俺の日課は学校帰りにゲーセンによって、
クレーンゲームで遊び倒すことだ。
プライズゲームという淫靡な響きが俺の欲望を刺激する。
ああ・・・オウ、イエス。

今日は鶯谷駅のすぐ近くにあるゲームセンターモリモリに挑戦だ。
確かここのアームは手ごわい。弱い上に、角度がついてる。
でもそこは達人テクニックで難なく攻略だ、すごいぜ俺。
わくわくしながらプライズコーナーに向かう
顔は純真無垢な子供のそのもの。

『ローゼエンキャチャァ』

一歩踏み込んだプライズコーナー。
いつもとは違う、何かがおかしい。この店のクレーンゲームはなにかおかしい。

1機のクレーンゲーム(逆に言えば1機しかない)
には、むさくるしい男ばかりが、10人近く並んでいる。
しかも全員万札を握り締め、なにかブツブツ言いながら
順番待ちをしているようだ。
こんな狂気に満ち溢れた場所とはおさらばしたい。
しかし、みんな何を狙っているのかが気になる。
仕方なく、そのむさくるしい男達を掻き分け、
筐体の前へ進む。くせー、おまえら風呂はいってんのかよ。
そして、俺は目の前の風景に愕然とする。
あまりにもショッキングでしっこちびりそうだった。
クレーンゲーム筐体の中にはほぼ下着姿の女の子、
目に涙を浮かべ必死でガラスを叩いている。
そして、そこに忍び寄る、棘のついたアーム。
棘は洋服にひっかかり、少しづつ破きながら、
その魔の手を彼女へと近づけて行っているのだ。
「マスター・・・助けて、マスター・・・」
女の子は訳の分からない言葉を言いながらおびえている、
洋服の破片と思わしき青い布切れがいくつも落ちているのが見えた。
「もうちょいだなー。あと一回やればとれそうな気がするな」
現在クレーンゲームをしているのは茶髪ロンゲのデブオ、
いやらしい笑いをしながら、もう一度アームを動かす。
なんということか、これは未成年者の性を略取する
立派な犯罪だ!許せん!社会の敵だ!
しかし、俺は気付く。

彼女は蒼星石だ。あのローゼンメイデンの蒼星石だ。
なるほど人形なら何をしても言い訳か。
一時期エビキャッチャーとかいう異色なクレーンゲームが出てきたときに
「生き物をゲームの景品にするとは何事か!」と
一大ブーイングとなっていたが、これなら文句はない。
なるほど、店主も良く考えたもんだ。

・・・なんていうと思ったかボケ!
俺は、後先考えずに、今プレイしている、茶髪ロンゲのデブオの顔に右フック、
デブオはスローモーションで宙を舞う。
「ちくしょう、女子供はすっこんどけ!」
どんなバカ悪口を言われても負け犬の遠吠えだ、気にならない。
こうなったら、店主に抗議して、この哀れな蒼星石を開放せねば。
しかし、カウンターの奥からは店主の無言の重圧。
“あんたも漢なら、その腕で助け出してみいや”
俺もクレーンゲーマーの端くれだ、よし、この手で救い出してやろうじゃないか。

コイン投入口は無い、あるのは両替機のようなお札が吸い込まれていく投入口だけだ。
『一回壱万円也』
むさくるしい奴らどもが一万円を握り締めていたのは、こういうわけか。
しかし、ボロイ商売だ。このクレーンゲームが全国にあればゲーセン不況もなんのそのだろう。
いやいや、集中しなくては。俺は、1万円札を計5枚取り出す。今月のバイト代全額だが、
いたいけな蒼星石を助けるのは金に糸目はつけない。それに俺の誇りもかかっている。
5万円で1回おまけの6回の挑戦。俺は全身全霊をかけて、この一世一代の大仕事にかかり始めた。
まず右に動くアームそして、前に動き、蒼星石に狙いを付ける。
しかし蒼星石は逃げ出してしまった!そうか!このアームに棘がついているのをすっかり忘れていた。
彼女はおびえている。痛みに恐怖している。棘付きアームがかすると、
服が破れるとともに、やわらかい皮膚を傷付けた。
ちくしょう、えげつないなんてもんじゃない、これじゃとれないではないか。
店主も裏で笑っている
その後もチャレンジするが、やはり蒼星石は棘付きアームに怯えている。
いよいよ最後の一回。俺のクレーンゲーマー魂が燃える。ここで取らなくては漢がすたる。
蒼星石に目配せをする。彼女にも俺の気持ちが通じたみたいだ。
そして、アームが動き出す。
その瞬間蒼星石が中で走りだして、景品出口に飛び降りた。
ビンゴ!狙ったとおり!蒼星石も作戦を理解してくれたようだ!
ここにいる全員、まさか景品から景品出口に入ってくるとは夢にも思わなかったろう。
こうなったら、もうあとはめちゃくちゃだ。ぎゃあぎゃあ騒ぐ男どもと店主を尻目に俺は
急いで店を抜け出す。ゲーマー魂に若干の傷はついたが、まあいい一人の蒼星石を救えたのだから。

家につくと、とりあえず蒼星石に着るものを与えた。
今のままじゃあんまりにもかわいそうだ。
俺が小学校の時に使っていたお気に入りの向日葵柄のワンピースだが、サイズはぴったり。
これはつまり、あの頃の俺は女子の中で得にちいさかったって事だろう、
今考えると若干のショックだ。
「あの、あり、ありがとうございます」
あまりこういう服を着慣れていないのか妙にもじもじとしている。
こう見ると、彼女もけっこう可愛い。本で彼女のことを知ったときは
正直男かとおもったが、こんな服を着てきちっとしていれば
十分女の子として通用するだろう。

夜飯を食べて、とりあえず夜。
男どもの欲望のはけ口としてさんざん辛い思いをしたのだから
きょうぐらいは、不安を取り除くために
いっしょに寝てあげるのも悪くないと思った。

「あの・・・・」
うつらうつらとしてきた時、彼女が俺に話しかけてきた。
「なに?」
できるだけやさしい声で言う。
「マスターって呼んでもいいですか?」
その言葉に頷き、俺は彼女をそっとやさしく抱きしめた。

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