射命丸文は急ぎ、雪原の上を飛翔する。後には吹雪が起こり、久々の晴れ間を見て出棺した葬儀の列が吹き飛ばされていた。
十日振りの晴天は、そう長く続かないだろう。そうした洞察は人妖に共通していて、葬儀に限らず、そこら中で慌ただしい光景が見られた。踝が埋まるぐらい雪が積もったのは、年が明けてからのことだった。
買い出しに雪下ろしといった重要事の他、雑談なんかも十日振りとなると健康に関わってくる。元々は幻想郷はそんなに雪の降る場所ではなかったのだけれど、ここ十年ぐらいで大分状況が変わっている。
妖怪の方がそうした短期間での変化には敏感なものだったが、さしあたり、文の興味は一つだけ。
かまくらだ。
この場合のかまくらは、鎌倉幕府の鎌倉ではない。雪を掘って作った洞の方だ。まあ、ある意味で鎌倉でも間違ってはいない。
いざ、かまくらへ。
文は新婚旅行にでも行くように、嬉々として飛んでいたのだった。元から雪が好きというのもあるが、それ以上に喜んでいる。
時折、地面すれすれを飛んでは、柔らかそうな所を狙って手を伸ばす。
冷たい。
わかっていても触れたくなる。わかっているからこそ……。雪原に文の軌跡が描かれていく。
雪原の端、冥界の結界がある方向から少し外れた辺りに、目当てのかまくらはあるはずだ。いや、ある。
かくしてそのかまくらは、杉の木が小山程度に林立しているのに寄り添うようにして、あった。
普通、かまくらというと、適当に雪を盛って穴を穿っただけのものを想像しがちだ。しかしこの鎌倉は、木の上から落ちて三メートル程も積もった固い雪を利用して、そこにやや俯角気味に穴をやっている。ここら辺の風土に詳しい者でないとできない仕事だった。
穴、いやさ玄関は律儀に南を向いており、その前に降り立った文は少しつんのめってしまった。
付近の雪が踏み固められていない。気付いた途端、胸の辺りが凍り付いたように感じられた。
先走ってしまったのか。恐る恐る、人が一人屈んで通れるぐらいの玄関を覗く。
餅の焼ける臭いがした。
「何だ、いるんじゃないですか」
「はひはふ?」
ちょうど餅を噛んでいたのは、魂魄妖夢だった。火鉢の周りに筵を敷き詰め、その上に膝を崩して座っている。格好は文と同じく厚着というほどではないが、肩から背中にかけて毛布を引っ掛けている。
いつからいたのだろう。玄関を潜りながら中を見回す。
隅に置いてある小さな化粧箱のようなものの上には、五冊ばかり本が積んであった。箱の抽斗が開いており、スルメや餅が見えた。昨日今日用意したものではないのは明らかだった。
「今来た所です」
餅を食べ終えた妖夢が、あっけらかんと言った。少し頬の辺りが赤いのは、冷えているからだろうか。
文は腰を下ろすと、試しに掌で妖夢の頬を触ってみた。
「あはは、冷たいですね」
「……いつものことじゃないですか」
「でしたか?」
上擦ったような声が出てしまったので、文は妖夢から目を逸らした。他の相手なら動揺なんてしないのだが。
「悪気は無かったんですけど、えっと」
「構いませんよ。ほら、文さんの分も焼けました」
「へ? おわっちゃっちゃ!」
いきなり、焼けた餅を投げてきた。手袋は着けていなかったので、何度も両手の間で投げる。そこに妖夢が小皿を差し出してきて、そこに宙で掴んだ餅を置いた。
おかげで事なきを得たが、最初から小皿に乗せて出してくれれば済んだ話だ。
文は赤くなった両手を摺り合わせながら、やはり怒らせてしまったのだと、しょげた。
妖夢が自分の体温が低いのを気にしているのは重々承知しているのだが、文はどうにも口数が多い所為でボロが出てしまう。
それすらも言い訳ではある。
第一、妖夢とこういう風に隠れて会うようになったのも……、
「冷めちゃいますよ?」
「ああ、はい、ええ」
腰砕けになったので、言われるままに餅を頬張った。文は醤油派なのだが、小皿に盛られていたのはきな粉だった。
別に嫌いではないから、はふはふと食べる。
向かい側に座っている妖夢はといえば、空いた火鉢の金網に薬缶を置いた。麦茶が入っているとのことだったが、普通ならこちらを先に出してくれても良さそうなものだ。
麦茶はすっかり冷えてしまったらしく、しばらく待っても湯気が立たない。
餅を食べ終えて喉が渇いてしまった文は、仕方ないので懐からウィスキーボトルを取り出した。
それを口に付けようとして、あることに気付いた。
ずずいと膝を進め、火鉢を迂回する形で妖夢に迫る。彼女は慌てた様子だったが、構わず腹の辺りに鼻を近付けた。
質の良いバターが溶けたような艶のある匂いが、微かにした。
「しましたね?」
一人遊び。
ぼふっという音でも立ったみたいに、妖夢の顔が真っ赤に染まった。隅っこの方でじっとしていた半霊は恥ずかしさのあまり玄関から飛び出してしまったが、妖夢の方は完全に固まっていた。
「ああ、なるほど。それで餅を焼いて匂いを誤魔化したんですか」
「あう……うう」
妖夢が俯くと、背中の毛布に押し潰されたみたいに見えた。
文はしばらくその姿を眺めていたのだが、やがて先程と同じように妖夢の頬を触った。
冷たい。半身半霊だからなのだろうけれど、指先が痙攣するような感覚がする。妖夢はびくりと肩を振るわせ、その拍子に毛布が落ちた。
反射的に拾おうとした妖夢の手を、文が掴む。
「私の方が暖かいですよ」
「ん……」
返事は待たず、彼女の唇を自分のもので塞ぐ。ぷくりとした可愛い感触が、堪らなく愛しかった。
文は火鉢を後ろ手に少しずらしてから、妖夢の顎に手を添える。唇を離すと、妖夢のかぐわしい吐息が、文の鼻を楽しませた。
頭を横へ大きく傾けてから、呼吸の合間を縫って、今度は食らい付くように妖夢の唇を襲った。
条件反射から妖夢はにわかに力を入れたが、すぐにほどけた。文が丹念に唇を舐ったからで、口が縦に開くと、妖夢の両肩を掴んだ。
重い太刀を年がら年中振るっているとは思えないぐらいの華奢さだった。しかし付くべきものは付くもののようで、全体的に上へきゅっとした具合に肉が締まっている。
これはと思って、肩の横の方を掴み直してやる。反応は顕著だった。
文の腰に妖夢の手がかかる。口が文の唇を銜え返す。二つの花弁を押し合わせるように。間からは花粉とでも言える唾が零れていた。
舌は入れない。妖夢が懸命に絡めてくれるのは嬉しいのだけれど、それが何だか可哀想に思えるのだった。
それに、妖夢は頻りに腿を捻っている。いつ自分でしたのかは不明だが、そのときの感覚が残っているのだろう。次は胸を舐ろうかと思っていたのだが、文は予定を変えた。
そっと、妖夢を放す。目を閉じていた妖夢がうっすら瞼を開けると、文はじっとりとした目を向けた。
それだけで大体の意図は通じた。妖夢は頭に注意して、立ち上がった。しかし力が入り切らず、背中から壁に寄りかかる。
文はすかさず、妖夢の少し開いた足の間、そしてスカートの中へと両腕を入れ、膝の裏から太腿の外へと絡ませ、支えた。じくじくとした冷たさが、肩から手先にかけてを包む。
この時点でほとんど妖夢の股間に顔を付けた状態なのだが、スカートに顔を潜り込ませようとはしなかった。
布の上から嗅ぐのが、また良い。そう言いたげに鼻先を押し当てている。妖夢は呆れたように、しかし嬉しそうに、はにかんでみせた。
それを上目遣いで認めた文に、理性の限界が訪れた。器用に頭を上げ下げして、スカートの中に頭を突っ込む。
むあん。
文は濃密な少女の香りを嗅いで、そしてその理由を目の当たりにして、思わず笑いが零れた。
スカートに頭を突っ込んで肩を震わせている姿は、余人には薄気味悪い。が、妖夢はその理由を知っていたので、ますます赤くなっただけだった。
妖夢は、下着を穿いていなかった。
先程スカートの上から嗅いだときも確かに匂いが濃かったが、なるほど納得がいった。寒さのためかあまり濡れてはいないようだったが、文は妖夢のそこに顔を埋めた。その感触に妖夢の股間が狭まる。
強張った筋が頬を触り、文は至福だった。
暑い中と寒い中、どちらで「する」のが文は好きかというと、断然後者だった。いやさ、相手が妖夢だからこそ、そう思うのだろう。
文も少女であるからには小振りな体付きだったが、それに輪を掛けて妖夢は小さい。それでいて奇妙に筋張った所があり、その奇態さが、文の美的感覚には頗る、合った。
さりとて、これらの美点も後から付け加えられた感は否めない。恋をするには、核心だけがあれば良いのだから。
しかし文は愛し方は知っていても、恋には不慣れだった。すると不思議なことに、妖夢こそが恋の達人として振る舞っているように文には思えるのだった。
腿を捩る仕草も、口元を濡らす雫も、膝の軋む音も、全てが文を絡め取ろうとしているかのようだった。
陰核に舌先が触れると、内股が震えた。秘裂を押し広げると内側から肉の香りが漏れる。
没頭するとはこのことで、文はただただ妖夢の真ん中を舐った。
はあ、いあ、や、あっ。
く、うふぅ、ん。
くあ……っ。
妖夢の嬌声はひっきりなしに耳に入ったが、どこか遠いものに聞こえる。
しかし文に限界が無かろうと、相手にはある。
そして唐突に、文の顔には飛沫がかかった。妖夢が達したのだと気付いたのは、彼女が身体を崩し始めてからだった。
「大丈夫ですか?」
スカートの中から顔を出して尋ねてみれば、こくこくと頷き返された。目はぎゅっと閉じられており、唇も固く結ばれている。それとなく太腿を、這わせた手で撫でてみると、スカートに染みが浮かんだ。足下に愛液が伝う。
アクメの天秤を左右に上げ下げしているのを見て、文は下腹に顔を押し当ててやった。下半身を中心に抱き竦めているような格好だった。
余程敏感になっていたらしく、妖夢は三度も身体を大きく震わせた。その都度にスカートの染みが大きくなり、かまくらの中は情愛で満ちた。
妖夢が落ち着いてから、絡めていた腕をそっと抜いてやる。文の肩を支えにしつつ、妖夢はしなだれた。お互いの顔を横にする形で、文は腕を妖夢の背に回した。
「素敵でしたよ」
「はぁ、うぅ、くふぅ……」
息はまだまだ荒い。これはしばらくこのままかと思ったところで、文は思い付いた。
ぽんぽんと背中を叩いてやってから、妖夢を横倒しにする。一方で玄関の外に手を伸ばした。
何をしているかよく見えない妖夢の顔に、掴んできた雪を押し当てた。
「ひゃふぁっ!」
「ふふふ」
予想通りの反応だった。調子に乗って、二度三度と掴んできては、顔以外にも押し当ててやる。
首筋、胸元。
ひゅふだのきゅんだの、微妙に違う鳴き声がした。
そして今一度だけ雪を掴んで、動きを止めた。
妖夢がまさかという風に眉を動かしたとき、股間に雪をやった。
「はひいぃ……!」
そのまま神経が切れてしまいそうな声を出して、身体を仰け反らせる。そこかしこから、湯気が立ち上っていた。
「ああ、妖夢さん、妖夢」
「ら、らめれくださ」
言わせず、上から覆い被さる形で身体を密着させる。身体やら雪やら、冷たいやら熱いやら、感覚が馬鹿になっている。
妖夢の手を強引に掴んで、文は自分の股間に下着の上からあてがわせた。それだけで軽い絶頂を覚え、自分が昂奮しきっていることを再確認した。
その手の指をお互いに絡ませ合って、随分久々に思える口付けを交わす。雪のすえた匂いがした。
そこここが湿った服を擦り付け合うと、容易くはだける。ボタンの留め糸が幾つか切れたようだったが、気にする余裕は無かった。力加減なぞできる状態でもない。妖夢のスカートは片足に引っかかているような有様だった。
雪で強烈に刺激された妖夢の核心は、赤く腫れていた。もし冷静な状態で文が見れば、痛々しささえ覚えたかもしれない。
妖夢自身はアクメのK点そのものがぶれていて、どうでもいい拍子にイクほどになっていた。
後少しでこの子を壊してしまう。文は戦慄した。そして同時に、これまでにないくらいの絶頂を迎えた。
下着を着けた状態であるにも関わらず、生地の隙間から愛液が飛沫をあげた。
よくよく状況を俯瞰すれば、文こそが壊れている。
彼女がそれに気付くより先に、あるものが壊れた。
かまくらだ。
かまくらにはとうに罅が走っていた。かけたままだった薬缶からの湯気が、かまくらを冒し続けていた。
そして、壊れるべくして、壊れた。
文は一瞬だけ妖夢を庇って両手足を踏ん張っていたが、やがて潰された。
最後に見た妖夢の顔は、妙に安心したようなものだった。
「びゅえっくしょぉーーーーーーーーーい!」
盛大なくしゃみは、小屋を揺らしたようだった。
かまくらの一件で風邪を引いて家に引き籠もること、かれこれ二日。新春にしてはあんまりと言えた。
人間ならあのまま生き埋めだったろうから、春の訪れと共に痴態を発見されなかっただけマシなのだが。
「ほらほら、お粥を食べたら早く横にならないと」
「……はい」
幸い、妖夢はあれで臍を曲げず、頻繁に来てくれていた。主である西行寺幽々子は年越しからずっと八雲紫と一緒に温泉に行っているとかで、暇なのだそうな。
暇でなくても来てくれたかという問いには答えてくれなかったが、二人の逢瀬のためにかまくらまで作ったような子である。聞くまでもなかった。
「そう考えるとあれですよ、悪いのは妖夢さんですよね」
「なっ!」
「ザンボットがいるからガイゾックが来るのです」
爆弾発言にも程があったから、妖夢は頬を膨らませて、立ち上がろうとした。その手を、病床の人とは思えない力で、文は掴む。
「放してくださいよ。帰って、一人でお節の残り食べてますから」
「掴んじゃったんですよ。つい」
「……何でですか?」
思えば、妖夢と肌を触れ合わせた最初は、彼女の肌がどれだけ冷たいか確かめるためだった。
以来、病み付きになっている。
どうもそれは、ちゃんと答えてやらないといけなさそうである。さもなければ本当に帰られてしまう。
文は少し、不公平な気がした。
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- 投稿日時:
- 2009/01/10 14:57:08
- 更新日時:
- 2009/01/10 14:57:08
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穏やかな雰囲気がいいですね。
雪の印象が強く面白かったです。
ほのぼのと暖かい感じがよかったです。
やっぱり妖夢はむっつりスケベであるべきですねぇ〜。
いざ、かまくらへ!!
文章表現が細かく、短いながらも達筆でした。
特にネチョ部分を殆ど本文のみで仕上げたのは凄いと思いました。
なかなかに趣が深いです。
ただ、そのせいか少しインパクト不足に感じてしまいます。
ですが、文と妖夢の相性を上手く結びつけたのは見事だと思います。
ちょいネタもいい隠し味になっています。
特に「(一人遊びを)しましたね?」と「ザンボットがいるからガイゾックが来る」で吹いた。
それにしても、妖夢かまくら作りのプロとは驚いた!
いざ、かまくらへ!!
スカートの上から匂いを嗅いで自慰をしたことを確認したり、雪をクリにまで当てたり、とてもフェチっぽいものを感じました。
ただ、妖夢は一体何を思っているのか、文はどうなのか、もう少し知りたいところではあります。
淡々と話が進むところは「えろい北越雪譜」の1頁としてはありかもしれない。
>>「びゅえっくしょぉーーーーーーーーーい!」
くしゃみはもう少しかわいらしくしてほしいものです。