私はその手で掴んでも

作品集: 最新 投稿日時: 2009/01/10 21:21:16 更新日時: 2009/01/10 21:56:05 評価: 12/13 POINT: 103 Rate: 1.83
 








熱い身体から吐き出される息が冷たい部屋に白く染められていった。
火照る首に吸い付いては紅い印を幾度も刻み、冷える指先すら熱を持たせそうなほどの熱い割れ目に入り込む。
彼女に覆い被さるようにしてのし掛かる私の背中には優しく腕が回され、私の指が静寂を壊す僅かな音をならす度に彼女の身体が蠢いた。
上り詰めれば上り詰めるほど蒼い瞳には透き通った雫が溢れてくる。
泣きそうな彼女を安心させるように頭を何度も撫で、雫が溢れて涙になる前に私のものにと舌を伸ばした。
私の指の動きが激しく、より淫猥になるにつれ彼女の呼吸は乱れ動悸も激しくなっていく。

「もう、我慢出来ない?」
見つめ返す瞳が全てを物語っていた。
だからこそ、私もそれ以上は何も言わなかった。
さらに深く指を彼女の奥に差し込むと、私の背に回された手に爪を突き立てられる。
痛いはずなのに痛みは感じない。それくらい心が満たされているからなのだろうか。
それともその痛みを感じる余裕が私にはないのか。はたまた彼女に触れられているだけでそこが心地良いからなのか。

「ふっ……ぁ、ああっ……も、ぅ」
「好きな時でいいからな」
何度したか分からないやり取りなのに、胸の鼓動は収まらない。瞳を覗けば私を求める声が聞こえるようで、さらに私の指は彼女の望みを叶えように裡を動き回る。
指が中をかき回すごとに、指の動くスキマを埋めるように壁が狭くなっていく。
そのくせ指に絡む液体がすべりを良くしてくれるのだから決して止まる事はない。
彼女が達するまでは、決して。

「っ!!」
声にならない叫びを必死に堪えているのだろう。爪を立てていること自体には気が付いていたのか、その手は離され頭の両脇に投げたされたかのように彷徨っていた。
辛そうに眉をひそめ、食い縛っているその姿さえ愛しい。その気持ちを抑えきれずに撫でていた手を彼女の右手に絡める。互いの指の間に指を合わせ手を握りしめる。握り返

された手に込められる力が徐々に強くなっていった。
苦しげに歪む口を私の舌でなぞって、乾燥した空気のせいで少しかさかさになっている唇を当てる。
肌と肌がくっついているのとは別な温かさと心地良さ、そして興奮が伝わって来る。口付けは口を割って僅かに舌を入れ、歯や歯茎を確かめるように浅いものにとどめた。
指を締め付ける感覚がもう彼女が達する事を示していたから。その顔を私は見たかったから。
いつも意地が悪いとは言われるけれど見たいのだから仕方ない。

「ぅぁああっ! も、だめえっ! あぁあっ、ああああああっ!!」
一際指が絡み、一段と白い吐息が部屋に現れて消えていった。
指の腹で突くだけで敏感に感じる奥の場所を、彼女が達しても刺激し続ける。
余韻を楽しむ間もなく、次の絶頂が彼女を襲うだろう。空いていたもう片方の手はシーツを掴んで波立たせている。
その切なげな顔を私はどこか満足げに眺めていた。
あっという間に2度目の絶頂を向かえ、一気に涙が溢れて私の指と性器の間から愛液が零れ落ちるより多くのしずくが流れたように思えた。

「ん……今日も涙止まらないのか……」
「はあぁ……っ、まり……さ……」
握られた手はゆっくりと離されて、彼女が掴んでいたシーツも解放されてそれでもぐしゃぐしゃになったままだ。
疲れ果ててしまったのだろう力は抜け、そのまま目を閉じて寝息を立て始めた。
……本当はもっと声を聞きたかった。
でも、どうして。
どうしてアリスの目の端から涙が溢れるのが止まらないのだろうか。
いくら指で掬っても掬っても、私の意識がなくなるまで決して涙は収まってくれなかった。
――そしてこの押さえつけられるような胸の痛みも同じく、無くなりはしなかったのだ。








「……寒い」
「そうね、凄く寒いわ。着替えるのも億劫になるくらい」
「でも、こうして抱き合ってると温かいな」
「何時までもこうしてるわけにはいかないでしょ? あんた、お腹減ってるだろうし」
言われてみればお腹がくぅくぅなっている気がする。昨日はどれだけアリスを相手にしていたのだろう。
とりあえず時間の感覚は亡くなっていた。だから今もどれ位の時間なのか分からないでいる。
ただ空腹だけが相当な時間が経っていることだけを私に告げていた。

「だけど、こうしてるもの悪くないなやっぱり」
「そのまま餓死しても知らないわよ」
「いくらなんでも一日そこらじゃ死なないって」
僅かに微笑んでアリスが私に抱きついてくる。抱きしめられる腕に篭められた力は少し強かった。
薄っぺらい胸だと散々馬鹿にしているくせにこうして私に抱きつくのが好きなようだ。
私がそう言っても決してアリスは首を縦に振らないだろうけど。
昔は私のほうがアリスに抱きついてばかりいた気がする。いや、今だって抱きつく事は多々あるけれど、アリスが抱きついてくることが多くなっただけだろう。

「上海たちに着替えを持ってきてもらいましょう」
「着替えが冷たそうだぜ。下の暖炉はどうした?」
「そっちも蓬莱たちに付けてもらってるとこね。後はお湯を沸かしてるわね、直ぐにお茶飲めるように」
冷えた身体にお茶はありがたい。とはいっても飲んで直ぐに身体を温かくしないと後で飲む前より冷えてしまうから気をつけないといけないな。
紅茶も飲まないことはないけれど、緑茶もアリスの最近のお気に入りになってくれたようで薦めた身としては嬉しい次第だ。
そんなことを考えていたら、直ぐに上海人形が私とアリスの着替えを持ってきた。
私もアリスも何も身に纏ってはいないから上海が持ってきたのはまずは私たちの下着だ。

「……これでも昔よりは大分大きくなったんだけどなあ」
「まあいいじゃない。少なくともブラ付けられるくらいは大きくなったんだし」
「うるさいぜ。本当はこっちだってアリスより大きくなっている筈だったんだ」
アリスとこういう関係になってどれくらいだろうか。私の身長はアリスを追い越した。だけれどいっこうに胸は成長してくれない。
どういうことだよ……。
それでもこうして抱きしめてあげることが、抱きかかえてあげる事が出来るようになったのがとにかく嬉しかった。
自分でいうのもなんだけれど、この方が私が小さいままより絵になると思った。

「うぅっ……冷たいぜ」
「少しは我慢しなさい」
まあ、なんだかんだで今も子供扱いされている気がしてならないけど。
きっとアリスが私を子供扱いしなくなる日は来ない気もする。
上海人形が用意してくれた下着を布団の中で、布の冷たさに身体を震わせながら付けていく。
その姿をアリスが笑いながら見ていやがる。アリスを見るともう付け終わっていた。

「そんなに寒そうにしないでよ。なんだか悪い事してる気持ちになるじゃない」
「笑うなよ、そのくらい冷たいんだから。布団とアリスが温かいから余計にそう感じちゃうんだよ。そういうアリスは平気だったのか?」
「冷たい事は冷たいけれど……このくらいの事なら我慢出来ないほどじゃあないわ」
ようやく私が上も下もつけ終わる頃に上海人形が洋服を重そうにして抱えてきた。
ありがとうとアリスに頭を撫でられてとても嬉しそうだ。
……偶にはそうやって撫でてやらないと拗ねる奴だっているんだぜ、アリス。
蓬莱人形達のことであって断じて私のことじゃあない。
表情に出したつもりはなかったのに、私の頭には柔らかくて温かい何かが触れた。








「やれやれ、道理で寒いわけだ」
「雪が降るには少し早い時期ね……たとえ降っても積もりもせずにあっという間に消え去るでしょうに」
「秋の神様が仕事をしないのか、冬の精霊がせっかちなのか……ともかく寒いのはごめんだなあ」
蓬莱人形達が付けてくれた暖炉と入れてくれたお茶で身体を温める。
アリスはぼーっとした様子で窓の外を見ていた。ただ雪が降っているだけの外を見て楽しいのだろうか。
私はそんなアリスを眺めていたけれど、こっちの方がよっぽど建設的だ。
パチパチと付けられて直ぐの暖炉の炎が燃える音だけが部屋に僅かに響く。

本格的に寒くなってさらに出歩くのが億劫になる前に、私はどうしてもやっておきたいことが、いや、やろうと決心したことがある。
声も出さずに椅子から立ち上がると、アリスは私のほうに目を向けていないのに私の服の裾を掴んだ。
「何処に行くの?」
「ちょっと紅魔館までな」
「何をしに?」
「寒くなって行くのが面倒臭くなる前に本を借りに行って来る」
「……この間借りてきた本も一緒に返しに行って来なさい」
「ん、アリスは一緒に来てくれないのか?」
「ちょっとそういう気分にはなれないわ……一緒に行きたい気持ちもあるんだけどね」
そうか、とだけ答えてアリスが編んでくれてた手袋とマフラーにつけて、愛用の帽子をかぶる。
アリスは振り返ることもなく、いってらっしゃいと小さく呟くだけだった。アリスは私に聞こえなくてもいいように言ったのかもしれないけれど、私はその小さな声でさえ聞

き逃しはしない。
だから私はアリスに言葉が届くようにいつもより大きめにいってきます、と言い箒を掴んで一気に天をへと昇っていった。







雪が降っている中空を飛ぶっていうのはやっぱり寒い。マフラーや手袋がなかったらあっという間に凍えてしまうだろう。
途中おそらく今年初めて雪にテンションがあがっていたのであろう氷精やらなにやらに絡まれたけれどさっさと片付けて紅魔館へと急ぐ。
速度を上げればあげるほど顔に当たる雪の勢いは増し、さらに風は冷たくなっていった。
氷を薄く張っている湖を通過すると見慣れた大屋敷とその門番がようやく見えてきた。

「ん、止まりなさい霧雨魔理沙! 何の用です?!」
「ほら、この通りだ」
そういって箒からさげていた風呂敷を見せる。
美鈴はやや訝しげな様子でそれを覗くと
「雪で濡れてしまってたらパチュリー様怒りますよ?」
「流石にそれは注意したぜ。そうじゃなくても普通じゃない本だからな、魔導書は魔法的なコーティングがされてあるから大丈夫だぜ」
「……そのよう、って言いたい所何だけどその本だけ凄く濡れてない?」
「……この本だけは小悪魔に手渡し出来そうもないな」
この一冊だけは自分の手で直接本棚に返しておこう。私の命が危ない。
メイド長に見つかってため息をつかれ、図書館の魔女と従者には見つからないように出来るだけ音をたてぬように侵入していく。
適当に空いていた場所に件の本をいれ置いた。
木を隠すには森の中、
「本を隠すには書棚の中かしら?白黒のネズミさん」
「パ、パチュリー……な、何の話だぜ?」
「まあ今はいいわ。それより何の用かしら?」
いつものように気だるげなジト目を向けられる。
用事がないなら本を置いてさっきと出ていけと言わんばかりで、本を濡らしてしまったことにはそこまで怒っていないように見えた。

「怒らないのか、って顔してるわね」
「……ごめんなさい」
「……」
「まさか私が謝るなんて、って顔してるぜ」
今日は特別な用事でやって来たのだから、注意はしていたとは言え本を汚してしまったのは私が悪いのだから。
パチュリーがキョトンとしたのも一瞬、ジト目では無いにしろいつも通りのどこか眠そうな目だった。
私が本当に本を返しに来たということは理解してくれたようだ。
詠唱する様子も無い。小さく小悪魔を呼び、いつも使っている机一式のある場所へと戻っていった。
ちょっと前までは目線は同じ相手だったのに見下ろすようにまで私は成長したのだろう。
普段はアリスと一緒にいるから驚きはそこまで大きく無い。しかし、こうして久しぶりに会う相手だとそれは大きい。
向こうもそうみたいで美鈴や咲夜も少し驚いていたようにも見えた。
パチュリーは余り驚いて無いみたいだったけど。

「ねえ魔理沙。……あの本読んだ?」
「いんや。なんの魔力も感じなかったしな、読んでないぜ。それに目当ての本は先に見つかったからな」
ちょっとくらいは開いたかもしれないけれど。
「そ、そう……ならいいの。小悪魔それもちょっと持ってきて頂戴、濡れたものと一緒にされたら痛んでしまうわ」
そういってパチュリーは小悪魔に本を持ってこさせ、ぱらぱらと内容を確認すると燃やしてしまった。
燃やすくらいなら私にくれたっていいじゃないか。
なんだかパチュリーがほっとしたような表情をしているから、内容がなんだったのか余計に気になる。

「で、本を返してそのあとはどうするつもりかしら?」
「言いにくいんだけどさ、本を貸して欲しいんだ」
「はあ〜っ……何が言いにくい、よ。あんたアリスと一緒に居るようになってから随分と丸くなったんじゃない?」
まるで私がアリスに飼い慣らされているとでも言うような口ぶりだ。
……あながち間違ってない気がしなくもない。いや、きっと気のせいだ。
寧ろ私がアリスに合わせてやってるんだと思っておこう。
「それにさっさと帰らないとまた、アリスに叱られるわよ」
「余計なお世話だぜ。それより借りたい本なんだけどさ……」
さっきと変わらない表情で、呼ばれた小悪魔に指示をして自分はさっさと読書を始めてしまった。
もう私には興味がなくなったのだろう。それは驚きに値しない。
私が驚いたことは私が頼んだ本を貸すことに快諾とはいかずとも、貸さないという拒絶の意思がないことだ。
小悪魔が私が頼んだ本を探しに図書館を飛び回っている。
なんとなく手持ち無沙汰でパチュリーの読んでいる本を覗いてみた。難しすぎて今の私には理解できそうもなかった。

「はい、どうぞ魔理沙さん」
「おおサンキュー、ってこんなにあるのかよ」
「当たり前じゃないの、そんなに簡単なものなわけないでしょうこの未熟者」
さっき本を盗み見していたことがばれていたか。
直ぐに飽きて目を離していたことまで知られてしまったなら未熟といわれても仕方ないだろう。
そして現に、私はまだ魔法使いとして未熟だ。
「魔理沙、少し待ちなさい」
「何か注意でもあるのか? そりゃあ信用は出来ないだろうけど」
「違うわよ。今度は濡れてしまわないようにちゃんとコーティングしておいたということ。それでも汚したら、分かってるわね」
「善処してみるぜ」
「……ねえ、これは貴女がやったのかしら?」
「これって、これのことか?」
「そうよ」
なにやら納得がいかないといったような表情で私が持ってきた風呂敷を眺めている。
いくら本自体が守られていても念には念をいつだったかアリスが魔法をかけてくれたのだ。
当然だけれど今の私にはそんな器用な真似は出来ない。
出来たとしてもおそらくアリスやパチュリーの何倍も劣ったものが出来るだけだろう。

「じゃあアリスがやったのよね?」
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「……なにやってんだか……」
「アリスを馬鹿にするのは許さないぜ?」
「馬鹿にした訳じゃないわよ。未熟だと言いたいだけよ」
「馬鹿にしてないか?」
「馬鹿にはしてないわよ。眼前たる事実を述べただけよ。こんな簡単なことすら失敗するなんてね」
パチュリーの態度からも馬鹿にしているという様子でもなさそうだ。
分かっているけれども誰だって好きな人に対するマイナスの評価なんて、聞いていて気持ちいいものじゃないからついあんな事を言ってしまった。
それにどちらかといえば、パチュリーは心配してくれているようにも思えた。相変わらず表情は変わらないけど。

「今度は私が皮膜を張ったのだから貴女がよっぽどの無茶をしない限りは平気なはずよ」
「善処するぜ」
行動に移しなさい、と聞こえた気がしたけれど私はもう飛び立ってしまっているからそれに答えることは出来なかった。
特別呼び止められるようなこともなかったから、こっちに突っかかってきた妖精メイドだけを撃ち落して早々に紅魔館を立ち去る。
パチュリーの言っていたようにあんまり待たせるとお姫様が拗ねてしまうだろうから。
相も変わらず振り続ける雪がうっとおしく私に纏わりついてくる。まるで私も雪になれとでもいわんばかりに向かってくる。
紅魔館に来たときよりもさらに速度を上げている所為で、冷たい風が容赦なく私の衣服を貫いて私を凍えさせた。
手袋がなければ箒を掴む手はあっという間にかじかんで、マフラーがなければ思考はまともに働いてくれないだろう。
箒がなくても飛べない事はないけれど、やっぱり魔法使いは箒で飛ばないといけないというの私の信条なのだから仕方ない。



「ちくしょう、何が降っても直ぐ消えるだ。そんな気配まったくないじゃないか」
余りの寒さに悪態でもつかないとやっていられない。
冬の精霊に関して言えばあんまり仕事をしないで欲しい。それでも暑いのよりはマシかもしれない。
寒いときにアリスに抱きつくのは温かくてとても気持ちいいから。それに暑いときに抱きつくと鬱陶しいと言われるは冗談交じりとはいえ若干くるものがある。
「はやく帰って温かいものでも飲みたいぜ」
そう思ったら余計に寒くなった気がした。
ううっ……温かいものを飲むだけじゃ足りない。アリスに抱きしめてもらいたい。優しくて温かい腕で抱きしめて欲しい。
アリスより大きくなっても子供扱いされるのはいつまで経っても私のこういうところが変わらないからか。

いつもよりずっと少ない視界にようやく魔法の森が見えてきた。
歯がかちかち鳴るくらい寒い。いつもより速度を上げているはずなのに中々アリスの家に着かない。
嫌なことや大変な事をしている間の時間の経過は相当に遅く感じる。だからこそアリスと一緒にいる時間はあっという間に感じる。
そんなことをアリスに言ったときは嬉しそうにしながらも、どこか影のある笑みだったのはなぜだろう。




「ただいまー。あー、寒かったぜ」
「お帰りなさい魔理沙。はい、寒かったでしょう?」
身体についた雪を払って顔を上げるとアリスが紅茶を入れてくれていたのだろう、湯気といい香りの立つカップを渡してくれた。幸いにも拗ねている様子は無い。
カップの変わりに私の帽子を受け取ってかけてくれた。
くいと傾ければ冷えた唇には少し痛い位の温かさで、安心させてくれる香りだった。
アリスの視線がふと風呂敷に向いた。何か気になることでもあるのだろうか。

「今回は結構な量になったなあ」
「……またたくさん、こんなに借りてきて……」
「ちゃんとパチュリーに了解だってとったぜ?」
「そもそもそれが普通じゃないの……」
一度は外したアリスの視線が風呂敷にと戻った。
じっと見つめると目を閉じ、小さくため息をついた。

「どうしたアリス。ため息なんかついちゃってさ」
ため息は聞かれないようにしたかったのか、無意識にでてしまっていたのかアリスは私にため息がばれていた事に驚いたようだった。
そんなに驚かなくてもいいのにさ。

「……それ、パチュリーが?」
「ああ、そうだぜ。アリスは私がそんな器用なことができると思ってるのか?」
「別に器用じゃ無くったって出来るわよ。……やっぱり失敗してたか。パチュリーには悪い事をしたわね」
ううっ……本を濡らしてしまったことをアリスにも一応言っておいたほうがいいのだろうか。黙っていたら怒られそうな気がしてきた。
「あう……その……」
「いいわよ。本を濡らしてしまったのなら私の所為だもの。今度謝罪にいって来るわよ」
何かパチュリーのほうからいってたかしら、アリスはそう私に尋ねたけれど未熟だなんていってもいいものだろうか。
大体パチュリーくらい長く生きている魔女と比べたら未熟なのは仕方ないのではないだろうか。
アリスには隠し事は出来ないらしい。そんな私の表情からパチュリーが何を言っていたのか大方の予想がついたのだろう。

「未熟、ね……」
「そ、そんなことないぜ! 私なんかよりアリスはずっと凄いよ」
「あんたと私では魔法のベクトルが違うもの。比べるものではないわ。単純に自分がなってないのよ、私は……本当に、どうしようもない」
アリスは自分を過大評価はしないけれど過小評価もしない奴だと私は思っている。
だからアリスにしてはものすごく弱気になっているように感じたのだ。
今日は私からアリスに甘えようかな、なんて思っていたけれど、まだ完全には温まりきっていない腕を伸ばしておそらく私よりずっと温かいであろうアリスを抱きしめる。
それには驚いた様子も無く、私の胸に頭を預けて背中に手を回してきた。
ああ、やっぱりアリスは温かいなあ……。
きっと私に抱きついているアリスのほうが寒いんじゃないかって思うくらいアリスは温かかった。
温かくて、いい匂いがする。どうやっても一人では得ることの出来ない幸福感を感じることが出来た。
一緒にいるだけでも幸せなのに、距離が縮まれば縮まるほどその幸福は比例するように私は思うのだ。

「アリス……」
アリスは完全に私の胸に顔を押し当てているから唇が動いているのは何と無く分かったけれど、彼女が何を言っているのかは分からなかった。
ただ、アリスの身体が震えていた気がしたから、もっと強く抱きしめた。
アリスの震えが収まるように、寒いのならば私の体温で温かく出来るように。
髪を梳く指の隙間から流れる髪の毛が心地良い。左手でアリスを抱き寄せ、空いた右の手で頭を撫でていた。
こうしていると私も安らぐはずなのに、やっぱり胸が締め付けられるようだった。

どのくらいそうしていたかわからないけれど、少しずつ私がアリスから抱きしめられる力が弱くなってきた気がした。
顔ももたれかかるようにしているようで、心なしか寝息を立てているようにも思えた。
「アリスー、起きてるか? ……寝ちゃったのか」
アリスを起さないように抱きかかえる。
今はアリスより大きいからこそ出来る事だ。ちょっと昔のアリスと変わらない、そして小さいころの私には出来なかった事。
夢だったといえば夢だった。こうしてアリスを抱きかかえる事が。
何よりこの方が格好がつくのがいい。私は見ての通り形から入る方だから。
そんな理由、とアリスには笑われるかもしれないからアリスには言ってないのだけど。

「おお、上海ありがとう」
アリスを寝室までつれていくとドアが勝手に開いた。内側から人形達が両手が塞がっている私のために開けてくれた。実際は主であるアリスに反応しただけかもしれない。
私達についてきた上海人形がアリスを寝かせられるように、既にメイキングされてあるベッドの布団を捲ってくれた。
寝室はやっぱり火が入っていないから寒い。
同様に冷たい布団に入るアリスは寒さで起きてしまうかもしれないだろう。
彼女が心地良く眠れるように私も布団が温かくなるまで一緒に入っていることにした。

ベッドの上で向かい合う。
とはいっても相手は起きてはいない。
スースーと規則的に呼吸をしながら、時おり身体を動かす。
思わずこの時期にはお目にかかれない桜色の唇に、無性に触れたくなって指をそっとあててしまった。
どこかひんやりとしていて、でもアリスを感じる。彼女が直ぐそこにいると、触れると尚そう思うのだ。
そうしてまた言いようのない体がふわふわするような心地良さが襲ってくる。
……おっといけない。アリスが寝て、私まで寝てしまったら夕飯を作る奴が居なくなってしまう。
寝室においてあった人形を私の変わりに布団に入れて、キッチンへと向かう。

ん、上海人形。お前はご主人様の御守だぜ? それとも私のほうが頼りないってか?
こくこくと元気に首を振ってきやがった。

さてさて下に下りて来てみたけど……ってこれじゃ何にも作れないぞ。
食材が決定的に足りない。
これだと白米にお味噌汁だけというかなり質素なものしか出来ない。
贅沢は言わないけれどせめて主菜くらいは欲しいものだ。

「蓬莱、ちょっと出かけてくるぜ? アリスが起きたら伝えてくれよ」
ホウラーイ!
こいつ本当に分かっているのだろうか?
アリスの魔法の成果を疑うわけじゃないけど、アリスの命令で動いてないときはなんとなく信用できない。
アリスが寝ている間も魔力が供給されているから動いているらしい。その間は組まれたプログラムにのっとってどうのうこうのっていっていた気がする。
やっぱり私には難しくて理解しがたいものである。
暖炉の火にも気をつけるようにいいつけて、外出の準備をする。
……やっぱり心配だから暖炉の火は消しておこう。帰ってきたら全焼なんて溜まったものじゃない。

「……冷たい」
手袋に手を入れると気持ち悪い感触が伝わってきた。
先ほど使った私の防寒具は雪に濡れていて使えそうに無かった。マフラーも肌に張り付くようで気持ち悪い。
起きていればアリスと一緒にいこうと思ったけれど、ぐっすりと眠っていたから起すのも悪いだろう。
そういうわけでアリスのものを借りていく事にする。
まあいいよな、直ぐに出歩くような用事もなさげだったし。
背丈こそやや違うが、手のサイズ自体はそこまで変わらないから問題はない。

さっさと雪が止んでくれたら一番いいのだけれど、治まる気配はなかった。
まだそこまで気温が低くないから雪は僅かに積もるだけで、大抵は振るそばから解けてなくなっていった。
風も無風に近いものから心なしか強まって来ただろうか、頬に突き刺さる風が冷たい。
空も明るさを失ってきている。冬の夜の訪れの早さを改めて思い知らされた。
着けていたアリスのマフラーからいい匂いがしていたけれど、寒さで鼻が利かなくなってきたのか風に流されてしまったのか人里につく頃にはもう感じなくなっていた。

さっさと買い物を済ませていくことにしよう。
本当に暗くなるのが早い。どんなに急いでも帰ることには真っ暗になっているのじゃなかろうか。
余りに私が忙しないからだろうか、なんとなく視線をたくさん感じる気がした。もともと目立つ格好だからしかたがないけど。
人里にいる間も雪は降り続き、こっちは冬の到来を楽しんでいる奴らもいれば寒そうに早く冬が終わるようになんていってる奴もいた。
明日までの食材を確保したしさっさと帰ろう。
それでも気のせいだろうか、視線が多い。アリスと大抵一緒に来る事が多いから意識がアリスにばかりいっていたから、本当は普段からこうだったのかもしれない。
私、そんなに変に目立つのかなあ……。
どちらにせよ長居は無用だから、そんなことを気にしている場合じゃない。

夜に近付くたびに風が痛く冷たくなっていく。
感覚が一度はなくなりかけていた耳が寒さに痛みをあげ始める。
今更ながらにこれからもっと寒くなるのだろうから、もっといろいろ買い込んでおいたほうが良かったかもだなんて考えていた。
その分今回は荷物が軽くて助かる。箒にさげているだけだから別段重いって訳じゃないけど。本当に重いときは魔法で浮かせばいいだけだし。

暗いと余計に不気味な魔法の森にようやく帰ってこれた。
それほど時間は経っていないはずなのに、真っ暗だ。それにまた寒くなっただろうか、身体が寒さに震えてきたようだ。
暖炉は消さないほうがよかったか、もしくはアリスが起きて暖炉をつけてくれている事を期待するしかない。
もうしばらく目を凝らしながら空を飛んでいると木がない開けた場所が見えてきた。ようやくまた帰ってきたのだ。
バランスをとりながら少しずつ帽子や身体についた雪を払っていく。
玄関でしなければ意味はないだろうに、私も相当気がはやっていたのだろう。
さてアリスがまた出迎えてくれるか、それとも私がアリスを出迎えるか。

――答えは前者だった。だけれどもそれは私の想像からはかけ離れていたから。一瞬目を疑った。

「あ、アリスっ! お前、なんで……?」
「……なんとなく、あんたが帰ってこない気がして。目が覚めたらあんた、いないんだもの……」
アリスは防寒具を何も身につけては居なかった。どれだけこうして外に居たかは、温度がない人形に積もった雪を見れば一目瞭然だった。
マスターと同じように僅かも身体を揺らさず、じっと立っていたのだろう。
さっきはあれだけ震えていたくせに、寒さは平気なのかまったくそんな様子がない。
箒も、それにぶら下がってる食材も投げ出して、アリスの元へ駆け寄り彼女に積もった雪を払ってやる。
私の手が触れてもアリスはまったく反応しなかった。

「そんなこと、別にいつもあることだろ?」
「そう、ね……魔理沙の言う通り。それに、いつかあんたは私を置いて行ってしまうのだから、今のうちに慣れないとね……」
「何を、言って……」
アリスはどこを見ているのだろう。私はアリスに目を合わせているつもりなのに、どうしてもアリスの目と交差できない。
こんなアリスを目の前にして一気に寒気も吹っ飛んだ気がしてマフラーは持ち主に返すように首に巻いてやる。
私の体温が少しは残っているだろうから温かいだろう。
アリスはそれでも身じろぎしなかった。寒さなど始から感じていないとでもいうように。

「私の生涯時間にあんたがいるのはきっと一瞬だってことよ」
そんなことはないさ、アリスをちょっと前まで私は追いかけてたんだぜ。それにまだ追い越したなんて思っていないぜ。
追い越したのは放って置いても伸びたこの背だけだ。
それ以外はアリスにまだ届いてるかどうかちっとも分からない。

「あっという間にあんたは通り過ぎていく。緩やかに進む私の時間とあんたのそれはかけ離れすぎているわ」
それはそうかもしれないな、アリスは魔法使いだから。
私も魔法使いの筈だけど、遠いよアリス。こんなにもアリスの直ぐそばに居るのに余りに遠い。
だから私はそれをもっと近づけたいんだ。

「だから、これ以上一緒にいても幸せなのはここまでなのかなあって思うようになったわ。幸せだと思えば思うほど涙が止まらなくなるの」
道理で最近のアリスは泣き虫なわけだ。らしくもない。
いつも馬鹿やってる私を面倒そうにしながらも、優しく窘めてくれるアリスが好きだ。
私みたいな奴に付き合ってくれるのはきっとお前だけだから。

「あんたはとても綺麗になったわ。それこそ女としても十分に」
嬉しいし照れるけどさ、アリスに比べたらたいしたもんじゃないだろうって思ってしまうぜ。
でも、アリスがそう思ってくれるってことはアリスからみて魅力的に写ってるってことなんだろう?
だったら飛び上がりたいくらい嬉しいよ。

「ねえ、あんた気が付いてる? 人里に行くときあんたがどれだけ人の目を引いているか」
今日少し気が付いたぜ。だけど気が付いているならもっと早く教えてくれたって良かったのに。
あんまりじろじろ見られるって言うのは気分がいいもんじゃあないな。
いつもアリスのことばっかり見てる私が言えたことじゃないかも知れないけど。

「あんたを女としてみている男性がいるってことは分かるでしょう? そしてあんたは人間。人間の女性として幸せになる権利があるわ」
アリス、私も魔法使いだぜ。そして、アリスにだって幸福の権利はあるさ。
一緒に幸せになっちゃいけないなんて誰も決めてはいない。
誰も禁止なんかしちゃいないんだから、それは私の好き勝手にさせてもうぜ。

「職業魔法使いなのだから、職を辞めればいいだけ。なにもあんたは変わらない、魔法使いじゃなくったってあんたはとても魅力的だもの」
魅力的か……だったら、私が変わればさっきから泣いてるアリスは泣かないでくれるのか?
アリスが泣かないでくれるなら、この痛みは治まってくれると信じているから。
それに私もアリスが好きなんだ。魔法使いのアリスだけが好きって訳じゃない。
だから魔法使いじゃなくても魅力的って言葉は本当に嬉しい。

「あんたに触れれば触れるほど、距離が近付けば近付くほど嬉しいのに幸せなのに涙が止まらなかった。このままでいいのかって……」
私も口にこそしなかったけど、アリスと似たようなことは考えていたよ。ずっとこままじゃあいけないんだろうってさ。
だから覚悟は決めたよ。
引き返せない道だけど、それこそがアリスと同じ時間を生きるために必要なことだって分かっていたから。

「聞こえないわ、魔理沙」
いつもは口にしないでも私の思考を読んじまうくせにさ。
それだけアリスとつながっているって思ったら、なんだか私がアリスの考えを読みきれないのが悔しい。
だからさ、私はまだ全然アリスを越したりなんかしちゃいないんだ。
まだまだアリスの方が私よりも1枚も2枚も上手なんだぜ?

「口で言ってくれないと不安なの」
どうして? 言葉にしないと伝わらないか?
不安だとアリスがいうならその不安を取り除きたい。
募った不安は涙の呼び水になってしまうから。

「その口から聞きたいの。あんたはどうしたいのか、どう思っているのか。返答次第ではあんたとはもう一緒に居るのを止める覚悟だってあるわ」
それは答え大事にしないとな。アリスと一緒に居られないのは私には辛すぎるからさ。
でも辛くても私が泣いたらダメだ。一緒に泣いてしまったら慰められる方が居なくなっちゃうからな。
だから、アリスがもし泣いてしまっても私が支えていられるようにまではなったつもりだぜ。

「さあ、あんたの答えは?」
ずっとアリスと一緒に居るよ。
聞こえないというのなら何度でも言ってやろう。
アリスに届くまで、想いが全て伝わるまで。
私の台詞は子供っぽいし、綺麗事ばかりかもしれないけれど間違いなくそれが私の想いなのだから。

「聞こえないわ」
「私は……っと……ずっとアリスと一緒に居るよ」
「足りないの魔理沙……それでは直ぐに消えてしまうわ。雪に手を差し伸べたら掴む前に消えるように」
「私は雪じゃないぜ? ほら、私は触れても消えない、掴んだって消えないだろう?」
そういってアリスの手を掴んで私の頬にあてがう。二人の距離はさらに近付いていく。
頬に感じた冷たさに思わず身体を竦めそうになった。そのくらいアリスの手は指先まで凍えるように冷たかった。
でも離さない。柔軟そうに見えて頑固なお姫様が分かってくれるまで。

「どうだ?」
「……まだ、足りないわ……積もってなかなか消えない雪だってあるもの」
「それはまた、難儀だ。それこそずっと一緒にいないと分からないじゃないか」
「……だから、それはその……そういうことよっ!」
思わず笑みがこぼれてしまった。ちょっと前までは表情すら変えず涙していたアリスが今度は真っ赤になっている。
アリスの手も私の熱が伝わったからか、それとも彼女自身の体温の上昇の所為か温かくなってきた。
優しい温かさ、それがアリスからじんわりと伝わってくる。
暖炉の熱とは違って突き刺さるものではなく、まるで包まれるような温かさ。
私は雪とは違う、だなんて言ったけれどアリスの体温は心地良くて解けてしまいそうだなんて思った。

外は真っ暗でそれほど強くないとはいえ風が吹いて寒いというのに、アリスと向き合っていると周りなんて気にならなくなってしまう。
恐ろしい暗闇も、頬に刺さる寒風も、視界を遮るように前髪に付着する雪もまるで始から無いかのように感じるのだ。
アリスはまだ身動き一つせず、私に腕を掴まれたままだ。それでもさっきよりは断然顔色も良くなって、涙の線も細くなっている気がした。

「私はアリスと同じ時間に生きたい。隣にアリスが居ない生なんてもう私は考えられないんだ」
アリスはどうなのだろう、とまるでアリスの瞳の奥を覗くようにじっと見つめる。
彼女はただ、まっすぐに私を見ている。
お前の行く道はもはや引き返せない道だと、強くその瞳が物語っていた。
その生を全て賭される価値は己にあるのか、そんな不安も未だに僅かながら溢れる涙からも感じ取れた。
ならば私がしなければもう決まっている。それにアリスとこうなった最初のときから決めていたのかもしれない。

「……痛い、苦しいんだ」
「それは……こうしているのが?」
「違うよ。目の前でアリスが泣いている事が。どうしようもなく辛いんだ」
笑っていて欲しい。
それが私の願い。
泣き顔なんかよりずっと、ずっと笑顔のほうがいい。
どんなに辛い事が、悲しい事があっても笑っていてくれれば私は何時だって立ち上がれるから。
だから私はアリスが笑っていられるように絶対に泣かない。
笑顔でアリスを迎えよう。

「だからさ。笑っていてくれアリス。陳腐な言葉かもしれないけど、それが私にとって一番の幸せだから」
さあ、涙を止めてくれよアリス。
まだ止まらない?
私はもう万策尽きてるんだぜ?

零れ落ちる雫が足元に僅かに積もる雪を溶かして、またそこを埋めるように積もりゆく。
泣いた証など残さぬと言わんばかりに、空に重なる雲は白を吐き出し続けていた。
一度は掃ってやったけれど金よりも白が面積を占めていたから、頭をもう一度してやろうと掴んでいたアリスの手を離した。
彼女の顔に雪がつかないように気をつけながら掃ってあげて、これ以上濡れてたら妖怪とか人間とか関係無しに風邪を引くんじゃないかと思ったから私が被っていた帽子を被

せてやった。
私がアリスの手を解放したからアリスの手は自由にもう動く。私がかぶせてやった帽子をくいと直し、彼女の顔の前を腕が一度だけ通った。
視線の下にあるアリスの表情は私が自分で渡した帽子の所為で見えなくなってしまった。
これでは泣き顔は見なくてもいいけれど、そもアリスの顔が見れないじゃないか。
……泣き顔を見せ続けられるのと、一生アリスの顔が見れないのはどちらが辛いだろうか。

「詰まんないこと考えないでよ。そうしないって言ったのはあんたなんだから」
「……だから、人の顔も見ずに、っ――」
「人の顔、ちゃんと見てるけど?」
「う、ぁ、ああ……」
「そんなに私の顔は変かしら?」
目は赤く充血して一度では拭いきれなかった涙が残ってはいたけれど、私の前にはまぎれもないアリスの微笑んだ顔があった。
やっぱり全部吹き飛んでしまった。
これまでの胸の痛みも、一片たりとも。
あっけにとられている私はどれだけ間抜けな表情をしていただろうか。まったく格好がつかないことこの上ない。

「返してくれないの?」
「……返すって何を?」
何を返せばいいのだろうか?
目の前のアリスがくすくすと笑っているから、やっぱり私は相当に酷い顔なのだろう。
何だろうと頭をひねっていると、少しだけれど聞こえていたアリスの笑い声が止まった。
どうしてだろうと思って再びアリスに視線を向ける。
やられた。また、やられてしまった。
自然と頬が緩んで目じりが垂れてくるのを感じた。

「いい顔じゃないの魔理沙」
「……そりゃあ、そりゃそんな顔されたらさ、こうなっちゃうって」
「それじゃあきちんと受け取ったわよ」
「気になるじゃないか。何か教えてくれよ」
「もう、本当に気が付かないの?」
そんなことを言われたって皆目検討が付かない物はどれだけ考えたって浮かんでこないのだから仕方ない。
アリスの蔵書からはいろいろ借りている気がするけど、明らかに今は関係ないし。
呆れた、って言う表情をされるのが凄く悔しいけれど、その表情にさえ微笑み混じりなのだから私だって笑顔は変わらない。

「ううっ……気になるぜ」
「笑顔」
「え?」
「ちゃんと返してくれたわ、あんた。ふふっ……あんたも言ってたけど、私も同じみたいね。魔理沙の笑顔を見てると私も幸せよ、頬が勝手に緩んでしまうもの」
ダメだなあ私……。
嬉しくて嬉しくて仕方ない。目じりに熱いものがこみ上げてきやがった。
散々アリスには泣くなだなんて言っておきながら。
だからせめて、もう一つのほうだけも守り通さないといけないと思ったから、笑顔だけは止めなかった。
まあそうじゃなくても、ここまでアリスに笑顔を見せられたら自然に笑顔になっていただろうけど。
人は他人のしぐさにあわせて行動することがある、そんなことを何かの本で読んだことがあるけれどそれは本当な気がした。

「ほらほら魔理沙、泣かないの」
「う、っるさいなあ……こちとら嬉し泣きだ。ほんっと、さっきまで泣いてたアリスにだけは言われたくないぜ」
「じゃあ、私のも嬉し泣きよ魔理沙。嬉し泣きなら泣いても構わないわね?」
「あとは……っくしっ!!」
「……はぁ、ずっと外に居たものね。中に入りましょうか」
なんだか急に安心したら、一気に周りの情報が入ってきた気がした。
今までもあったであろう雪が風が闇が、私に一気に襲ってくるような感覚だった。
それより気に食わないのが、雰囲気もへったくれも無い奴っていうアリスの表情だ。
まったく……こっちは誰のために……。

「ありがとう魔理沙。……上海、あなたも寒かったでしょう?」
「シャンハーイ」
「さあ中に入りましょう。さあ魔理沙も、風邪ひいちゃうわよ」
そういって帽子を返された。
態となのか上手く出来なかったのか、目が隠れるくらい強く帽子を被らされた。視界が黒に支配される。
アリスに帽子を貸していた間は私にも雪が積もっていたから頭が冷たい。
ずれていた帽子を直すと目の前にアリスが居なくて一瞬だけれど酷く焦った。
これまで自分が見ていたものが幻だったのではないかと。
だけれどそれを振り払ってくれるように、すぐ向うからアリスの声が聞こえてきた。

「魔理沙? 何してるのよ」
「……今、行くぜ」
雪がさらに強くなってきたのか、アリスが歩いて出来たはずの足跡がもう消えていた。
ひょっとしたら雪は変わらずに、私がボーっと突っ立っていた時間が思っているよりも長いだけかもしれないけど。
今の今まで明かりすらつけていなかった家の明かりがようやくつけられ、アリスが手招きしている姿がようやく見えた。
アリスにマフラーを渡してしまったから、正直さっきから首の周りから冷たい風が入り込んでいてとても寒かった。
放り出してしまった箒と買ってきたものを拾って足早にアリスに家に入り込む。
早く、温まりたかった。
「お帰りなさい、魔理沙」
「ただいま、アリス」















「で、どうしてこうなるのかしら?」
「だって仕方ないだろアリス。暖炉に火は入ってないし、お風呂だって用意出来てる訳じゃないんだからさ」
「……あんたが火消していったからじゃないの」
「帰ってきたら家が全焼なんて御免じゃないか」
「だったら起して行きなさいよ」
「……あんなに幸せそうに眠ってるアリスは久々だったからな」
「じゃあ今度からは起していきなさい。それに私も一緒に行きたいし」
「それなら、尚の事消していかないと不味いじゃないか」
「ちゃんと人形達に任せるから平気よ」
「ああ、そうかい」
鼻がぶつかりそうなくらい私とアリスの距離は近い。
既におでこはくっ付いていて、額からアリスが伝わってくる。
互いに皮肉を言い合っているのにこうして幸せなのは、一緒に笑っていられるからか。
私の体に触れるアリスの指先は未だ冷たく、行き場が変わるたびに声をあげてしまいアリスに笑われる。
仕返しにアリスのきわどい部分に手を伸ばせば、構わないというように成すがままにされるのだからタチが悪い。
どれだけ私が大きくなろうと成長しようと、結局のところイニシアチブはアリスが握っているのだ。
泣いているアリスにおろおろしてるのは私であって、ひょっとしたら全部アリスの掌の上なのかもしれないなんて思ってしまったくらいだ。
それを心地よいとも思っている自分も居るのだけれど。

「やっぱりいいなあ……」
「裸で抱き合うのが?」
「アリスは良くないのか?」
「そりゃあ良くないわけは無いけど……温めあうのに裸で抱き合うっていうのはどうなのよ」
「じゃあアリスにはもっといい方法があるのか? それにこうしてるのは嫌?」
困ったようにして顔をそらされてしまった。
ああもったいない。今きっと凄くいい顔をしていただろうに。
笑顔の次点としてはアリスの恥ずかしそうな顔と、困ったような拗ねた顔だ。
笑顔には負けるけど、私の頬を緩めて笑顔にしてくれるものだ。

そっぽをむいて無防備になっている首に吸い付く。昨日残した跡がまだ残っていた。
抱き合って大分時間が経っているから、布団の中も十分に温かくなって互いの体温も上昇している。
流石に身体の末端である指先はまだ冷たさが残るものの、もう暖炉だってお風呂の準備だって人形達が済ませてくれただろう。
だから本当に身体全体を温めたいならこうしていないでさっさと下に下りるなり、お風呂に入るなりすればいい。
なのにそれをしようとどちらも言わないのは、こうして居たいから。
私は泣かずに抱き合えるアリスが愛おしくて、アリスは泣かずに私と抱き合えるから。

「魔理沙、聞いてもいい?」
「胸のサイズ以外ならんでも」
馬鹿、と笑われた。まあ私の服の何着かはアリスが作ったものだからしらないわけなんだけど。
「どうして今頃、魔法使いになるだなんてそう、思ったの?」
「アリスとこうなったときからずっと考えていたさ。ただ……」
「ただ?」
「アリスより小さいままなんて嫌だった。それだけだ」
「……嘘ばっかり」
気がつくと今度は私のほうがソッポを向いていたようだ。
それもアリスにはお見通しだったみたいだし。

「覚悟、出来なかったのでしょう? 責めている訳じゃないわ。当然のことだもの……私だってあんたが自分からそうなるって言わなければ決して薦めたりはしない」
「……そんなことは」
無いわけが無かった。
踏ん切りなんてそう簡単につくもんじゃない。
魔法を教わると決めたときでさえ悩まないわけは無かった。ましてや捨食の法は人の理から完全に脱却する外法。
それでも手を出そうと思ったのは、アリスと一緒が良かったから。泣いているアリスを見たくなかったから。
「あんたが借りてきた本は捨食の法に関する魔道書なのでしょう?」
「見たのか?」
「みなくっても分かるわよ。よくパチュリーが貸してくれたものだわ」
それもそうだ。やけにあっさりと貸してくれた。
最近はちゃんと本を返すようになったから少しは信頼してくれるようになったのだろうか。
「私はね魔理沙。他でもないあんたに決めて欲しかった。私がどうこうではなく、あんたの意思で選択して欲しかったのよ……」
「ちゃんと自分の意思で選んだぜ? アリスが選択の要因にに含まれるのはアリスがもう私の人生の一部だからだ」
「私も偉そうな事を言っているけど、結局あんたと同じことを考えていたみたいね。大人ぶってるだけで、私もまだまだ未熟ね」
私とアリスが逆の立場だったら私はどうしていただろうか。
アリスにすがり付いて同じになって欲しいと泣き叫ぶだろうか。
もし、私がアリスにそれをされたらあっという間に折れていただろう。自分の考えなど無しに。

「……アリスはさ、もし私が人間のまま死んだら泣いてくれるか?」
「そんな起こってもないこと言われたって、知らないわ」
怒られてしまった。確かにあんなことを告白した後に言うものじゃない。
それでも聞きたかったのは私の我侭だ。自己満足といっても過言ではないだろう。
この選択が間違いでない、という確定的な言葉が欲しかったから。

「アリス……」
「あんたが人として幸せな人生を望んだのならあんたの事は忘れて一人で暮らしたでしょう」
「それって、私がアリスと別れるってことか?」
「人間のまま私と一緒に居たら、あまりに私には辛すぎるもの……死んだあんたにもいろいろ酷い事してしまいだし」
「酷い事?」
「肉体という器を失った人間の魂を縛り付けるのはそんなに難しいことじゃないわ。ただ、その魂は私が解放しても決してろくな転生は出来ないでしょうけど」
転生できるかどうかすら怪しいわね、とアリス目をつぶって重々しく言った。
それは……怖いことだ。こうしてよかったかな、ふふふ。
でもまだ答えはない。本当に聞きたい答えは返ってこない。
じっとアリスの瞳を見据える。
本当にアリスが言いたくないのならこれ以上は追求しないつもりではある。

「悔しいけど、泣くわよ。きっとそれからずっと何も出来ないでしょうね。あんたの面影を探して日々怠惰に過ごすだけ、になるかしら」
「それは自惚れていいかなあ……」
「好き勝手にしなさいな。……そういうあんたは私が死んだらどうするの?」
「死なせない」
「……卑怯な奴」
最高の褒め言葉だ、アリス。
泣くさ、そりゃあ泣かないわけが無い。
アリスと同じようにどんな外法に手をだすか分かったもんじゃない。
それこそ、死んだ存在を呼び戻すなんて最悪の外法にすら手を染めそうだ。

だからアリスを残してなんか死なない。アリスを先にもいかせない。
ようやくアリスと同じ時間に生きることが出来そうなのだから。決してその手を離してなるものか。

「辛気臭くなってしまったぜ。……でも少なくともこの選択は間違いなんかじゃないって思えたからいいかな」
「間違いじゃないかなんて、まだ分からないわ。だから、間違いなんかになんかさせない」
「それじゃあ私も間違いじゃないって胸を張っていられるようにしないとな」
「あんたには張れるだけ胸なんて無いけどね」
そう言って私の薄っぺらい胸をアリスはもみ始める。
アリスからされるのは本当に久々だから、余計にアリスの指を手の平を感じてしまう。
手全体で形を変えるように胸をもみしだいて、指の腹が私の敏感な突起を何度も往復する。
次第にそれが硬さを増して行くと、指で摘まれて挟まれたり押しつぶされる。
声が我慢できるわけも無く、だけど聞かれるのが恥ずかしくて口を手で覆おうとした。けれどもその手はアリスに止められてしまった。

「ふぁっ……あ、ありすぅ……」
「ここ最近はされてばかりだったもの。たまにはあんたの可愛い声を聞かないとねえ」
「ぅくっ……はぁ、されてばかりは性に合わない……」
「まり、さっ……いき、なり……」
まだ濡れていない秘所に指を這わせる。
指で割っていって愛液の分泌を促すように、まだ自己主張ををはじめていない小さな突起をアリスにされたように撫でてやる。
擦る速度を上げてやると次第に指に形が伝わってくるくらい、突起は硬く大きくなっていった。
それと同時に指のすべりがよくなって、まだ挿入するつもりじゃなかったのにぬるりと指が吸い込まれるように膣内に侵入していく。
私がアリスの膣内をかき回すたびにアリスは脚をもぞもぞと切なげに動かしているのが分かって、そのしぐさが私を昂ぶらせてくれる。

「んぅ……魔理沙、キス……ちゅっ」
「はむっ……ぺろっ、ちゅくっ……」
アリスも胸を弄っていた片手を私の秘所に送りこませてきた。
唇が私に触れると同時にアリスの指が私の体内に入ってくる。
胸への愛撫であっという間に私は濡れてきているから、アリスの指は難なく飲み込んでしまうだろう。
恥丘のあたりを親指でなぞられながら、一本また一本とアリスの細くて綺麗な指が追加されていく。

「あっ! んちゅ……あり、す……はぁあっ、さん、ぼんもはいらぁっ! ひゃあ、ないってえ!!」
「何言ってるの、よ……れろれろ、くちゅっ……簡単に入っちゃ、あんっ……んん、はいっちゃったじゃないの」
「そ、それはっ……ちゅ、ちゅるん……はぁ、はあ……アリスのだからっ……」
「れちゅ、んちゅ……魔理沙ぁ、もっと私にも……」
私は右半身をベッドにつけるようにして右手でアリスの愛撫をしている。
逆にアリスは左半身をベッドに預けるようにして左手をいやらしく蠢かせている。
顔をぶつかりそうなくらい近寄りあって、鼻をぶつけない様に顔を傾けて唇をむさぼる。
差し出された舌に舌で削るかのように舐め、唇で唇に、舌にしゃぶりつく。
溢れた唾液が頬を伝ってベッドのシーツを汚すのも気にせずに、ただひたすらに互いが欲しいと欲情を丸出しにしたキスだった。
アリスも私も思いはこれまでたくさん募っていたから、今日一気に爆発したのかもしれない。そう思うくらいこれまでにしたことが無い激しい口付けだった。
舌の根が疲れで傷むほど、唇を吸いすぎでかさかさになってしまう程、求め合った。
唾液が交じり合った泡で口の端に残るようになったとき、ようやくアリスも私も息が切れて口を離した。

「ああっ……はあぁ、はあ……凄かった……」
「ん、口の周りべとべと……はあ〜、んんっ……」
「アリス、休んだらダメだぜ……もっと私のアソコ弄って」
「あんたこそ、もっと頂戴って言ったのにまだ一本しか入れてないじゃない……」
既にお互いに達してしまったのではないかと、そう見えてもおかしくないくらい疲弊していた。
性器に挿入しあった指はキスに集中する余り、これまで動きを止めていた。止まっていなかったときも申し訳程度にしか愛撫をしていなかった。
そのはずなのに、私の指はアリスの愛液でどろどろに濡れていた。きっと私もそうだろう、アソコが切なくなっていくのが分かったから。

空いてる左手をアリスに指しのばす。
考えている事は同じなのだろう。互いの手を指を絡めるようにして握り締めあう。
ぎゅうっと力をこめられてたその手は汗ばんでいて、普段のアリスからは考えられないくらい力が込められていたものだった。
自分の手と比べると羨む位美しいアリスの手。爪は綺麗に整えられて、指は白くほっそりとしていて、掌は程よく肉がついていて触れていて心地よさすら覚える。
アリスの敏感な部分を弄るたびに私の手にはアリスの感情の、情欲の変化が見て取れてものすごく心臓がどきどきした。それにアリスの淫靡な表情と卑猥な嬌声が混ざるのだ

から私の興奮は際限なく高まっていった。

「あっ、なんで……」
「だって、魔理沙が入れてくれないから……」
「い、入れるっ、入れるから! アリス、指抜かないでくれぇ……」
アリスからの愛撫が心地よくてどうしようもないくらい興奮していて、アリスへの愛撫がおろそかになっていた所為か快楽は急激に落とされ、指の本数も減らされてしまった


慌てて私も挿入する指を増やす。ぬるりと指がアリスに飲み込まれ、それと入れ替わるように大量の愛液が音が聞こえるんじゃないかというくらい溢れてきた。
まとめるようにして挿入した指を三本、全てが違う動きをしてアリスの膣に満遍なく刺激がいきわたるように蠢かせる。締め付けるアリスの膣内に逆らうようにして指の先で

、腹で、爪で膣壁を淫核を攻め立てた。
眼前でアリスの嬌声が大きくなって、今度は私の性器への愛撫が弱くなってしまった。
このままじゃあ堂々巡りだ。一緒に、一緒に達したいのに!
「アリスッ! やめないでアリス! ん、ああっ! いい、アリス!!」
「はああああっ……! 魔理沙、ああ、力、はいらなく、なってきたのっ!」
「わ、わたひ、もだあっ……アリスにぃ、くぅ……もっとして、あげたいのにっ!」
がくがくと身体が震え始めるのが嫌でも分かった。
それでも少しでも止めてなるものかと、小さくになってしまっていたかもしれないけれど指は決して止めなかった。
止めたらアリスと一緒にイけない気がして。どうしてそう思ったかなんて分からない。
だけれどアリスも決して止めないというような表情で、私への愛撫を続けてくれた。
握り締めたアリスの手、それが顔の直ぐ近くにあってこんなに綺麗な指が私を犯している、そう思ったらさらにきてしまって締め付けを強くしてしまった。
一瞬、私の膣内で一番良くなってしまうところを弄っていたアリスの動きが止まる、そのくらい締まりが強くなったのだろう。
ちょっとだけ、愛液を噴いてしまったかも知れない。そう思った瞬間、私の指とアリスの隙間から自分で想像したようにアリスもまた小さく達したのだろう、ぴゅっぴゅと僅

かに潮を噴出していた。
「あ、あ、あああっ、アリスッ! それ、すごい、ぃぃっ!!」
「ま、まり……うああっ! 魔理沙っ!! 指が、私のアソコ擦って、三本も……気持ち、いいっ!!!」
いつの間にかどちらが言わずとも目が合っていて、互いの痴態を存分にさらけ出しているようだった。
私はアリスの、アリスは私のいやらしい表情をみてさらに高揚感を高めていく。
自分の愛撫で、相手はこんなにも感じてくれる。これほどいやらしい姿を見せてくれる。
目に焼き付けるように、半開きだけれどもジッとアリスの表情を見ていると、心臓が痛いくらい鼓動を早めていった。
はあはあという荒い吐息とくちゃくちゃという淫猥な粘音が、静寂を包んでいた部屋に響く。
降りしきる雪に音は無く、私たちを邪魔しないでくれているように思えた。

「ま、りさ……もう、少し、なのっ……」
「私も、私ももう、もうすぐだ……アリス、アリスゥ……」
呼吸が詰まってきて大きな声が出にくくなってきていた。
名前を呼ばれるたびに自分でも酷く愛液を吐き出し、名前を呼ぶたびに締め付けが指に心地いい。
もうドキドキというよりバクバクというほうが正しいだろう心音はアリスに聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい自分の中で響いていた。
握り締めた手に力が篭る。篭められる。
また、キスをしたくなった。近く、もっとアリスの近くで果ててしまいたいっ!
「アリス……もう一度、キス……」
「うぅん……ちゅぷ、れちゅ……ちゅうっ……」
「は、ふ……ちゅ、ちゅくっ……あり、すぅ……」
さっきとは打って変って激しさはなくて、ねっとりとした絡み合うような口付け。
舌を舐めあい、唇を吸うのは同じのはずなのにまったく違うキス。
このままアリスと溶けてしまいたい、溶けて一つになってしまいたい。そんな風にさえ思ってしまった。
でも心の中で首を振る。一つになってしまったらこうしてアリスにしてあげられない、アリスにしてもられないから。
「ああああっ、ああああああまりさまりさまりさぁっ!!」
「アリス! アリス! 私もっ、私もだから! いっしょにぃ!!」
キスをしながらも決して指の動きは止めず、寧ろ激しさを増していた。
本当はアリスより先に私の方が限界が来るはずだったけど、反則技を使わせてもらった。
快楽に抗えないであろう場所を三本の指先で刺激したのだ。波を打つように連続して何度もそこをノックした。
きゅうっっと締まりは一気に強くなって、愛液の質もどろどろが多いものへと変わっていった。
握り締めた手が痛いくらい握られ、私も握っていただろう。
「あ、ああ、ああぁ……っ! まり、さっ……はぁ、はっ……魔理沙ぁ」
「うわああっ、ああああっ! イくっ! ……げほっ、は、くっ……あ、あ、あはぁ〜っ……」
「まりさの、なか……まだ、しめてくる、わ……」
「はああ、はあっ、はっ、はっ……アリス、こそまだ、ひくひくいってるぜ……」
犬のようにだらしなく舌は口から出て、よだれも漏れてきている。
絶頂を迎えてこれだけ気持ちよかったのはどれだけ振りだろう。
幸福感すら漂う疲労に身体がふわふわする。

握り締めた手をほどくと、アリスも幸せそうな表情をしていることに気がついた。
身体はまだ震えていて、まだ絶頂が抜けきらないのかと思った。
でも、アリスの瞳からはまた零れ始めていた。
「ふっ……うくっ、まり、さごめんなさいっ……泣かないって言ったのに……私っ」
「アリス……悲しくて泣くんじゃないなら、嬉しくて泣いてくれるのなら私は平気だよ……」
「っうん……うれし、なきだから……だから私は大丈夫……」
「今日は、もう……疲れたぜ。先に眠っちまいそうだ……いいか?」
「ええっ……先に寝るといいわ。私も涙が止まって笑顔になれたら……ぐすっ、魔理沙と同じように眠らせてもらうわ」
いつもならアリスが泣き止むまでがんばってはいるけれど、嬉し泣きだっていうなら安心して私も瞼を閉じることが出来る。
まだアリスは泣いているけど、私の頭を抱き寄せていつも私がするように優しく包んでくれていた。
アリスの鼓動を子守唄に、夢に旅だたせてもらおう。現実世界のほうが夢よりも幸せなんじゃないかって思うくらい幸せだけど。
……夢でも、夢でさえもアリスが笑顔で居ますように。そして起きたら笑顔でアリスを迎えられるように、そう願って。













「……ねえ魔理沙。この魔道書だけだと捨食の法習得出来ないのだけど……」
「な、なにぃっ! パチュリーの奴騙しがったな!」
アリスの腕を引っつかんで、静止も聞かずに紅魔館へと一直線に飛んでいく。
いろいろアリスが何か言っていた気がしたけれど、諦めたのか私におとなしくつかまっていた。
途中へろへろの氷精が居た気がしたけれど、向うから特に何もしてこなかったから通り過ぎあっという間に紅魔館が見えてきた。こっちもなにやら言っていた気がしたけど今

はそれどころじゃないんだ。
門が見えてきたらなにやら門番が止まれって言っているようだが、悪いけど時間が惜しいんだ。悪いけど久しぶりに強行突破させてもらう。
美鈴を勢いあまって吹っ飛ばしてしまったら、アリスに後で謝れって言われてしまった。勿論言われなくても謝りに行くつもりだったさ。
「嘘ばっかり……」
「ええぃ、だから人の心を読み透かすな!」
「今のは口にしてたわよ」
げ、咲夜っ。
「何よ、人を化け物か何かみたいに」
「貴女は十分化け物に分類されると思うんだけど」
「酷いわね。これでも私はれっきとした人間よ?」
「まあ、お前が人間か化け物かなんて些細なことはいい。私はパチュリーに用事があるんだ!」
「後で美鈴に謝っておくこと。それが約束できるなら通りなさい、アリスと一緒なら問題は起きないでしょうし」
そういって私たちの視界から消えていった。
相変わらずなやつだぜ。

「おい、パチュリー……足りなかったぞ」
私、怒ってます。そんな表情を前面に押し出してみた。
だけれど、図書館の魔女は表情一つ変えず次の本に手を差し出していた。
「昨日は迷惑をかけたわねパチュリー」
「いいえ、問題は何もないわ。そして、魔理沙」
「……なんだよ」
「その様子だと本気で決心したようね。アリスも一緒ってことはちゃんと話し合ったみたいだし」
「何が言いたい?」
「いくらなんでも捨食の法についての魔道書をほいほい渡すわけないでしょう? あんたとアリスがこうして来た時に最後の一冊を渡そうと思っていたのよ」
それは親切な事だ。せっかく格好良く魔法使いになって驚かせてやろうと思っていたのに。本を貸してくれた本人が驚くわけはないんだろうけど。
とはいってもそれらの本に軽く目を通しただけが、かなり難解なもののようだ。
アリスに教わりながらじゃないと無理な気がしてきた。教えてと頼まなくても色々アリスは言ってきそうだけど。
「まあ、パチュリー様が普通に忘れてたんですけどね。一冊だけ私に伝えるの」
「何を言っているのかしら小悪魔。嘘はいけないわ」
「仕方ないですよね。いくら燃やして処分したとはいえ、慌ててしまっても。ひょっとしたら魔理沙さんににっ、む、むぐぐぐぐっ……見られ、ふぐっ……」
「にっ……なんだ?」
「なんでもないわ。少し待ってなさい」
そう言うとパチュリーは小悪魔の口を塞ぎながら身体を引きずるようにして本棚に消えていった。
帰ってきたときには魔道書だけが握られていて、小悪魔の姿はどこにも見えなかった。

「はい、これ。これが最後の一冊。捨食の法の工程が書かれた一番重要な本よ。これも一応魔法はかけてあるけどこれこそ雪で汚したら、分かってるわね?」
「ん、なんだ知らないのかパチュリー? 雪は昨日で止んじまったぜ? たまには外に出たらどうだ?」
「……遠慮させてもらうわ。アリスと一緒なら借りた本を返しにくるでしょうから、まあ安心といえば安心だしね」
なんだよ、咲夜もパチュリーも人がアリスがいなければ何もできないみたいに言いやがって。
「本当はアリスの方が私がいないと、むぐっ、むむむっ……!」
「ありがとうパチュリー。それじゃあ次に合うときは魔理沙も魔法使いになっているかも知れないわね」
アリスに口を塞がれた。恥ずかしがり屋なのは分かっているし、人までべたべたするのはあんまり好きじゃないのは知っている。
出かけたときとは逆に、今度は私が引っ張られるように紅魔館から出て行った。
……因みにちゃんと美鈴に頭を下げさせられた。言われなくったってそうしたのに……。

これから忙しくなるのか、それともよりゆったりとした時間を過ごす事になるのか。
そればっかりはまだ分からない。
とりあえず目の前の問題であるこの本とにらめっこするだけは確実な事だけど。

「なあ、アリスは捨虫の法も習得してるのか?」
「さあね、それはあんたが魔法使いになってから見極めてみなさい。それが私からあんたへの宿題よ」
「ふふふ……魔法使いになったら少なくとも時間は今よりあるんだから、ゆっくり見極めさせてもらおうかな。アリスの隣でさ」
「で、私が習得してたら?」
「言わなくったって分かるだろうに」
「ダメよ。ちゃんと言わないと伝わらないもの」
「――それは勿論……」
さっきはよくも無視したなー!
と疲れきっているのは目に見えているのに、テンションだけは高いやつが向かってきた。
どうせ、昨日が初雪だったからはしゃぎ過ぎたのだろう。
せっかくアリスに聞かせようとしたのに……それは帰ってからちゃんと話す事にしよう。

「今は、目の前のこいつをさっさと片付けようぜ」
「はあ……仕方ないわね」
「2、2対1なんて卑怯よ魔理沙!」
「うるさい。せっかくのムード壊しやがってからに」
「うわあっ! 魔理沙とアリスはなんでこんなにも息ぴったりなのよ!」
そりゃあ、私とアリスだからさ。
これから先はもっとアリスとの動きは格段に良くなるだろうから、もう私とアリスを見かけてもちょっかい出してくるなよ?
せっかくの幸福のひと時を邪魔された魔法使いは怖いんだぜ?
さてさて、私達に負けても冬なんだ。お前に構ってくれる相手も帰ってきてるだろうから存分に甘えたらいいさ。
私もこれまで散々アリスに甘えられてたから、しばらくはアリス相手に甘えるとしよう。
……態と一発くらい貰っておこうかなあ。そうしたらアリスも帰ったら慰めてくれるだろうし……だらしないって怒られるかもしれないけど。
ちらりとアリスを盗み見ると、なんだかアリスも同じことを考えているような気がしてきた。
「「あっ」」
「やったぁ! 2対1でも勝っちゃったあたしってば凄い?! レティー! あたしは凄いんだぞぉ!」

氷精は何処へかへろへろながら飛び去り、二人で同時に被弾してしまった私達は仲良く森へ落下していく。
やれやれ、暖炉とお風呂の用意は人形達がしてくれているのだろうか。
出来ていなければいないで、またたくさん幸せを感じられるからいいけど。
隣のアリスも笑っていたから今回はチルノに落とされてしまったけれど、まあ、いいか。

――こうして一緒に居たい相手と笑っていられるから、今日のところは許してやろう。
このくらい熱烈に告白するのが捻くれているけど真っ直ぐな魔理沙に似合うと思いました。
アリスはなまじ頭の回転が早い分、魔理沙より一歩気後れしてしまうんじゃないかなあとも思いました。
だからやっぱり想いを伝えるのは魔理沙のほうが似合うんじゃないかなあと。

二人に幸せになって欲しいというのがこのssの一番の原点です。
この二人には問答無用で幸せになって欲しい。
人間のまま逝くのが魔理沙らしいって思う人もいるでしょうから、これは万人に受け入れられるものではないと覚悟はしています。
だけれども幸せな方が、笑顔でいてくれる方がずっといい、そんな作者の想いが少しでも伝わったらなら嬉しい次第です。

ネチョも精進したい次第です。薄いですよね……。
雪、ただ降ってるだけでごめんなさい……難しいです。

そしてこんな長くてだるくて、なにより恥ずかしい文章(書いてて顔が赤くなるくらい恥ずかしかった)を最後まで読んでくださった方々、本当にありがとうございました。
供養人形
作品情報
作品集:
最新
投稿日時:
2009/01/10 21:21:16
更新日時:
2009/01/10 21:56:05
評価:
12/13
POINT:
103
Rate:
1.83
1. 9 名前が無い程度の能力 ■2009/01/11 02:22:08
ジャスティス!

でもちと読みにくい箇所があったので1点ひかせていただきますね。
2. 10 74 ■2009/01/11 11:31:22
これから二人が幸せそうにしてるところを思うとニヤニヤが…
3. 10 名前が無い程度の能力 ■2009/01/11 16:30:56
私も二人には幸せになって欲しいと思っているので、このSSは読んでいてとても温かい気持ちになりました。
素晴らしい作品をありがとうございます。
4. 10 nanashi ■2009/01/12 14:00:23
もう幸せすぎてお腹イッパイでした。
5. 10点 七紙 ■2009/01/15 07:44:04
なんだかんだ雪の印象は強かった。
ネチョは薄く感じなかった。
幸せ成分がたんまり入っていて、ニヤニヤが止まらなかった。
6. 4 nanasi ■2009/01/17 23:21:21
イチャつく二人が微笑ましい
個人的には「成長した魔理沙」の描写なりを掘り下げても面白かったかも、と思います
作品のテーマとは直接関係無いけれど
7. 8 名前が無い程度の能力 ■2009/01/18 01:53:45
これはいいマリアリ。
パチュリーが燃やした本が気になるぜ!
8. 10 グランドトライン ■2009/01/21 22:10:03
何この甘い展開は?!ニヤけが止まらねぇ!!

恋愛の王道を行くストーリー展開は見事で、常に顔の緩みが止まりませんでした。
特に魔理沙とアリスの問答部分は熱くて愛しくてたまりません。

ただ、所々改行ミスをしている部分が目立ちました。
それと誤字と気になる表現がいくつかありました。

>答え大事にしないとな


>そもアリスの顔が見れないじゃないか。
→そもそもアリスの顔が見れないじゃないか。

>アリスが選択の要因にに含まれるのは
→アリスが選択の要因に含まれるのは

ですが、ストレートすぎる魔理沙の心理描写は本当に熱くてテーマの雪にちょうどいいかもしれません。
あと、物語の節に出てくるチルノが良い味出しています。
9. 7 74 ■2009/01/22 23:13:49
やや誤字、抜け字が多かったですが、それはそれとして。
アリスの葛藤や、魔理沙の真っ直ぐさなど、中々良かったと思います。
やっぱり人間と妖怪の組み合わせの醍醐味は、寿命差から来る葛藤だと思うのですよ。
10. 9 名無し魂 ■2009/01/23 19:51:13
やっぱりマリアリは伊達じゃなかった
糖尿病になりそうなくらい甘い、一生一緒に…な魔理沙、あなたがいないと…なアリス。
彼女らはきっと、寿命の壁だって超えていけるでしょう。

パチュリーはなぜ本を貸したのか?
魔理沙に興味はない?それとも何か別の感情が…。

> ……態と一発くらい貰っておこうかなあ。そうしたらアリスも帰ったら慰めてくれるだろうし……だらしないって怒られるかもしれないけど。
> ちらりとアリスを盗み見ると、なんだかアリスも同じことを考えているような気がしてきた。
> 「「あっ」」
> 「やったぁ! 2対1でも勝っちゃったあたしってば凄い?! レティー! あたしは凄いんだぞぉ!」

この後の展開としても、バカップルさがかなり伝わってきます。
「バカップルはバカを救う」ということですね。わかります。
11. 10 名無し妖怪 ■2009/01/23 23:25:17
ネチョは薄いと思わなかった。
魔理沙もアリスもらしさを感じてよかった。
12. 6 泥田んぼ ■2009/01/23 23:44:39
見せつけてくれるじゃないの。マリアリ。暑いねっ
13. フリーレス 供養人形 ■2009/01/26 22:03:38
読んでいただいただけでなく、評価してくださった皆様方。
本当にありがとうございました。
多数の誤字脱字等は時間配分が巧くできなかった自分の不手際です。読みにくかったり解釈しにくかったりとご迷惑をおかけしました。

特にレス返ししたいなーと思ったものにさせていただきます。
全てに答えているわけではないのですが勿論皆様のコメントはありがたく全て読ませていただきました。

>成長した魔理沙〜
その発想はありませんでした! やっぱりこうしてコメントを戴くとその場で思いつかなかったことに気がつくことができるので本当にありがとうごます。

>パチュリーが燃やした本〜
それはですね。何の魔法の防御も施していない。つまり何かあったとき直ぐにそれをなくすことが出来るということで、パチュリーさんのにっk……おや? こんな時間に誰か来たようd(ry
>人間と妖怪は寿命の差が〜

そうですね。勿論それも私は凄くいいものだと思っています。
でも、この二人にはずっと一緒にいて欲しいんです。作者の勝手な想いですが。愛しているものと一緒にいられるならこれほど幸せなことはないでしょうから。
単純にいちゃついてるのが好きなだけなんですけどねw

>パチュリーがなぜ本を貸したのか?
後記はあくまで私の設定ですのであんまり気にし無いでくださいね。
分かりやすいように作品にはかけなかったのですが、きっとパチュリーにとってはそこまで生活が変化するものではないからであり、その本は既に種族魔法使いであるパチュリーには必要がないものであるところからきているつもりで書きました。
そして、アリスと一緒にいるようになったならば少なくとも本を返しにきてくれるでしょうから。そして今回の話でも確かに返しに来ています。
でもこっそり、自分の仲間が増えるのが嬉しかったのかもしれません。

そして最後に
マ リ ア リ が 俺 の ジ ャ ス テ ィ ス !
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