天曇り雪降り積もる冬景色。混ざり溶けゆく雪解けの時

作品集: 最新 投稿日時: 2009/01/10 23:11:20 更新日時: 2009/01/10 23:17:47 評価: 13/15 POINT: 107 Rate: 1.65
 




序幕:天地の別れし時ゆ神さびて〜語り継ぎ言ひ継ぎ行かむ、富士の高嶺は





「ああ、雪だ」
 はらりはらりと曇り空から雪が大地へと降り注ぐ。
 どうりで寒いはずだ、と小町は一人、空を見上げながら己の体を抱きしめた。吐く息が白く染まり視界にかかる。
 周囲にゆっくりと雪が降り積もる中、小町はまるで岩のように身動き一つせずに空を見上げ続けていた。
「悲しい、ねぇ」
 雪というものはどうしてこう物悲しいのだろうか。そしてどうして美しいのだろうか。
 小町の周囲に生えた梅の木に雪が降り積もり蕾が生まれていく。
 青白く彩られ埋もれていく世界の中、小町はただただ悲しかった。
 見上げたままの顔に雪が積もり、肩、いつも持ち歩いている鎌にも青白い装飾が施されていた。
 地面の半分ほどが見えなくなった頃、漸く小町は視線を下げた。視界に鎌が入る。
 ああ、洗う手間が省けたな。
 僅かに顔を綻ばせ、小町は鎌を肩にかけた。肩と鎌から空から降る雪よりも多く、淡い雪が地面へと降りそそぐ。それを見つめて小町は一度、舌打ちをした。
「まったく……貪欲な」
 雪はますます解ける勢いを増して大地を埋め尽くす。既に小町の周囲、家の屋根は白く染まり、縁側にまで雪が流れ落ちていた。草木は雪の温もりの中眠りにつき、蕾も持たぬ梅の木は仮初の蕾をたらふく咲き誇らせる。梅の初花も散ってしまいそうだった。
「雪は、まだ降るんだね」
 季節は冬の終わり、梅の咲き誇る時期だというのに降り積もる雪に小町は憎々しげに睨み付けることしか出来なかった。大地にある何もかもを包み込み奪っていく雪、空は曇り空から圧し掛かるように大地に近づこうとしている。
 小町はそれが憎くてたまらなかった。芽吹く全てを包み込む緩慢な青白い世界。まるで雪が我侭を言っているようだと思う。
 いずれ解けて大地に染込めるくせに、なんと雪は我侭なのだろうか。
 
「ぬばたまの、今夜の雪に、いざ濡れな、明けむ朝に、消なば惜しけむ」

 それでも、それは美しいものだった。青白い輝きの本質を小町は理解してしまっただけにそれ以上のことは何もいえそうになかった。
 だから、せめて。雪に濡れることくらいは許して欲しい。
 雪を降らす曇った空のために。変わることなくそこにあり続ける大地のために。
 
 
 ――雪の美しさを語り継いでいこう。
 
 
 小町は一人。雪の中でただ、哀れんだ。



 
 
一幕:我が背子と、ふたり見ませば、いくばくか、この降る雪の、嬉しくあらまし





「なんだ。また来たの」
「そうよ。また来たの」

 冬真っ只中の博麗神社。霊夢は縁側でやってきた来訪者に些か不満げに言葉をかけた。
 ただでさえ寒がりサボりたがりの小町を迎えたばかりだというのに、またも面倒なやつがやってきたものだ。と露骨なまでに嫌だという表情を隠さない。それは霊夢の美徳だ、と訪問者である比那名居天子は感じていた。
「大体、あんたにも天界でお勤めとかないの?」
「あら。日がな一日のんびりと神社の管理しかしていない博麗に言われたくないわ」
 庭に立ち尽くす天子はそんな霊夢の出迎えこそが嬉しいものだった。
 冷たい風が神社の庭を撫でる。空は晴れ晴れとし、庭の一部の木はまだ芽が出る予兆すらない。冬の日差しがかすかに大地を暖める中、縁側傍の庭に天子は立っていた。
 目の前には何時も通りの造り直されてしまった博麗神社。私の神社のままでよかったのに、と内心悪態をつきながらも前と変わらない神社を眺めていた。
 縁側に座る霊夢はそんな天子の気持ちがわからないようで厄介者、或いは賑やかな訪問者としか認識していなかった。馴染みのある。
 あえて言えば、迷惑な幻想郷の住人が多い中でも我侭な方だとか。
 霊夢は手に持った湯飲みをゆっくりと隣において、小さく息を吐き出した。迷惑なのだ、といわんばかりに。
「異変が起こってないからよ」
 小さく言い訳するようにそう答え、それから訪問者のために置いておいた湯飲みにお茶を注ぐ。寒い世界の中で、湯飲みから暖かな湯気が立ち上った。
「ああ。じゃあ、また起こしてあげましょうか?」
「お断りよ」
 天子はその様子を見つめながら、勝手に霊夢の隣に腰掛けた。何だかんだ言って、霊夢は相変わらずそういうことには優しいのだ。抵抗を諦めているのかもしれないけれど。暖かな湯飲みを手に取り、冷えた手に陣わりと広がる熱に感覚が戻っていく。思ったよりも体の芯が冷えていたようだ。
 顔を近づけ二度三度、息を吹きかけお茶を冷ます。そんな事しなくたって冷えるだろうと思うけれど、外気に任せていては冷えすぎてしまうに違いない。折角のお茶なのだから、美味しく味わいたいじゃないか。誰に言うでもない言い訳を繰り広げながらお茶を喉へと流し込む。中から暖かいものがこみ上げてくる。それはとてもとても心地よかった。
「ん……美味しい。上で飲むお茶よりも美味しく感じる」
 小さく微笑みながら天子は思ったことを率直に述べた。天界で飲むお茶よりも、こんな粗末なお茶のほうが美味しいというのは如何なものか。味覚がおかしくなっているのではないだろうかとも思うけれど。
 二度、三度とちびちびと――天子の名誉のために付け加えれば美味しいお茶を惜しむからであって、熱くて一気に飲めないわけではない――喉に流し込み、体を震わせて。
 霊夢は呆れたように息を吐いた。霊夢にとっては上のお茶のほうが美味しいものであって、粗末なお茶だと思っているから理解できない。どちらにしろ、美味しいといってもらえるのは嬉しくて僅かに顔を綻ばせたけれど。
「それはないでしょうに。これ位で良ければいくらでも淹れたげるけど」
「いやいや。あそこの味気ない桃よりもすばらしいもの」
 そっとお茶のお代わりを要求しつつ、天子は愚痴るように肩をすくめた。
 元々天人になろうとしてなったわけでもない。天子はまだまだ純情な少女だった。欲の、ある。
 だから、地上がとても面白かった。感じるもの全てが退屈に染まっていた天子を刺激するのに十分なのだから。新鮮であるということが、とても楽しくて天子は暇を見つけては足繁く地上に通っていた。例え天界の方が充実していても、それで満たされなければ意味がないといういい見本なのかもしれない。
 その中でも特に通いやすいのが博麗神社だった。
 神社を一度破壊したというのに一度怒った後は忘れてしまった霊夢。良くも悪くも直情的な天子に素直に暢気な裏の無い霊夢は馬があう相手であって。
 だから、天子は良く博麗神社に通っていた。神社にいないこともあるけれど、ここは人も妖怪も集まりやすくて賑やかだったから。しかも天子にとって好ましい個性的な相手。中には苦手な相手もいるけれど、概ね天界で過ごしているよりも楽しい時間を過ごすことが出来た。要石に乗って降りていくと霊夢が怒るけれど。
「大変なのね。でもそれなりに食べれるのなら楽そうだけど」
 霊夢は天子の思いなど知る様子もなく、お茶を注ぎながら口を開く。
 大体天界と行き来しないわけでもないけれど、それほど悪くないじゃないか、と霊夢は感じていた。何よりも暢気に生きていればいいのは好ましい。
「わかってない。こことは雲泥の差なんだから」
「でも、いいやつばっかりなんじゃない? あんた見てるとそう思えるわ」
「へ……い、いやいや。なんだか楽しくない人ばっかりよ」
 不意に出た霊夢の言葉。かっ、と頬が熱くなって良くわからず天子は俯いた。
 天界に住んでいる住人は暢気で気のいい人ばかり。けれどどこかわかりにくくて、生まれたての天人には理解が出来なかった。
 美味しい料理も出てくる。音楽も、遊ぶことも。けれど。こうして気を許せるかどうかは、別だったのかもしれない。
「そう? 確かに紫みたいなのばっかりだと困り者よね」
「……霊夢はあいつと親しいのね」
 霊夢の顔が空に向く。晴れ晴れとした空の中、けれど思い浮かべてしまった解り難い代表の紫を見てしまい顔をしかめた。
 それが、なぜか天子には気に入らなかった。
「紫がちょっかいかけてくるのよ」
 困ったように笑う霊夢。天子が少しすねたようになった理由がわからず、僅かに首を傾げた。
 そも、面倒で解り難いなんていうのは幻想郷では紫が顕著な存在だと思っていた。言うこともする事も解り難く、解らせようとしない。
 霊夢の視界に広がる庭も紫が稽古をつけるとかで壊れたこともある。その時文句を言ってみても、それは日常の領分なのです、などと言って取り合おうとはしなかった。
 とはいえ、神社を直すのを(一度壊したけれど)手伝ったりもするあたり、異変を解決させようとするあたり――霊夢は面倒でしょうがないのだけれど――ますます解らない。
 おそらく紫は霊夢を操る術に長けているのだろう、と感じている。呼んでもでてこない、紫の単純な印象だ。霊夢の声を聞くよりも何か自分のものを重要視しているのかもしれない。少し寂しいけれど。
 そんな考えが表に出たのだろうか。霊夢が物思いから戻ってくると天子の体はさっきよりも傍にあった。
「人と話しているときにあいつのことを思い浮かべるなんて」
 天子は霊夢が楽しい思い出でも思い出しているのだろう、と感じていた。そして、それがなにやら許せない。
 この霊夢という人間は何事にも縛られないのが良い所なのに、まるで縛られているようだ。いっそ緋想の剣で斬ってやりたい。その根底から来る衝動の理由もわからないままに天子はそっと霊夢の腕に寄り添った。
「くっつくな。暑苦しい」
「冬は寒いからこれくらいで丁度いいでしょ」
 服が、こすれあう。微かに聞こえる絹のこすれあう音、吐息の漏れる様までが天子の瞳には良く見える。
 柔らかな唇が少し震え、少しだけ開いた所から白い白い吐息が漏れてくる。それはさっきまで霊夢の中にあったものだ。熱を帯びた、息吹。息を吸うたびに微かに開く唇の動きがなんだか愛らしい。
 近くで見るということは。
 近づいていくということは。
 なんだか胸を満たしてくれる。暖かい、暖かい何かで。
 その人の傍に居れるのだという実感が、視覚に感じる触感が。今まで気にした事もないのに、強烈なほど霊夢を感じさせた。
「まあ、確かに。天子はあったかいのかしら」
「え……さ、さあ」
 霊夢はかすかに震えていた天子の手を、腕にしがみついていた手をそっと握る。寒いのか、それとも違う何かか。霊夢にははっきりとは解らなかったけれど、一つだけ確かなことがあった。構ってみたくもなるものだ、ということ。
 天子の青く長い髪が霊夢のむき出しの肩にかかる。それは単純に綺麗だと思った。勝気な表情も、瞳も。霊夢よりもすらりとした頬も、つんと上向いた睫毛も。そのくせ意外と小柄だった体も、なんだか愛しい。
「それにしても、寒いわね。上から調節できないの?」
「うーん、流石に出来ないと思うんだけど」
「あんた、だめね」
「えー」
 自然と言葉が口から滑り落ちる。
 二人が二人、お互いを感じながら。お互いを解らないままにお茶を啜り、手を触れ合わせる。確かに人と触れ合うということは暖かいのだと実感する。
 きっと、こうすることが出来るのが暖かいものなのだ、と。
  
  
「あ……雪ね」
 不意に霊夢が声を上げる。霊夢のその言葉につられるように天子は視界を空へと持ち上げた。
 はらりはらり、と雪が僅かに降り注いできていた。まだ晴れているように見える空も、直ぐに曇ってしまうのだろうか。雪を降らせるために。
「雪かあ。寒いから帰るのが大変になりそう」
 天子の住処は空の上。そのためには冷たい雪雲の中をとおって帰らなければならない。雪が降り積もる中帰るのは寒くて頬が痛くなるからできれば勘弁して欲しい所だった。
「いいじゃない。雪は綺麗よ、積もれば。寒いのは嫌だけど」
 どこか嬉しそうな口調で霊夢が告げる。
 そんな霊夢の口調が憎たらしくて、けれどどこか意外でもあった。ほら見なさい、やっぱり歳相応の少女じゃない。
 天子はそんな自分の発見が面白くて微かに肩を振るわせる。人の一面を発見するということはとても面白いことであって。
「何笑ってるのよ」
 不満げな声が庭に響く。気分を害したのか少し怒り気に視線が天子へと注がれていた。僅かに頬を膨らませて眉を怒らせて。心なしか握られている手が痛い。ぎしぎしと軋むかのよう。
「ううん。なんでもない」
「なんでもあるわ」
「それより、霊夢雪好きなの? 寒いの苦手だと思ってた」
 天子はより近く、霊夢へと寄り添って。こぼれる笑みを隠さないままに瞳を見つめて問いかけた。もっと知りたい、聞いてみたいと思ったから。
 こんな些細なことでも、こんなどうでもいい事でも。あなたの口から聞かされるのならこれほどの幸せはないのだから。
 この思いに天子は驚くことも無く従っていた。知ることは、感じることはそれだけで楽しいことだと解ったんだ。

 そしてそれが、きっと好きな人だともっともっと幸せになれるんだって。
 
「寒いのは嫌よ。炬燵が無いと寒くて何にもできやしない」
 霊夢は憮然とした様子でその質問に答える。それはその質問の意味がわかっていなかったから。
 けれど、こうした意味の無い話というのも悪くは無いと思えていた。
「でもでも、さっき綺麗だって」
「うん、まあ。綺麗じゃない。雪が積もったら一面青白くて踊りだしたくなるでしょ」
「寒い」
「そりゃそうだけど」
 困ったように霊夢は眉根を寄せた。そういったものとは別のような気もするし、でも一緒のような気もするのだから。
 けれど。
「そんなに雪好きなんだ」
「雪というか。降るのは降るんだから楽しまないと損でしょ」
「なんだか霊夢らしい。確かに楽しまないと、損」
「あんたも、楽しんだらいいのに」
 霊夢がどこか諭すように天子を見つめる。
 それがとても面白くて、面白くなくて。思わず楽しそうな瞳で霊夢を見上げてみせて。拗ねた様に胸を腕に押し付ける。
 霊夢は動きの邪魔にならないようであればそれすらも許容してくれるようだった。
「残念。楽しんでいるのです」
「ああそう」
 
 しばらくの間、二人は言葉も交わさずに寄り添っていた。
 雪はその間もはらはらと静かに、しかし確かに地面に積もり始めていた。きっと、直ぐに止むだろう。けれど、その間にも大地に降り注ぐのだ。僅かずつ、消えるまで降り積もる。健気な、その様子を見ながら天子は口を開いた。
「そういえば、とびっきりのものがあるわ」
 何気なく今不意に思い出したような口調。内心心臓がドキドキと早鐘のように鳴り響いているのをばれないでと祈りながら。
「とびっきりのものねえ」
 興味なさそうに霊夢は答えた。
「天花って言うの」
「天花ねえ」
「綺麗なのよ。今度もって来るわ」
「持ってこられても、困るわ」
 何時もの困ったような表情に天子はどこか安心をしながら、けれどこの機会を逃すまいと畳み掛けるように。
「嵩張るものじゃないし」
「どうしても持ってくるつもりね」
「ええ。期待していて。それとも、きちゃダメ?」
 どこか寂しそうに縋りつきながら。
 霊夢は少しだけ、少しだけ迷うようにしてから口を開いた。
 
 
「いつでもどうぞ」

「……うん!」



==■==



「ねえねえ。綺麗な花って無かったっけ」
「……はい?」
 天界の傍で雲の中を飛んでいた永江衣玖はいきなり硬い岩を頭部にぶつけられて怯んだ所を捉えられていた。
 流石に常識のある衣玖はそのあまりの破天荒な出来事に目を白黒させつつも冷静に自分を襲った相手を睨み付けていた。睨み付けていたものの、その相手が総領娘様だったものだから行き場の無い怒りがスパークしかけである。ぶつける訳にも行かず、けれどすっきりするはずも無く、その上であんな質問をされては衣玖の怒りも頷けるというものだ。
「……花ですか?」
「そう、花」
 襲ってきた相手の総領娘様、比那名居天子は衣玖の様子に気づく素振りすら見せずに先を促すように顔を近づけていって。
 衣玖はなぜか米神のあたりがずきずきと痛むような錯覚に陥りながらそれでも穏便に、というよりもさっさと終わって欲しい一心で答えた。
「花なんてそこらにあるじゃないですか」
 そう、天界は花が咲き乱れているし、地上だって冬だといっても花くらい捜せばあるだろう。竜宮の使いを呼び止めるほどのこととは思えなかった。それも要石ドリルで後頭部を攻撃するほどのこととは思えやしない。今だって頭がずきずきと痛んで苦しいのだ。流石の衣玖とて勝手に探せといってやりたい気持ちになる。
「だめだめ。そんなそこら辺にあるようなものじゃ」
 何がダメだというのか。そこらの乙女っぽく地面に寝転んで花でも摘めばよろしいじゃないですか。
 衣玖はすんでの所でその言葉を飲み込み、できる限り平静に相手を見つめて。折角の優雅な空中散歩を邪魔されたことも、この際頭の隅に追いやっておく。
「それでしたら、どのようなものがよろしいのですか」
 こういうことはさっさと終わらせるに限る。そう判断した衣玖は出来る限り性急に終わらせてしまおうと続きを促した。
「ええと、とても綺麗な花。これぞ天界って感じの」
「は?」
「だから。綺麗な綺麗な花」
 ますますいっている意味が解らない。綺麗な花だって上に行けば咲いているだろうに、何故態々。
「上の花は基本的に綺麗だと思いますが」
「んー。天花、持って行くって言っちゃったから。出来れば綺麗な花を」
 そこまで来て衣玖は何やらすれ違っているものを見つけた気がした。
「天花、天華(てんけ)でしたらどれでも意味にしっくり来るとは思いますけど」
「そうなんだ。でも、綺麗なのがいい」
 果たしてこの人は本当に天人なのだろうか。そう思わなくもないけれど、天子の要望が解ったような気がしてとりあえず胸を撫で下ろす。
 天華、天上界に咲く花。どれでもいいだろうけど、それでも綺麗なのにしないと相手は納得しないだろう、と実感した。
 だから衣玖は少し考えてから口を開いた。
「それでしたら滝の近くの花は綺麗でしたよ」
「そうなの?」
「はい」
 衣玖が認めるや否や天子は思いっきり立ち上がってすぐさまそこへと駆け出そうとした。
 そんな背中を見つめながら、衣玖はまだもう一つあることを思い出して呼び止めて。
 
 
「ああ、総領娘様。当然ご存知だと思いますが天花は――」

「なに?」


 その数刻後、天界全てに聞こえるほどの轟音が大きく響き渡った。
 
 
 
==■==



 一人、一人。
 霊夢は博麗神社で一人だった。
 冬で雪が降る頃ともなれば流石に博麗神社を訪れる人影もまばらになる。晴れ渡った空の下、冷たく冷えた風が障子を叩く。霊夢は神社の中で、その音を聞いていた。
 流石にもう冷える頃か、と客間には火鉢を用意してある。火鉢の温もりを感じながら霊夢は机の上においてある湯飲みを手に取り、一度中のお茶を喉に流し込む。
 暖かな、外に感じる暖かさとは違う内側の温もりに思わず息を吐き出した。美味しい。
「ごほっ、ごほっ」
 咳き込む。急に冷え込んだからだろうか。寒さがこたえる歳でも無かろうに、と自分で思うものの咳は止まりそうにない。
 そういえば時々サボりに来る不真面目な船頭が言っていた。

「急に冷え込んだからね。体調を崩してるやつが多い。そのせいで忙しくてね」
 
 となると自分はその崩しているやつなのだろうか。
 ますます養生しなくてはいけないと思うけれど、動いてみたいという気持ちがないのだから困ったものだ。
 はたして自分はここまでぐうたらだっただろうか。きっと何かに感染したに違いない。
 となると、最近来たのは迷惑な地震娘。
 ああ、天子。また来ると言っていた。寒いのに元気で我侭なやつだ、と霊夢は息を吐き出し肩をすくめた。
 彼女は風の子なのか。いや、天人だったっけ。その思いに一人微笑んだ。
 天子は好奇心が旺盛だ。
 楽しみなことを探すのがすきなのか、あるいはそういった解らないことが純粋に面白いのか。
 子供のような精神に厄介な実力と自信がついて回るから面倒なのだ。
 だから、平気で迷惑なことがやれてしまう。
 地震を起こして神社を一度壊したのは許せなかったけれど、でもそれももう済んだ事。
 構って欲しくて尻尾を振ってくるような天子は純粋に可愛らしいと思った。
 気まぐれなのに、好奇心旺盛で霊夢に擦り寄ってくる犬。今でも抱きつかれた温もりは思い出せるような気がする。
 そこまで考えて、霊夢はふと、思った。
 
(何であいつの事をこんなに考えているんだか)

 それはきっと、擦り寄られてくるから。
 
 それはきっと、直接的な被害をこうむったから。
 
 それはきっと、きっと――よくわからない。
 
 霊夢は緩慢な動きで立ち上がり、風に震える障子を開けた。

「あ。雪」

 空は微かに曇り、はらはらと雪が再び幻想郷に、博麗神社に降り注いでいた。
 
 
 


二幕:夢のごと、君を相見て、天霧らし、降りくる雪の、消ぬべく思ほゆ





 雪が降る。
 今までよりも勢いを増して。
 大地の全てを覆い尽くすほどに。
 世界を青白く染め上げるために。
 世界全てを雪一色に変えるために。
 空が曇り大地へと近づくかのように。
 博麗神社全てを取り込むかのように。
 
 ――求めるものを欲するかのように。
 
「変ね。急に振り出してきたなんて」

「それは、私が動いたからです」

 首を傾げながら曇った空を見上げる霊夢の頭上から声がかかる。
 最近良く聞いた声、明朗闊達な凛とした自信溢れる声。
 神社の庭や梅の木に雪が降り積もる中、青白く染まっていく大地に大きな影一つ。視線をその上に向けてみれば岩の上に立って誇らしげに胸をそらせる比那名居天子の姿があった。
 誇らしげに胸をそらせるものの雪を避けることは出来ないらしく帽子や髪、肩、胸に薄らと白い雪が積もっている。偉そうな様子に反したその様子が少し間抜けに見えて、思わず霊夢はほころんだ。どこか抜けている様子がなんと言うか、天子らしい。
「ふふっ」
「……何笑ってるのよ」
 しかし天子としては一世一代の登場なだけに笑われるのは遺憾極まりない。
 天子の中で精一杯の演出なのだから笑われるはずは無いという自尊心が傷つけられたような気持ちすらする。
 だから、拗ねたように岩の上に座り込んで、けれど雪がその下だけ積もらないということを避けるために細かく動きながら。
 霊夢にしてみればその様子が間の抜けたものに感じられるのだから意味はないのだけど。
 そもそも、拗ねた様子が可愛らしく思えて霊夢は微笑み、天子をじいと見つめて。
「ごめんごめん。んで、何しに来たのかしら」
 微笑を時折零しながら、天子の様子を見つめる。手には花。綺麗な花。なんとなく理由はわかっていたのだけれどあえて、気づかぬ振りをした。どうしてか、天子自身の口から目的を聞いてみたくなったから。
 曇った空では太陽の光は微かにしか届かない。この雪の量だときっとある程度積もってくれることだろう。
 天子はその目算を立てて心の中で喝采した。予定通りだった。
「前にも言ったじゃない」
「地上の料理を食べに来た」
「違う、わけでもないけど……ん、前に言ったじゃない」
「なんか言ったっけ」
「天花を持ってくるって言ったでしょう」
 そう、言っていた。
 霊夢だって忘れたわけではない。
 というよりも、隠す様子も無く手に綺麗な花束を握っていればわからいでかというものだ。
 色とりどりの花束、確か前に天界で宴会をしたときも美しく咲いていた。それを摘んできたのだろうか。
 それでも、その心がなんだか嬉しくなって霊夢は顔を綻ばせた。我侭で厄介者だけども、なんて可愛らしいのだろうかと。そんな可愛い仕草が、霊夢にとって好ましくて自然と嬉しくなれる。優しさが、身に染みるとはこういう事なのだろうか。
「適当に摘んできただけなんじゃないの」
 なんだか意地悪なことを言っていると思う。けれど、このまま直ぐに受け取ってしまうのも癪だし、何より勿体無くて。
 案の定、霊夢の思ったとおりに天子は眉を怒らせて頬を薄く染めた。
 なんて事を言うのだろう、と天子は心中穏やかならざる様子だった。折角選びに選んだ花なのに、けれど、怒ってやりたいんだけど。
 目の前の霊夢がどこか嬉しそうだから、声を荒げることは出来そうにもない。喜んでくれてるというのは、嬉しいから。
「一応、選んできたよ。衣玖に聞いて花の綺麗なところから」
 へえ、と霊夢が感心したような吐息を漏らした。
 その様子になんだか勝ち誇ったかのような気持ちになれて、天子は思ったよりも素直に花束を差し出すことが出来た。
 天界の中でも美しい滝、その傍にのみ咲いている花の詰め合わせ。色のバランスに気を使ったけれど、気を使うことがなんだか楽しかった。贈り物で驚かせようと、心を砕く時、相手の反応を想像して悦に浸るような、そんな高揚感にも似ていて。
「それはご苦労なことね。ありがと」
「いいの。霊夢のためだし。でも」
 ここまでは、ここまでは天子の中でも予定通りの行動だった。
 霊夢の反応も概ね悪くはない反応だった。花束のことを覚えてくれていたのが嬉しかったけれど。天花を渡したとき、霊夢が顔を崩して微笑んでくれたこと。想像以上だったけれど、想像の範囲内だったから。
 けれど、これからは違うんだ。
 天子はそっと要石の挙動を安定させて、霊夢に向き直った。これから告げることが本筋。多少知恵のまわる人には解ってるかもしれないチープなトリック。
 霊夢は花束を手に微笑んでいた。綺麗なものは嫌いなわけはない。花なんて贈り物、嬉しくないはずがない。霊夢はその思いのこもっているであろう花束を胸に抱きしめて天子に感謝していた。神社にも彩があっても悪くはない。勿論、ありすぎるのは神社として如何なものかと思うけれど。
 だから。
 だから、霊夢にはこの後のことを完全に想像していなかった。
 
「私の贈り物はまだ終わっていない」

 へえ、と声を出すことも出来なかった。美しい雪の降る最中、綺麗な花束を頂いて。それでもう終わりだと、霊夢は思っていたから。
 霊夢は吃驚して顔を上げて相手を見つめた。天子は、ほら見た事か、と誇る気持ちを抑えきれずに前のめりになっていた。

「天花は雪の形容。生半なことはできはしない。私の心からの贈り物、この雪景色。受け取って」

 なんと言うことだろう。
 なんて素晴らしいのだろう。
 目の前の天人は霊夢のためだけに、雪を降らせたのだ。
 それがどれほどのことなのか、霊夢にはわからない。けれど、その規模の大きさと、嵩張らない所と、何よりも美しさに。
 ただただ霊夢は感嘆の吐息を漏らすばかりで。
「よく用意したわね」
「霊夢が雪好きだって、言ってたから。だから」
「そうなの」
 確かに言ったけれど。それにしてもなんて物を用意するのだろうか。
 気がつけば一面雪景色。縁側にも微かに降り積もり、大地は一面真白に。誰も踏みしめていない雪化粧。
 周囲に生えた梅の木にも雪が降り積もり花が咲いているかのようで。美しく冬の彩りに染め上げられた庭は、贔屓目を抜きにしても大半の人は美しいと言うであろう光景であった。

「それで、漸く解った」
 天子が要石の上で佇まいを直す。
「なにが」
 霊夢は花の間から顔を出すようにそれを見つめていて。
「霊夢の事」
 心が震える。ドキドキと、熱く高鳴るように。
「へえ」
 空気が凍ってくるようで。寒さとは違う、何かが二人の間に流れていく。
「異変を解決してもらって、お陰で皆と遊べるようになって。世界に色がついて」
 全てのきっかけは天子が霊夢を眺めていたことからだった。
「あの時は大変だったわ」
 それから異変を起こして。退治されて世界が広がった。
「それからもこうして遊びに来て。霊夢の存在がだんだんと大きくなっていった」
 霊夢のところに、自分のものには出来なかったけれど、来訪頻度はそんなに変わってない。
「私もあんたのことを随分感じるようになったわ」
 そうしてくるものだから、霊夢にも天子が感じられる。
「こうして贈り物を考えて」
 雪が二人の間にも降りそそぐ。けれど、視線は外れない。
「随分素敵な贈り物だったわ」
 きっと、お互いにここまでくれば次に来る言葉はわかっていた。あとは、告げるだけ。
 
「きっと、霊夢のことを好きなんだ。そう、気がついた」

 二人の間に驚きはない。
 霊夢が気がついているであろうとは天子もうすうす感づいていた。
 天子がそうなのだろうとは霊夢も直ぐに理解できていた。
 だから、雪が降り積もる中、焦がれるような瞳で天子はただ、霊夢を見つめていた。
 だから雪景色を眺めながら、何もかもを決めてしまった瞳で天子を見つめていた。
 
「だから、付き合って欲しい。そしてゆくゆくは」
「一緒になりたい?」
「うん、そう」
「いいわよ」
「だから、返事は、直ぐに欲しい」
「いいってば」
「時間が、なんだかおしく感じるから」
「だーかーらー」
「え?」
「いいってば。付き合うの」
「ええ?」
「番になるんでしょ。恋人になるんでしょ。いいわよ」
「え、ええっ」
 そこまで来て、漸く天子が動いた。喜びで、驚きで、体が震える。
「いいの? もとめるけど」
 自信はあったくせに、いざこうなってしまうとしり込みをしてしまう。天子も天人とは思えないほどに、俗物的だったりもして。
「寒いわね。特にあんたが雪を降らせたから」
 そっと、霊夢は花束を隣において、襖を開けて。天子はそんな様子を見つめることしか出来なくて。
 ゆっくりと霊夢が天子のほうへと振り向いて、わざとらしく体を抱きしめる。
「ごめんなさい……」
 要石の上に思わず正座をして、天子は謝った。
 怒っているようには見えないけれど、なんだか謝らないといけないような気がしたから。
 けれど、霊夢はそ知らぬ顔で。
「いいって。でも、寒いから暖めて欲しいわね。恋人なんているんなら」
 少しだけ、遠回り。
 こういう事をしてしまうと肉欲ばかり優先してしまっているようだけど、実際は違うと思う。
 きっと、寒いから。
 寒くてたまらないから、温もりが欲しい。熱が欲しい。心から火照るような、熱い熱い何かが欲しくなるんだ。
 霊夢はその心に忠実にそっと天子に手を差し出した。むき出しの肩が、手が。雪に触れて冷えていく。冷たく冷たく、熱を奪われていく。
「恋人……」
 天子は呟くようにして、手をとった。冷たい。お互いの手が、お互いの体が、芯が。
 冷たく冷え込んだ体が感じられる。冷たい冷たい、相手。
 けれど。
「違うのかしら」
 触れ合った箇所が、熱を生み出していく。指先に、手の平に、手首に、腕に、体に。そして、心に。
 暖かく、暖かく産まれてくる温もりが二人を暖める。きっとこれが、きっとこれこそが。温もりを求め合う理由だと、信じられるから。
「きっとそう。でも、答えを聞いてない」
 天子が縁側へと降り立った。向かい合う、二人。少し動けば直ぐに触れられる世界。二人だけの空間の中で、天子はどきまぎしたように視線を右往左往させていた。
「答え?」
 霊夢には解らない。霊夢は言葉足らずなことが多い感覚で動くタイプだから。
「霊夢は、私のことが好き?」
 ああ、成る程。と霊夢は心の中で納得した。
 ここまでしてみせればそれで答えと受け取って欲しいものだけど、確かに言葉にしないと不安になるから。
 愛という言葉は、力なのだから。確かな、確かな言葉で欲しいから。

「ええ。私博麗霊夢は比那名居天子の事が好き。といっても今、こうしてしまうまで気がつかなかったんだけど」

 その言葉が、耳から全身へと届いてくる。
 これが、実感なんだって、天子は思えたから。
 思わず天子はその喜びのままに霊夢を抱きしめた。
 
「鈍感ね。でも、好き」

 服を通して感じる相手。肌の柔らかさから髪の輝き、吐息のくすぐったさに、体の形全て。
 そこにいる実感が、物質的に、精神的にお互いを満たしてくれる。
 小さく霊夢が咳をして。寒いんだ、と天子は少し慌てたようにぎゅうっと抱きしめた。
 二度ほど霊夢は咳をした後、そっと天子を抱き寄せた。
 
 
「中で、温まりましょう」


 なんて誘いなのだろう。可愛くお願いされているのに、その毒は体を蝕むほどに強い。
 だから、天子はそっと頷くしか出来なかった。
 二人の影が、部屋の中に消える。
 
 
 
==■==



 暗い室内に衣擦れの音が響く。
 霊夢も天子も、お互いに背を向けたまま服を脱いでいた。
 はらりはらり、と緩やかに服が落ちる。外では相変わらず雪が降り続いているからとても寒い。
 だから、そっと脱ぎ終わった後。天子と霊夢は自然と寄り添い、布団の上へと横たわった。
 柔らかなふくらみが触れ合って。
「いいの?」
「聞かないでよ」
 小さなやり取り。けれど、こんなことすらも嬉しく思えて。
 ゆっくりと天子は霊夢の唇に己の唇を重ねた。柔らかなふくらみが、濡れて光る唇が重なり合い何かが混ざり合う。
 吐息がこぼれ、微かに角度を変えながら幾度と無く唇を重ねあう。抱きしめあったままそうしてみれば相手の姿を感じられて。なんだかくすぐったくなって、嬉しくなって。
 五度目の口付けの後、天子はゆっくりと舌を伸ばした。
 確りと閉じた霊夢の唇、その奥を求めるように舌先で突付く。少しだけ霊夢は迷った後、ゆっくりと唇を開いた。
 天子のぬめりとした舌が中に入ってくる。畏れるように、探るように。舌先が霊夢の口内を動いていく。
 歯茎をつつと舐め、霊夢がかすかに震えて息を漏らす。嬉しくなった天子はもっと、と舌を動かしていく。幾度かの探索の後、伸びる天子の舌先に霊夢の舌先が触れた。
 柔らかな感覚、きっと誰も触れたことの無いところと交われる喜びが二人を満たす。唾液がこぼれ、頬を伝い落ちる。
「んっ」
 微かに身じろぎして霊夢が声を漏らした。
 霊夢の舌先が拗ねたように反撃を開始する。舌先が押し合い形を変え、一つになる。
 零れる吐息がくすぐったくて、けれど舌の混ざり合い、とろけあう熱毒に二人はなお求め合った。
 舌が振るえ、絡み合う。唾液を潤滑油代わりにするように、ぶつぶつの感触すら楽しむように、にちゃりにちゃりと傍にいる二人にしか聞こえない淫靡な音を響かせながら口付け合う。
「霊夢……」
「天子……」
 お互いはなれる時は同じだった。唇がふやけて舌が痺れたように感じられた。口を開いて微かに息を乱す。
 囁きあう名前、霊夢はそれを契機とする様に手を背中へと回した。指先が微かに天子の背中を擽っていく。優しく、けれど確かに触れていると刻み込むように僅かに押し込んで。ぞくりとする震えが天子の背中を駆け巡った。そして直ぐに、触れられた箇所から暖かな熱が生まれて心を暖めてくれる。
「んっ」
 天子は思わず声を漏らし、次いで自分の艶がかった声に戦慄した。
 熱が、霊夢の温もりが体を解かしてくる。
 蕩けた様になってしまいながら、けれど触れないのが勿体無くて天子はゆっくりと手を伸ばし、霊夢の胸の膨らみに触れる。
 何時もはサラシで押さえつけていてわかりにくかったけど、天子は触れてみて意外とあるんだ、と感心した。
 そうして霊夢の知らなかったところを知ることが出来たのが嬉しくて、そっと胸に指を食い込ませた。形を確かめるように、指を押し込んで弾力を確かめるように
「あっ……天子、あんたね、んぅ」
 主導権を握られた、と感じた霊夢は少し肩を怒らせて見せて。けれど、天子はやめようとはしない。
 折角触れられたのに、この奥に霊夢の心があるのに、離れるわけには行かないと思ったから。
 手の平で先端を押しつぶして微かに円を描くように指で揉みながら動く。その度に、動くたびに霊夢が息を乱すのが楽しかった。吐息が耳を擽ってくる。
 天子は熱心に、執拗に霊夢の胸を攻めた。霊夢の背中をなでる手が微かに弱まれば両手で。腰の辺りを擽られれば堪えるようにしながら片手で。
 まるで玩具を与えられたばかりの子供のように霊夢の胸を弄ぶ。霊夢は続けられるたびに胸が弱くなるように快楽の量が増えていって。
「しっ、つこい……んっ」
 強気の霊夢が恥ずかしそうに悶えてしまう。そんな始めてみる霊夢が可愛らしくて、天子は動きを変えながら胸を弄った。
 肌が震え、擦り合わせるように密着しながら。先端が可愛らしくちょこんと硬くなったのを感じると、少し手の平で擦るようにして。
「んっ、ああ!」
 胸の先端から痺れるような間隔が全身に広がって、思わず霊夢が声を大きく上げた。
 つんと先端が尖り、可愛らしく自己主張する。
 微かに漏れる霊夢の嬌声が、それを事実であると証明していた。
「おかえしっ」
 霊夢はそういうとそっと手を伸ばした。天子の慎ましやかな胸に触れる。そのふくらみを確かめるように、集めるように触れながら。
「やっ、霊夢ぅ」
 天子は身を捩ってその刺激を受け止めた。触れる相手が、霊夢だから。だから、心地よい。
 伝わる鼓動も、温もりも。お互いにお互いだけだから。
 もっと触れて欲しい、もっと知って欲しい。
 天子は自分からベットの上に仰向けになって、霊夢を迎え入れた。
 されることがとても心地よくて、求められていると思えたから。
「んっ、はあっ」
「ふふ、ここ、いいんだ」
 囁かれる言葉、意地悪な表情。けれど、構わなかった。霊夢のもとめるのが自分であるならば、きっと変わらない。
 覆い尽くされていくんだ。この体を、霊夢に、霊夢への思いで。
 天子が霊夢に、霊夢を天子が。多い尽くす、染め上げる。お互いにお互いで、温もりを生み出していくために。
 霊夢の指先が胸の先端をそっと摘んだ。電撃が体中を駆け巡る。びくん、びくん、と体が跳ねるように震えて息を大きく乱す。放射状に広がっていた青い髪が乱れて踊り、漏れた吐息が霊夢の髪を振るわせる。
 それを見て、霊夢は体が熱くなるように思えた。その思いに従うように霊夢は胸だけとは言わず、余っていた手で腰を、腹部を撫でた。
 その奥にある命を確かめるように、緩やかな動きで触れる。
「ん、くすぐったい、霊夢ぅ」
 甘えるような言葉。天子の手が霊夢の首に回され密着する。髪が絡まりあうように、声すらも自分が発しているかのように直ぐ近く。
 霊夢の指先が太腿を撫でた。小さく震えて、天子は本能的に脚を開いた。
 相手を求めるために、受け入れるために。一つになるために、確かめるために。
「……」
 いい、と霊夢は瞳で聞いた。覗き込むように、指先を微かに入り口に近づけていくようにして。
 小さく天子は頷いて答えた。以心伝心、といっていいかもしれない。
 きっとこうして混ざり合えることで、お互いにお互いを感じられて理解できるのだから。
 指先で入り口に触れる。大陰唇から小陰唇へ。まだぴったりと閉じているそこを解すように触れる。
 微かに押し込み、擦るよりも押し込むような刺激を与えて。
「ンッ、霊夢ぅ、あっ」
 声が微かに硬い。直ぐになれるものではないけれど、けれど霊夢の心が解け込むようで少しずつなれていった。
 解すように、馴染ませるように。
 僅かにこぼれてくる蜜を掬って指に馴染ませ、押し広げる。
「ん、ここ、濡れてきてる」
 小さく囁いて、天子に実感させる。指が、霊夢の指が触れて広げているんだ、と。
 それに答えるように天子は恥ずかしげに身を捩って。
 微かなやり取りがなんとも言えずくすぐったくて心地よくて。
「ン、霊夢」
「天子、力を抜いて」
 息がこぼれて囁かれるままに意識をして天子は下半身の力を抜こうとした。
 それは霊夢にとっては不十分な出来だったけれど、それでもそれに従うように指をより強く押し付けて。
 何度も入り口に指を押し付け、押し広げるように刺激して。
 蜜がこぼれて天子の体が震えていった。それを霊夢は慣れてきているのだ、と感じて少しだけ刺激を強くする。部屋に響く天子の嬌声と霊夢の吐息が大きく乱れていく。
 これだけでも、二人は十分だった。感じあえる、混ざり合えるというだけでそれだけで十分だったから。薄らと浮かぶ汗が光を反射して輝いている。
 けれど、もっと、何かが欲しかった。
 だから。
「いくわよ」
 霊夢はそれだけをいって、指を奥深くへと進入させていった。
「んっ、あっああっ!」
 天子の体が大きく跳ねた。触れられたことの無い奥へ。命の輝く奥へ。愛すべき、愛する人を受け入れられる喜びを感じながら。
 跳ねるように動く。初めての痛み、指をきつく締め付け、愛液は十分に分泌されていない。
 それでも、とても嬉しかった。
 だから、霊夢はそれが解っていたからあまり休むことなく指で中を押し広げていった。
 中に霊夢を刻み込むために。天子の命に触れるために。
 きっとそれ以上のことなんて、いらなかったから。
「あっ、ああッ、霊夢、霊夢っ、んーーーーーっ」
「天子……天子っ、天子ぃ」
 声が甲高くなり、半ば無理やり押し上げられるように高められる。押し広げられる感覚を楽しむことも出来ず、ただ早く解けていく。体が、心が。
 だけど、初めてだからそれでいいと思った。霊夢はそっと指の動きを強め、息を乱す。
 そうして直ぐに、はじけるように二人大きく震えて達してしまった。
 
 
 
 外一面、雪に支配されながら二人は熱の籠った息を、交し合った。幸せ、だった。



==■==



「おや、天人じゃないかい」
 ある時、天子が人里を歩いていると背後から声をかけられた。
「誰……って、ひえっ! 死神!」
 釜を持って此方をねめつける相手は小野塚小町、死神だった。
 賑やかな人里の流れの中で、二人の間だけが凍りついたように動かなくなる。空は晴れ晴れとしていて人通りは何時もより多い。
 とはいえ、天子としてはあまり死神を苦手にしていない。天人として恐れて見せているだけで、今まで撃退してきた事実が天子を強気にさせていた。
「驚かなくていいよ。今日は挨拶だけさね」
 小町はそういいながら手を頭の後ろで組んだ。戦うようには到底見えはしない。
 そこまで見て、漸く天子は何時もの姿勢に戻った。
 小町が少し、天子を促した。
 あまり人に聞かれたくない話なのだろうか。視線は人里のはずれを指している。
 天子はそんなことよりも早く霊夢の元に駆け込みたかったけれど仕方がない、というように肩をすくめて小町についていった。
「……最近機嫌がいいじゃないか」
「まあね」
 当然だ。
 恋人が出来た。しかも飛びっきりの上玉。
 それなのに喜ばない存在なんていはしないだろう。絶対にいない。天子は恋に絡め取られた初心者そのままの様子で小町に相対していた。
 きっと幸せが世界を包み込んでいるという、そんな幻想。それを抱いているに違いなかった。
「恋人でも出来たからかい?」
 その様子に特に驚く様子も無く小町は告げる。ひたかくしにしてきた(恥ずかしかったから)のに、やはりばれることはばれるものだ、と天子は思わず肩をすくめた。
「そうだけど。関係ないでしょ」
 天子は二人の間に、神聖な関係に水を指されたような気持ちがして顔をしかめた。無粋なやつ、と心中毒づいて。
「別にいいさ。でもね」
 小町はまるで興味なさそうにそう言うと、真剣な顔つきになって天子を見つめた。
 その様子に思わず天子も身構えてしまって。
「あまり、過信しないことだ。覚悟は、しておきな」
 死神の継げる言葉。きっとそれは一つしか結末を意味していない。
 天子は言葉をかえすこともせずに、地面をけった。死神の暗示した、未来に向かって。
 
「ああ、嫌な役割だね。役割だよ。でも、仕方が無い。告げないわけにもいかないし」

 小町は少しだけ、嘆いた。
 ここを飛び去る前の天子の顔が、とてもとても真剣なもので、愛しているんだと傍目にも感じられたから。
 
 
「勿体無い。綺麗なものほど、儚く消えてしまうものなのかね」


 小町の呟きは、誰も聞くものがいなかった。
 
 
 
==■==



「お前さん、もう少しで死ぬよ」

 こう告げられたのはついさっき。
 サボりに来た小町を出迎えた時の事だ。雪は降っていないけれど冷え込んだ朝。
 相変わらず止まらない咳、だんだんと酷くなっている気さえする。
 そんな折やってきた死神がへらへらとした笑いを消して告げたのだ。
 病名はわからない。死神に解るのはその人が死ぬという事実だけだ、と教えてくれた。
 魂くらいは回収してやるよ、と言われたもののまだ実感はわかない。死ぬということは、天子を残してしまうと言うことだ。
 だから、死にたくはない。
 けれど、死ななくてはいけない。
 それに逆らうことは自然に逆らうようなこと。霊夢はそれはできそうにも無かった。
 だから、だから。
「夢のごと、君を相見て、天霧らし、降りくる雪の、消ぬべく思ほゆ……ってね」
 まるまる引用だった。けれど、そう、消えて行くしかないのだ、と思った。
 雪だって、いずれ解けるものだ。美しいものも、いずれ消える。
 霊夢がそうして物思いにふけっていると庭に人の気配がした。
 きっと、あいつだ。
 天子だ。
 まるで解っていたかのように霊夢は目の前の襖を空けて、庭を見た
 雪に覆われていない庭に、切羽詰ったように顔をくしゃくしゃにしている天子。
 霊夢は思わず微笑んでしまい。
 
 
「いらっしゃい。中に入ったら?」


 努めて平静に言葉をつむいだ。
 
 
 
 

終幕:沫雪は、千重に降りしけ、恋ひしくの、日長き我れは、見つつ偲はむ





 霊夢が死んだ。
 
 驚くほどにあっけなく。
 
 死因は肺炎をこじらせたとか、永遠亭の医者は言っていた。
 
 霊夢が死んだとき、比那名居天子は亡骸を抱きしめて号泣していたと言う。
 
 葬儀を執り行おうとして幾人か天子に返り討ちにあってしまったほどに、離したがらなかった。
 
 それから神社は、主不在のままだった。
 
 
 
==■==


 
 主のいないはずの博麗神社。雪解けの季節が近づく中で、神社は未だに庭に雪を残していた。
 空を見上げれば神社にだけ雪が降っているのが良く解る。そこだけ、天に暗雲立ち込めているのだから。
 神社もまだ壊れるほどに時間は経っていないとは言え、生気が無かった。生きている気配がしない。
 雪に包まれながら眠りについてしまったかのようだ。
 人里でも幽霊屋敷として名高くなってきた神社に、小町は降り立っていた。
 目の前には一人、主不在の神社に住み着いた死人がいた。
 
「あら、いらっしゃい。生憎主は不在だけど、楽しんでいきなさい」

 比那名居天子、その人だった。こうなることは想像に難くない、きっと何かに縛り付けられているのだ。
 小町はゆっくりと天子に近づいた。天子は緋想の剣を握ったまま動こうとはしない。
 天子は見るからにやせ細っていた。いくら天人といえども生きる目的を失ってしまえば、熱を失ってしまえばこうなるのだろう。小町は微かに哀れみを覚えながら、なお近づいていく。
 天子の髪はぼさぼさだった。瞳は血走り、頬はこけて。唇はかさかさになり全身に艶がない。衣服も何時ごろからきているのだろうか、裾が擦り切れ泥まみれだった。
 一人の女性として、哀れなほどに落ちぶれていた。
 それでも、瞳には意思が宿り、声は凛としていた。
「あんた、こんな所で何をしてるんだい?」
「霊夢を探しているの。寒くて寒くて。暖めて欲しいのよ」
 お茶を求めるかのような気軽さで、天子は告げる。それこそが幸せだと。
 小町は薄ら寒ささえ覚えながらも、天子に向き合った。
「巫女はもういない。解ってるんだろう」
「ええ、いない」
「は?」
 意外だった。思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。
 確りしているじゃないか、と小町は内心感心すらしてしまう。
「だったら」

「だから、追いかける」

 天子はかぶせるように言葉をつむいだ。平静に、冷静に。熱も無く淡々と。
 小町は自分の発言を潰されたことよりもその無感情な様子に寒気を感じて一歩退いた。
 その開いたスペースに躍り出るように幽鬼さながらに天子が立ち上がる。だらりと下げた腕には緋想の剣。
「追いかけるって」
「人が解けた先に。私も元は人のはず。きっと同じ所にいける」
 天子の腕がゆっくりと持ち上がる。切っ先が小町の喉元を刺していた。
「なにを……」
「でも、天人は死ねない。寿命がくるまで待てない。だから、あなたを待っていた」
 天子の腕がそのまま一気に持ち上がる。小町はとっさに身を捩り、刹那の後、そこに緋想の剣が振り下ろされた。
 
「死神に殺されて正常な道に戻る。霊夢より少し遅れたけれど、人が解ける先は大地しかない。魂が消える先も、一つしかない」
「お前っ」


「だから、手柄を上げる。その代わり、私は霊夢のところに行く」

「霊夢がいないと寒いの」

「寒くて寒くてたまらない。解けることも出来ない」

「熱が欲しい。全身を焦がしつけるような、温もりが。寒い」


「この、馬鹿っ!」



==■==



 雪が止んだ。空は何かを吹っ切ったかのように晴れ晴れとしている。
 静かに暖かくなる中、小町は一人大地を見つめて舌打ちをした。大地の中に、あいつたちは帰ってしまったのだ。
 周囲の雪がゆっくりと解け始めていく中、小町は降り積もった雪を蹴飛ばすように庭を歩き回った。もしかしたら幾度かあの二人を踏んでしまったかもしれない。。
「馬鹿だね」
 雪解けの様子はとても寂しかった。解けていく雪が、地面にしみこんで行く様が寂しい。
 小町の周囲に生えた梅の木の雪も解けて、今では水滴となって地面に落ち込んで行く。
 雪解けの後、そこに埋もれてしまった雪のことを思い、小町は少しだけ悲しんだ。
 空を見上げてみても降り積もるものは何もない。きっと、もう全てが追いかけて消えてしまったんだと思った。

「雪こそば 春日消ゆらめ 心さへ 消え失せたれや 言も通はぬ、かね。でも、ああ、あいつらは消えたんじゃないな」

 縁側にはきれいになった鎌が置いてある。周囲には、多数の切り傷。
 べとりと雪解け水と混ざり合って泥のようにぬかるんだ庭を見ながら小町は一人、声を漏らす。
 
「あいつらは追いかけていったんだ。心ごと」

 なんて馬鹿なのだろうか。そんな事しなくたって、何かはあったに違いないのに。温もりが欲しいなんて、そうなれば解けるしかないのに。

「天曇り雪降り積もる冬景色。混ざり解けゆく雪解けの時、なんてね」
 
 小町は恥ずかしそうに頬を染めつつ、腕を組んだ。
 きっとあの二人についてはこれでよかったのだ。そう思いたかった。
 
「ここまで馬鹿なんだ。あんたらの事は覚えててやるから、幸せになりなよ」

 渡し守の時のネタが一つ増えた、と小町はそう思うことにしようと思った。
 
 既に雪は全て、解け終えていた。


 ――松返り、しひてあれやは、三栗の、中上り来ぬ、天子といふ奴。
 
 
(ああもう全く。追いかけてきてこの馬鹿は)

(ごめん、でも、一緒にいたくて)

(しょうがないわね。仕方ないから、ずっと一緒よ)

(うん。霊夢……愛してる)

(天子、私も愛してるわ)


 ――解けた先で二人はずっと、一緒だった。




 
★天(子の心が恋に)曇り雪(のように淡い恋心が)降り積もる冬景色(がごとく染めあげられた)。混ざり溶けゆく(二人のこことは大地に解けるしかなく、降り積もった雪のごとく積み上げられた大地も二人が消えてはただ)雪解けの時(を迎えることしか出来ない。なんと哀れなことか)
 心が染まり、雪という名の思いが振り募る。それも追いかけてしまえば解けて行くことしかない、そんな乙女心。愛してるよ、って言って。私を解かして欲しい
 歌については元ネタありのと無しの。文献は一つ
 時間が無かったんだ
神楽
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/01/10 23:11:20
更新日時:
2009/01/10 23:17:47
評価:
13/15
POINT:
107
Rate:
1.65
1. 10 無名 ■2009/01/11 23:07:40
天子……愛深き故に……
2. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/01/11 23:37:39
素敵でした。
天霊はもっと増えていいと思うんだ。
3. 10 a ■2009/01/12 00:22:04
悲しすぎる
4. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/01/12 00:55:09
>「私の贈り物はまだ終わっていない」

その後の描写が、眼に見えるようでした。あんまりにもきれいです。
その後の展開を、小町さんという不穏な存在から少し予想し、ちょっと涙ぐみつつ。
よかったです。ありがとうございました!
5. 6 ■2009/01/13 17:01:44
序盤の視点で霊夢と天子が、一部逆転していた部分があったので
6. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/01/16 02:01:48
構ってちゃんの天子可愛いよとか思ってたら後半の展開で泣いた
7. フリーレス 名無し ■2009/01/17 23:43:14
泣けました。感動をありがとう。
8. 8 雨雨 ■2009/01/23 05:59:27
いいなぁ、いや、切ないですね
てんこちゃん普段バカみたい(な感じ)ですけど、一途になるとかわいいかわいい!
かわいいのに、作品全体としては「儚い」という言葉がぴったりな作品かと
>米神。頭のこめかみは、ちょっと字が違うんですねえ。
9. 10 nanasinn... ■2009/01/23 19:11:10
悲しいお話だなぁ…。
人間は儚い生き物。天人になってもそれ変わらなかった。特に心の脆さは。
個人的に霊夢は天子の行動を咎めると思う。例え愛しているとしても死んだ自分の事を引き摺ってしまうことを善しとはしないんじゃないかな。
でも何物にも平等で縛られる事の無い彼女が唯一愛した人だから特別許してしまうってのも有り得そうだと思えてしまう。どちらが正しいのかは分りませんがこの話の霊夢にとっては天子が自分を追ってきた事は喜ばしい事だったんでしょうね。
10. 9 名無し魂 ■2009/01/23 19:57:15
あちこち不器用だけども、天華も雪景色も用意して、ちゃんと想いを伝えられた天子。
> 「ええ。私博麗霊夢は比那名居天子の事が好き。といっても今、こうしてしまうまで気がつかなかったんだけど」
と言わせてしまうぐらい、ひたむきでかわいい天子。

…突然の霊夢の死。
亡き霊夢のあとを求め、ついには冥界にまで向かって行った。
……儚いぜ……。

セリフと地の文、そして和歌。全てが登場人物を、風景を生き生きと描写していました。
本当に素晴らしいSSでした。
11. 5 グランドトライン ■2009/01/23 22:29:33
雪解ける 春よ目覚めよ 送るため
  旅路を待つは 愚か者なり

この歌を誰もいない神社に捧げる。

物語の節々に短歌を挿入するのは、なかなか趣がある試みでした。
ただ私は古語が苦手なので軽く読み飛ばしただけでしたが。
上の歌も勢いで作った感動なのでお気にせずに。

ネチョのほうも様子が詳しく書かれていたと思います。
ただ、ラストで天子に対する行為のみ描かれていたので、2人して達することが疑問に思えます。

素直なところが似ている霊夢と天子のカップリングは意外と違和感がなかったです。
雪の中の語り部である小町も様になっていました。
12. 8 名無し妖怪 ■2009/01/23 23:34:14
後追い自殺のようなものですね。
深い愛というか、なんというか。
面白かったです。天子かわいいよ天子。
13. 4 ななしぃななしぃ ■2009/01/23 23:49:00
ネチョの描写が個人的にすごく好きです
ありがとうございました
14. 7 泥田んぼ ■2009/01/23 23:52:04
最初に小町が出てきた時点で悪い予感(≒いい予感)がしてたんだけど……
終わり方が最高
この二人に幸あれ(でももう死んでr(ry
15. フリーレス 神楽 ■2009/01/25 18:52:38
皆様お読みいただきありがとうございます
もう少し時間かれればなあ、と思いつつも、まあ、大体私はこの位置です、分不相応にも。流石に一日の強行軍はもうやりたくないよ……
こちらに書くのはあれかもと思いましたが、コンペチャットでも言ったように歌の意味をここに書いておこうかと思います
・天花(てんか)- 雪の形容。「天華」とも書き、「てんげ、てんけ」で、天上界に咲く花を指す仏教用語
・天地の別れし時ゆ、神さびて、高く貴き駿河なる富士の高嶺を、天の原振り放け見れば、渡る日の影も隠らひ、照る月の光も見えず、白雲もい行きはばかり、時じくぞ雪は降りける、語り継ぎ言ひ継ぎ行かむ、富士の高嶺は
 意味: 天地が分かれてこの地ができて以来、神々しく高く貴い、駿河の国の富士の山を、空に向かって仰ぎ見ると、太陽の光も隠れ、月の光も見えず、雲(くも)も山に行く手をさえぎられ、ひっきりなしに雪が降っています。この富士の山のことをいつまでも語り継いで行こうと思うのです。
・ぬばたまの、今夜の雪に、いざ濡れな、明けむ朝(あした)に、消(け)なば惜しけむ
 意味: 今夜の雪に、さぁ濡れましょう。明日になって、(雪が)消えてしまったら残念ですからね。
・我が背子(せこ)を、今か今かと出で見れば、淡雪降れり、庭もほどろに
 意味: あの人が来るのを今か今かと待ちかねて外に出てみたら、淡雪が降っています、庭にらはらと。
・夢(いめ)のごと、君(きみ)を相(あひ)見て、天(あま)霧(ぎ)らし、降(ふ)りくる雪(ゆき)の、消(け)ぬべく思(おも)ほゆ
 意味: 夢みたいにあなたに逢(あ)ってから、天を曇らせて降ってくる雪(ゆき)のように、消え入りそうになる私です。
・沫雪(あわゆき)は、千重(ちへ)に降(ふ)りしけ、恋(こ)ひしくの、日(け)長き我(わ)れは、見つつ偲(しの)はむ
 意味: 沫雪(あわゆき)よ、幾重(いくえ)にも降り積もれ。何日も何日も長く恋し続けた私は、雪を見てあの人のことを思います
・雪こそば、春日消ゆらめ、心さへ消え失せたれや言も通はぬ
 意味: 雪だったら、春の日に解けて消えてしまうものでしょう。だのに君は心まで消えてしまったのかな、君からはなんの連絡もないのは。
・↑の返歌:松返り、しひてあれやは三栗(みつぐり)の、中上り来ぬ、麻呂といふ奴
 意味: 鈍感な人でもないのでしょうに、京に行ったまま私の所には来もしないで、麻呂という人は。まったく、もう
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