは許してやる!
「・・・・ジングルベ〜ル♪ ジングルベ〜ル♪ 鈴が鳴る〜♪」
私は雪道を歌いながらのんびりと歩いていた。
結局浜屋にケーキはなかった。
道行く人からの強奪も考えたもののこのタイミングで
買いに行くバカはそうそういるものではない。
救出作戦を諦めた私は関係各所に匿名で連絡を入れた後、
誘われていた友人達のパーティーに出ることにしたのだった。
「ホワイトクリスマスねぇ・・・・」
嫌なコトを頭から綺麗サッパリ追い払い、
明るい気持ちでクリスマスを祝う。
「メリークリスマース♪」
ひときわ大きな私の声が通りに響き渡った。
「 明 日 へ の 誓 い 」
完
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第二弾です
どうせ規制にひっかかるので第三弾は週明けにでも
御不満、御感想よろしく
第三弾 「冬に咲く花」
「うんしょ・・・・うんしょ・・・・」
小さな女の子が一生懸命に紙を折っている。
そして折りあがった様々な形の紙を張り合わせ、何かを作っていた。
「・・・・できたのぉ〜!」
やがて出来上がったそれは色とりどりの花を模していた。
少女は紙で花を作っていたのだった。
「これで元気が出るといいのぉ!」
少女は花を高らかに掲げ、その出来ばえに見入っていた。
「 冬 に 咲 く 花 」
「冬なんてつまんねーです・・・・」
翠星石は今日も窓の外をじっと見つめていた。
冬もいよいよ本番となり、外は一面の銀世界と化す。
そしてそれは「庭師」たる彼女ら姉妹にとっては耐え難い苦痛である。
妹である蒼星石は家事の手伝いで気を
紛らわしているがやはりどこか寂しそうだ。
そして手持ち無沙汰の翠星石はいよいよ憂鬱な気分に囚われていた。
「翠星石ぃ、こんなところにいたのぉ?」
「チビ苺ですか? なんの用です?」
「御飯ができたのぉ〜!」
「食う気がしねーです。 ほっときやがれです。」
「どうしたのぉ?」
「チビチビには関係ないです。 さっさと行やがれです。」
「むぅ〜・・・・」
雛苺は抗議の唸りを上げるも諦めて行ってしまった。
「・・・・冬なんて大っ嫌いです。」
誰にともない独白。
そして蒼星石が迎えに来るまで物置でじっと蹲っていた。
「翠星石が元気ないのぉ〜・・・・」
「それはそうでしょうね。 冬だもの。」
真紅が一瞥もくれず答える。
「どうしてぇ?」
「花の咲かない冬に庭師なんて不要だものねぇ?」
水銀燈は皮肉な笑みを浮かべ、露骨に蒼星石を伺った。
黙って俯く蒼星石に雛苺は無邪気に問う。
「お花がなくて悲しいのぉ?」
「うん・・・・ボク達はお花の世話が生きがいだからね。」
「温室でもあればいいのでしょうけどね。」
「まぁ! そんな贅沢なものがこんな貧乏屋敷に・・・・」
ピュンッ!
「・・・・水銀燈ちゃん? 何か言った?」
「い、いえ、一言も発していませんわ!」
「そう? いい子ね♪」
のりは水銀燈の首筋にあてがった出刃包丁を収めると料理を配り始める。
「あら? 翠星石ちゃんは?」
「物置から出てこないのぉ・・・・」
「ボク、呼んできます。」
「そう? じゃあお願いね。」
「出来た妹よね? ホント誰に似たんだか・・・・」
「翠星石のひねくれ具合はきっと貴女似ね?」
「どういう意味かしら?」
「言葉どおりの意味だけど?」
「はいはい! そこまでよ?」
包丁を突きつけられ、慌てて食事に入る二人。
「お花・・・・」
大好物の花丸ハンバーグも目に入らぬのか
雛苺はじっと思案に暮れていた。
「ジュン。 お花はどうやったら咲くの?」
雛苺はPCのモニターに見入っている少年に尋ねる。
「花? 種植えて水と肥料をやれば咲くんじゃないか?」
「本当ぉ? じゃあ、植えてこようっと♪」
「おい! 植えるってどこに植える気だ?」
「お庭!」
「こんな寒い時期に咲くわけないだろ?」
「えぇ〜!? じゃあどうやったら咲くのぉ?」
「冬には咲かないよ。 春まで待てよ。」
「それじゃダメなのぉ〜! 今いるのぉ〜!」
「無茶言うなよ・・・・」
少年はまたモニターに集中し、もはや一顧だにしない。
その様子を面白そうに見つめていた水銀燈は
しょんぼりしている雛苺にそっと近付いた。
「雛苺。 翠星石に花を見せて上げたいのね?」
「えぅ? うん・・・・」
「でも冬に花は咲かないものよ? 花屋で買うこともできるけど結構
高いし、とても翠星石や蒼星石を満足させる量は手に入らないわ。」
「ぅ〜〜〜・・・・」
「そんな顔しないの。 可愛いお顔が台無しよ?
それならお花を作ればいいのよ!」
「作る?」
「そう! 雛苺は折り紙が上手でしょう? 二人のために
お花を一杯作って部屋をお花畑にしてあげなさいな。」
「それで喜ぶかなぁ・・・・」
「確かに本物の花ではないし、世話をする喜びもないわね。
でも気持ちは和むと思うし、貴女のその気持ちもきっと二人に伝わるわ?」
「・・・・うん! 雛、お花作る!」
「いい子ね! じゃあ紙を持ってきてあげるわね?」
そう言うと水銀燈はあちこちから紙やノートを集めてくる。
「私はこれから用事があって手伝ってあげられないけれど頑張ってね?
あと、ビックリさせるために物置でこっそり作るといいわ。」
「うん、ありがとうなの。 雛頑張るのぉ!」
水銀燈はニンマリと微笑むと冬の空に飛び出して行った。
そして少女は花を作る
大切な人のために
紙を切り、折り、貼り付けて
次々と花を生みだしていった――
「はぁ・・・・」
蒼星石に付き添われ、遅い夕餉を済ませた翠星石は部屋に戻った。
蒼星石も同じ気持ちなのか何も言わず、黙って後につき従う。
ガチャッ
「えっ・・・・?」
ドアを開けると、そこは色とりどりの花で溢れていた。
足の踏み場もないほどに散らばっている。
「な、なんですかこれは?」
「紙の花?」
「あっ!? 翠星石ぃ! 蒼星石ぃ! お花なのぉ!」
「何言ってやがるですか? こんなもん紙でできた偽者です!」
「うん・・・・でも雛、他にできることないから・・・・」
少女は寂しそうに俯く。
「雛ね? 翠星石にも蒼星石にも早く元気になってほしかったの。
でも、ホントのお花は雛には高くて買えないの。
だから・・・・偽者でゴメンね?」
雛苺は目に涙を浮かべながら必死に笑顔を作ろうとする。
「チビチビ・・・・」
思わず自分の軽挙を悔やむ。
「ふ、ふん! こんな下手糞な花なんて、花じゃないです!」
「ふぇ・・・・」
「翠星石! なんてこと・・・・」
「だから・・・・翠星石がお手本を見せてやるですよ?」
「・・・・翠星石?」
「さぁ、紙を寄越すです。 一緒にお花を作るです。
まだまだこんなもんじゃ足りないですよ?」
「うん!」
ことの成り行きを心配して見守っていた蒼星石も
笑顔を浮かべその中に加わった。
「・・・・貴方達、なにをしているのかしら?」
真紅は変わり果てた部屋を見るなりそう尋ねる。
「今花を作ってるです。」
「いっぱいつくるのぉ〜♪」
「真紅も一緒にどう?」
「はぁ・・・・遠慮しておくわ。」
真紅は呆れたという風に溜息をつくとお気に入りのベッドサイドに向かう。
「あら?」
使われている紙に既視感を覚え、思わず手に取る。
その紙は彼女の『クンクンレターセット』の一つだった。
「・・・・一体誰の紙を使っているのかしら?」
ただならぬ気配に振り返る一同。
「し、真紅、どうしたの?」
「この紙は私のクンクンレターよ?
雛苺? 一体誰に断って使っているの?」
「あ、あぅ・・・・」
「まぁ待つです真紅。 チビチビも悪気があってしたワケじゃ・・・・」
「あら? これは貴女達の『押し花ダイアリ』じゃないの?」
「・・・・あぁ?」
その言葉に途端に引き歪む翠星石の顔。
蒼星石もよほどショックだったのかその目は魂が抜けたように虚ろだ。
「ああ!? オマエらボクの部屋で何やってんだ!」
「どうもこうもないわ。 雛苺が私のクンクンレターで折り紙をしてるの。」
「お・・・・お・・・・『押し花ダイアリ』がぁ・・・・!?」
「・・・・」
「あ、あぅ〜〜・・・・」
雛苺は突然の苦境にパニックを起こし、ろれつがまわっていない。
「なんだってぇ? ってボクの教科書とノートがあぁぁぁ!?」
「どうしたのみんな?」
騒ぎを聞きつけてのりが上がってきた。
「雛苺がボクの教科書とノートを折り紙にしやがったんだ!」
「あらあら・・・・」
「あら? これは家計簿かしら?」
また一枚摘み上げていた真紅はその花をのりに指し示す。
「なっ!?・・・・雛ちゃあ〜〜〜ん?」
「えぅ!? あぅあぅあぅ・・・・」
雛苺は必死に何かを訴えているが勿論通じない。
そして―――
「いやああああああああああなのぉ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!??」
少女の悲鳴がこだまする。
「うんっ・・・・あっ、あん・・・・いいわ、もっと・・・・」
その様子を眺めながら水銀燈は自身の胸と股間を弄っていた。
「きゃああああああああああああああああああああああ!?」
「あふっ・・・・素敵・・・・もっと、もっと聞かせて・・・・」
悲鳴が響く度にそれにあわせて全身が大きく揺れる。
「いたぁい!? 痛いのっ! いやなのぉ! いやああああああああ!?」
「あっ! いいっ! いいわ!? もっと! いいっ! イクっ!」
「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・!?」
「イっちゃう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
その身がひときわ大きく跳ね上がると、ゆっくり崩れ落ちた。
「はぁはぁはぁ・・・・雛苺? とっても良かったわよ♪」
満足したのか、水銀燈は寝床でもある鞄の中に入って行った。
すべては水銀燈の企みだった。
例え主犯が自分であっても雛苺にそれを上手く伝えることはできない。
そこまで見こして自慰の『オカズ』に仕立て上げたのだった。
後にそれは発覚し、水銀燈はゲチョゲチョに
嬲られた上、上半身生き埋めの刑に処される。
その様はまるで一輪の白い花のようであり、
人々に『マンドラゴラ』と仇名されるようになったという。
「 冬 に 咲 く 花 」
完