ある日、ある家の前に鞄が置いてあった。

その中には生きた人形が入っていた。

人形は自分のことを蒼星石と名乗る。

拾った主は人とは思えないほど醜く、そして残虐だった。

「飲み物を持ってきました」
声は震えている。
「・・・ふんっ」
ばしゃっ
持ってきた飲み物を人形にかける。
「お前は使えないな」
人形をにらみつける
「ひっ」
思わずその人形は声をだす
「で、ですけど片手じゃお茶を入れるのも大変で・・・」
バスッ
人形の足にナイフが刺さる
「え、・・・あぁぁあああぁあぁああああああ!!!!!」
人形にも痛覚はあるらしく、その人形は床を転げまわった
片腕の無い人形、来たときはもっと整っていた体も今は無残な姿に
なっている

人とは他人を害して生きるのである

その人形は自分を蒼星石と名乗った
「これから、よろしくお願いしますマスター」
元気のいい声だった

新しいマスターとの出会いの日
その日、その人形はとても楽しく凄した
最初で最後の楽しい生活だった

次の朝
「起きろっ」
その男は鞄を開けて人形の頭を思いっきり踏みつけた
「あ、マスターおは・・・痛っ、痛いよマスター。やめて、いきなりどうして」
起きたのを確認するとその男は人形について来るように言った

着いた先は台所であった
「お前は俺の奴隷なんだろう?だったら何か作れ」
「マスター、いきなりどうしたの?昨日はあんなに優しく―
言葉が終わらないうちに人形の腕にはクギが刺さっていた
「う、ああああぁあぁぁああl!!!!!!!痛いっ、痛いよー!!」
泣き出す人形、しかし男は表情一つ変えない
ただ一言
「黙れ」
人形は泣き止む
痛みを必死にこらえて
「俺はさっき言った。何か作れと。お前は口答えせずに黙って作ればいい」
恐ろしい目だった
この世の者とは思えないような目で人形は見られていた
「わ、わかりました」
そんな男の目に感化されたのか、人形は無意識のうちに敬語となっていた

「まずい」
「えっ」
「まずいと言ったんだ」
男が中身の入った食器を人形に投げつける
「痛っ」
人形に勢いよく当たる
「ろくに飯も作れないのか」
「ご、ごめんなさいマスター」
「まぁいい、こっちへ来い」
許してくれると思ったのか、その人形は少し笑顔になって
その男へと近づいていく。そして
「役に立たない腕なんていらないよな」
人形をつかんで耳元で言った

「えっ」
ばきっ
何かが折れた音
人形は自身に何が起こったか分かる前に
「ぎ、ぎゃあああぁあぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!!!!」
痛みは襲ってきた
「痛いぃぃぃ、痛いよぉ、うわぁあぁっぁぁあ!!!」
人形の右肩から下は無くなっていた
「腕が・・・僕の腕がぁ・・・な、無くなっちゃったぁ」
人形は叫ぶ、力の限り
だが、男はその様子をやはり顔色一つ変えずに見下ろしていた

「ま、マスター・・・どうして」
人形は尋ねる
「理由は無い。俺がそうしたかっただけだ」
「そんな・・・うぅ」
痛みは引かない
「今度、使えないことがあったら・・・そのときは残りの四肢を一つずつ
もぎ取っていってやる」
その言葉に人形は絶望した
この人は違うと。このマスターは人間じゃないと

その人形は、蒼星石は、新しいマスターと会って
2日目にしてそのマスターによって片腕をもぎ取られたのだった

「お前は本当に使えないな」
左足に刺さったナイフを見ながら男は言う
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。マスター許してください
もう失敗しません。許してください」
足を刺された痛みに耐え、必死に許しを懇願している
しかし男は無言のまま、人形を持ち上げる
そして

ぶちぶちぶちぶちっ

左足は引きちぎられる
「ぎゃあああああああああぁああっぁぁ!!!!げほっ、げほっ!!」
人形は叫ぶ、引きちぎられてもはや無くなった左足を見ながら
「ごめんなさい!!ごめんなさいぃぃ!!もうしないから許してください!!」
それでも人形は許しを請う
「痛いっ!!うわぁぁぁぁぁん」
泣き続けながら

男はその様子を見て人形を思いっきり床に叩き付けた

「ぐえっ!」
鈍い音と共に泣き声が止まる
人形は動かなくなった
かすかにぴくぴくと痙攣しているのがわかる

男は、無言のまま寝室へと入っていった

さらに3日後・・・

右腕、左足を無くした蒼星石は男の体を拭いている
その表情は絶望的な、一寸の光も届いてない顔だった
人形は双子の姉妹を思い出していた

翠星石

素直ではないが、本当はとても優しい
振る舞い言動のせいで嫌なやつと思われがちだが
双子である蒼星石には、彼女の気持ちは分かっていた
今は自由に立つ事さえも出来ない体になった蒼星石
翠星石がこれを見たらどう思うだろうと考えてみる
だがそれは逃避だ
いくら翠星石のことを思っても、今の状況にかわりは無い

「つっ」「あっ」

考え事をしていたせいか、力が入りすぎてしまう
「てめぇ、やりやがったな」
男は睨み付ける
「ひっ。ご、ごめんなさい。考え事をしていてつい。」
だが言い訳も空しく、男は人形の右足を掴んだ

「いやだぁぁぁぁぁ!!!痛いのはいやだぁ!!!!」
必死に抵抗する蒼星石。だが

ぶぢぶぢぶぢっ

現実は残酷だった

「う、あ、ぎゃぁあああああああああああ!!!!!」

右足は付け根から抜き取られるような状態で折れていった
「すいせいせきっ!!助けてよっ!!!痛いのやだよー!!!!!」

自分の半身の名を呼ぶ。助けを求めて。
「助けてよっ!!誰でもいいからここから助けてよ!!!」

彼女は助けを求め続ける。無駄なのに。
今や体と左腕1本しか残っていない彼女が誰かに自分の危機を
知らせることは到底不可能だった

次の日からは蒼星石はほったらかしにされた
男は人形に興味が無くなったのか、命令はおろか見ようともしない

蒼星石は考えていた
何故、自分がこんな目にあっているのか
何故、誰も助けに来てくれないのか

他のドールは蒼星石がこんな目にあっていることなど知る由も無いのだろう
だが、蒼星石はそのことを考え続けた。

「何で、誰も助けに来てくれないんだよ」

その時、蒼星石の前方で物音がした

「誰っ」
突然のことに驚いき、声をかける

「もしや、僕を助けに来てくれたの?」
蒼星石は久しぶりに笑顔を取り戻す

「ここだよっ!僕はここにいるよ!!」
自分の場所が分かるように。
助けに来てくれた仲間に分かるように呼びかける

足音が段々近くなる
「こっちだよ!早く!」
出られる!出られるっ!

蒼星石の頭にはここから出られるという期待と、仲間が自分を助けに
来てくれたという喜びでいっぱいだった。

「もうここにはいたくないよ。こんな姿になっちゃったけど信じてた。
僕は、君たちが助けに来てくれると信じてた。」
だからなのかもしれない。
蒼星石は目の前に現れた姿を見て。
自分を助けに来た者の姿を見て。

絶望した。

「そ、そんな・・・」

蒼星石の目の前にいるのは1匹の鼠だった。
そもそもこれだけ部屋が散らかっているというのだ。鼠がいないとは限らない。
鼠は蒼星石に付いた食べ物のに臭いを嗅ぎ取って現れたのだ。
「こ、来ないで・・・」
蒼星石は怯える。普通ならどうってことない鼠に。

「来ないでよぉ・・・」
恐怖が体を支配する

「嫌だ・・・嫌だ・・・嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ」
鼠が口を開ける

「嫌だぁぁあっぁああ!!!!」

そして鼠はその人形の頭に噛み付いた

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「蒼星石、お茶を入れて頂戴」
赤い服を着た人形が前方に話しかける

「わかったよ、真紅」
話を聞いたショートカットの人形はいそいそとポットを戸棚から取り出した。
「銘柄は何にする?」
「そうね、オレンジペコあるかしら」
「ちょっと待って・・・・うーん、無いみたいだよ」
蒼星石は戸棚の中を調べながら言った

「じゃあ、あなたが選んでくれて良いわ」
真紅のその言葉を聴き、蒼星石は近くにあったダージリンの箱を手に取った

「出来たよ真紅」
蒼星石はポットを手にし、テーブルへ近づいた。
そして、真紅専用カップに丁寧に注ぐ

カップに透き通った綺麗な色の液体を真紅はコクンと飲む
「ん、美味しいわ」
素直な感想だった
「最近は雛苺が入れる紅茶ばかりだったから、なおさら美味しく感じるわね」
ふっ、と軽く笑いながら話す。

「あはは、ありがと真紅」
自分の入れた紅茶を評価されて蒼星石は少し照れている。

「雛の淹れた紅茶もおいしいはずなのー、きっとそうなのー!」
そのやり取りを見ていた可愛らしい人形が叫びながら真紅たちの方へ
駆け寄ってきた。

「こらー、ちび苺!待ちやがるですぅー!!」
可愛らしい人形に次いで、それを追っかけるように長髪の人形がやって来る。
その手には落書きをされたジョウロが握られている。

「雛が淹れた紅茶は一番なのー!」
その人形は飛び跳ねながら真紅に訴える

「そんなことよりこれどうしてくれるですかー!!」
翠星石はさらに大きな声で雛苺に対して訴えている

「全く・・・・騒々しいわね」
真紅はその様子を見て呆れているようだ。

「全くだね」
蒼星石も同じく呆れている。
しかしその心は楽しさとうれしさと、そして温かさでいっぱいだった。

「いつまでもこんな日が続きますように」
蒼星石は誰にも聞こえない程度の小さい声でそう言った。

ガリガリガリ

ガリガリガリ

ガリガリガリ

ガリッ

「うわぁあああ!!!!」
一際大きな音がして正気が戻る。

「止めて!!止めてよぅ!!いい子だから、止めてよー!」
蒼星石の目の前には一匹の鼠がいる。

その鼠は人形の頭、顔を中心にあらゆる所を噛み付き、齧っていた。
その被害者である蒼星石は、最初に齧られたときの痛みと
絶望によって意識を失った。

「齧らないで、噛み付かないで!!おいしくないから!!
僕なんて食べてもおなか壊すだけだから!!!!」

どうにか鼠を放そうと必死にあがく蒼星石
しかし、左手一本ではろくに引き離しも出来ない。
それどころか鼠に(敵)という認識を与えてしまっていた

「あ、ぁ・・・」

意識を失ったときに見た何かを思い出そうとする。

幸せな自分がそこにいた

もしもの話、IFの世界
もしかすると、こんな地獄じゃなくさっき見ていたような
幸せな世界があったのかもしれない。

だが、現実は無残にもそれを考えている頭を壊していく

「ぎゃぁああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」

物凄い叫び声を挙げて蒼星石は叫んだ。
それは今までの、どれよりも大きく長い叫び声

鼠は人形の目を齧りだしたのだ

「あああぁぁぁぁぁああぁぁぁあ!!!!!!!」

未だ続く叫び声は終わりそうも無い。

男は無言で飯を食べている。

傍らには常に木刀を置いていた。

いつでも、誰が来ても自分の身を守れるように。
それが自身のアイデンティティでもあったからだ。

男は喋らない、決して喋らない。

ただ、無言で飯を食べているだけだった

男は一人で生きてきた。
自分でやらなければいけない事、他人に任せてもいい事。
皆で協力してする事。
全部全部一人でやってきた。

その理由の一つは、その男は他人を信じられないからだった。
言い換えれば、男は他人へ、自分以外の全てに絶対の恐怖を持っていた。

何故、男がそのような者を持っているかは分からない。
男自身にも分からなかった。

ある時、男は親からハムスターを与えられた。
自分の子供が閉じこもり、全く他人を見ようとしないのを親が心配しての事だった。
ペットと接する事で少しでも子供を明るくさせたいと思った。

それから、男はハムスターと遊ぶようになった。
親もその様子を見て安心した。

しかし、日に日に弱っていくハムスターはたった1週間で死んでしまった。
いや、殺されてしまった。
無残だった。
体中の毛は毟り取られ、指は無かった。
生き物だったそれを手のひらに乗せて、男は親にこう言った。

「こいつ、壊れちゃった」

「ああああああああああああああああ!!!!!」

蒼星石は叫ぶのを止めない。

ようやく鼠が目から口を離した。

「うぅ・・・ぅ・・・ぁ」
それによって叫びも少し止む。

だが、鼠は今度は左腕を齧りだした。

男は2つ隣の部屋にいた。
先ほどから聞こえてくる悲鳴のせいで我慢の限界に来ていた。
男はそばにある木刀を持って、蒼星石のいる部屋へと向かった。

「うわぁあぁぁぁぁぁ!!!!」
左腕を齧られている蒼星石は再び叫びだしていた。

部屋のドアが開いた。

今までどれだけ叫んでもやめようとしなかった鼠がその音を聞いた途端
凄い勢いで部屋の奥へと消えてしまった。

「おい」
男は声を掛けると同時に蒼星石の左腕を掴み持ち上げる。
しかし蒼星石は答えない。
そして気づく、その人形の姿がさらに変わっていることを。

「ぼろぼろだな」
男はすこし笑っていた。

「喋る人形だから、と思っておいてはいたがここまで壊れちゃな」
そう言って、男は蒼星石の左腕をもぎ取った。

ばきっ

折れる音がする。

「ぅ・・・ぁ・・・」

最後の腕を折られたにもかかわらず蒼星石は無反応だった。
人形の、蒼星石の心は完全に壊れていた。

「さて、どうするか」
何も反応しなくなり、ただ時々声が漏れるだけの人形を見て男は考えている。

「このまま捨てても良いが、気持ち悪いな」
四肢をもぎ取られ、顔は滅茶苦茶なその人形を捨てるということは決まったようだ

「おい、聞こえないのか」
蒼星石は反応しない。
反応を無いのを見ると、男は壁に思い切り投げつける。

「ぐぇ」
息が急に漏れた声がした。

「今からお前を捨てに行く。最後に何かしてほしいことはあるか」
男は笑いながら言った。

壊れた体

壊れた心

そこに、わずかだが理性は存在していた。

「・・ぁ・・・ぅ・・・ぁ・」
蒼星石は、彼女は信じていた。
かつて、一緒にいた仲間たちを。
しかし、その期待は全て崩され彼女は無残な姿になっていた。

「んん、はっきり言わないと分かんないぞぉ」
必死に何かを言おうとしているような彼女を見て、男は笑っている。

「ぁぁぁ・・・ぅぁ・・・」
「そうか、何も無いのか」
彼女が何も言わない、言えないので男は勝手に頼みは無いことにした。

「それじゃ」
男は言う

「さよならだ」

ザー ザー

雨が降っている

ザー ザー

町外れの森、その中に彼女は居た。
男はもう居ない。自分の家へ帰ったからだ。

「ぅぁ・・ぁ・・・」
彼女には何も分からない。
どこに居るかも、もはや自分が誰なのかも分からないのかもしれない。

そのまま数時間が過ぎて夜が来た。

彼女は光を伴っていない右目で空を見ている。
正確には見ていないのだが。

「・・・・ぁ・・・・・・」
彼女にはもう何も分からない。
段々弱っていく体のことも全く分からない。

彼女の命、ローザミスティカはその輝きを失いかけていた。

徐々に弱々しくなっていく輝き

その中で彼女は目にした。

「・・・ぁ・・・ぁぁぁぁ・・・ぁぁぁぁぁぁぁ」

目の前には翠星石が居た。
何も分からないはずなのに、蒼星石は涙を流している。

翠星石はゆっくりと近づき、蒼星石に言った

「よく・・・良く頑張ったです、蒼星石」

翠星石の足が地から離れる。

「頑張ったです、蒼星石は。だから、みんなで迎えに来たです」

翠星石の後ろには他のドール達がいた。
真紅、雛苺、金糸雀。水銀燈までもが。

「頑張ったわね、蒼星石」
「蒼星石は凄いのー」
「本当、凄い頑張ったかしら」
ドール達は口々に彼女に話しかける。

「良く、耐えて、頑張ったわね。
体、壊れちゃってるけど、アナタはジャンクなんかじゃないわ」
水銀燈が近づきながら言った。

「さぁ、そろそろ行くです」
そう言って、翠星石は彼女の体を抱いた。

「さあ、行くわよ」
真紅が先頭となって空に向かい飛ぶ
それに続き他のドール、彼女も一緒に飛んだ。

「アナタにはまた紅茶を淹れてほしいわ」
真紅が言う
「雛ともたくさん遊んでほしいのー」
雛苺が言う
「一緒に楽器でもやらないかしら」
金糸雀が言う
「アナタとは話したい事が沢山あるわ」
水銀燈が言う

「これからは、ずっと一緒にいるです」
翠星石が言った

それを聞いた彼女は頷いて

「うんっ!」

返事をした

町外れの森の中に彼女は居た。

だが彼女はもう動かない、喋らない。

彼女のローザミスティカは既に輝きを止めている。

誰にも知られず、ひっそり彼女はここで眠っている。

ぼろぼろの体。ぼろぼろの顔。

しかし、彼女の寝顔はとても穏やかだった。

時が過ぎれば、やがて彼女は土に還るだろう。

その時が来るまで私は彼女を見守るつもりだ。

このひっそりとした森の中で彼女を見続けるつもりだ。

誰にも邪魔されないように、この場所を犯されないように・・・

ここからが私の本当の仕事なのだ

それでは皆様

ごきげんよう

----
以上、これで終わりです。
ここで一つ

やっぱり直書きはいけないと思います><

と、言いながらも結局直書きな訳ですが。
直書きの理由は、話自体を短く済ませようと思っていたからですけど
思いのほか長めになっちゃったようですね。
お陰で誤字やら矛盾やらが出まくりですが、気にしないでもらえれば幸いです。

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