「のら銀燈」

『どなたか ひろってください 生後100年くらい』
ダンボール箱のなかには、いっぴきの野良銀燈がいました。
この頃多いんです、最初は水銀燈の可愛さに引かれて安易にミーディアムになり、
だけどブームが過ぎると飽きて、物のように捨てるような人が。
虐待されて、ジャンクになる水銀燈も多くないのですが、そんな中でも
野良銀燈達は精一杯生きているようです。

この野良銀燈もそんな中の一匹でした。
生後まもなく、ミーディアムの愛情も感じることなく捨てられてしまったのです。
今は、背中のねじを巻いてくれる人だっていません。

 ダンボールの中から、のっそりと野良銀燈が起きだしてきました。
まず、起きだしたら、大きく背伸びをして、
それから自分で自分の背中のねじを巻きます。
これをしないと動けなくなってしまうのですから仕方がないんです。
もうローゼンメイデンだとかなんだとか言ってられる状況ではありません。
 それが終わると、まず町内を一周。他の野良ドールとあれこれ話したり、お互いのねじを巻いたりしながらぐるっとひとまわり。
次にコンビニから朝ごはんのヤクルトを少しだけ失敬します。
『こら!この泥棒銀燈!!』
店員さんが追いかけてきますが、そんなのはもうなれっこ。
容易く姿をくらまして、追っ手を巻きます。

 それからは、新しいミーディアムを探して当てもなく町中を歩き回ります。首からあのダンボールの文字を
ぶら下げ、とことこと歩くのです。
でもなかなか新しいミーディアムは見つかりません。
この頃は水銀燈禁止の貸家や賃貸マンションも増えてきましたし、なにより水銀燈のブームは大分前に終わって
いるのです、もう終わりなのです。

 野良銀燈はまた元の場所に戻ってきました。今日もまたひとりぼっち、飼い銀燈には慣れなかったのです。
心なしか、電柱の明かりが滲んできたような気がします。
「あら、可愛いすいぎんとう。おいで、おいで」
ふと上のから、手が差し伸べられました。
それは野良銀燈の知っている女の子でした、名前はめぐと言います。
頼みもしないのに、いつもこの時間になるとやってくるのです。
だから、野良銀燈はしらんぷり。一時の愛情なんて欲しくないのです。偽善的に差し伸べられる手には慣れっこ、
いちいち反応するだけ野暮ったらしいと言うものです。

「ほら、ほら、だっこよ」
野良銀燈は抱き上げらてしまいました。
とっさのことにびっくりした野良銀燈はとっさに羽でその手を傷つけてしまいました。
「…大丈夫よ、ぜんぜんいたくない、いたくない」
普通、羽で傷つけたらその痛みで水銀燈を地面に落とすかもしれないのに、このめぐという人間は
そうしませんでした。必死で痛みをこらえて、野良銀燈を抱きしめてくれているのです。

それから数日たちました。野良銀燈はあれ以来、なぜか何をやってもぜんぜんしっくりときません、
一時、あと少しで新しいミーディアムになってくれる人も見つけました。
でもぜんぜんうれしくないのです。
それは、あの日以来めぐが来てくれないからなのです。

新しいミーディアムは諦めました、心のどこかにめぐが引っかかって何も手に付かないのです。
野良銀燈は走ります。めぐを探して町中を走り回ります。人通りの多い商店街、図書館、他の野良ドールの縄張りで、
野良真紅に噛み付かれたりしましたが、諦めません。その二つの瞳にはめぐしか写っていないのです。

そして、とうとう見つけました。場所は私立病院の診察室。
野良銀燈は窓の外からこっそりとその様子を伺います。
「おそらく、軽度の狂水銀燈病と思われます。先日の高熱はそれが原因でしょう」
めぐはお医者さんと話しています。狂水銀燈病というのは、予防注射をしていない野良銀燈がよくかかる病気の一種で、
主に羽などで引っかくことなどにより感染します。命に別状はありませんが、
酷い高熱が何日も続くとてもつらい病気なのです。

「今後は野良銀燈には近づかないことですね、次、発症したら命の保障はできません」
お医者さんの口からは野良水銀にとって絶望的な言葉が飛び出してきました。
もう、めぐに会えない。もう二度と…

「でも、お医者様。私、あの子に会いたいんです。あの可愛い野良銀燈に」
めぐの目にはなんの迷いもありません。命を失うかもしれないのに、
それでも野良銀燈に会いたいというのです。
「まあ、そこまで言うのなら止めませんがね、やれやれ」
野良銀燈は今にでも飛び出して行きたい気持ちでいっぱいでしたが、そうはしませんでした。
今出て行ったら、めぐの気持ちを踏みにじってしまうと思ったからなのです。

数日後、めぐは元気な姿を取り戻して、野良銀燈の前に現れました。
「こんにちは、野良銀ちゃん、このごろ会えなくてごめんなさいね」
でも、はずかしがりやの野良銀燈は、感情をあらわにして喜びはしません。

ただ、挨拶代わりに羽を動かして、めぐに気持ちを伝えていました。

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『水銀燈のあたまをぺちんとひっぱたたくだけで手軽に高収入が』

ある日、突然町中にこのポスターが貼られました。
電話ボックスから犬のポチの背中まで、このポスターが貼られていないところを見つけるほうが
難しいほど。迷惑だ、と家の前に張られたポスターをはがそうとした人もいますが、
3重4重に張られたポスターは、やる気を奪うだけではなく、ポスターをはがそうとした人も
その気にさせる絶妙な魅力がありました。

渦中の水銀燈は、どこにいるかと言うと、集合住宅のダストボックスの中で小さく固まって
息を潜めています。
ことの発端は、二時間ほど前、めぐに会いに行こうと病院に向かってふよふよと地面30センチほどを飛んでいたときのことです。
(なんですいぎんとうがふよふよとべるかについては、『ろーぜんめいでんひみつブックA ¥500』
にのっています、おかあさんにかってもらってね)

突然一人の少年が水銀燈のことを捕し、頭をぺチン、いえ、平手でバチンと一撃。
すいぎんとうさんは哀れ、翼を失ったイカロスよろしく地面に激突しました、でもローゼンメイデンだから大丈夫、
どっこい生きています。
銀様形にへこんだ地面からすいぎんとうさんは起き上がります。見ると少年の手の中には500円玉一枚が。
何がなんだかさっぱり分かりませんが、いやな予感がします。
するとさらに、後ろからバットを持った三つ編みの女の子がすいぎんとうさんの頭に強烈な一撃、とてもいい音がしました。
目から星が飛び出したすいぎんとうさんは目が眩みましたが、バットを持つ女の子の手の中に1200円があることは
はっきりと見る事ができました。
ふと後ろを振り返ると、ハンマーやらバールやらユンボだとか、ともかくぶつかったら痛いのを通りこして
ジャンクになってしまいそうな鈍器(一部重機を含む)を持った人々が水銀燈を狙っているのです。
水銀燈は逃げました。訳も分からず逃げました。逃げる先には、あのポスター、そこでようやく自分がなんで追われているのかが
分かったのです。そして、今は逃げ疲れてダストボックスの中。
「私はジャンクじゃないわ、決してジャンクなんかじゃない」
でも、今はジャンク通りこして、生ごみ扱いです。

この姿を遠くから見つめている一匹がいました。
名前はそう、あの極悪非道の真紅様です。
彼女は、水銀燈をいじめるついでに○○○○を○○○○をする悪の枢軸です。
(○○の中身と、しんくさまについてはローゼンメイデンひみつブックDかいじゅう・あくまへんにのってるよ。
 お金もってそうなおばあちゃんかおじいちゃんにおねだりしてね)
「ふう、なかなか上出来だわ」
「御意のままに」
傍らには黒い甲冑に身を固めたJUM君がいます。彼は真紅様に洗脳された忠実なる下僕です。
「しかし真紅様、ひとつだけ問題が」
「なあに、いってみなさい」
「今回の作戦の為に2000万円ほど借りました、返せません、しかも担保は真紅様です」
こうして、水銀燈の知らないところで、悪は滅びたのです。
市の職員の協力もあり、ポスターも撤去されていきました。

でも、とうの水銀燈はそんなことは知りません。
もう1ヶ月近くもダストボックスに隠れています。
めぐにまで頭をひっぱたかれるという悪夢にうなされて、
なんだかとてもかわいそうな水銀燈さんでした。

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